2026年2月8日日曜日

ロンドン メイダヴェール地区(Maida Vale)- その1

メイダヴェール地区の東端を南北に延びるメイダヴェール通り -
画面左奥に見えるのが、アバコーンプレイス通り(Abercorn Place)で、
セントジョンズウッド地区へと入る。
<筆者撮影>

米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)という別名義で1944年に発表した推理小説で、ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)シリーズの長編第14作目に該る「爬虫類館の殺人He Wouldn’t Kill Patience → 2025年11月17日 / 11月19日付ブログで紹介済)」の舞台は、第2次世界大戦(1939年-1945年)下の首都ロンドンである。


京創元社が発行する創元推理文庫「爬虫類館の殺人」の表紙
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ
カバーデザイン:折原 若緒
  カバーフォーマット:本山 木犀


ケンジントンガーデンズ(Kensington Gardens → 2026年1月31日付ブログで紹介済)内にあるロイヤルアルバート動物園(Royal Albert Zoological Gardens)は、世界の蛇、蜥蜴や毒蜘蛛等を集めた爬虫類館で人気を集めていた。ところが、ドイツ軍の爆撃による空襲の脅威下、国家安全保証省(Department of Home Secuirty)からの要請により、閉園の危機を迎える。

園長のエドワード・ベントン(Edward Benton)は、なんとかして、ロイヤルアルバート動物園閉園の危機を乗り越えようといろいろと手を尽くしたものの、閉園の撤回は非常に難しい状況だった。



ロイヤルアルバート動物園閉園の危機を迎えて、気落ちする父エドワード・ベントンを元気づけるため、娘のルイーズ・ベントンは、曾祖父の代から対立している2つの奇術師一家の若き後継者であるケアリー・クイント(Carey Quint - 奇術師の青年)とマッジ・パリサー(Madge Palliser - 奇術師の女性)の2人に手品を披露してもらうべく、1940年9月6日(金)の夕食会に招待した。また、陸軍省の御意見番で、手品を得意とするヘンリー・メリヴェール卿も、同じく招待されたのである。


メイダヴェール通りの南側から北方面を見たところ
<筆者撮影>

空襲警報が鳴り響く中、ケアリー・クイント、マッジ・パリサーとヘンリー・メリヴェール卿の3人は、午後8時半頃、ロイヤルアルバート動物園内にある園長の家に到着。

玄関のドアには、鍵がかかっておらず、廊下の突き当たりにある園長エドワード・ベントンの書斎のドアには、「入室無用」の札が掛かっていた。また、ドアは閉じたままで、その下から光は漏れていなかった。

廊下の突き当たりにある園長の書斎を除くと、右の部屋も左の部屋も、ドアが開けっ放しで、夕食会の用意が為されていたものの、誰もいなかった。

ヘンリー・メリヴェール卿とマッジ・パリサーが、夕食を焦がしている臭いを嗅ぎつけると、3人は食堂へと急いだ。食堂内の閉じたオーブンの中では、ロースト料理が焦げていた。誰かが、全部のガスを全開にしていたのである。

慌ててオーブンのスイッチを切る3人であったが、何故か、食堂から廊下へ通じるドアに、鍵がかかっていた。3人以外に、園長の家内に居る誰かに、彼らは食堂内に閉じ込められてしまったのだ。


メイダヴェール通りの南側からアバコーンプレイス通りを見たところ
<筆者撮影>

ケアリー・クイントが奇術用の小道具を使い、ドアの鍵を解錠して、廊下へ出ると、丁度、飼育員のマイク・パーソンズとセントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)の医師で、ルイーズ・ベントンの恋人のジャック・リヴァーズが玄関のドアから入って来た。

ジャック・リヴァーズによると、午後7時に、園長のエドワード・ベントン本人から、「夕食会は中止になった」旨の電話連絡があった、とのこと。園長の声の様子に不自然さを感じたジャック・リヴァーズは、病院から駆け付けたのであった。


メイダヴェール通りの横断歩道の中間点から北方面を見たところ
<筆者撮影>

ヘンリー・メリヴェール卿を含めた5人は、廊下の突き当たりにある園長の書斎のドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。また、中から鍵穴に何かが貼り付けてあるようだった。


メイダヴェール通りの北側からエルギンアベニュー(Elgin Avenue)を見たところ -
エルギンアベニューは、メイダヴェール地区内を横断して、
西側のメイダヒル地区まで延びている。
<筆者撮影>

廊下に面したドアは、全て、同じ鍵を使っていることを知っているジャック・リヴァーズは、食堂のドアから鍵を抜くと、ヘンリー・メリヴェール卿に手渡した。

ヘンリー・メリヴェール卿が書斎の鍵を解錠して、ドアを開けると、園長のエドワード・ベントンが、一匹の蛇と一緒に、ガス中毒により死亡しているのを発見する。

書斎のドアと窓の全てが内側から厳重に目張りされた「密室(sealed room)」状態で、状況的には、ロイヤルアルバート動物園の閉園を苦にしての自殺としか思えなかった。


