2026年3月13日金曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その25B

英国の HarperCollinsPublishers 社から現在出版されている
アガサ・クリスティー作中編集「厩舎街の殺人」の
ペーパーバック版の表紙 -

ガイ・フォークス ナイトに該る11月5日、

ロンドンの夜空を照らす花火を背景にした表紙が、

アタッシュケースの形に切り取られている。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1937年に発表した中編集「厩舎街の殺人(Murder in the Mews)」には、以下の4編が収録されている。


なお、中編集「厩舎街の殺人」の米国版のタイトルは、「死人の鏡(Dead Man’s Mirror)」に変更された上、「謎の盗難事件」は含まれていないため、収録作品は3編のみである。


*「厩舎街の殺人(Murder in the Mews)」(1936年)


地下鉄チャリングクロス駅(Charing Cross Tube Station)内にある
ジュビリーライン(Jubilee Line)のプラットフォームの壁に描かれている
「火薬陰謀事件」の主なメンバー達
<筆者撮影>


ロンドンの秋深まる夜空を明るく彩るガイ・フォークス ナイトの打ち上げ花火
<筆者撮影>


ガイ・フォークス ナイト(Guy Fawkes Night → 2016年11月5日付ブログで紹介済)に該る11月5日、打ち上げられる花火がロンドンの夜空を照らす中、物語が始まる。

夕食を終えて、静かな脇道のバーズリーガーデンミューズ(Bardsley Garden Mews)を歩くスコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp → 2025年10月24日付ブログで紹介済)は、隣りを歩くエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)に向かって、次のように話しかける。「殺人を行うには、うってつけの晩だ。今夜なら、たとえピストルを撃ったとしても、誰にも聞こえやしない。」と...


エルキュール・ポワロは、
ジグソーパズル「エルキュール・ポワロの世界」の中央に立っている。
<筆者撮影>


ジェイムズ・ハロルド・ジャップ警部(後に、主任警部)は、
ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロの右斜め後ろの位置に立っている。

<筆者撮影>


全くの偶然ではあるが、彼らが歩いていたバーズリーガーデンミューズにおいて、事件が発生する。若い未亡人であるバーバラ・アレン夫人(Mrs. Barbara Allen)が拳銃自殺をしたのである。しかし、彼女には自殺する理由が見当たらない上に、現場には自殺と断定するには疑わしい点が多かった。何故ならば、ピストルは彼女の右手の中にあったものの、握られていた訳ではなかった。不自然なことに、ピストルの弾丸は、彼女の頭の右側からではなく、左側から入っていたのである。つまり、何者かが彼女を殺害した後で、自殺に見せかけようとしたのだ!これを他殺と考えたジャップ主任警部は、ポワロに事件の捜査協力を依頼する。


*「謎の盗難事件(The Incredible Theft)」(1937年)

大土木建築会社の元社長で、現在は英国兵器省の初代長官であるメイフィールド卿(Lord Mayfield)の屋敷でパーティーが開催され、


サー・ジョージ・キャリントン(Sir George Carrington - 英国空軍中将(Air Marshall))

レディー・ジュリア・キャリントン(Lady Julia Carrington - サー・ジョージ・キャリントンの妻)

レジー・キャリントン(Reggie Carrington - サー・ジョージ・キャリントンの息子)

ヴァンダリン夫人(Mrs. Vanderlyn - 米国人で、3回の結婚歴)

マキャッタ夫人(Mrs. Macatta - 英国下院議員)

カーライル氏(Mr. Carlile - メイフィールド卿の秘書)


が夕食会に参加した。

夕食会が終わり、メイフィールド卿とサー・ジョージ・キャリントンの2人になった際、彼らは新型爆撃機の設計図を使って、スパイと疑われるヴァンダリン夫人を罠に嵌める計画を立てる。

彼ら2人以外の招待客が寝静まった後、メイフィールド卿は、秘書のカーライルに対して、新型爆撃機の設計図を金庫から取り出しておくように指示したが、メイフィールド卿が確認すると、秘書のカーライルが「ここに置きました。」と言う机の上から、肝心な新型爆撃機の設計図がなくなっていたのである。

