2024年5月8日水曜日

マンリー・W・ウェルマン / ウェイド・ウェルマン共作「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」(The War of the Worlds by Manly W. Wellman & Wade Wellman)- その1

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2009年に出版された
マンリー・ウェイド・ウェルマン / ウェイド・ウェルマン共作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 宇宙戦争」の表紙


今回、米国の作家であるマンリー・ウェイド・ウェルマン(Manly Wade Wellman:1903年ー1986年)と息子のウェイド・ウェルマン(Wade Wellman)の共作による SF 小説「シャーロック・ホームズの宇宙戦争(Sherlock Holmes’s War of the Worlds)」(1975年)について、紹介したい。


本作品は、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人が、英国の作家であるハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells:1866年ー1946年)が1898年に発表した SF 小説「宇宙戦争(The War of the Worlds)」に遭遇した事件が描かれている。


H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」を原作した映画や TV ドラマ等が何度も制作されており、米国の映画制作者であるスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg:1946年ー)が監督を務め、米国の俳優 / 映画プロデューサーであるトム・クルーズ(Tom Cruise:1962年ー)が主演した米国映画「宇宙戦争(War of the Worlds)」(2005年)は、世界中で大ヒットした。


本作品の序文によると、父親のマンリー・ウェイド・ウェルマンと共作した息子のウェイド・ウェルマンは、1968年に映画「恐怖の研究(A Study in Terror)」を観て、本作品の着想を得た、とのこと。映画「恐怖の研究」は、シャーロック・ホームズが、ヴィクトリア朝時代を大きく揺るがせた「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」事件に取り組む話で、これを観たウェイド・ウェルマンは、「ホームズは、H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」に遭遇した場合、どのように対処するのか?」と考えて、父親のマンリー・ウェイド・ウェルマンに対して、執筆の協力を求めた。

マンリー・ウェイド・ウェルマンは、息子からの執筆の協力を受諾したが、その際、ホームズとワトスンに加えて、ジョージ・エドワード・チャレンジャー教授(Professor George Edward Challenger)の登場を提案した。チャレンジャー教授とは、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が1912年に発表した SF 小説「失われた世界(The Lost World)」等において、主役を務める科学者である。


また、息子のウェイド・ウェルマンは、映画「恐怖の研究」以外に、フランスの小説家 / 劇作家 / 詩人であるアンリ・ルネ・アルベール・ギ・ド・モーパッサン(Henri Rene lbert Guy de Maupassant:1850年ー1893年)の短篇集「ル・オルラ(Le Horla)」(1887年)の映画化作品「狂人日記(Diary of a Madman)」を観て、本作品の参考にした、と語っている。

実際、本作品中で、ホームズがギ・ド・モーパッサン作「ル・オルラ」を読んだ後、ギ・ド・モーパッサンについて語る場面が出てくる。


2024年5月7日火曜日

高木彬光作「能面殺人事件」(The Noh Mask Murder by Akimitsu Takagi)- その1

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2024年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

高木彬光作「能面殺人事件」の表紙
(Cover design by Jo Walker)


「能面殺人事件(The Noh Mask Murder)」は、日本の推理作家である高木彬光(Akimitsu Takagi:1920年ー1995年)によるデビュー長編推理小説で、神津恭介(Kyosuke Kamizu)シリーズの第1作目に該る「刺青殺人事件(The Tattoo Murder → 2024年4月21日 / 4月23日 / 4月25日付でブログで紹介済)」(1948年)に続く長編推理小説の第2作である。

「能面殺人事件」は、1949年に雑誌「宝石」に掲載された。


高木彬光の長編推理小説第1作である「刺青殺人事件」は、第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年-1945年)後間もない戦後混乱期の社会情勢を背景として、妖艶な刺青である「自雷也(Jiraiya - 蝦蟇の妖術を使う)」、「大蛇丸(Orochimaru - 蛇の妖術を使う)」、そして、「綱出姫(Tsunedahime - 蛞蝓の妖術を使う)」の三すくみによる呪い、日本家屋の浴室内における密室殺人や胴体のない死体等、怪奇趣味に彩られた本格推理小説である。


