2021年1月31日日曜日

デイヴィッド・ラッフル作「シャーロック・ホームズとライムレジスの恐怖」(Sherlock Holmes and the Lyme Regis Horror by David Ruffle) - その2

英国の Lighting Source UK Ltd. から出版されている
デイヴィッド・ラッフル作
「シャーロック・ホームズとライムレジスの恐怖」の裏表紙 -
元々は2009年に発表されたが、
2011年に増補版が刊行されている。


ジョン・H・ワトスンの旧友であるゴッドフリー・ジェイコブス医師(Dr. Godfrey Jacobs)から話を聞いたシャーロック・ホームズは、ジェイコブス医師に対して、オルラーナ伯爵(Count Orlana)の所在を尋ねる。ジェイコブス医師によると、オルラーナ伯爵はまだライムレジス(Lyme Regis - 化石が見つかる海岸線で有名)に居る、とのこと。オルラーナ伯爵は、現在、ピーター・ラッテンバリー卿(Sir Peter Rattenbury)のヘイマナー館(Haye Manor)に滞在していると言う。ピーター・ラッテンバリー卿は、秋までイタリアに出かけているらしい。ピーター・ラッテンバリー卿は東ヨーロッパ関係の権威なので、その縁でオルラーナ伯爵と知り合ったのではないかと、ジェイコブス医師は推測していた。


ジェイコブス医師は、自分が座っていた椅子をホームズとワトスンの二人に近づけると、驚くべき話を更に続けた。彼によると、積み荷の箱の件があった以降、ここ2-3週間、ライムレジスの至るところで、この地方に伝わる伝説の「赤い目をした黒い犬(Black Dog of Lyme)」が出没し、村人が多数目撃しているのであった。ジェイコブス医師も、その一人である。患者を往診した帰り道、彼が川沿いの道を歩いていると、彼の目の前に真っ赤な目をした巨大な黒い犬が姿を現した。ジェイコブス医師は、今までにこれ程大きな犬を見たことがなく、驚きのあまり、暫く動けないでいた。すると、その黒い犬は向きを変えると、ピーター・ラッテンバリー卿のヘイマナー館の方向へと去って行った。


一体、ライムレジスで何が起きつつあるのだろうか?残念ながら、ホームズとワトスンには、まだ十分な手掛かりがなく、五里霧中であった。


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)

本作品は、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が創造した吸血鬼ドラキュラ(Count Dracula)対ホームズ / ワトスンの話である。ブラム・ストーカーによる原作「吸血鬼ドラキュラ(Draculaー2017年12月24日付ブログと同年12月26日付ブログで紹介済)」(1897年)で、吸血鬼ドラキュラは英国北部の港町ウィットビー(Whitby)に上陸するが、本作品では、何故か、英国南西部のライムレジスが舞台となる。ホームズやワトスンの保養地としては、英国北部ではなく、英国南西部となるのか知れないが、ブラム・ストーカーの原作に合わせて、ウィットビーを舞台にしてほしかった。


(2)物語の展開について ☆☆☆(3.0)

保養を兼ね、ワトスンがホームズを連れて、旧友ジェイコブス医師を訪ねたライムレジスに上陸した吸血鬼ドラキュラが静かにその魔の手を広げるのに並行して、亡き妻メアリー・モースタン(Mary Morstan)に似ているハイドラー夫人(Mrs. Heidler)とワトスンが親密さを増していく様が描かれていく。ホームズ対吸血鬼ドラキュラの戦いについては、何回か、前哨戦のようなものがあって、最終決戦になるという訳ではなく、物語の後半、いきなりクライマックスという感じで、物語全般を通して、やや盛り上がりに欠ける。


(3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆☆☆(3.0)

残念ながら、物語全般を通りして、ホームズの活躍はあまりなく、クライマックスとも言える吸血鬼ドラキュラとの対決においても、パッとしない。亡き妻メアリー・モースタンに似ているハイドラー夫人を守るために、ワトスンがかなり奮闘しており、吸血鬼ドラキュラとの対決場面では、ホームズよりも活躍している位である。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)

他の作品でも同様であるが、他の作家が創造した吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、ジキル博士 / ハイド氏やオペラ座の怪人エリック等とホームズ / ワトスンを対決させる場合、相当程度うまくストーリーを練らないと、ホームズ / ワトスンだけでなく、相手側もうまく生きてこない。対決相手としてネームバリューはあるものの、正直ベース、ただ出てくるだけで、物語全体が凡庸な感じになってしまう傾向が多分にある。



2021年1月25日月曜日

ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」<グラフィックノベル版>(Dracula by Bram Stoker ) - その2

2017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design : Mr. Matt Preston)


アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が執筆して、1897年に発表したゴシック小説 / ホラー小説である「吸血鬼ドラキュラ(Dracula)」のグラフィックノベル版は、英国人のラッセル・パンター(Russell Punter)が構成を、そして、イタリア人のヴァレンティノ・フォリーニ(Valentino Forlini)が作画を担当して、英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から2017年に発刊されている。


