2025年11月28日金曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その14B

英国の Harper Collins Publishers 社から現在出版されている
アガサ・クリスティー作「ビッグ4」の
ペーパーバック版の表紙 -
こちらに背を向けて立っている赤いドレスの女性の背後から
何者か(「ビッグ4」のナンバーフォーに該る破壊者)が忍び寄る場面が、
チェスの駒の形に切り取られている。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1927年に発表した「ビッグ4(The Big Four - アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第7作目に、そして、エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)シリーズの長編としては、第4作目に該っている)の場合、エルキュール・ポワロの友人で、相棒でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings → 2025年10月12日付ブログで紹介済)は、妻と一緒に暮らす牧場があるアルゼンチンから、一年半ぶりに英国へと戻って来たところから、その物語が始まる。


Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「ビッグ4」の
グラフィックノベル版(→ 2020年12月日付ブログで紹介済)から抜粋。


突然の来訪でポワロを驚かせようと思っていたヘイスティングス大尉であったが、ポワロのフラットを訪れてみると、奇妙な偶然の一致と言うか、ポワロは南米へと出発しようとしていたところだった。


Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「ビッグ4」のグラフィックノベル版から抜粋。


驚くヘイスティングス大尉に対して、ポワロは、「生涯で初めて、お金の誘惑に負けて、世界一の富豪で、「米国の石鹸王」と呼ばれるエイブ・ライランド(Abe Ryland)からの依頼を受け、ブラジルのリオへと向かうのだ。」と説明する。ポワロによると、南米における調査は、彼が最近興味を持つようになった「ビッグ4(Big Four)」と呼ばれる国際的な犯罪集団が関与しているらしい。


Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「ビッグ4」のグラフィックノベル版から抜粋。


ポワロとヘイスティングス大尉がそんな会話をしているところへ、全身泥だらけの男性が突然転がり込んできて、意識を失ってしまう。

二人が男性にブランディーを少し飲ませると、男性は少し意識を取り戻すが、何らかのショックを受けているようで、ポワロの名前と住所を繰り返すだけだった。更に、二人が男性に紙と鉛筆を渡すと、男性は「4」という数字をいくつも書き始めると、次のようなことを早口で捲し立てた。


(1)リー・チャン・エン(Li Chang Yen)は、「ビッグ4」の頭脳で、ナンバーワンである。

(2)ナンバーツーは、米国人で、ドルのマークで表される。

(3)ナンバースリーは、フランス人女性であるが、それ以外は不明。

(4)そして、ナンバーフォーは、破壊者(Destroyer)である。

そう言うと、男性は、再度、意識を失ってしまった。


Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「ビッグ4」のグラフィックノベル版から抜粋。


汽船連絡列車に乗って、南米へと向かわなければならないポワロは、意識を失った男性の世話を家政婦のピアスン夫人(Mrs. Pearson)に任せると、ヘイスティングス大尉を伴い、急いで駅へと出発する。

汽船連絡列車に乗車したものの、フラットに突然転がり込んできた男性のことが気になって落ち着かないポワロは、ヘイスティングス大尉を促して、一時停車した列車から飛び降りると、ロンドンへと急いで引き返した。


Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「ビッグ4」のグラフィックノベル版から抜粋。


フラットへと戻って来た二人であったが、驚くべきことに、謎の訪問客である男性は、既に死亡していた。

こうして、ポワロとヘイスティングス大尉の二人にとって、「ビッグ4」との長い対決の幕が、切って落とされたのである。


Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「ビッグ4」のグラフィックノベル版から抜粋。


(23)チェスボード(chessboard)



ロシアのチェス王者であるサヴァロノフ博士(Dr. Savaronoff)は、ロンドンのウェストミンスター(Westminster)にある自宅(フラット)において、米国青年であるギルモア・ウィルスン(Gilmour Wilson)からの挑戦を受けた。

サヴァロノフ博士は、エマヌエル・ラスカー(ドイツ出身で、1894年から1921年までの四半世紀以上、チェスの世界王座に君臨 / 実在の人物)に次ぐ名人と言われており、数年前にアキバ・ルビンシュタイン(ポーランド出身 / 実在の人物)を破って、世界王者の座に就いていた。一方、ギルモア・ウィルスンは、ホセ・ラウル・カパブランカ(キューバ出身 / 実在の人物)の再来と評されていた。

チェスの対戦中、挑戦者のギルモア・ウィルスンが急死。心臓麻痺が死因と思われた。

2人が対戦に使用したチェスボードは、見事な象眼が施され、銀と黒の正方形が並ぶもので、数週間前にサヴァロノフ博士へ贈り物として送られてきたのだった。

ポワロは、このチェスボードに注目し、ギルモア・ウィルスンの急死は、自然死ではなく、他殺だと考えたのである。


(24) 翡翠の人形(jade figurines)



ダートムーア(Dartmoor)のホッパートン村(Hoppaton)にあるグラニットバンガロー(Granite Bungalow)に住むジョナサン・ホェイリー(Jonathan Whalley:元船乗り)が、居間の床の上で惨殺された。彼の頭部には打撲傷があり、更に、喉が大きく掻き切られていた。

ポワロとヘイスティングス大尉が訪ねたジョン・イングルズ(John Ingles:中国通の退職公務員)によると、ジョナサン・ホェイリーは「ビッグ4」の魔の手から逃れるために必要なお金の融通を彼に頼んでいた、とのこと。

通いの料理人であるベッツィー・アンドルーズによると、ジョナサン・ホェイリーは、小さな翡翠の人形を大切にしており、「大変な値打ち物だ。」と常々言っていたが、その翡翠の人形が紛失していた。

地元の警察がジョナサン・ホェイリーのバンガロー内を捜索したところ、彼に雇われていたロバート・グラントの部屋にあった旅行鞄の中から、紛失した翡翠の人形が出てきた。しかも、ロバート・グラントと言う名前は偽名で、本名はエイブラハム・ビックス、5年前に住居侵入と強盗の罪に問われたことが判明し、彼がジョナサン・ホェイリーの殺害犯として疑われることになった。


(25)迷路(labyrinth)



イタリアのラーゴ・ディ・カレッツァ(Largo di Carrezza)は、海抜4千フィートのドロミテ(Dolomites)アルプスの中心にある有名な景勝地で、ここに「ビッグ4」の本拠地(世界支配のための命令を次々に発する秘密の地下要塞)が所在していた。

そこは、「フェルゼンラビリンス(岩の迷路)」と呼ばれ、大岩が幾重にも積み重なり、ちょっとした奇観となっており、一筋の小道がその間を縫って続いていた。


(26) 骨付きの羊肉(frozen leg of lamb)



ダートムーアのホッパートン村にあるグラニットバンガローの居間の床の上で惨殺されたジョナサン・ホェイリー(元船乗り)の貯蔵室には、ニュージーランドから輸入された骨付きの羊肉があった。

このことから、「ビッグ4」のナンバーフォーに該る破壊者は、料理人のベッツィー・アンドルーズと使用人のロバート・グラントの不在中に、肉屋の馬車でバンガローに乗り付けて、ジョナサン・ホェイリーを殺害したものと、ポワロは推理したのである。


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