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| 兵隊島に建つ邸宅の2階にある ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの部屋の壁(画面左側)には、 童謡「10人の子供の兵隊」が書かれた額が掛けられている。 <筆者撮影> |
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| 英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース) |
(11) 童謡「10人の子供の兵隊」(nursery rhyme)
エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)に招待されて、兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へのボート発着所であるデヴォン州(Devon)スティクルヘイヴン村(兵隊島へのボート発着所)に着いた
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| 兵隊島は、 ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。 <筆者撮影> |
*高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)
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| パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)から オークブリッジ駅へと向かう列車の一等喫煙車内において、 ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ元判事は、右手に持った葉巻を燻らせ、 コンスタンス・カルミントンと署名された手紙を左手に持ち、その内容を読んでいる。 <筆者撮影> |
*体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)
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| ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、 赤地に白い斑点があるスカーフを頭に巻き、サングラスをかけて、水着姿で砂浜に座っている。 <筆者撮影> |
*元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)
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| ジグソーパズルの上部のやや左側に、 正装したフィリップ・ロンバードが左手に拳銃を構えている場面が、赤枠で配置されている。 <筆者撮影> |
*信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent → 2025年10月29日付ブログで紹介済)
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| ジグソーパズルの上部のやや右側に、 赤い服を着た正装したエミリー・キャロライン・ブレントが顔の前で両手を合わせている場面が、 赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
*退役した老将軍(General)のジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon Macarthur → 2025年10月30日付ブログで紹介済)
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| ジグソーパズルの中段の一番左端に、 愛する妻レスリー(Lesley)に思いを馳せるジョン・ゴードン・マッカーサーが、 赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
*遊び好きで、生意気な青年のアンソニー・ジェイムズ・マーストン(Anthony James Marston → 2025年11月1日付ブログで紹介済)
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| ジグソーパズルの中段の右端に、サングラスをかけて、 大型スポーツカーのダルメインを運転するアンソニー・ジェイムズ・マーストンが、赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
*元警部(Detective Inspector)のウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore → 2025年11月2日付ブログで紹介済)
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| ジグソーパズルの下段のやや右側に、 ファイティングポーズをとる正装姿のウィリアム・ヘンリー・ブロアが、赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
の7人は、フレッド・ナラコット(Fred Narracott - 漁師)のボートに乗り、沖合いの兵隊島に上陸する。その7人を執事のトマス・ロジャーズ(Thomas Rogers → 2025年11月3日付ブログで紹介済)が出迎えた。
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| ジグソーパズルの上段のやや左側に、 料理人で、妻のエセル・ロジャーズに対して、何かを言い含めている夫のトマス・ロジャーズが、 赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
なお、医師のエドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong → 2025年10月31日付ブログで紹介済)は、7人に遅れて、後から兵隊島に到着。
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| ジグソーパズルの下段の中央に、 首の後ろに右手を当てているエドワード・ジョージ・アームストロング医師が、赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、執事の妻エセル・ロジャーズ(Ethel Rogers → 2025年11月4日付ブログで紹介済)の後ろから階段を登り、部屋へ案内された。
必要最小限のことだけを話すと、エセル・ロジャーズはまわり右をして、部屋から出て行ってしまった。
立ちあがったヴェラは落ち着きなく、部屋の中を歩きまわった。
文句のつけようのない、すばらしい寝室だった。隅から隅まで、モダンなインテリアで飾られている。つやのある寄せ木細工の床に敷かれた、オフ・ホワイトのカーペット - 淡い色合いの壁 - ライトに囲まれた細長い鏡。マントルピースに、置き物が一つだけのっていた。クマのような形をした、大きな白大理石製の現代風の彫刻だった。時計がはめこんである。その上に、クローム製の額がかけてあった。大きな四角い羊皮紙が納められている - 詩だ。
ヴェラは暖炉の前に立って、その詩を読んだ。子供の頃から知っている、古い童謡だった。
(青木 久惠訳)
Ten little soldier boys went out to dine; One choked his little self and then there were Nine.