2017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版のタイトルページ

ラッセル・パンターは、英国のベッドフォード州(Bedfordshire)に出生。ウェストサセックス州(West Sussex)にあるアートカレッジにおいて、グラフィックデザインを学んだ後、1987年に出版業界に入った。今までに、オリジナルから古典の翻案を含めて、50を超える作品を発表している。


英国ウィットビーにおいて、
ドラキュラ伯爵(Count Dracula)が化身した白い狼が
ルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra)を襲う場面

また、ヴァレンティノ・フォリーニ(1970年ー)は、イタリア北部のロンバルディア州にあるクレモナ(Cremona)に出生。1996年からイラストレーターを務めており、何年にもわたって、ウォルトディズニー社(Walt Disney Company)との間で、様々な作品(Chicken Little, The Wild, Lilo and Stich, Meet the Robinsons, Pirates of the Caribbean, Cars, Toy Story & Power Rangers)のプロジェクトを行なっている。


ドラキュラ伯爵がジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)と
ウィルヘルミナ・マレー(Wilhelmina Murray)を襲った場面 -
 画面奥に居るのは、左側から、ジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward)、
ルーシー・ウェステンラの婚約者だったアーサー・ホルムウッド(Arthur Holmwood)、
クウィンシー・モリス(Quincey Morris)と
エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)


ブラム・ストーカーによる小説「吸血鬼ドラキュラ」の時代設定は現代で、最終章において、7年後のことが語られているので、1880年代の5月3日から同年11月6日にかけての話であり、英国のウィトビー(Whitby)やロンドン、そして、トランシルヴァニア(Transylvania)が主な舞台となる。物語は三人称で語られていて、全て手紙、日記、新聞記事や航海日誌等による記述で、ストーリーが構成されている。

英国からトランシルヴァニアへと逃げ帰るドラキュラ伯爵を追う面々 -
左側から、ゴダルミング卿(Lord Godalming)となったアーサー・ホルムウッド、
クウィンシー・モリス、ウィルヘルミナ・マレー、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授、
ジャック・セワード医師、そして、ジョナサン・ハーカー


「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版の場合、ブラム・ストーカーによる小説をベースにしつつも、手紙、日記、新聞記事や航海日誌等によるストーリー構成ではなく、キチンとした物語構成となっており、非常に丁寧かつうまくまとめられている。


2021年1月24日日曜日

デイヴィッド・ラッフル作「シャーロック・ホームズとライムレジスの恐怖」(Sherlock Holmes and the Lyme Regis Horror by David Ruffle) - その1

英国の Lighting Source UK Ltd. から出版されている
デイヴィッド・ラッフル作
「シャーロック・ホームズとライムレジスの恐怖」の表紙 -
元々は2009年に発表されたが、
2011年に増補版が刊行されている。


1896年5月後半のある金曜日、ジョン・H・ワトスンは、旧友のゴッドフリー・ジェイコブス(Godfrey Jacobs)から手紙を受け取る。ゴッドフリー・ジェイコブスは、英国南西部にあるドーセット州(Dorset)ライムレジス(Lyme Regis - 化石が見つかる海岸線で有名)で開業医をしており、ワトスンに保養に来ないかという誘いの手紙であった。

幸いにして、シャーロック・ホームズは、その時点で手掛けている事件がなく、ワトスンの誘いに案外簡単に応じて、二人はライムレジス行きの列車に乗るべく、ウォータールー駅(Waterloo Station)へと向かった。


ライムレジス駅に到着したホームズとワトスンの二人を、ジェイコブス医師が予め手配した馬車ならぬ犬車が待っていて、彼らが泊まる宿へと運ぶ。宿に着いた二人、特に、ワトスンは、宿を経営するヘイドラー夫人(Mrs. Heidler)に会って、非常に驚く。何故ならば、3年程前に亡くなったワトスン夫人だったメアリー・モースタン(Mary Morstan)にとてもよく似ていたからである。

二人が宿の入口で会った少年は、彼女の息子であるナサニエル(Nathaniel)で、16歳になろうとしていた。ヘイドラー夫人によると、ボーア戦争(第一次:1880年ー1881年)で夫を亡くし、未亡人となった彼女は、まだ8ヶ月だった息子を抱え、これまでとても苦労した、とのこと。息子のナサニエルは、彼女の宿を手伝うのではなく、街中の「赤い獅子(Red Lion)」という宿で、靴磨きとして働いて、彼女の家計を助けていた。

彼女の話を聞くワトスンは、亡き妻メアリーを思い出していた。


午後、ライムレジスを散策した二人は、夕方、ジェイコブス家を訪ね、ジェイコブス医師、彼の妻サラ(Sarah)、彼の長男で9歳のアーサー(Arthur)、そして、彼の次男で7歳のセシル(Cecil)に会う。アーサーとセシルは、有名な諮問探偵であるホームズに会えて大喜びで、ホームズに対して根掘り葉掘りで質問を浴びせる。そんな彼らの様子に、ホームズも満更ではなさそうで、ワトスンとしては、ホームズをライムレジスに連れてきて良かったと感じていた。