メイダヴェール通りの南側からエルギンアベニューを見たところ
<筆者撮影>

ホーレス・ベントン(Horace Benton / エドワード・ベントンの弟)が、理髪店でさっぱりした様子で、極上の葉巻を吸いながら、正面の芝生を歩いてきた。ずんぐりとした体は、今は上品な黒衣に包まれ、玄関ドアから朝日を遮っている。彼は陽気にあいさつしようとしたが、死者が出たことを思い出したらしく咳払いして、よりふさわしいおごそかな面持ちと、静かな足取りで近づいてきた。

「伝言があります」彼は告げた。「ふたりとも、爬虫類館へ来てほしいとのことです」


「爬虫類館?」マッジが繰り返した。「どうして爬虫類館へ?」

ホーレスは首を振った。

「それはいえないのです。だが、メリヴェールがいます。ジャック・リヴァーズも。それに」彼は口ごもった。「警察官も」

「ゆうべ来た、所轄の警部ですか?今朝、、全員にここへ来るようにいった?」

「それも取りやめになったのですよ」ホーレスは自分でも自信なげな、弱々しい笑みを浮かべていった。「来ているのは所轄の警部ではありません。新しい人です。首席警部ですよ。ロンドン警視庁の」

ケアリは口笛を吹いた。

「その人の名前は」彼は尋ねた。「マスターズ主席警部では?」

「そのような感じでしたな」ホーレスは認めた。

彼はかぐわしい葉巻の煙を吸い込んだが、前より楽しんではいなそうだった。首は興奮した七面鳥のように赤く、しわが寄っている。一瞬、苛立った巡回セールスマンのようだとケアリは思った。やがて、彼は大きな笑い声をあげ、ふたりを驚かせた。

「主席警部は」彼は続けた。「大胆にも、このわたしにあれこれ質問しましたよ。いつカナダから帰ったのか? 二か月前です。なぜ? 戦時の仕事のためです。カナダでの事業は成功していたのか? いいえ。人をすぐ信じてしまうものですから。ゆうべ八時半から九時の間に、何をしていた?」

またしてもホーレスは大笑いした。

「わたしは喜んで答えましたよ。ゆうべの八時半から九時の間は、メイダ・ヴェールの自分のフラット、ハンマースレイ・マンションにいました。数人がそれを証明してくれます。そんなところです。ではさようなら。幸運を祈ります、という具合にね」

煙が目に入り、まばたきしながら、ホーレスは快活に手を振って退散した様子を伝えた。それから前へ出て、ざっくばらんな兄のように、マッジの腕に軽く触れた。

「とにかく」彼はいった。「ふたりとも爬虫類館に来て、メリヴェールに会ってください。ルイーズは霊安室へ行っているので、わたしがここで目を光らせておくことにします」

(白須 清美訳)


メイダヴェール通り(画面右斜め奥から画面左手前に延びる通り)と
エルギンアベニュー(画面右側へ延びる通り)の交差点から
南方面を見たところ(その1)
<筆者撮影>

ロイヤルアルバート動物園内にある家において、「密室」状態で亡くなったエドワード・ベントン園長の弟であるホーレス・ベントンが住んでいるメイダヴェール地区(Maida Vale)は、ロンドンの中心部であるシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)内に所在する地区の一つである。


メイダヴェール通り(画面右奥へ延びる通り)と
アバコーンプレイス通り(画面手前を左右に延びる通り)の交差点から
南方面を見たところ
<筆者撮影>

メイダヴェール地区は、


東側: メイダヴェール通り(Maida Vale)

南側: リージェンツ運河(Regent’s Canal)

西側: シルランドロード(Shirland Road)

北側: キルバーンパークロード(Kilburn Park Road)


に囲まれたあまりに広くない地区である。


メイダヴェール通りとエルギンアベニューの交差点から南方面を見たところ(その2)
<筆者撮影>

また、メイダヴェール地区は、


東側: セントジョンズウッド地区(St. John’s Wood → 2014年8月17日付ブログで紹介済)/ リッソングローヴ地区(Lisson Grove)

南側: パディントン地区(Paddington → 2015年1月4日付ブログで紹介済)

西側: メイダヒル地区(Maida Hill)

北側: サウスハムステッド地区(South Hampstead)


と隣り合っている。

なお、メイダヴェール地区と隣り合う東側、南側と西側は、シティー・オブ・ウェストミンスター区に属しているが、北側は、ロンドンの特別区の一つであるカムデン区(London Borough of Camden)に属している。


2026年2月7日土曜日

アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー(Agatha Christie Official Calendar 2026)- その11

2025年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー」のうち、
2026年9月のカレンダーに描かれている
エルキュール・ポワロシリーズの長編第19作目いち、にい、私の靴の留め金を締めて」(1940年)-
クイーンシャーロットストリート58番地にあるヘンリー・モーリー歯科医院での診療を終えて、
建物の外に出たエルキュール・ポワロは、そこでタクシーから降りて来た女性の患者とすれ違い、
その際、彼女が落とした靴の留め金(バックル)を拾って渡すが、
このことが、後々、事件解決のための重要な手掛かりとなる。
2026年9月のカレンダーには、この画面が描かれている。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から、2026年オフィシャルカレンダーが出ているので、前回に引き続き、順番に紹介したい。


