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英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」の ペーパーバック版内に付されている セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図 |
セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)のベッドの上で目を覚ましたハドスン夫人(Mrs. Hudson - マーサ・ハドスン(Martha Hudson))は、モルヒネと麻酔薬の投与により、目が覚めた後も頭にまだ霞がかかったようになっていた。
その時、ハドスン夫人は、病室のとりわけ暗い一角に、うごめく影のかたまりを見た。ハドスン夫人が目を凝らしていると、影のかたまりは、彼女のベッドの裾を横切り、彼女の斜向かいにあるベッドへと向かった。
朦朧とする意識のなか、ハドスン夫人は、その影のかたまりがそのベッドの上に覆いかぶさるのを目撃した後、突如、深い眠りへ引きずり込まれると、意識が遠のく。
翌朝、再度目覚めたハドスン夫人の元へ、ワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))が、御見舞いに訪れた。
メアリー・ワトスンによると、ハドスン夫人の病状は、腹部の閉塞症で、緊急手術で詰まっている箇所をきれいに取り除かれた、とのこと。また、ジョン・H・ワトスンの口利きにより、病院職員の親類縁者や多額の寄付をしている支援者のための特別病棟に入院できたと言う説明もあった。
更に、「シャーロック・ホームズと給仕のビリー(Billy)は、ハドスン夫人が退院するまでの間、ワトスン家で面倒をみる。」と言って、メアリー・ワトスンは、ハドスン夫人を安心させる。
メアリー・ワトスンが帰った後、今度は、ジョン・H・ワトスンが、ハドスン夫人を見舞う。
ワトスン曰く、「通常、治癒まで6週間位かかる。」とのことだったが、ハドスン夫人は、「そんな長いこと我慢できない!」と不平を漏らした。一方で、彼女の斜向かいの空っぽのベッドが、気になって仕方がなかった。
ワトスンが辞去した後、ハドスン夫人が寝たふりを続けていると、シスターと若い医師が、彼女の斜向かいの空っぽのベッドの側に立って、話し合いをしているのが聞こえた。
昨夜、ハドスン夫人が目撃した通り、影のかたまりが覆いかぶさっていたベッドの女性は、今朝、亡くなっているのが見つかったのである。
ハドスン夫人が入院している特別病棟には、彼女を除くと、他に6人の(女性)患者が居た。
(1)サラ・マローン(Sarah Malone)
ハドスン夫人の左側に居る患者 / かなり深刻な容体で、死期が迫っている / 始終ぶつぶつと何かを呟いている
(2)ミランダ・ローガン(Miranda Logan)
ハドスン夫人の右側に居る患者 / 過労と貧血を理由に入院中 / ほとんど誰とも口をきかない / 派手なガウン姿で、ベッドに起き上がり、新聞をずーっと読んでいる
(3)ベティー・ソランド(Betty Soland)
ハドスン夫人の二つ右隣りの患者 / 階段から落ち、脚を骨折して入院中 / 編み物や縫い物で、始終手を動かしている / 8歳から20歳までの6人の子供が居る
(4)フローレンス・ブライスン(Florence Bryson)
ハドスン夫人の正面に居る患者 / 肺を患って、入退院を繰り返している / ベッドの上は、ゴシップ記事満載の大衆紙で埋めつくされており、犯罪事件や探偵小説に目がない。
(5)エマ・フォーダイス(Emma Fordyce)
ミランダ・ローガンの正面に居る患者 / 歳を召していて、あちこち悪いところがあるみたいだが、老いを楽しんでいる様子 / 過去に非凡な面白い体験をしていて、思い出話を他の人に聞かせるのが大好き
(6)エリナー・ランガム(Eleanor Langham)
ベティー・ソランドの正面に居る患者 / 心臓病のため、最近手術を受けたばかり / ベッドの脇にある椅子が定位置で、大抵の時間は、ただ椅子に腰掛けて、周りの様子を眺めている
開腹手術を受けたばかりで、まだ動くことができないハドスン夫人は、寝たふりを更に続け、患者全員の観察をするしか、他に手がなかったのである。