事態を恐れたメイフィールド卿は、直ぐにエルキュール・ポワロに助けを求めることに決めた。


*「死人の鏡(Dead Man’s Mirror)」(1937年)

1936年9月24日、エルキュール・ポワロは、ウェストシャー州(Westshire)ハムバラ セントメアリー(Hamborough St. Mary)のハムバラ荘(Hamborough Close)に住むサー・ジャーヴァス・フランシス・ザヴィア(Sir grease Francis Xavier - 本名:ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴア(Gervase Chevenix-Gore))から電報を受け取る。極秘の相談をしたい、とのことだった。興味を持ったポワロは、セントパンクラス駅(St. Pancras Station)発午後4時半の一等車に乗り、現地へと向かう。


ポワロは、ロンドンを出る前に、サタースウェイト氏(Mr. Satterthwaite)に会い、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアに関する情報収集を行なっている。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
2 ♠️
サタースウェイト氏


午後8時過ぎに駅に着き、そこから出迎えの車に乗り、屋敷に到着したポワロであったが、パーティーの最中で、シェヴニックス=ゴア夫人(Lady Chevenix-Gore - ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアの妻)やルース・シェヴニックス=ゴア(Ruth Chevenix-Gore - ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアの娘)に出迎えられる。ただし、彼女たちは、ポワロが訪れることを知らなかった。

銅鑼が鳴り、執事が食事の用意が整ったことを告げたものの、いつも時間に正確な筈のジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアが、いつまで待っても、姿を見せなかった。執事によると、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアは、午後8時5分前に階下に降りて来て、書斎に入った、とのこと。また、銅鑼は書斎のドアの直ぐ外にあるため、銅鑼の音が聞こえないことはありえなかった。

ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアが姿を見せないことを不審に感じたポワロ達が書斎へ向かうと、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアが死亡しているのを発見する。見たところ、拳銃で自殺した模様だった。

しかし、拳銃の銃弾が、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアが死亡している机の向こうの壁に掛かっている円い鏡に当たった位置等、彼の死因をめぐって、不審な点が多々あったため、ポワロは、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアは殺害されたものと判断したのである。


*「砂に書かれた三角形(Triangle at Rhodes)」(1936年)

10月の閑散期に、エルキュール・ポワロは、宿泊客の少ないロードス島(Rhodes)を訪れる。

島には、パメラ・ライアル(Pamela Lyall)、サラ・ブレイク(Sarah Blake)とヴァレンタイン・ダクレス・チャントリー(Valentine Dacres Chantry)が滞在して降り、自他共に美しさを認めるヴァレンタイン・チャントリーは、ダグラス・キャメロン・ゴールド(Douglas Cameron Gold)の気を引くそぶりを見せる。彼女のふるまいは、ダグラスの妻で、温和な風情のマージョリー・エマ・ゴールド(Marjorie Emma Gold)とヴァレンタインの夫であるトニー・チャントリー(Tony Chantry)の2人を苛立たせていた。

マージョリー・ゴールドから相談を受けたポワロは、彼女に対して、「手遅れにならないうちに、島を離れなさい。」と助言するが、彼女は、「夫(ダグラス)が一緒でなければ、島を離れることはできません。」と言って、首を振る。

そして、ある晩、ダグラス・ゴールドとトニー・チャントリーの2人が言い争いになったことを皮切りに、事件が発生する。マージョリー・ゴールドとヴァレンタイン・チャントリーの2人がドライブから戻った後、ヴァレンタイン・チャントリーが、夫のダグラス・ゴールドから手渡されたカクテルを飲んで、毒死したのである。


(53)新型爆撃機の設計図(aircraft blueprints)



「謎の盗難事件」において、英国兵器省の初代長官であるメイフィールド卿の屋敷から、新型爆撃機の設計図が盗まれる事件が発生して、ポワロが呼ばれる。


(54)粉微塵になった壁の鏡(broken wall mirror)