2026年カレンダーの場合、カレンダー用に新たに描き起こされたエルキュール・ポワロシリーズのイラストが使用されており、デザインについては、Diahann Sturge-Cambell が、また、イラストに関しては、Mr. Stephen Millership / Central Illustration Agency が担当している。


10番目は、2026年9月のカレンダーに該る「One, Two, Buckle My Shoe(いち、にい、私の靴の留め金を締めて)」(1940年)である。


アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第28作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第19作目に該っている。


「いち、にい、私の靴の留め金を締めて」の場合、米国版のタイトルは、「The Patriotic Murders(愛国殺人)」が使用されている。


エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)がクイーンシャーロットストリート58番地(58 Queen Charlotte Street → 2016年5月29日付ブログで紹介済)にある歯科医ヘンリー・モーリー(Henry Morley)の待合室に居るところから、物語が始まる。


エルキュール・ポワロは、
英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている
「エルキュール・ポワロの世界」と言うジグソーパズルの中央に立っている。
<筆者撮影>


流石の名探偵ポワロであっても、半年に一回の定期検診のために、歯科医の待合室で診療を待つのは、自分の自尊心を大いに傷つけられるのであった。ようやく診療を終えて、建物の外に出たポワロは、そこでタクシーから降りて来た女性の患者とすれ違った際、彼女が落とした靴の留め金(バックル)を拾って渡した。

そして、フラットに戻ったポワロを待っていたのは、ついさっき自分を診療したモーリー歯科医が診療室で拳銃自殺をしたとのスコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)からの連絡であった。


ポワロの後に、モーリー歯科医の待合室にやって来た患者は、以下の3名であることが判る。


(1)マーティン・アリステア・ブラント(Martin Alistair Blunt)/ 銀行頭取

(2)アムバライオティス氏(Mr Amberiotis)/ インドから帰国したばかりのギリシア人 → モーリー歯科医の患者で、元内務省官僚のレジナルド・バーンズ(Reginald Barnes)は、「アムバライオティスは、スパイである上に、恐喝者だ。」と、ポワロに告げる。

(3)メイベル・セインズベリー・シール(Mabelle Sainsbury Seale)/ アムバライオティス氏と同じく、インド帰りの元女優


モーリー歯科医の死が自殺ではなく、他殺の可能性もあると考えて、捜査を開始したポワロであったが、その後、アムバライオティス氏が歯科医が使用する麻酔剤の過剰投与により死亡しているのが発見される。

モーリー歯科医は、アムバライオティス氏の診療ミス(=注射する薬品量の間違い)を苦にして、拳銃自殺を遂げたのだろうか?


続いて、メイベル・セインズベリー・シールが行方不明となり、アルバート・チャップマン夫人(Mrs Albert Chapman)という女性のフラットにおいて、彼女の死体が発見される、しかも、彼女の顔は見分けがつかない程の有り様だった。

チャップマン夫人がメイベル・セインズベリー・シールを殺害の上、逃亡したのだろうか?ところが、モーリー歯科医の診療記録によると、発見された死体は、メイベル・セインズベリー・シールではなく、チャップマン夫人であることが判明する。


ポワロが診療を終えて去った後、モーリー歯科医の診療室において、一体何があったのであろうか?ポワロの灰色の脳細胞がフル回転し始める。 


2026年2月6日金曜日

アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー(Agatha Christie Official Calendar 2026)- その10

2025年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー」のうち、
2026年8月のカレンダーに描かれている
エルキュール・ポワロシリーズの長編第22作目「ホロー荘の殺人」(1946年)-
サー・ヘンリー・アンカテルとルーシー・アンカテルの夫妻が所有するホロー荘の建物と
外科医のジョン・クリストウが銃で撃たれた現場のプールが描かれている。
また、プールの水面には、昼食に招かれて、ホロー荘へと訪れた
エルキュール・ポワロの影が映っている。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から、2026年オフィシャルカレンダーが出ているので、前回に引き続き、順番に紹介したい。


2026年カレンダーの場合、カレンダー用に新たに描き起こされたエルキュール・ポワロシリーズのイラストが使用されており、デザインについては、Diahann Sturge-Cambell が、また、イラストに関しては、Mr. Stephen Millership / Central Illustration Agency が担当している。


9番目は、2026年8月のカレンダーに該る「ホロー荘の殺人(The Hollow)」(1946年)である。


アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第37作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第22作目に該っている。

「ホロー荘の殺人」の場合、後にタイトルが「Murder after Hours」へ改題されている。


本作品は、ある年の9月末の週末、行政官だったサー・ヘンリー・アンカテル(Sir Henry Angkatell)と夫人のルーシー・アンカテル(Lucy Angkatell)が、友人のクリストウ夫妻をロンドン近くの自宅ホロー荘(The Hollow)へ招待して、彼らをもてなす計画をするところから、物語が始まる。