夜が更けて、アーサーとセシルが床に就き、ホームズ、ワトスン、ジェイコブス医師とサラの四人になると、ジェイコブス医師は、ホームズとワトスンの二人に対して、現在、ライムレジスで起こっている奇妙な出来事について話を始め、二人に真相の解明を依頼するのであった。ジェイコブス医師の話とは、次のようだった。


4月の第2週の金曜日の晩、日没前のこと。当日は穏やかな一日だったが、何処からともなく、強風が吹きつけ、港内の船はオモチャのように揺れ、高波が港へと押し寄せた。

その大混乱の中、一隻の帆船が強風によって港の方向へと流されてきた。救命ボートが帆船に接舷して、救命ボートの乗組員達が帆船に乗船してみると、不思議かつ奇妙なことに、誰も居なかったのである。東ヨーロッパから来たのではないかと言う者も居たが、正直なところ、この帆船が何処から来て、何処へ向かおうとして居たのか、全く不明であった。


帆船の近くの海を漂っていた積荷の箱3つが、岸に打ち上げられていた。村人達が積荷の箱を開けて、中を調べてみたが、これもまた奇妙なことに、中には土壌しか入っていなかった。土壌しか入っていない積荷の箱は、港の倉庫で保管されることになった。

3日目の晩、午後8時頃に倉庫番が倉庫を施錠しようとした際、積荷の箱の持ち主だと言う人物が現れたのである。彼は、背が高く、禿げ上がった頭で、全てを貫き通すような目をしていた。また、彼は、足元まで届くような長く黒いシルクのクロークを着ていた。彼は、トランシルヴァニア(Transylvania)地方の貴族オルラーナ伯爵(Count Orlana)と名乗った。

彼曰く、積荷の箱は自分の物で、黒海(Black Sea)経由、彼の本国からライムレジスへ向けて発送した、とのこと。また、彼は、倉庫番に対して、トランシルヴァニア地方特有の植物をライムレジスで育てるために、積荷の中の土壌が必要なのだと説明する。オルラーナ伯爵と名乗る人物は、積荷の箱が自分の物であることを証明する書類を提示することはできなかったが、積荷の中には土壌しか入っていなかったため、倉庫番はオルラーナ伯爵に積荷を引き渡した。オルラーナ伯爵は、従者2人に命じて、積荷の箱を馬車に載せると、運び去ったのであった。


オルラーナ伯爵とは、一体、何者なのであろうか?


2021年1月18日月曜日

アガサ・クリスティー作「茶色の服の男」<グラフィックノベル版>(The Man in the Brown Suit by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「茶色の服の男」のグラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-

アン・べディングフェルドが乗船する
ケープタウン行きの客船キルモーデンキャッスル号と
その乗船切符が描かれている。


14番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるグラフィックノベル版は、「茶色の服の男(The Man in the Brown Suit)」(1924年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第4作目に該る。エルキュール・ポワロシリーズの「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)にも登場するレイス大佐(Colonel Race)が初登場する作品でもある。

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「茶色の服の男」のグラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-

ケープタウン行きの客船キルモーデンキャッスル号に乗船した
アン・べディングフェルドが携えた旅行用トランクが描かれている。

本作品のグラフィックノベル版は、元々、作家である Hughot が構成を、そして、イラストレーターである Bairi が作画を担当して、2005年にフランスの Heupe SARL から「L’Homme au complet marron」というタイトルで出版された後、2007年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。

職探しをするアン・べディングフェルドが地下鉄ハイドパークコーナー駅のプラットフォームに居た際、
その事件は発生した。

ネアンデルタール人の権威として有名だった考古学者の父親チャールズ・べディングフェルド教授を亡くして、孤児となったアン・べディングフェルド(Anne Beddingfield)は、「仕事が見つかるまで」という約束で、弁護士のフレミング夫妻に引き取られ、ロンドンへとやって来た。

コートから防虫剤の匂いを漂わせて居た男が、線路上に転落して、死亡する。

1月初めのある日、職探しをするアンは、地下鉄ハイドパークコーナー駅(Hyde Park Corner Tube Station)のプラットフォームにおいて電車を待っていると、コートから防虫剤(ナフタリン)の臭いを漂わせていた男が、アンの背後に居た人物に驚き恐れたかのように、後ずさりをして、線路上に転落し、死亡するという事件に遭遇する。

事件現場に、医者を名乗る茶色の服を着た男性が居合わせるが、
彼が死体を検分する様子を見て、
アン・べディングフェルドは、その男性が医者ではないことを見抜く。

事件現場に居合わせた医者を名乗る茶色の服を着た男性が、線路上で死亡した男を検分したが、それを見ていたアンは、医者を名乗る男性が、心臓がある死体の左胸ではなく、右胸に耳を当てていたため、偽者であることを見抜く。医者を名乗る男性は、死体のポケットから紙切れを抜き取ったものの、立ち去る際にうっかり落として行ってしまった。アンが、防虫剤の臭いが染みついたその紙切れを拾い上げると、そこには、「17.122 キルモーデンキャッスル(17.122 Kilmorden Castle)」と、暗号のような内容が記されていた。