「死人の鏡」において、いつまで経っても、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアが姿を見せないことを不審に思ったポワロ達が書斎へ向かうと、彼は既に死亡していた。一見、拳銃自殺のようだった。

ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアが死亡している机の向こうの壁に、円い鏡に掛かっていたが、粉微塵になっていた。彼が撃った拳銃の銃弾が当たったためだと思われた。


(55)食事の用意が整ったことを知らせるための銅鑼(dinner gong)



「死人の鏡」において、間を置き、銅鑼が二度鳴ったことを判ったポワロは、ジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアがどのように殺害されたのかを導き出すのであった。


2026年3月12日木曜日

オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」(Salome by Oscar Wilde)- その2

オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版に付されている
オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー
(Aubrey Vincent Beardsley:1872年ー1898年)
による挿画(その3)

米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で、1942年に発表したヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)を探偵役とするシリーズ長編第13作目に該る仮面荘の怪事件(東京創元社)/ メッキの神像(早川書房)(The Gilded Man → 2026年2月23日 / 3月10日付ブログで紹介済)」の場合、ケント州(Kent)のロイヤルタンブリッジウェルズ(Royal Tunbridge Wells → 2023年6月18日付ブログで紹介済)近くにある「仮面荘(Mask House)」と呼ばれるワルドミア荘(Waldemere - 美術評論家 / 名画蒐集家である富豪のドワイト・スタンホープ(Dwight Stanhope)の別邸)が、事件の舞台となる。

東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
カーター・ディクスン作「仮面荘の怪事件」の表紙
(カバー : 村山 潤一) -
「仮面荘」と呼ばれる富豪ドワイト・スタンホープの
別邸ワルドミア荘内に陳列されている名画を盗むために
侵入した覆面の泥棒が描かれている。

ワルドミア荘は、元々、ヴィクトリア朝時代の女優であるフレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner - 架空の人物)が建てたもので、屋敷内には小劇場が設けられていた。そして、その小劇場で、戯曲「サロメ(Salome)」の上演中に、彼女は急死していた。

戯曲「サロメ(Salome)」は、アイルランド出身の詩人 / 作家 / 劇作家で、シャーロック・ホームズシリーズの作者サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の友人でもあったオスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)による一幕物の悲劇で、新約聖書を元にしている。

オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版に付されている
オードリー・ビアズリーによる挿画(その4)

ユダヤの王(Tetrarch of Judea)であるヘロデ・アンティパス(Herod Antipas - 以下、ヘロデ王)は、自分の兄である前王を殺害の上、前王の妃であるヘロディアス(Herodias)を奪い、今の座に就いていた。その一方で、ヘロデ王は、前王とヘロディアスの娘(Daugther of Herodias)である王女(Princess of Judea)サロメ(Salome)に魅了されており、なんとか自分のものにしようとする。

ヘロデ王が自分に向けるいやらしい視線のため、サロメは、その場に居た堪れなくなり、宴の席を離れると、井戸へと向かう。井戸には、不吉な言葉を喚き散らす預言者(Prophet)であるヨカナーン(Jokanaan)が幽閉されていた。

エロドの命により、ヨカナーンとの接触は禁じられていたが、サロメは、ヨカナーンの見張り番をしていたシリアの青年(The Young Syrian, Captain of the Guard)を色仕掛けで籠絡して、ヨカナーンとの接触を果たす。

ヨカナーンの姿を見たサロメは、彼に対して恋心を抱くが、ヨカナーンの方は、彼女の忌まわしい生い立ちを詰るばかりで、彼女の愛を受け入れなかった。自分の求愛を拒まれてしまったサロメは、ヨカナーンに対して、「必ずあなたに口付けをする。」と固く誓ったのだった。


オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版に付されている
オードリー・ビアズリーによる挿画(その5)