夫のジョン・クリストウ(John Christow)はハーリーストリート(Harley Street →  2015年4月11日付ブログで紹介済)で成功をおさめた外科医で、夫人のガーダ・クリストウ(Gerda Christow)は純真かつ無邪気な性格で、夫のジョンに対して崇拝に近い位の愛情を捧げていた。ただ、ガーダは簡単な室内ゲームも満足にできないのが、ルーシー・アンカテルにとって頭の痛い点だった。


ホロー荘には、クリストウ夫妻の他に、以下の人物が招待されていた。


(1)ミッジ・ハードキャッスル(Midge Hardcastle):ルーシー・アンカテルの従妹で、服飾関係の店員として働いている。

(2)エドワード・アンカテル(Edward Angkatell):サー・ヘンリー・アンカテルの従弟で、アンカテル家の領地エインズウィック(Ainswick)の法廷相続人。

(3)ヘンリエッタ・サヴァナク(Henrietta Savernake):彫刻家

(4)デイヴィッド・アンカテル(David Angkatell):ルーシー・アンカテルの従兄弟で、学生。


更に、ルーシー・アンカテルがバグダッドで出会ったエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)が偶然ホロー荘の近くに別荘を借りていたため、彼女は彼を日曜日の昼食に招いていた。


エルキュール・ポワロは、
英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている
「エルキュール・ポワロの世界」と言うジグソーパズルの中央に立っている。
<筆者撮影>


招待客が到着して、週末が始まると、ルーシー・アンカテルの心配が的中することになった。

ミッジ・ハードキャッスルはエドワード・アンカテルのことを愛していたが、当人のエドワード・アンカテルはヘンリエッタ・サヴァナクにエインズウィックの女主人になってほしいと思っている。ところが、ヘンリエッタ・サヴァナクはジョン・クリストウと不倫関係にあったのだ。そして、デイヴィッド・アンカテルはそんな彼らを嫌っていた。


ポワロの向かいの別荘を借りている女優のヴェロニカ・クレイ(Veronica Clay)がきらしたマッチを借りようとホロー荘へとやって来たことが契機となり、状況は更に緊迫度を増した。

ヴェロニカ・クレイは以前ジョン・クリストウと交際しており、彼に外科医の仕事を捨てて、自分と一緒にハリウッドへ来るように誘ったが、彼は彼女の要請を断り、彼女としては、それを良しとはしていなかった。そして、これが15年振りの再会であった。

ジョン・クリストウは、以前のようにヴェロニカ・クレイの魅力に抗いできず、結局、彼女を別荘まで送って行くことになった。ジョン・クリストウが、午前3時にヴェロニカ・クレイの別荘からホロー荘へと戻って来た際、誰かに見られているように感じた。ところが、誰の姿も見当たらず、妻のガーダが寝室で寝ていることを確認すると、ジョン・クリストウは安心して、床に就くのであった。


翌日の日曜日、ルーシー・アンカテルに昼食へ招かれたポワロは、ホロー荘を訪れた。執事のガジョン(Gudgeon)に案内されて、昼食前の一杯のため、プールの側の東屋(あずまや)へ向かったポワロであったが、プールのところにホロー荘の主夫妻や招待客達が集まっているのを目にする。そして、彼らが囲んでいたのは、銃で撃たれ、血を流して倒れているジョン・クリストウと、銃を手にして傍らに立つガーダ・クリストウという芝居染みた光景であった。

当初、ポワロは、名探偵である自分を歓迎するための余興だと考えたが、直ぐに冗談事ではないことが判る。正に、ポワロの目の前で、本物の殺人事件が発生したのであった。そして、銃で撃たれたジョン・クリストウは、最後に「ヘンリエッタ」と呟くと、息絶える。


ジョン・クリストウを銃で撃ったのは、目前で展開している通り、妻のガーダ・クリストウなのか?

ヘンリエッタ・サヴァナクが、ガーダ・クリストウの手から銃を取ろうとして、前に進み出るものの、誤って銃をプールに落としてしまう。水中に落ちたため、この銃から指紋を検出することが、非常に困難になった。

ところが、プール内から回収した銃を調べたところ、この銃がジョン・クリストウを撃ったものではないことが判明する。

後に、ジョン・クリストウを撃った本物の銃が、ポワロが借りているb別荘の生け垣から発見されるに至る。その凶器には、指紋が付いていたが、ホロー荘に滞在していた誰とも一致しないと言う不可解な事実が更に明らかになった。


それでは、ジョン・クリストウが今際の際に呟いた「ヘンリエッタ」と言うのは、一体何を意味しているのか?

ジョン・クリストウを銃で撃った真犯人は、ヘンリエッタ・サヴァナクなのか?そして、その動機は、何なのか?


