2026年3月10日火曜日

カーター・ディクスン作「仮面荘の怪事件 / メッキの神像」(The Gilded Man by Carter Dickson)- そ の2

東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
カーター・ディクスン作「仮面荘の怪事件」の表紙(部分)
(カバー : 村山 潤一) -
「仮面荘」と呼ばれる富豪ドワイト・スタンホープの
別邸ワルドミア荘内に所蔵されている名画を盗むために
侵入した覆面の夜盗が描かれている。


米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で、1942年に発表したヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)を探偵役とするシリーズ長編第13作目に該る仮面荘の怪事件(東京創元社)/ メッキの神像(早川書房)(The Gilded Man)」の場合、1938年12月29日(木)、ケント州(Kent)のロイヤルタンブリッジウェルズ(Royal Tunbridge Wells → 2023年6月18日付ブログで紹介済)にある「仮面荘(Mask House)」と呼ばれるワイルドミア荘(Wildmere)において、その物語が始まる。


ジョン・ディクスン・カーは、元々、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの短編として、1940年に「軽率だった夜盗(A Guest in the House / The Incautious Burglar → 2025年9月9日付ブログで紹介済)」を発表しており、「仮面荘の怪事件 / メッキの神像」は、同短編をベースにして、ヘンリー・メルヴェール卿シリーズの長編を執筆の上、カーター・ディクスン名義で1942年に出版したのである。


東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
ジョン・ディクスン・カー作
「カー短編全集2 妖魔の森の家」の表紙
(カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子) -
「軽率だった夜盗」(宇野 利奏訳)において、
夜盗がクランレイ荘に侵入した際、
「その(懐中電燈の)光が、食器棚に沿って匍っていくと、
銀色にきらめくものがあった。果物鉢である。
鉢の中のリンゴに、まるでそれが人間の胴であるかのように、
小型ナイフが不気味につき刺さったままだ。」や
「銀の食器類が一そろい、食器棚の前に散乱していた。
果物鉢も転げ落ちていた。
オレンジとリンゴ、そして葡萄の粒が潰れているあいだに、
死体が仰向けに倒れている。」と言う記述があるので、
表紙のデザインは、同作の内容を参考しているものと思われる。


「仮面荘」と呼ばれる広壮な屋敷ワイルドミア荘は、美術評論家 / 名画蒐集家である富豪のドワイト・スタンホープ(Dwight Stanhope)の別邸で、後妻のクリスタベル(Christabel / 元女優)、先妻との娘であるエリナー(Eleanor)と後妻との娘であるベティー(Betty)と一緒に住んでいた。


スタンホープ一家は、1939年の新年パーティーのため、以下の人物をワイルドミア荘に招いていた。


(1)ヴィンセント・ジェイムズ(Vincent James)

(2)ニコラス・ウッド(Nicholas Wood / ヴィンセント・ジェイムズの学生時代の友人)

(3)ロイ・ドースン(海軍中佐)→ 事件後に到着


ワイルドミア荘は、元々、ヴィクトリア朝時代の女優であるフレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner)が建てたもので、屋敷内には小劇場が設けられていた。

また、屋敷内に、ドワイト・スタンホープは、


(a)エル・グレコ(El Greco:1541年ー1614年 / 現在のギリシア領クレタ島出身の画家で、スペインで活動)作「池」

(b)ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルヴァ・イ・ヴェラスケス(Diego Rodriguez de Silva y Velazquez:1599年ー1660年 / バロック期のスペインの画家)作「チャールズ4世」

(c)バルトロイ・エステバン・ペレス・ムリーリョ(Bartolome Esteban Perez Murillo:1617年ー1682年 / バロック期のスペインの画家)作「ゴルゴダの丘」

(d)フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(Francisco Jose de Goya y Lucientes:1746年ー1828年 / スペインの画家)作「若い魔女」


の絵画を所蔵しており、これら4枚は、莫大な値打ちを持つ名画だった。

ドワイト・スタンホープは、元々、これら4枚の名画を盗難避けの警報装置付きのギャラリーに保管していたが、何故か、階下の庭に面した食堂の壁に移動させたのである。食堂から、フランス窓経由、容易に庭へ出ることができた。

更に、不思議なことに、ドワイト・スタンホープは、これら4枚の名画に対して掛けていた保険をキャンセルしてしまった。

まるで、ドワイト・スタンホープは、盗みに入られることを待っているかのようだった。


にもかかわらず、ドワイト・スタンホープは、友人である副総監経由、スコットランドヤードに依頼して、内々でニコラス・ウッドを派遣してもらい、新年パーティーの招待客の一人として、ワイルドミア荘内に張り込ませていた。つまり、ニコラス・ウッドは、スコットランドヤード犯罪捜査部(C. I. D.)の警部だったのである。

上記の通り、ドワイト・スタンホープの行動には、全く一貫性がなかった。果たして、彼は何を考えているのか?


そして、12月30日(金))の真夜中、正確に言うと、12月31日(土)の午前3時過ぎ、夜盗が現れた。フランス窓のガラスを切り取り、開けると、食堂へと侵入。壁に掛かった額縁からエル・グレコ作「池」を外すと、持参したペンナイフでキャンバスからフレームを切り離しに

かかった。その作業に熱中するあまり、夜盗は、室内にもう一人の人物が居ることに少しも気付かなかった。


金属製の物体が転げ落ちる音を聞いた皆が2階から階下の食堂へ駆け付けると、銀の食器類が散乱する中、食器棚(サイドボード)の側に、夜盗が仰向けに倒れていた。食器棚の中にあった果物鉢の果物ナイフで、胸の辺りを刺されて、瀕死の状態だった。凶器の果物ナイフは、夜盗の左足の近くの絨毯の上に放り出されていた。

ニコラス・ウッド警部が夜盗の側へ歩み寄り、鳥打ち帽を脱がせ、冠っていた黒布のマスクを外したところ、なんと、夜盗の正体は、ワイルドミア荘の主人であるドワイト・スタンホープだった。彼自身の別邸に所蔵されている名画を盗み出す最中に、胸を刺されて瀕死の状態と言う奇怪な様相を呈していた。


「自分の所有物を自分が盗みに入る」と言う一見馬鹿げた行動ではあるが、何らかの理由があったに違いない。

ニコラス・ウッド警部の上司であるマスターズ主任警部(Chief Inspector Masters)から依頼を受けたヘンリー・メルヴェール卿が現地へと赴き、この奇怪な事件の謎を解き明かすのである。


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