宴の席に戻ったサロメに対して、ヘロデ王は、踊りを披露するよう、しつこく求めた。更に、ヘロデ王はサロメに「踊りを披露すれば、望むものを何でも褒美として与える。」と約束する。

ヘロデ王の約束を得たサロメは、皆の前で「7つのヴェールの踊り(Dance of the Seven Veils)」の踊りを披露すると、ヘロデ王に対して、ヨカナーンの首を所望した。


預言者であるヨカナーンの力を恐るヘロデ王は、サロメの申し出を断るものの、残念がら、サロメは一切聞き入れなかった。

サロメの説得を諦めたヘロデ王は、ヨカナーンの首をサロメに与えることにする。ヨカナーンの首が銀の皿にのせられ運ばれてくると、サロメは、ヨカナーンの唇に接吻して、彼への愛を語り始めた。


そんなサロメを見たヘロデ王は、兵士に命じて、彼女を殺させるのであった。


オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版に付されている
オードリー・ビアズリーによる挿画(その6

戯曲「サロメ」は、1891年にフランス語で執筆されて、1893年にパリで出版された後、1896年にパリで上演された。

同戯曲の英訳版は、1894年に出版されているが、英国では、内容の背徳性を踏まえて、上演禁止令が出されたため、1931年まで上演が叶わなかった。


2026年3月11日水曜日

オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」(Salome by Oscar Wilde)- その1

オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版に付されている
オードリー・ビアズリーによる挿画(その1)- タイトルページ


米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で、1942年に発表したヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)を探偵役とするシリーズ長編第13作目に該る仮面荘の怪事件(東京創元社)/ メッキの神像(早川書房)(The Gilded Man → 2026年2月23日 / 3月10日付ブログで紹介済)」の場合、ケント州(Kent)のロイヤルタンブリッジウェルズ(Royal Tunbridge Wells → 2023年6月18日付ブログで紹介済)近くにある「仮面荘(Mask House)」と呼ばれるワルドミア荘(Waldemere - 美術評論家 / 名画蒐集家である富豪のドワイト・スタンホープ(Dwight Stanhope)の別邸)が、事件の舞台となる。


東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
カーター・ディクスン作「仮面荘の怪事件」の表紙
(カバー : 村山 潤一) -
「仮面荘」と呼ばれる富豪ドワイト・スタンホープの
別邸ワルドミア荘内に陳列されている名画を盗むために
侵入した覆面の泥棒が描かれている。


ワルドミア荘は、元々、ヴィクトリア朝時代の女優であるフレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner - 架空の人物)が建てたもので、屋敷内には小劇場が設けられていた。


オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版のための
オードリー・ビアズリーによるカバーデザイン


彼女(ベティー・スタンホープ(Betty  Stanhope)- ドワイト・スタンホープと後妻のクリスタベル(Christabel / 元女優)の娘)はじみな黒の夜会服に宝石もつけていない姿で個人劇場の中央に立ち、すべてがきちんとしているのを見て満足したようにひとりでうなずいた。

「とにかく、バーがあるんですから、何かお飲みになりません?」ベティが微笑した。

「ありがとう」

ベティはカウンターのはね板をあげ、仕切りの中へ滑りこんだ。バーの上方にある円錐形の電灯はこの薄暗い部屋でいちばんあかるい照明だったが、その光が金色を帯びた褐色の髪を照らしだした。ニック(ニコラス・ウッド(Nicholas Wood - スコットランドヤード犯罪捜査部(C. I. D.)の警部)はカウンターの下の壁に彫り込んだ<F・V>という金色の頭文字をしげしげと眺めた。

「<フレヴィア・ヴェナー>か。彼女はここで死んだといわれるのですね?」 

「ええ。<サロメ>の上演中に急死しましたの」

「<サロメ>ですって?」

「そうですわ。あれは彼女のために特に書かれた劇で、作者は -」とベティはヴィクトリア時代のある詩人の名をあげた。その名前は、当人が埋葬されているウェストミンスター大寺院と同じように有名なものだった。