一方、高木彬光の長編推理小説第2作である「能面殺人事件」の場合、「刺青殺人事件」と同じく、密室殺人を主軸として、昔からの呪いを秘める鬼女(般若)の能面を付けた謎の人物の暗躍、殺人現場に残されたジャスミンの香り、そして、葬儀屋に注文された三つの棺等、怪奇趣味に彩られた本格推理小説となっている。


また、刺青殺人事件」において、探偵役を務めるのは、高木彬光によるシリーズ探偵の一人である神津恭介であるが、「能面殺人事件」では、当初、作者と同じ名前の高木彬光(Akimitsu Takagi)が探偵役を務めるものの、物語の途中で、舞台から姿を消してしまう。その後は、高木彬光のワトスン役だった柳光一(Koichi Yanagi)が、探偵役として、三つの殺人事件にかかる捜査の過程を記録していく形式を採っている。


作者の高木彬光によると、デビュー作の「刺青殺人事件」と第2作目の「能面殺人事件」のどちらを先に執筆するのか、非常に迷った末に、「刺青殺人事件」を選択した、とのこと。


なお、「能面殺人事件」は、第3回探偵作家クラブ賞を受賞している。 


2024年5月6日月曜日

ロバート・J・ハリス作「深紅色の研究」(A Study in Crimson by Robert. J. Harris)- その1

英国の Birlinn Ltd から、Polygon Book として
2022年に刊行されている
 ロバート・J・ハリス
作「深紅色の研究」の
ペーパーバック版表紙

Cover design by Abigail Salvesen


ロバート・J・ハリス(Robert. J. Harris:1955年ー)は、スコットランドのダンディー(Dundee)出身の学者 / 作家である。なお、ダンディーは、北海(North Sea)に面するテイ湾(Firth of Tay)の北岸に位置しているスコットランドで人口4番目の都市となっている。

彼は、スコットランドのセントアンドリュース大学(University of St. Andrews)を卒業した後、学者となり、1990年代から作家活動を開始。


ロバート・J・ハリスは、特に、子供向けのファンタジー小説や歴史小説を著作しており、米国のファンタジー小説 / SF 小説家であるジェイン・ハイアット・ヨーレン(Jane Hyatt Yolen:1939年ー)との共著を2000年代に発表していることで、よく知られている。

また、彼は、ファンタジーボードゲームの「タリスマン(Talisman)」とその続編の「ミスガルディア(Mythgardia)」を発案している。


ロバート・J・ハリスは、米国ペンシルヴァニア州(Pennsylvania)出身のファンタジー小説家であるデボラ・ターナー・ハリス(Deborah Turner Harris:1951年ー)と結婚して、現在、スコットランドに在住。


ロバート・J・ハリスは、第二次世界大戦(1939年ー1945年)時に時代設定を置いた以下のシャーロック・ホームズシリーズを刊行している。


(1)「深紅色の研究(A Study in Crimson)」(2020年)

(2)「悪魔の業火(The Devil’s Blaze)」(2022年)


今回は、ロバート・J・ハリス作シャーロック・ホームズシリーズの第1作目に該る「深紅色の研究」について、紹介したい。


1942年9月7日、陸軍省(War Office)からの依頼に基づき、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンは、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)を出ると、クロイドン(Croydon)の飛行場からスコットランドへと離陸した。スコットランドの空軍基地へと着いた2人は、車である城へと向かう。

そこでは、秘密裡に軍事開発が行われており、新しい空雷(aerial torpedo)の研究をしていた女性科学者のエルスペス・マックレディー博士(Dr. Elspeth Mac Ready)の部屋から悲鳴が聞こえてきたため、別の博士達がドアをノックするも、何の反応もなかった。彼らがドアを破って、部屋の中に入ったところ、誰も居らず、室内を捜索した結果、エルスペス・マックレディー博士の姿を発見できなかった。