医者を名乗る「茶色の服の男」が、死体のポケットから紙切れを抜き取るものの、
立ち去る際に、うっかりと落としてしまう。

事件の翌朝、アンは、新聞記事から、

(1)地下鉄ハイドパークコーナー駅で死亡した男のポケットから、英国下院議員のサー・ユースタス・ぺドラー(Sir Eustace Pedler)の持ち家(現在は空き家)であるマーロウ(Marlow)のミルハウス(Mill House)への紹介状が入っていたこと

(2)ミルハウスの2階の部屋において、外国人と思われる若い女性の絞殺死体が発見されたこと

(3)ミルハウスには、「茶色の服の男」も、内覧に来ていたこと

等を知る。

「茶色の服の男」が落として、アン・べディングフェルドが拾い上げた紙切れには、
「17.122 キルモーデンキャッスル」という暗号のような内容が記されていた。

亡くなった父親とは異なり、絶えず変化と冒険を求め、勇敢で好奇心に溢れているアンは、「茶色の服の男」がうっかり落として行った紙切れに記された暗号のようなものの解読に取り掛かるが、彼女の推理力を以ってしても、困難を極めた。

彼女が、偶然、ロンドン汽船会社の事務所の前を通った際、「キルモーデンキャッスル」が、地名ではなく、アフリカのケープタウンへと向かう客船名であることを悟った。何故ならば、その客船は、「1922年1月17日」に出航することになっていたからである。


英国下院議員のサー・ユースタス・ペドラーの持ち家であるミルハウス(現在、空き家)において、
内覧に来た外国人と思われる若い女性が、何者かに絞殺される。

事件の謎を解明するべく、アンは、父親が遺してくれた全財産を注ぎ込んで、切符を購入すると、単身、南アフリカ行きの客船に飛び乗った。偶然にも、その客船には、サー・ユースタス・ぺドラーも乗船していた。


英国下院議員のサー・ユースタス・ペドラーの持ち家であるミルハウスにおいて、
外国人と思われる若い女性が絞殺され、「茶色の服の男」が容疑者と目されていることを、
アン・べディングフェルドは、新聞記事で知る。

果たして、アン・べディングフェルドの行くてには、何が待っているのか?

「茶色の服の男」が落とした紙切れに記されていた「キルモーデンキャッスル」が、地名ではなく、
英国サザンプトンから南アフリカのケープタウンへと向かう客船であることが判った。


アガサ・クリスティーによる原作は、(1)アン・べディングフェルドの手記と(2)サー・ユースタス・ぺドラーの日記で構成されており、2人の語り手により、物語が進行する冒険ミステリーとなっている。

ただ、グラフィックノベル版では、原作通りの構成は難しいので、主人公であるアンを軸として、物語が展開する形式へ変更されている。また、後々に判明する南アフリカの鉱山王であるサー・ローレンス・アーズリー(Sir Laurence Eardsley)、彼の息子であるジョン・アーズリー(John Eardsley)、そして、ジョンの親友であるハリー・ルーカス(Harry Lucas)に関する昔の経緯が、物語の最初に組み入れられており、ストーリー的には、読者に判りやすい展開になっているものの、視覚的には、「茶色の服を着た男性」の正体が最初から判明してしまうことになっているのが、47ページという分量上、仕方がないものの、やや残念。

更に言うと、作画的には、他の作品のイラストレーター達と比べると、正直ベース、かなり劣っているように見えるのが、難点である。


2021年1月17日日曜日

マーク・A・ラサム作「シャーロック・ホームズ / 血の背信」(Sherlock Holmes / A Betrayal in Blood by Mark A. Latham) - その3

ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)の表紙
表紙のオブジェは、松野光洋氏が造形。


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆☆(5.0)

本作品は、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が執筆したゴシック小説 / ホラー小説「吸血鬼ドラキュラ(Draculaー2017年12月24日付ブログと同年12月26日付ブログで紹介済)」(1897年)をベースにしている。

ブラム・ストーカーの原作では、ドラキュラ伯爵(Count Dracula)事件の発生年について、明確にはされていないが、ジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)と結婚したウィルへルミナ・マレー(Wilhelmina Murray)に男の子が生まれ、ドラキュラ伯爵との戦いで命を落としたクウィンシー・モリス(Quincey Morris)の名前をもらい、クウィンシーと名付けたという話を、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)が事件から7年後にしている。1897年に原作が発表されていることを考えると、ドラキュラ伯爵事件は1890年以前に発生している計算になる。

そうなると、「最後の事件(The Final Problem)」において、犯罪界のナポレオンと呼ばれるジェイムズ・モリアーティー(Professor James Moriarty)と一緒に、スイスにあるライヘンバッハの滝壺に消えたシャーロック・ホームズは死んでいると思われた時期(1891年4月ー1894年4月)に割合近いため、本作品の作者であるマーク・A・ラサム(Mark A. Latham)は、判った上で、ドラキュラ伯爵事件の発生年を「1893年」に設定しているものと思われる。