2026年2月5日木曜日

ウィリアム・ホガース(William Hogarth)- その3

ナショナルギャラリーにおいて所蔵 / 展示されている
ウィリアム・ホガース作
「当世風結婚」(1743年ー1745年:6枚の連作油彩画)は、
欲得ずくの政略結婚とその不幸な結末を描いている。
画面上段:左側から「第1場面:婚約(The marriage contract)」、
「第2場面:結婚直後(Shortly after the marriage)」、そして、
「第3場面:偽医者への訪問(The visit to the quack doctor)」。
画面下段:左側から「第4場面:伯爵夫人の朝見の儀(The coutess's morning levee)」、
「第5場面:伯爵の死(The killing of the earl)」、そして、
「第6場面:伯爵夫人の自殺(The suicide of the countess)」。
<筆者撮影>


英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第20話(第2シリーズ)かつアガサ・クリスティー生誕100周年記念スペシャルとして、1990年9月16日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「スタイルズ荘の怪事件The Mysterious Affair at Styles → 2023年12月3日 / 12月6日付ブログで紹介済)」(1920年)の TV ドラマ版において、物語の冒頭、第一次世界大戦(1914年ー1918年)中に負傷したアーサー・ヘイスティングス中尉(Lieutenant Arthur Hastings - アガサ・クリスティーの原作では、大尉(Captain)となっている)が彼の旧友であるジョン・キャヴェンディッシュ(John Cavendish)と再会する場面が、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)の北翼(North Wing → 2025年12月15日 / 12月19日 / 12月21日 / 12月22日付ブログで紹介済)にある「ホガースの階段(Hogarth Staircase → 2025年12月15日付ブログで紹介済)」と呼ばれる吹き抜け階段において撮影されている。


下から「ホガースの階段」と呼ばれる吹き抜け階段を見上げたところ -
アーサー・ヘイスティングス中尉と旧友のジョン・キャヴェンティッシュの2人が
上から降りて来る場面が、この角度で撮影されている。
<筆者撮影>


(1)右側の壁:「善きサマリア人(The Good Samaritan)」(1737年)

サマリア人善意で救命行為を行なっている場面が描かれている。


吹き抜け階段の上から見たウィリアム・ホガース作「善きサマリア人」
<筆者撮影>


(2)左側の壁:「ベテスダの池(The Pool of Bethesda)」(1736年)

万病を治す聖なる池において、病人が傷を癒している場面が描かれている。


吹き抜け階段の上から見たウィリアム・ホガース作「ベテスダの池」
<筆者撮影>


これらの壁画を描いた18世紀の英国画壇を代表する国民的画家のウィリアム・ホガース(William Hogarth:1697年ー1764年)は、1697年11月10日、ラテン語学校の教師であるリチャード・ホガース(Richard Hogarth)と母アン・ギボンズ(Anne Gibbons)の長男として、ロンドンのセントバーソロミュー病院の直ぐ近くのバーソロミュークローズ(Bartholomew Close)に出生した後、銀細工師(engraver)の弟子、そして、版画家として生計を立てながら、絵画学校において本格的に絵画を学ぶ。


ナショナルギャラリーにおいて所蔵 / 展示されている
ウィリアム・ホガース作
「当世風結婚」(その2)
<筆者撮影>


ウィリアム・ホガースは、1725年からコヴェントガーデン(Covent Garden)の絵画学校で学んでいた際、同絵画学校を開いた英国の画家で、宮廷画家でもあったサー・ジェイムズ・ソーンヒル(Sir James Thornhill:1675年ー1734年)の娘であるジェーン・ソーンヒル(Jane Thornhill:1709年頃ー1789年)と駆け落ちをした後、サー・ジェイムズ・ソーンヒルの反対にもかかわらず、1729年3月23日に正式に結婚。

この頃から、彼は油彩画も手掛けるようになる。


ナショナルギャラリーにおいて所蔵 / 展示されている
ウィリアム・ホガース作
右上:「エビ売りの少女 (The Shrimp Girl)
」(1740年ー1745年頃) 
右下:「自画像(
Portrait of the Painter and his Pug)」(1745年)
中央:「当世風結婚」(1743年ー1745年:6枚の連作油彩画)
<筆者撮影>


ジェーン・ソーンヒルと結婚したウィリアム・ホガースは、


*「娼婦一代記」(1732年:銅版画)→ 油彩画は、1755年に焼失

*「放蕩者一代記(A Rake’s Progress)」(1732年ー1732年:8枚の連作油彩画 / 1735年:銅版画)→ 油彩画は、サー・ジョン・ソーンズ博物館(Sir John Soane’s Museum → 2025年5月22日 / 5月30日 / 6月3日 / 6月13日付ブログで紹介済)が所蔵。

*「当世風結婚(Marriage A-la-Mode)」(1743年ー1745年:6枚の連作油彩画/ 1745年:銅版画)→ 油彩画は、ナショナルギャラリー(National Gallery)が所蔵。


等の当時の世相を痛烈に風刺した作品を発表して、庶民に人気を博し、風刺画の父と呼ばれるようになった。


ナショナルギャラリーにおいて所蔵 / 展示されている
ウィリアム・ホガース作「エビ売りの少女
」、「自画像
」、そして、「当世風結婚」(その2)
<筆者撮影>


ウィリアム・ホガースと妻ジェーンは、レスタースクエア(Leicester Square → 2014年6月21日付ブログで紹介済 / 当時は、レスターフィールズ(Leicester Fields)と呼ばれていた)に居を構えていたが、1749年にチジック地区(Chiswick → 2016年7月23日付ブログで紹介済)に家を購入して、退いた。