そのため、事態を重くみた陸軍省が、ホームズに対して、内密での捜査依頼を行ったのである。

翌日(9月8日)の朝、事件をあっさりと解決してしまったホームズは、インヴァネス駅(Inverness Staton)まで軍の車で送ってもらうと、ワトスンと一緒に、1等車に乗り、ロンドンへと戻ることにした。


ロンドンへと戻る列車の中、ワトスンの回想が続く。

1935年、ホームズは、ベーカーストリート221Bの諮問探偵事務所を閉めると、2年間、その行方が判らなかった。そして、2年後、世界中を巡ったホームズは、ロンドンへと帰還した。ちょうどその頃、ワトスンは、妻のメアリー(Mary)を亡くしていた。

その後、第二次世界大戦が勃発して、1940年9月7日、ドイツ軍による英国爆撃(The Blitz)が始まった。そして、爆撃により、ワトスンの家も破壊されたため、ワトスンは、再度、ホームズと一緒に、ベーカーストリート221Bに住むことにしたのである。


キングスクロス駅(King’s Cross Station)に着いた2人は、灯火管制による真っ暗闇の中、徒歩で駅からベーカーストリート221Bへ戻った。午後10時だった。そして、ハドスン夫人(Mrs. Hudson)が用意していた食事をとると、就寝。


翌日(9月9日)の早朝、誰かがベーカーストリート221Bを訪ねて来たため、ハドスン夫人が対応。ワトスンが時計で時刻を確かめると、まだ午前5時半過ぎだった。

早朝、ベーカーストリート221Bを訪ねて来たのは、スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)だった。

ホームズは、レストレード警部に対して、「首相が誘拐されたのか?それとも、残忍な殺人事件なのか?」と尋ねると、レストレード警部は、「後者の方です。直ぐに着替えて、一緒に現場へ行ってほしい。」と頼み込む。

急いで着替えたホームズとワトスンの2人は、ベーカーストリート221Bの前で待っていた警察車輌に乗り込むと、レストレード警部と一緒に、現場であるセブンダイヤルズ(Seven Dials)へと向かうのであった。


2024年5月5日日曜日

P・D・ジェイムズ作「女には向かない職業」(An Unsuitable Job for a Woman by P. D. James)- その1

英国の Faber and Faber Limited から
2020年に刊行されている
 
P・D・ジェイムズ作「女には向かない職業」の表紙
Cover design by Faber and Faber Limited /
Cover illustration by Ms. Angela Harding


フィリス・ドロシー・ジェイムズ(Phyllis Dorothy James:1920年ー2014年)は、英国の女流推理作家で、一般に、「P・D・ジェイムズ(P. D. James)」と呼ばれている。

彼女は、1920年にオックスフォード(Oxford)に出生した後、ケンブリッジ女子高校(Cambridge High School for Girls)を卒業し、1949年から1968年まで国民保健サービス(National Health Service : NHS)に勤務。その後、内務省(Home Office)において、Police Department や Criminal Policy Department 等で働き、それらの経験が、彼女の小説に生かされている。

彼女は、それまでの功績が評価され、1991年に一代貴族として、「ホーランドパークのジェイムズ女男爵(Baroness James of Holland Park)」に叙された。


P・D・ジェイムズの主なシリーズは、アダム・ダリグリッシュ(Adam Dalgliesh)シリーズで、彼女の処女作、かつ、シリーズの第1作でもある「女の顔を覆え(Cover Her Face → 2020年11月21日付ブログで紹介済)」(1962年)からシリーズ最終作に該る「秘密(The Private Patient)」(2008年)まで、全14作品が発表されている。

アダム・ダリグリッシュは、初登場時、スコットランドヤードの主任警部(Chief Inspector)であるが、シリーズが進むと、警視(Superintendent)へと昇進する。