通常であれば、ホームズ対吸血鬼であるドラキュラ伯爵の戦いという図式になるが、本作品の場合、ドラキュラ伯爵自身は、物語の中で言及されるだけで、実際には登場しない。その代わりに、ドラキュラ伯爵を倒したヴァン・ヘルシング教授達をホームズの敵役として設定し、彼らが滅ぼしたドラキュラ伯爵は、彼らが言うような吸血鬼ではなく、本当は普通の人間で、ヴァン・ヘルシング教授達にはある目的があって、人間であるドラキュラ伯爵を吸血鬼として始末したという全く新しい図式を提示の上、その真相をホームズが究明するという斬新な流れになっている。


(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)

兄マイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)の指示を受けて、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は、容疑者であるヴァン・ヘルシング教授達、そして、事件の関係者等を順番に訪ねて、ロンドンだけではなく、ドラキュラ伯爵が英国に初上陸した英国北東部の港町ウィットビー(Whitby)まで足を伸ばす。

物語の大部分は、ホームズ / ワトスンの二人と容疑者達 / 関係者達のやりとりが占めていて、そこに謎のドイツ人二人組が関わってくる。

それでも、内容的には、それなりに面白く読めるものの、ドラキュラ伯爵事件の本当の黒幕となるヴァン・ヘルシング教授が登場する場面が、物語の前半と終盤だけに限られていて、ホームズとヴァン・ヘルシング教授の知的な戦いがほとんど見られず、残念。

ドラキュラ伯爵事件の背後で、ヴァン・ヘルシング教授を首謀者とする一行が、ある目的を以って、ルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra)、レンフィールド(Renfield)、そして、ドラキュラ伯爵を殺害していたことが、物語の終盤に明らかにされるのだが、意外に、ヴァン・ヘルシング教授が割合にあっさりとホームズに敗れてしまい、やや小物感が否めない。


(3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆☆☆☆半(4.5)

本作品内において、全ての情報が開示される訳ではないので、読者が全ての謎を完全に解き明かすことは難しい。

ただし、物語の終盤、ホームズが語るドラキュラ伯爵事件の真相は、非常に驚くべきものである。英国政府とドラキュラ伯爵が欧州大陸で進めようとしていたこと、ドラキュラ伯爵とヴァン・ヘルシング教授の間の確執の理由、ヴァン・ヘルシング教授とドイツ政府の関係、そして、英国政府とドイツ政府が欧州大陸で争っていたこと等、また、ヴァン・ヘルシング教授がルーシー・ウェステンラとドラキュラ伯爵を殺害した動機、ジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward)が院長を務める精神病院に入院していたレンフィールドの正体、そして、ジョナサン・ハーカー達がヴァン・ヘルシング教授の犯罪に加担した理由等、あらゆることが複雑に絡み合っているが、ホームズは全ての糸をキチンと見事に解きほぐしている。

前に述べた通り、ホームズとヴァン・ヘルシング教授の間で、高レベルな戦いが見られなかったことが、マイナス要因である。


(4)総合評価 ☆☆☆☆半(4.5)

ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」を題材としながら、肝心のドラキュラ伯爵自身を一切登場させず、善玉側のヴァン・ヘルシング教授達を逆に悪玉側に置いて、実は普通の人間だったドラキュラ伯爵を吸血鬼に仕立て上げて殺害した犯人達であるという今までにない非常に変わった設定と展開で、新鮮味がある。ドラキュラ伯爵とヴァン・ヘルシング教授達に加えて、英国政府とドイツ政府の思惑が複雑に絡み合っている。ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」の設定と展開を全て完全に活用しつつ、マーク・A・ラサム独自の物語へと突き進んでいる。そして、物語の終盤、ホームズによって明らかにされる驚愕の真実の数々。

唯一、残念なのは、ヴァン・ヘルシング教授の登場場面が非常に少ない上に、ホームズとヴァン・ヘルシング教授の知的で、かつ、スリリングな戦いが全く見られず、今までの経緯も含めて、ヴァン・ヘルシング教授側のキャラクター設定が弱く、やや小物の悪役 / 敵役だった感じが強いことである。



2021年1月10日日曜日

ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」<グラフィックノベル版>(Dracula by Bram Stoker ) - その1

2017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版の表紙
(Cover Design : Mr. Matt Preston)

マーク・A・ラサム(Mark A. Latham)作「シャーロック・ホームズ / 血の背信(Sherlock Holmes / A Betrayal in Blood)」(2017年)のベースとなった「吸血鬼ドラキュラ(Dracula)」は、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が執筆して、1897年に発表したゴシック小説 / ホラー小説である。

なお、吸血鬼ドラキュラの名前は、「龍(dragon)」や「悪魔(devil)」を意味するルーマニア語の「dracul」が元になっている。


ドラキュラ城に近い Borgo Pass へと向かう馬車内において、
英国デヴォン州エクセターからやって来た新人事務弁護士ジョナサン・ハーカーは、
同乗者達から「ドラキュラ城には近づかない方が良い。」と諭される。

今回紹介する「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版は、英国人のラッセル・パンター(Russell Punter)が構成を、そして、イタリア人のヴァレンティノ・フォリーニ(Valentino Forlini)が作画を担当して、英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から2017年に発刊されている。