2人の間には、子供が居なかったため、ウィリアム・ホガースは、孤児向けの養育院の建設等のチャリティー活動に尽力し、セントバーソロミュー病院の理事も務めている。

また、王立芸術院(Royal Academy of Arts)の初代校長にもなっている。


ウィリアム・ホガースは、生涯を通して、パグ(Pug)を可愛がり、愛犬のトランプは、彼の自画像にも登場している。


ナショナルギャラリーにおいて所蔵 / 展示されている
ウィリアム・ホガース作「自画像」(1745年) 

<筆者撮影>


1764年10月25日に、ウィリアム・ホガースが死去した後、チジック地区内のセントニコラス教会(St. Nicholas Church)に埋葬された。

遺言書に基づき、妻ジェーンが彼の遺産を相続。彼女は、夫の版画を売却することで、生活費を賄ったが、あとは王立芸術院からの年金に頼った。

妻ジェーンは、1789年11月13日に80歳でなくなり、セントニコラス教会内の夫の隣りに埋葬された。


2026年2月4日水曜日

アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー(Agatha Christie Official Calendar 2026)- その9

2025年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー」のうち、
2026年7月のカレンダーに描かれている
エルキュール・ポワロシリーズの長編第20作目「白昼の悪魔」(1941年)-
デヴォン州の密輸業者島にある Jolly Roger Hotel に滞在している宿泊客達は、
8月25日の午前中、元女優のアリーナ・マーシャルを除き、各々、自由な時間を過ごしていた。
昼前、エミリー・ブルースターを伴い、アリーナ・マーシャルを探しに、
手漕ぎボートで出かけたパトリック・レッドファンは、
Pixy Cove の浜辺に、水着の女性が倒れているのを発見する。
カレンダーは、この場面が描かれている。
厳密に言うと、砂浜に倒れている女性は、
水着ではない上に、顔の上に帽子がのせられていない。

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から、2026年オフィシャルカレンダーが出ているので、前回に引き続き、順番に紹介したい。


2026年カレンダーの場合、カレンダー用に新たに描き起こされたエルキュール・ポワロシリーズのイラストが使用されており、デザインについては、Diahann Sturge-Cambell が、また、イラストに関しては、Mr. Stephen Millership / Central Illustration Agency が担当している。


2024年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「白昼の悪魔」の
愛蔵版(ハードカバー版)の表紙
(Cover design and 
illustration
by Sarah Foster / 
HarperCollinsPublishers Ltd. 


8番目は、2026年7月のカレンダーに該る「白昼の悪魔(Evil Under the Sun)」(1941年)である。


アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第29作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第20作目に該っている。


エルキュール・ポワロは、
英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている
「エルキュール・ポワロの世界」と言うジグソーパズルの中央に立っている。
<筆者撮影>


名探偵エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)は、デヴォン州(Devon)の密輸業者島(Smugglers’ Island)にある Jolly Roger Hotel に滞在して、静かな休暇を楽しんでいた。

同ホテルには、美貌の元女優で、実業家ケネス・マーシャル(Captain Kenneth Marshall)の後妻となったアリーナ・ステュアート・マーシャル(Arlena Stuart Marshall)も宿泊しており、周囲の異性に対して、魅力を振り撒きながら、避暑地を満喫していた。


Jolly Roger Hotel には、ポワロとアリーナ・マーシャルの他に、以下の人物が宿泊していた。


(1)ケネス・マーシャル(実業家 - 以前、ロザモンド・ダーンリーと交際していたが、アリーナ・マーシャルと結婚)

(2)リンダ・マーシャル(Linda Marshall - ケネス・マーシャルの娘 / 継母のアリーナを疎ましく感じている)

(3)ホーレス・ブラット(Horace Blatt - ヨットが趣味)

(4)バリー少佐(Major Barry - 退役将校)

(5)ロザモンド・ダーンリー(Rosamund Darnley - ドレスメーカー / 以前、ケネス・マーシャルと交際していた)

(6)パトリック・レッドファン(Patrick Redfern - アリーナ・マーシャルと不倫関係にある)

(7)クリスティーン・レッドファン(Christine Redfern - パトリックの妻で、元教師。夫の不倫のため、アリーナ・マーシャルを恨んでいる)

(8)オーデル・C・ガードナー(Odell C. Gardener - 米国人)

(9)キャリー・ガードナー(Carrie Gardener - オーデルの妻)

(10)スティーヴン・レーン(Reverend Stephen Lane - 元牧師)

(11)エミリー・ブルースター(Emily Brewster - スポーツが趣味。以前、投資話でアリーナ・マーシャルに損害を負わされたため、彼女を恨んでいる)


ホテルの宿泊客の数名が、アリーナ・マーシャルの存在を疎ましく感じており、そんな不穏な空気の中、ポワロは、「白昼にも、悪魔は居る。(There is evil everywhere under the sun.)」と呟くのであった。


2024年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「白昼の悪魔」の
愛蔵版(ハードカバー版)の裏表紙
(Cover design and 
illustration
by Sarah Foster / 
HarperCollinsPublishers Ltd. )