<厚木 淳訳>


米国ニューヨークに所在する
Hartsdale House Publishers から出版された
オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の表紙


戯曲「サロメ(Salome)」は、アイルランド出身の詩人 / 作家 / 劇作家で、シャーロック・ホームズシリーズの作者サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の友人でもあったオスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)による一幕物の悲劇で、新約聖書を元にしている。


ナショナルポートレートギャラリー
(National Portrait Gallery)で販売されている
オスカー・ワイルドの写真の葉書
(Napoleon Sarony / 1882年 / Albumen panel card
305 mm x 184 mm) 


戯曲「サロメ」は、1891年にフランス語で執筆されて、1893年にパリで出版された。

同戯曲の英訳版は、1894年に出版されているが、当時、オスカー・ワイルドの同性の恋人だった第9代クイーンズベリー侯爵ジョン・ショルト・ダグラス(John Sholto Douglas, 9th Marquess of Queensberry:1844年ー1900年)の三男で、作家 / 詩人 / 翻訳家のロード・アルフレッド・ブルース・ダグラス(Lord Alfred Bruce Douglas:1870年ー1945年)が英訳を行ったものの、出来が悪かったため、オスカー・ワイルド自身が、その英訳を修正している。同戯曲の英訳版には、英国のイラストレーター / 詩人 / 小説家であるオーブリー・ヴィンセント・ビアズリー(Aubrey Vincent Beardsley:1872年ー1898年)による挿画が使用されている。


オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」の英訳版に付されている
オードリー・ビアズリーによる挿画(その2)


オスカー・ワイルド作戯曲「サロメ」は、1896年にパリで上演されたが、英国では、内容の背徳性を踏まえて、上演禁止令が出されたため、1931年まで上演が叶わなかった。


2026年3月10日火曜日

カーター・ディクスン作「仮面荘の怪事件 / メッキの神像」(The Gilded Man by Carter Dickson)- そ の2

東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
カーター・ディクスン作「仮面荘の怪事件」の表紙(部分)
(カバー : 村山 潤一) -
「仮面荘」と呼ばれる富豪ドワイト・スタンホープの
別邸ワルドミア荘内に所蔵されている名画を盗むために
侵入した覆面の夜盗が描かれている。


米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で、1942年に発表したヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)を探偵役とするシリーズ長編第13作目に該る仮面荘の怪事件(東京創元社)/ メッキの神像(早川書房)(The Gilded Man)」の場合、1938年12月29日(木)、ケント州(Kent)のロイヤルタンブリッジウェルズ(Royal Tunbridge Wells → 2023年6月18日付ブログで紹介済)近くにある「仮面荘(Mask House)」と呼ばれるワルドミア荘(Waldemere)において、その物語が始まる。


ジョン・ディクスン・カーは、元々、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの短編として、1940年に「軽率だった夜盗(A Guest in the House / The Incautious Burglar → 2025年9月9日付ブログで紹介済)」を発表しており、「仮面荘の怪事件 / メッキの神像」は、同短編をベースにして、ヘンリー・メルヴェール卿シリーズの長編を執筆の上、カーター・ディクスン名義で1942年に出版したのである。


東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
ジョン・ディクスン・カー作
「カー短編全集2 妖魔の森の家」の表紙
(カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子) -
「軽率だった夜盗」(宇野 利奏訳)において、
夜盗がクランレイ荘に侵入した際、
「その(懐中電燈の)光が、食器棚に沿って匍っていくと、
銀色にきらめくものがあった。果物鉢である。
鉢の中のリンゴに、まるでそれが人間の胴であるかのように、
小型ナイフが不気味につき刺さったままだ。」や
「銀の食器類が一そろい、食器棚の前に散乱していた。
果物鉢も転げ落ちていた。
オレンジとリンゴ、そして葡萄の粒が潰れているあいだに、
死体が仰向けに倒れている。」と言う記述があるので、
表紙のデザインは、同作の内容を参考しているものと思われる。