Borgo Pass において、
ドラキュラ城から差し向けられた馬車に乗り換えたジョナサン・ハーカーは、
途中、白い狼の大群に取り囲まれる。


英国南西部デヴォン州(Devon)の州都エクセター(Exeter)で弁護士事務所を営むピーター・ホーキンズ(Peter Hawkins)の代理として、新人事務弁護士(solicitor)であるジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)が、「ロンドンにあるカーファックス屋敷(Carfax House)を購入したい。」と依頼してきたドラキュラ伯爵(Count Dracula)を訪ねるために、トランシルヴァニア(Transylvania)のカルパチア山脈(Carpathian Mountains)にあるドラキュラ城(Castle Dracula)へやって来るところから、物語は始まる。

雪が降りしきる中、
ジョナサン・ハーカーは、遂にドラキュラ城に到着する。


実は、ドラキュラ伯爵は吸血鬼で、新たな獲物を求めて、英国への進出を狙っていたのである。ジョナサン・ハーカーがトランシルヴァニアへ呼び寄せられたのは、ドラキュラ伯爵による罠で、彼の配下である三人の女吸血鬼によって、ジョナサン・ハーカーはドラキュラ城で囚われの身となってしまうが、彼は命からがらなんとかドラキュラ城から脱出する。

ドラキュラ城に到着したジョナサン・ハーカーを出迎えたのは、
召使ではなく、ドラキュラ伯爵本人であった。

その後、間もなくして、英国北東部ノースヨークシャー州(North Yorkshire)東部のエスク川(River Esk)河口にある漁港ウィットビー(Whitby)に、ロシア船籍の船デメテール号(Demeter)が突然姿を現して難破する。船内には、船長一人しか居なかった。だた一人生き残った船長によると、船内に居た乗組員は、航海中に一人ずつ姿を消していき、最後には自分だけが残ったと言う。

デメテール号が港で難破した際、巨大な犬のような生き物が、船の甲板から陸地へ跳び移ったのが目撃された。それは、吸血鬼ドラキュラの化身であり、遂に彼は英国への上陸を果たしたのである。


ロンドンにあるカーファックス屋敷の購入手続を終えたジョナサン・ハーカーは、
ロンドン以外にも、英国内の3都市に、ドラキュラ伯爵が興味を抱いていることを偶然知ることになる。

心臓が悪い母親と一緒に、ウィットビーに滞在しているルーシー・ウェステンラ(Lucy Wsetenra)は、アーサー・ホルムウッド(Arthur Holmwood)、ジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward)とクウィンシー・モリス(Quincey Morris)の親友三人組から求婚され、彼女はアーサー・ホルムウッドの求婚を受ける。

その一方で、彼女は夢遊病であり、彼女の親友で、かつ、ジョナサン・ハーカーの婚約者であるウィルヘルミナ・マレー(Wilhelmina Murray)は、彼女のことを心配していた。


ジョナサン・ハーカーが誤って剃刀で自分の頬を傷つけた際、
その出血を見て、ドラキュラ伯爵が正体を現す。


この夢遊病が元で、ルーシー・ウェステンラはドラキュラ伯爵に襲われ、英国での最初の犠牲者となってしまう。ルーシー・ウェステンラの身を案じたジャック・セワード医師は、自分の恩師であるエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)に助けを求め、彼女の治療を依頼するのであった。

2021年1月9日土曜日

マーク・A・ラサム作「シャーロック・ホームズ / 血の背信」(Sherlock Holmes / A Betrayal in Blood by Mark A. Latham) - その2

2017年3月に Titan Books から出版された
マーク・A・ラサム作「シャーロック・ホームズ / 血の背信」の
ペーバーバック版の裏表紙
(Cover Image by Dreamstime / funnylittlefish)

新聞によると、ドラキュラ伯爵事件に関して、裁判所はエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)一行全員を無罪放免としており、ドラキュラ伯爵事件にかかる全ての記録が間もなく一般に公開される予定、とのことだった。ところが、シャーロック・ホームズの手元には、その全記録が既に存在していた。


ジョン・H・ワトスンが尋ねたところ、シャーロック・ホームズは、パル・マル通り(Pall Mall → 2016年4月30日付ブログで紹介済)にあるディオゲネスクラブ(Diogenes Club)に居る彼の兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)から昨日の真夜中前に届き、今朝にかけて二度目を通した、と答えた。マイクロフト・ホームズ、つまり、英国政府としては、ドラキュラ伯爵事件について、ヴァン・ヘルシング教授達が裁判所で語った通りではないと考えており、事件の真相をシャーロック・ホームズに究明して欲しいようである。


そこへ、ハドスン夫人(Mrs. Hudson)がスコットランドヤードのロジャー・ブラッドストリート警部(Inspector Roger Bradstreet)を案内してきた。

ブラッドストリート警部によると、彼の同僚であるフランク・コットフォード警部(Inspector Frank Cotford)がドラキュラ伯爵事件の捜査を担当していて、何かを探り出したようであるが、突然捜査から外され、閑職へと追いやられたしまい、現在、酒浸りの日々を送っている、とのこと。彼としては、シャーロック・ホームズにドラキュラ伯爵事件の真相を究明してもらい、同僚のコットフォード警部を現在の状況から救い出して欲しいと頼み込むのであった。