8月25日の朝、自分の部屋で朝食を済ませたポワロは、通常よりも30分程早い午前10時に、ホテルを出ると、Bathing Beach へと下りて行った。砂浜には、ポワロを除くと、アリーナ・マーシャルしか居なかった。

ポワロに手伝ってもらい、ボートに乗ったアリーナ・マーシャルは、ポワロに対して、「自分の居場所は、誰にも言わないで。一人になりたいの。」と秘密めかして言うと、岬を右へ曲がり、Sunny Ledge 方面へと向かった。「アリーナ・マーシャルには、内密の待ち合わせがあるようだ。多分、相手は、パトリック・レッドファンだ。」と、ポワロは理解した。

アリーナ・マーシャルが岬の先に姿を消した時、夫のケネス・マーシャルが砂浜に現れ、ポワロに妻の居場所を尋ねるが、ポワロは、アリーナ・マーシャルに頼まれた通り、知らない振りを通す。ケネス・マーシャルは、午前中、急いで送る必要がある手紙をいくつかタイプする仕事を抱えていた。

更に、アリーナ・マーシャルの不倫相手であるパトリック・レッドファンが砂浜に下りて来る。彼の様子から、アリーナ・マーシャルを探していることは、明白だった。彼女の居場所が判らないパトリック・レッドファンは、非常にイライラしていた。それでは、内密の待ち合わせへと向かったアリーナ・マーシャルの相手は、アリーナ・マーシャルではないのか?

続いて、米国人のオーデルとキャリーの ガードナー夫妻、そして、エミリー・ブルースターが、砂浜に姿を見せた。


ケネス・マーシャルの娘であるリンダ・マーシャルとパトリック・レッドファンの妻であるクリスティーン・レッドファンの2人は連れ立って、午前10時半にホテルを出発すると、Gull Cove へと向かった。午前中、日当たりが良い Gull Cove において、リンダ・マーシャルは海水浴を、クリスティーン・レッドファンは写生(スケッチ)をする予定だった。


ロザモンド・ダーンリーは、読書する本を携えて、Sunny Ledge へと出発した。


バリー少佐は、セントルー(St. Loo)へ観光に、また、スティーヴン・レーン牧師は、St. Petrock-in-the-Combe へウォーキングに、そして、ホーレス・ブラットは、ヨットで出かけていた。


上記の通り、午前中、アリーナ・マーシャルを除くホテルの宿泊客達は、各々、自由な時間を過ごしていたのである。


2024年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「白昼の悪魔」の
愛蔵版(ハードカバー版)に付されている
ジョリーロジャーホテルが建つ密輸業者島の略図 -
8月25日の昼前に、アリーナ・マーシャルの絞殺死体が、
Pixy Cove の砂浜において、発見された。
8月25日の午前中における各容疑者のアリバイは、以下の通り。
ケネス・マーシャルは、ホテルの自分の部屋で、急ぎの手紙をタイプしていた。
Bathing Beach には、エルキュール・ポワロと一緒に、パトリック・レッドファン、
ガードナー夫妻とエミリー・ブルースターが居た。
Sunny Ledge では、
ロザモンド・ダーンリーが読書していた。
Gull Cove では、
リンダ・マーシャルは海水浴を、
クリスティーン・レッドファンは写生(スケッチ)をしていた。
バリー少佐は、St. Loo へ観光に、
また、スティーヴン・レーン牧師は、St. Petrock-in-the-Combe へウォーキングに、
そして、ホーレス・ブラットは、ヨットで出かけていた。


昼前、エミリー・ブルースターを伴い、アリーナ・マーシャルを探しに、手漕ぎボートで出かけたパトリック・レッドファンは、Pixy Cove の浜辺に、水着の女性が倒れているのを発見する。パトリック・レッドファンを現場に残して、エミリー・ブルースターは、ボートを漕いで、ホテルへ助けを求めに戻った。

ホテルからの連絡を受けて、Pixy Cove へと駆け付けた地元警察によると、Pixy Cove の浜辺に倒れていた女性は、アリーナ・マーシャルで、男の手で絞殺されていたとの検死結果だった。


アリーナ・レッドファンに対して殺害動機を有する容疑者として、夫のケネス・マーシャルや不倫相手のパトリック・レッドファン等が浮かび上がるものの、完璧なアリバイがあるため、地元警察の捜査は難航する。

アリーナ・マーシャルを殺害した犯人を見つけ出すには、ポワロの登場が必要だった。ポワロは、州警察のウェストン警視正(Chief Constable Weston)とコルゲート警部(Inspector Colgate)に協力して、捜査を進めるのだった。


2026年2月3日火曜日

アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー(Agatha Christie Official Calendar 2026)- その8

2025年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「アガサ・クリスティー 2026年オフィシャルカレンダー」のうち、
2026年6月のカレンダーに描かれている
エルキュール・ポワロシリーズの長編第25作目「葬儀を終えて」(1953年)-
大富豪で、アバネシー家の当主であるリチャード・アバネシーの葬儀が行われた
教会が描かれているものと思われる。
兄リチャード・アバネシーの墓の前に佇んでいるのは、
末妹のコーラ・ランスケネだろうか?