「仮面荘」と呼ばれる広壮な屋敷ワルドミア荘は、美術評論家 / 名画蒐集家である富豪のドワイト・スタンホープ(Dwight Stanhope)の別邸で、後妻のクリスタベル(Christabel / 元女優)、先妻との娘であるエリナー(Eleanor)と後妻との娘であるベティー(Betty)と一緒に住んでいた。


スタンホープ一家は、1939年の新年パーティーのため、以下の人物をワルドミア荘に招いていた。


(1)ヴィンセント・ジェイムズ(Vincent James)

(2)ニコラス・ウッド(Nicholas Wood / ヴィンセント・ジェイムズの学生時代の友人)

(3)ロイ・ドースン(海軍中佐)→ 事件後に到着


ワルドミア荘は、元々、ヴィクトリア朝時代の女優であるフレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner - 架空の人物)が建てたもので、屋敷内には小劇場が設けられていた。

また、屋敷内に、ドワイト・スタンホープは、


(a)エル・グレコ(El Greco:1541年ー1614年 / 現在のギリシア領クレタ島出身の画家で、スペインで活動)作「池」

(b)ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルヴァ・イ・ヴェラスケス(Diego Rodriguez de Silva y Velazquez:1599年ー1660年 / バロック期のスペインの画家)作「チャールズ4世」

(c)バルトロイ・エステバン・ペレス・ムリーリョ(Bartolome Esteban Perez Murillo:1617年ー1682年 / バロック期のスペインの画家)作「ゴルゴダの丘」

(d)フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(Francisco Jose de Goya y Lucientes:1746年ー1828年 / スペインの画家)作「若い魔女」


の絵画を所蔵しており、これら4枚は、莫大な値打ちを持つ名画だった。

ドワイト・スタンホープは、元々、これら4枚の名画を盗難避けの警報装置付きのギャラリーに保管していたが、何故か、階下の庭に面した食堂の壁に移動させたのである。食堂から、フランス窓経由、容易に庭へ出ることができた。

更に、不思議なことに、ドワイト・スタンホープは、これら4枚の名画に対して掛けていた保険をキャンセルしてしまった。

まるで、ドワイト・スタンホープは、盗みに入られることを待っているかのようだった。


にもかかわらず、ドワイト・スタンホープは、友人である副総監経由、スコットランドヤードに依頼して、内々でニコラス・ウッドを派遣してもらい、新年パーティーの招待客の一人として、ワルドミア荘内に張り込ませていた。つまり、ニコラス・ウッドは、スコットランドヤード犯罪捜査部(C. I. D.)の警部だったのである。

上記の通り、ドワイト・スタンホープの行動には、全く一貫性がなかった。果たして、彼は何を考えているのか?


そして、12月30日(金))の真夜中、正確に言うと、12月31日(土)の午前3時過ぎ、夜盗が現れた。フランス窓のガラスを切り取り、開けると、食堂へと侵入。壁に掛かった額縁からエル・グレコ作「池」を外すと、持参したペンナイフでキャンバスからフレームを切り離しに

かかった。その作業に熱中するあまり、夜盗は、室内にもう一人の人物が居ることに少しも気付かなかった。


金属製の物体が転げ落ちる音を聞いた皆が2階から階下の食堂へ駆け付けると、銀の食器類が散乱する中、食器棚(サイドボード)の側に、夜盗が仰向けに倒れていた。食器棚の中にあった果物鉢の果物ナイフで、胸の辺りを刺されて、瀕死の状態だった。凶器の果物ナイフは、夜盗の左足の近くの絨毯の上に放り出されていた。

ニコラス・ウッド警部が夜盗の側へ歩み寄り、鳥打ち帽を脱がせ、冠っていた黒布のマスクを外したところ、なんと、夜盗の正体は、ワルドミア荘の主人であるドワイト・スタンホープだった。彼自身の別邸に所蔵されている名画を盗み出す最中に、胸を刺されて瀕死の状態と言う奇怪な様相を呈していた。