シャーロック・ホームズは、ブラッドストリート警部の依頼を受けて、彼とワトスンの三人で、イーストエンド(East End)に住むコットフォード警部のフラットへと向かう。そんな彼らを、謎のドイツ人二人組が付け狙っていた。


果たして、ドラキュラ伯爵事件の真相とは、一体、何なのだろうか?ヴァン・ヘルシング教授達の証言通り、ドラキュラ伯爵(Count Dracula)は、本当に吸血鬼だったのか?そうでないとしたら、ヴァン・ヘルシング教授達は、一体、何を背後に隠しているのか?そして、彼らが滅ぼしたルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra)、ドラキュラ伯爵が惨殺したと言われるレンフィールド(Renfield)、更に、彼らが最終的に倒したドラキュラ伯爵は、一体、何の為に殺害されたのか?マイクロフト・ホームズ、つまり、英国政府は、何故、ドラキュラ伯爵事件にかかるヴァン・ヘルシング教授達の証言が全て嘘だと見抜いているのか?また、シャーロック・ホームズ達を付け狙う謎のドイツ人二人組は、一体、何者なのか?


シャーロック・ホームズが、ドラキュラ伯爵事件の背後にある驚くべき真実を明らかにするのである。


2021年1月3日日曜日

マーク・A・ラサム作「シャーロック・ホームズ / 血の背信」(Sherlock Holmes / A Betrayal in Blood by Mark A. Latham) - その1

2017年3月に Titan Books から出版された
マーク・A・ラサム作「シャーロック・ホームズ / 血の背信」の
ペーバーバック版の表紙
(Cover Image by Dreamstime / funnylittlefish) -
背景は、ドラキュラ伯爵が英国で最初に上陸した
ウィットビーにある僧院(Whitby Abbey)を
イメージしているものと思われる。

1891年4月、「最後の事件(The Final Problem)」において、犯罪界のナポレオンと呼ばれるジェイムズ・モリアーティー(Professor James Moriarty)と一緒に、スイスにあるライヘンバッハの滝壺に消えたシャーロック・ホームズは死んでいると思われたが、3年の時を経て、1894年4月、「空き家の冒険(The Empty House)」でロンドンに無事生還した。

ちょうどその頃、ロンドンでは、ドラキュラ伯爵事件に関する記事が、世間を騒がせていた。それは、トランシルヴァニア(Transylvania)の吸血鬼ドラキュラ伯爵(Count Dracula)と吸血鬼ハンター達の戦いの記録であった。新聞によると、ドラキュラ伯爵事件は、1893年5月から11月にかけてで、場所は、英国北東部の港町ウィットビー(Whitby)、ロンドン、そして、トランシルヴァニアへとまたがっていた。

そして、事件の関係者は、以下の通りであった。


<ドラキュラ伯爵と戦った人物>


(1)エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing) → 精神医学を専門とするアムステルダム大学の名誉教授で、ジャック・セワード医師(後述)の恩師。ジャック・セワード医師の依頼に基づき診断したルーシー・ウェステンラ(後述)の衰弱が吸血鬼であるドラキュラ伯爵の仕業だと気付き、本件に関与。


(2)ジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker) → エクセター(Exeter)に事務所を構えるピーター・ホーキンズ(Peter Hawkins)の代理として、ロンドンのカーファックス屋敷(Carfax)を購入しようとするドラキュラ伯爵のために、トランシルヴァニアのドラキュラ城(Castle Dracula)へ派遣された新人事務弁護士。ドラキュラ城に囚われるも、命からがら脱出する。


(3)アーサー・ホルムウッド(Arthur Holmwood) → ルーシー・ウェステンラの求婚者の一人で、後に彼女の婚約者となる。彼の父親の死去に伴い、ゴダルミング卿(Lord Godalming)の爵位(男爵)を受け継ぐ。


(4)ジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward) → カーファックス屋敷の近くにある精神病院の院長で、ルーシー・ウェステンラの求婚者の一人。ルーシー・ウェステンラの衰弱に疑問を感じて、恩師であるヴァン・ヘルシング教授に助けを請う。


(5)クウィンシー・モリス(Quincey Morris) → 米国テキサス州の大地主で、ルーシー・ウェステンラの求婚者の一人。ロンドンからトランシルヴァニアへと逃げ帰るドラキュラ伯爵を追撃する途中、ドラキュラ伯爵の配下との戦いの中で、命を落とす。


<ドラキュラ伯爵による被害者 / 犠牲者>


(1)ルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra) → 心臓の弱い母親と一緒に、ウィットビーに滞在していた女性で、ウィルへルミナ・マレー(後述)の友人。アーサー・ホルムウッド、ジャック・セワード医師とクウィンシー・モリスの三人から求婚を受けていたが、最終的には、アーサー・ホルムウッドの婚約者隣。夢遊病であり、それが元でドラキュラ伯爵に襲われ、吸血鬼にされてしまったため、ヴァン・ヘルシング教授達によって、二度と吸血鬼にとして復活できないよう、滅ぼされる。