P・D・ジェイムズのシリーズには、アダム・ダリグリッシュシリーズの他に、女探偵のコーデリア・グレイ(Cordelia Gray)シリーズがあり、


(1)「女には向かない職業(An Unsuitable Job for a Woman)」(1972年)

(2)「皮膚の下の頭蓋骨(The Skull Beneath the Skin)」(1982年)


の2作品が発表されている。

今回は、コーデリア・グレイシリーズの第1作に該る「女には向かない職業」について、紹介したい。


6月の朝、コーデリア・グレイ(22歳)は、地下鉄オックスフォードサーカス駅(Oxford Circus Tube Station)を出ると、キングリーストリート(Kingly Street)へ入り、探偵事務所(Detective Agency)へと急いでいた。

彼女は、地下鉄ベーカールーライン(Bakerloo Line)に乗り、テムズ河(River Thames)の南岸から地下鉄オックスフォードサーカス駅へと向かったが、ランベスノース(Lambeth North)の辺りで地下鉄の故障に見舞われて、出勤に30分遅れていたのである。


実は、コーデリア・グレイは、若輩ながら、バーナード・G・プライド(Bernard G. Pryde)と一緒に、プライド探偵事務所(Pryde’s Detective Agency)の共同パートナーを務めていた。

また、バーナード・G・プライドは、元警察官で、アダム・ダリグリッシュの部下でもあった。


探偵事務所に着いたコーデリア・グレイは、パートナーのバーナード・G・プライドが自殺している現場に遭遇して、驚く。

実は、バーナード・G・プライドは、癌に罹っており、手首を切って、事務所内で自殺していたのである。


2024年5月4日土曜日

100年間にロイヤルメールから発行された記念切手(100 Years of Commemorative Stamps)- その4

2024年4月16日に、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、100年間に出た切手に関する10種類の記念切手が発行されたので、前回に引き続き、御紹介したい。


(7)


左上から時計回りに、「Robert Burns: The Immortal Memory」(1996年)、「Millennium」(1999年)、そして、「Architects of the Air」(1997年)の記念切手がまとめられている。
これら3枚の記念切手は、ウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(Queen Elizabeth II:1926年–2022年 / 在位期間:1952年–2022年)の在位中のうち、1990年代に発行されている。

なお、ロバート・バーンズ(Robert Burns:1759年ー1796年)は、スコットランドの国民的詩人で、スコットランド語を使った詩作で知られており、スコットランド民謡の収集や普及に努めた。「Robert Burns: The Immortal Memory」は、彼の没後200周年を記念して発行された。

また、レジナルド・ジョーゼフ・ミッチェル(Reginald Joseph Mitchell:1895年ー1937年)は、英国の航空技術者で、スーパーマリン スピットファイア(Supermarine Spitfire)を設計したことで知られている。彼が設計した単発のレシプロ単座戦闘機であるスーパーマリン スピットファイアは、英国のスーパーマリン社で開発され、第二次世界大戦(1939年−1945年)において、英国軍を初めとする連合国軍で使用された。スーパーマリン スピットファイアは、1940年のバトル・オブ・ブリテン(Battle of Britain)の際、ドイツ空軍による攻撃から英国を防衛するために、大活躍した。

(8)

左上から時計回りに、「The Weather」(2001年)、「Lest we Forgot」(2007年)、そして、「Sounds of Britain」(2006年)の記念切手がまとめられている。
これら3枚の記念切手は、ウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世の在位中のうち、2000年代に発行されている。

なお、天気(The Weather)に関する記念切手4種類が2001年3月13日に発行されており、2024年4月6日付ブログで紹介しているので、そちらも御参照いただきたい。

また、「Lest we Forgot」は、第一次世界大戦(1914年−1918年)/ 第二次世界大戦における戦没者追悼のための記念切手で、この時期、毎年発行されている。

2024年5月3日金曜日

横溝正史作「犬神家の一族」(The Inugami Curse by Seishi Yokomizo)- その4

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2020年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「犬神家の一族」の内扉
(Cover design by Anna Morrison)