「自分の所有物を自分が盗みに入る」と言う一見馬鹿げた行動ではあるが、何らかの理由があったに違いない。

ニコラス・ウッド警部の上司であるマスターズ主任警部(Chief Inspector Masters)から依頼を受けたヘンリー・メルヴェール卿が現地へと赴き、この奇怪な事件の謎を解き明かすのである。


2026年3月9日月曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その25A

英国の HarperCollinsPublishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作中編集「厩舎街の殺人」ペーパーバック版の表紙 -
中編集のタイトルと同じ「厩舎街の殺人」において、
ガイ・フォークス ナイト(Guy Fawkes Night → 2016年11月5日付ブログで紹介済)に該る11月5日、
打ち上げられる花火がロンドンの夜空を照らす様子が描かれていると思われる。
なお、「厩舎街(ミューズ)」とは、厩舎(うまや)から表通りまでの路地のことを指している。
ロンドン市内では、厩舎だった建物が後にフラット等の住居に改装され、
人が住むようになったが、「ミューズ」という名は市内各所にそのまま残り、
以前、厩舎が建ち並ぶ路地であったことを今に伝えている。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている「エルキュール・ポワロの世界(The World of Hercule Poirot)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているエルキュール・ポワロシリーズの登場人物や各作品に関連した112個の手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

前回に引き続き、各作品に出てくる登場人物、建物や手掛かり等が、その対象となる。


ジグソーパズル「エルキュール・ポワロの世界」の完成形
<筆者撮影>


(53)新型爆撃機の設計図(aircraft blueprints)



ジグソーパズルの中段の一番左手にあるテーブルの上に、新型爆撃機の設計図が一番上に置かれている。


(54)ひび割れた壁の鏡(broken wall mirror)



ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)から右真横へ移動した画面右端近くにある柱の側に、彼の執事であるジョージ(George → 2025年10月23日付ブログで紹介済)が立っている。ポワロの執事ジョージの左側にある柱に、ひび割れた鏡が掛かっている。


(55)食事の用意が整ったことを知らせるための銅鑼(dinner gong)



ポワロの執事ジョージの左足の先にある床の上に、銅鑼が置かれている。


これらから連想されるのは、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1937年に発表した中編集「厩舎街の殺人(Murder in the Mews)」である。


中編集「厩舎街の殺人」には、以下の4編が収録されている。


*「厩舎街の殺人(Murder in the Mews)」

*「謎の盗難事件(The Incredible Theft)」

*「死人の鏡(Dead Man’s Mirror)」

*「砂に書かれた三角形(Triangle at Rhodes)」


なお、中編集「厩舎街の殺人」の米国版のタイトルは、「死人の鏡(Dead Man’s Mirror)」に変更された上、「謎の盗難事件」は含まれていないため、収録作品は3編のみである。


「(53)新型爆撃機の設計図」は、「謎の盗難事件」についての手掛かりで、「(54)ひび割れた壁の鏡」と「(55)食事の用意が整ったことを知らせるための銅鑼」は、「死人の鏡」に関する手掛かりとなっている。


2026年3月8日日曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その24B

英国の HarperCollinsPublishers 社から現在出版されている
アガサ・クリスティー作「ひらいたトランプ」の
ペーパーバック版の表紙 -

トランプの柄の表紙が、スペードの形に切り取られている。


ある美術展でエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)に出会った謎多き裕福な蒐集家であるシャイタナ氏(Mr. Shaitana)は、犯罪関連のコレクションをしており、「最高のものだけを蒐集している。」と自慢した。「まだ告発されていない殺人犯を招いた上でのパーティーだ。」と言うシャイタナ氏の趣旨に興味を覚えたポワロは、ブリッジパーティーへの招待を受けるのだった。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
1 ♠️「エルキュール・ポワロ」