(2)レンフィールド(Renfield) → ジャック・セワード医師が院長と務める精神病院の患者で、蝿、蜘蛛や鳥等を食べて、その命を奪うという独自の観念を有する。最終的には、ドラキュラ伯爵によって惨殺される。


(3)ウィルへルミナ・マレー(Wilhelmina Murray) → ルーシー・ウェステンラの友人で、ジョナサン・ハーカーの婚約者。事件の後半、ドラキュラ伯爵に襲われるが、ヴァン・ヘルシング教授達が、それを逆手に取って、ドラキュラ伯爵を追い詰め、ロンドンから撃退する。


2021年1月2日土曜日

アンソロジー「非常に残忍なクリスマス」(A Very Murderous Christmas)- その2

英国の Profile Books Ltd. が2018年に出版した
「非常に残忍なクリスマス」のペーパーバック版の裏表紙
(Cover design by Ms. Sandra Cunningham / Arcangel)


「非常に残忍なクリスマス(A Very Murderous Christmas)」は、英国の出版社である Profile Books Ltd. が、クリスマスの時期に合わせて、クリスマスを題材にした短編10作品をまとめ、2018年に出版したアンソロジーである。


(6)「狼のように(Loopy)」

作者は、英国の推理作家であるルース・レンデル(Ruth Rendell:1930年ー2015年)で、彼女の短編集である「女ともだち(The New Girlfriend)」(1985年)に収録されている。彼女の作品において、アダム・ダリグリッシュ警部(Inspector Adam Dalgliesh)が、主に探偵役を務める。

本短編では、舞台「赤ずきん(Red Riding Hood)」において、狼を演じている主人公が、結婚に関して、母親と婚約者の間で板挟みになり、クリスマスの週末、遂に事件が発生する。


(7)「モース警部最大の事件(Morse’s Greatest Mystery)」

作者は、英国の推理作家であるコリン・デクスター(Colin Dexter:1930年ー2017年)で、彼の短編集である「モース警部最大の事件(Morse’s Greatest Mystery)」(1987年)に収録されている。彼の作品において、モース警部(Inspector Morse)が、主に探偵役を務める。


本短編では、クリスマスにもかかわらず、自宅のフラットに迎えに来た部下のルイス(Lewis)部長刑事に連れられて、モース警部は、パブで発生したチャリティー用の募金400ポンドが盗難された事件の捜査へと向かう。非常に心温まる話である。


(8)「生姜の壺(The Jar of Ginger)」(1950年)


作者は、英国の推理作家であるグラディス・ミッチェル(Gladys Mitchell:1901年ー1983年)で、彼女の作品において、ブラッドリー夫人シリーズが代表作である。


(9)「ランポール長らく親しい顔(Rampole and the Old Familiar Faces)」(2003年)


作者は、英国の法廷弁護士、劇作家、脚本家で、作家でもあるサー・ジョン・クリフォード・モーティマー(Sir John Clifford Mortimer:1923年ー2009年)で、彼の作品において、法廷弁護士ホレス・ランポール(Horace Rampole)が、主に探偵役を務める。


(10)「サンタの灯台の謎(The Problem of Santa’s Lighthouse)」(1931年)


作者は、米国の推理作家であるエドワード・デンティンジャー・ホック(Edward Dentinger Hoch:1930年ー2008年)で、東京創元社刊「サム・ホーソーンの事件簿Ⅲ」(2004年)に収録されている。彼の作品において、サム・ホーソーン医師(Dr. Sam Hawthorne)シリーズ、怪盗ニック・ヴェルヴェット(Nick Velvet)シリーズ、レオポルド警部(Captain Leopold)シリーズやサイモン・アーク(Simon Ark)が代表作である。


本短編では、ホーソーン医師が、束の間の休暇で訪れたプリマス(Plymouth)近くにあるサンタの灯台(Santa’s Lighthouse)の展望台において、謎の事件が発生する。観光客が帰って、誰も居なくなった灯台の展望台に一人残っていたハリー・クォイ(Harry Quay)が短剣で刺された後、展望台から転落して死亡する。その際、ホーソーン医師は、ハリーの姉であるリサ・クォイ(Lisa Quay)と一緒に、地上に居たが、灯台内には誰も居らず、正に「密室」状態だった。



2つ目の短編である「赤後家の冒険(The Adventure of the Red Widow)」については、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれている米国の推理作家で、コナン・ドイルの伝記作家でもあるジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が共著しているだけあって、コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズシリーズの内容がよく研究されていて、コナン・ドイルによる原作かと思う程、正典らしい展開で、非常に良く出来ている。また、物語の最後も、ホームズらしい事件の解決の仕方になっている。


被害者のジョセリン・コープ卿(Lord Jocelyn Cope)は、ダービーシャー州(Derbyshire)にあるアーンスワース城(Arnsworth Castle)において、ギロチンを用いて惨殺されるが、これは、コナン・ドイル原作の短編「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」(1891年)において、「The Arnsworth Castle business」として言及されている「語られざる事件」をベースにしている。