194x年(昭和2x年)の2月、那須(Nasu)湖畔の本宅において、信州財界の大物(one of the leading businessmen of the Shinshu region)である犬神佐兵衛(Sahei Inugami)が、81歳の生涯を終えた。

犬神佐兵衛は、裸一貫の身から事業を興して、犬神グループ(Inugami Group)を創設すると、グループの中核となる製糸業で、莫大な資産を築き、日本の生糸王(Silk King of Japan)と称されるまでになっていた。


同年の10月18日、私立探偵(private investigator)の金田一耕助(Kosuke Kindachi)が、東京から那須湖畔を訪れた。

彼が那須湖畔を訪れたのは、古館法律事務所(Furudate Law Office)に勤務する若林豊一郎(Toyoichiro Wakabayashi)から、「近いうちに、犬神家に容易ならざる事態が起きそうだ。そこで、那須へ来て、調査してほしい。そして、容易ならざる事態をなんとか未然に防いでほしい。」と書かれた手紙を受け取ったからである。


那須ホテル(Nasu Inn)に宿泊した金田一耕助は、早速、電話で若林豊一郎に連絡をとったが、湖へと漕ぎ出した野々宮珠世(Tamayo Nonomiya - 那須神社の神官で、犬神佐兵衛が終生の恩人と慕う野々宮大弐(Daini Nonomiya)の孫)が乗るボートが突然沈み始めるのを目撃し、慌てて湖畔へと駆け出す。

そして、金田一耕助が、野々宮珠世の身辺の世話役で、護衛も務める下男の猿増(Saruzo)と一緒に、沈むボートから彼女を救出した後、那須ホテルへ戻ったところ、彼に仕事を依頼してきた古館法律事務所の若林豊一郎が、何者かによって毒殺されていたのだ。


那須ホテルへと駆け付けた古館法律事務所の所長である古館恭三(Kyozo Furudate)によると、若林豊一郎が犬神家の誰かに買収されて、古館法律事務所の金庫に保管している犬神佐兵衛の遺言状を盗み見て、買収者にその内容を知らせていたようだった。

部下の若林豊一郎が心配していた通り、犬神家に容易ならざる事態が起きる可能性を懸念した古館恭三は、金田一耕助に、犬神佐兵衛の遺言状の公開の場に立ち会うように依頼するのであった。


同年の11月1日、犬神佐兵衛の長女である犬神松子(Matsuko Inugami)の一人息子で、第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年ー1945年)に出征していた犬神佐清(Sukekiyo Inugami)が、戦地のビルマ(Burma)から、遂に復員した。

驚くことに、犬神佐清は、ビルマでの戦いの際、顔に大怪我を負ったため、負傷した顔を隠すべく、ゴムマスクを被った姿で、母親の松子と一緒に、那須湖畔の本宅へと戻って来たのである。


犬神佐清が復員したことを受け、犬神家の顧問弁護士(Inugami clan’s attorney)である古館恭三は、金田一耕助の立ち会いの下、犬神佐兵衛の遺言状を公開した。

犬神佐兵衛が残した遺言状は、


*全相続権を示す犬神家の家宝である「斧(よき)」・「琴(こと)」・「菊(きく)」の3つを、犬神佐兵衛の終生の恩人である野々宮大弐の孫娘である野々宮珠世が、犬神佐兵衛の孫である犬神佐清、犬神佐武(Suketake Inugami - 次女の犬神竹子(Takeko Inugami)の息子)、そして、犬神佐智(Suketomo Inugami - 三女の犬神梅子(Umeko Inugami)の息子)の3人の中から配偶者を選ぶことを条件に、彼女に与える。

*野々宮珠世が、3人の中から配偶者を選ばず、相続権を失った場合、または、3人の中から配偶者を選ぶ前に、死亡した場合、犬神家の全財産は5等分され、犬神佐清、犬神佐武、そして、犬神佐智の3人がそれぞれ 1 / 5 ずつを相続し、残りの 2 / 5 については、犬神佐兵衛の愛人である青沼菊乃(Kikuno Aonuma)の息子の青沼静馬(Shizuma Aonuma)が相続する。