シャイタナ氏の自宅で行われたパーティーに招待されたのは、以下の8人だった。


< 探偵組 >

*エルキュール・ポワロ

*バトル警視(Superintendent Battle)- スコットランドヤードの警察官


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
3 ♠️「バトル警視」


*ジョン・レイス大佐(Colonel John Race)- 英国秘密情報局の情報部員


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
4 ♠️「ジョン・レイス大佐」


*アリアドニ・オリヴァー夫人(Mrs. Ariadne Oliver)- 女流推理作家


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
7 ♠️アリアドニ・オリヴァー夫人


< 容疑者組 >

*ジェフリー・ロバーツ医師(Dr. Geoffrey Roberts)- 成功をおさめた中年の医師

*ロリマー夫人(Mrs. Lorrimer)- ブリッジ好きな初老の女性

*ジョン・デスパード少佐(Major John Despard)- 未開地を探索する探検家

*アン・メレディス(Anne Meredith)- 内気で若く麗しい女性


食事の最中、シャイタナ氏は、招待した4人の容疑者達に対して、言われた本人にしか判らない謎めいた告発を行い、他の出席者達を困惑させる。

そして、食事が済むと、容疑者組の4人は、メインルーム(客間)において、また、探偵組の4人は、別の部屋で、ブリッジを始めることとなった。シャイタナ氏は、メインルームの暖炉の側に置かれた椅子を自分の居場所として、ブリッジへの参加を辞退する。

ブリッジが終わり、ポワロとレイス大佐が、シャイタナ氏に対して、暇を告げようとした際、彼らは、暖炉の側に置かれた椅子に座ったままの状態で、シャイタナ氏が彼の蒐集品である宝石で装飾された短剣で胸を刺されて死んでいるのを発見する。

ブリッジの最中、容疑者組の各人は、それぞれ休みの時間を利用して、メインルーム内を歩き回っていたため、誰もがシャイタナ氏を刺殺する時間があり、犯人を特定することは非常に困難だった。


果たして、シャイタナ氏が謎めいた告発をした対象の人物は、誰だったのか?そして、その人物が、シャイタナ氏を刺殺したのだろうか?

探偵組の4人は、独自の捜査を開始する。


探偵組の4人による独自の捜査の結果、以下の事実が判明。


*ジェフリー・ロバーツ医師:彼の患者の夫が、彼の不適切な医療行為について告発した直後に、炭疽菌により死亡。

*ロリマー夫人:彼女の夫は20年前に亡くなっていたが、それにかかる内容はほとんど判っていない。

*ジョン・デスパード少佐:彼は、アマゾン川流域を案内した植物学者を銃で撃ち殺したと噂されていた。動機は、植物学者の妻をめぐる諍い、とのこと。

*アン・メレディス:彼女のフラットメイトであるローダ・ドーズ(Rhoda Dawes)によると、アン・メレディスがコンパニオンを務めていた雇い主の老女が、毒を無花果のシロップと間違えて飲んでしまい、死亡すると言う事件が以前に発生。ただし、アン・メレディスは、この事件のことをひた隠しにしている、とのこと。


名探偵、警察官や情報部員等が同席しているパーティーの最中、大胆にも行われた犯行を解き明かすべく、ポワロの灰色の脳細胞が、ブリッジの点数表の内容にその糸口を見いだすのであった。


(51)宝石で装飾された短剣(jewelled stiletto dagger)



シャイタナ氏は、彼の自宅のメインルーム(客間)において、暖炉の側に置かれた椅子に座り、容疑者組の4人によるブリッジを眺めている最中、何者かによって、彼の蒐集品である宝石で装飾された短剣で胸を刺され、殺害される。


(52)トランプの城(playing cards)



シャイタナ氏は、探偵組の4人と容疑者組の4人を自宅に招いた食事の後に行われたブリッジの最中に、暖炉の側に置かれた椅子に座ったままの状態で、何者かにより、彼の蒐集品である宝石で装飾された短剣で胸を刺され、殺害される。

ポワロは、残されたブリッジの点数表の内容を糸口にして、シャイタナ氏を刺殺した犯人を、4人の容疑者組の中から指摘する。