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から、2026年オフィシャルカレンダーが出ているので、前回に引き続き、順番に紹介したい。


2026年カレンダーの場合、カレンダー用に新たに描き起こされたエルキュール・ポワロシリーズのイラストが使用されており、デザインについては、Diahann Sturge-Cambell が、また、イラストに関しては、Mr. Stephen Millership / Central Illustration Agency が担当している。


7番目は、2026年6月のカレンダーに該る「葬儀を終えて(After the Funeral)」(1953年)である。


アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第44作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第25作目に該っている。


「葬儀を終えて」の場合、米国版のタイトルは、「Funerals Are Fatal」が使用されている。

1963年に本作品が英国映画として映像化された際、英国版のタイトルは、映画に合わせて、「Murder at the Gallop(寄宿舎の殺人)」へと改題された。なお、探偵役は、本来のエルキュール・ポワロではなく、ミス・ジェーン・マープルが務めている。


大富豪で、アバネシー家の当主であるリチャード・アバネシー(Richard Abernethie)の葬儀に出席するために、彼の邸宅「エンダビーホール(Enderby Hall)」において、親族が一堂に会した。

リチャード・アバネシーの弟の1人であるレオ(Leo)は、第二次世界大戦(1939年-1945年)中に戦死していた。また、リチャード・アバネシーの妻は早くに亡くなっており、息子とのモーティマー(Mortimer)も6ヶ月前に既に死去していた。


リチャード・アバネシーの葬儀に参列したのは、


(1)ティモシー・アバネシー(Timothy Abernethie):リチャードの弟

(2)モード・アバネシー(Maude Abernethie):ティモシーの妻 / リチャードの義妹


(3)ヘレン・アバネシー(Helen Abernethie):第二次世界大戦中に戦死したリチャードの弟レオの妻 / リチャードの義妹


(4)スーザン・バンクス(Susan Banks):リチャードの弟ゴードン(Gordon)の娘 / リチャードの姪

(5)グレゴリー・バンクス(Gregory Banks):スーザンの夫 / 薬剤師


(6)ローラ・クロスフィールド(Laura Crossfield):リチャードの妹

(7)ジョージ・クロスフィールド(George Crossfield):ローラの息子 / リチャードの甥 / 事務弁護士


(8)ロザムンド・シェーン(Rosamund Shane):リチャードの妹ジェラルディン(Geraldine)の娘 / リチャードの姪 / 女優

(9)マイケル・シェーン(Michael Shane):ロザムンドの夫 / 俳優


(10)コーラ・ランスケネ(Cora Lansquenet):リチャードの末妹


の面々だった。


アバネシー家の弁護士であるエントウィッスル氏(Mr. Entwhistle)が、リチャード・アバネシーの遺言執行者として、その内容を読み上げた。

リチャード・アバネシーの遺産の大部分は、彼の弟ティモシー・アバネシー、彼の亡き弟の妻ヘレン・アバネシー、彼の末妹コーラ・ランスケネ、彼の甥ジョージ・クロスフィールド、そして、彼の2人の姪スーザン・バンクスとロザムンド・シェーンの6人に当分されると言う極めて妥当な内容だった。


エントウィッスル氏が読み上げたリチャード・アバネシーの遺言書の内容を聞き、自分の相続分を素直に喜んこんだ末妹コーラ・ランスケネは、小首を傾げると、無邪気な一言を言い放った。

「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」と。


末妹コーラ・ランスケネは、子供の頃から、少し頭が弱く、思い付いたことを何でも直ぐに口にする性格で、アバネシー家の皆は、彼女は無邪気過ぎて困ると感じていた。それ故に、リチャード・アバネシーの葬儀に参列した面々は、彼女の発言をまともには取り合わず、受け流してしまった。

その一方で、末妹コーラ・ランスケネの発言は昔から真実を突いていたため、リチャード・アバネシーの葬儀から帰途に就く人達の心に、拭いきれない疑惑が痼りのように残った。リチャード・アバネシーの遺言執行者であるエントウィッスル氏も、その例外ではなかった。


彼らの疑惑が的中したかのように、その翌日、末妹のコーラ・ランスケネが、自宅において、斧で惨殺されているのが発見される。


コーラ・ランスケネの家政婦だったギルクリスト(Miss Gilchrist)によると、「リチャード・アバネシーは、亡くなる3週間ほど前に、コーラ・ランスケネを訪ねて来ると、彼女と話をしていた。」とのことだった。

つまり、コーラ・ランスケネは、兄リチャード・アバネシーの死の原因について、何か知っており、彼の葬儀の場において、そのことを口にしたために、殺害されたのか?


末妹のコーラ・ランスケネが殺されたことを受けて、彼女の相続分はリチャード・アバネシーの遺産に戻り、最終的には、スーザン・バンクスの取り分となった。

また、家政婦のギルクリストには、コーラ・ランスケネが趣味で描いていた絵画が送られることになた。


エルキュール・ポワロは、
英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている
「エルキュール・ポワロの世界」と言うジグソーパズルの中央に立っている。
<筆者撮影>


リチャード・アバネシーの遺言執行者であるエントウィッスル氏は、真相を知るべく、エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)に対して、事件の調査を依頼するのであった。