と言う内容だった。


古館恭三によって公開された犬神佐兵衛の遺言状の内容を聞いた長女の犬神松子、次女の犬神竹子、そして、三女の犬神梅子の憎悪と怒りは、頂点に達した。

以前から、3姉妹の家族同士の折り合いは、あまり良くなく、お互いが常に反目し合っていたが、犬神佐兵衛の遺言状の公開を受けて、3姉妹の仲は更に険悪となり、野々宮珠世の関心を得ようと、躍起になったのである。

また、本物の犬神佐清は、実は既に戦死していて、ゴムマスクを被った犬神佐清は、偽者ではないのかと言う嫌疑をかけられ、出征前に那須神社に奉納した手形(指紋)との照合を迫られるが、母親の犬神松子がこれを拒否した。


犬神佐清が那須湖畔の本宅へと戻って来て、半月が経過した同年の11月15日、次女の犬神竹子の息子である犬神佐武は、犬神佐清の手形合わせの件で呼び出された野々宮珠世に対して、強引に関係を迫るが、そこへ駆け付けた猿蔵に妨害されて、未遂に終わった。その後、犬神佐武は、何者かに惨殺され、その生首が「菊」人形として飾られると言う事件が発生する。


更に、三女の犬神梅子の息子である犬神佐智が、野々宮珠世を薬で眠らせて襲い、既成事実をつくろうとしたが、顔を隠した復員服の男に妨害され、その男から電話連絡を受けた猿蔵が野々宮珠世を救出して、失敗に終わった。その後、犬神佐智は、何者によって、「琴」の糸で首を絞められて殺害された。


野々宮珠世が相続する予定の犬神家の財産を狙う求婚者が2人、殺害されると言う事件が続いたのである。


2024年5月2日木曜日

100年間にロイヤルメールから発行された記念切手(100 Years of Commemorative Stamps)- その3

 2024年4月16日に、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、100年間に出た切手に関する10種類の記念切手が発行されたので、前回に引き続き、御紹介したい。


(5)


左上から時計回りに、「Philympia 70 Stamp Exhibition」(1970年)、「British Wildlife」(1977年)、そして、「British Achievement in Chemistry」(1977年)の記念切手がまとめられている。
これら3枚の記念切手は、ウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(Queen Elizabeth II:1926年–2022年 / 在位期間:1952年–2022年)の在位中のうち、1970年代に発行されている。

なお、「Philympia 70 Stamp Exhibition」は、ロンドンのウェストケンジントン地区(West Kensington)にある見本市会場オリンピア(Olympia)において、1970年9月18日から同年9月26日までの間、開催された国際切手博覧会(International Stamp Exhibition)のことで、当該博覧会を記念して発行された3枚の切手のうちの1枚が、「1847 first embossed (9d)」の図案を使用したものである。

また、英国王立化学協会(Royal Institute of Chemistry)」は、化学の推進を目的として、1877年に設立された学術機関で、「British Achievement in Chemistry」は、英国王立化学協会の設立100周年を記念して、1977年に発行されたものである。1980年に英国王立化学協会、化学会(Chemical Society)、ファラデー協会(Faraday Society)と分析化学会(Society for Analytical Chemistry)の4つが統合されて、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)となり、現在に至っている。

(6)

左上から時計回りに、「Flowers」(1987年)、「Halley's Comet」(1986年)、そして、「Transport and Communications」(1988年)の記念切手がまとめられている。
これら3枚の記念切手は、ウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世の在位中の地、1980年代に発行されている。

なお、「ハレー彗星(Halley's Comet)」は、75.32年周期で地球に接近する短周期彗星で、前回は1986年2月に回帰しており、その際に記念切手が発行された。次回の回帰は、2061年7月と計算されている。