(10人の子供の兵隊さんが、ご飯を食べに出かけた。一人が喉を詰まらせて、残りは9人になった。)
Nine little soldier boys sat up very late; One overslept himself and then there were Eight.
(9人の子供の兵隊さんが、夜更かしをした。一人が寝坊をして、残りは8人になった。)
Eight little soldier boys travelling in Devon; One said he’d stay and then there were Seven.
(8人の子供の兵隊さんが、デヴォン州を旅した。一人がそこに住むと言って、残りは7人になった。)
Seven little soldier boys chopping up sticks; One chopped himself in halves and then there were Six.
(7人の子供の兵隊さんが、薪割りをした。一人が自分を真っ二つに割って、残りは6人になった。)
Six little soldier boys playing with a hive; A bumble-bee stung one and then there were Five.
(6人の子供の兵隊さんが、蜂の巣に悪戯をした。一人が蜂に刺されて、残りは5人になった。)
Five little soldier boys going in for law; One got in chancery and then there were Four.
(5人の子供の兵隊さんが、法律を志した。一人が大法官府(裁判所)に入って、残りは4人になった。)
Four little soldier boys going out to sea; A red herring swallowed one and then there were Three.
(4人の子供の兵隊さんが、海へ出かけた。一人が燻製の鰊(ニシン)に呑みれて、残りは3人になった。)
Three little soldier boys walking in the zoo; A big bear hugged one and then there were Two.
(3人の子供の兵隊さんが、動物園内を歩いていた。一人が大きな熊に抱き締められて、残りは2人になった。)
Two little soldier boys sitting in the sun; One got frizzled up and then there was One.
(2人の子供の兵隊さんが、日光浴をしていた。一人が焼け焦げになって、残りは1人になった。)
One little soldier boy left all alone; He went and hanged himself … And then there were None.
(1人の子供の兵隊さんが、後に残された。彼は自分で首を括って、そして、誰もいなくなった。)
<筆者訳>
ヴェラは、にっこり笑った。そうよね! ここは兵隊島ですものね!
ヴェラはまた窓際に行って腰を下ろし、海を眺めた。
海って、なんて大きいんだろう! ここから陸地はまったく見えない - ただ夕陽に照らされて、さざなみを立てる青い水が、どこまでも、どこまでも続いている。
海 … 今日の海はとても穏やかだ … ときには、恐ろしい牙をむく海 … 人間を深い深い底に引きこむ海。溺れる … 溺れて … 海で溺れて … 溺れて … 溺れて …。
だめよ、思い出しちゃだめ … 考えちゃだめ!
なにもかも、終わったことじゃないの …。
(青木 久惠訳)
童謡「10人の子供の兵隊」の調べにのって、一人また一人と、招待客の8人と執事 / 料理人の夫婦が正体不明の何者かに殺害されていく。それに伴って、食堂のテーブルの上にある兵隊人形の数も減っていくのである。
彼らを兵隊島へ招待したオーウェン夫妻とは一体何者なのか?
オーウェン夫妻であるエリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)の名前を略すと、どちらも「U. N. Owen」、つまり、「UNKOWN(招正体不明の者)」となる。
オーウェン夫妻が正体不明の殺人犯で、残された人の中に居るのか?それとも、屋敷内のどこか、あるいは、兵隊島のどこかに隠れ潜んでいるのだろうか?
恐怖が満ちる中、また一人、残された人と兵隊人形が減っていくのであった。
この童謡は、マザーグースの一つとして分類されるが、大元の「Ten Little Nigger Boys」は、英国の作詞家フランク・グリーン(Frank Green)が1869年に翻案した作品である。
アガサ・クリスティーが1939年に「そして誰もいなくなった」を発表した時点での英語の原題は「Ten Little Niggers(10人の小さな黒んぼ)」で、作品中、これは非常に重要なファクターを占める童謡を暗示している。
ただし、「Nigger」という単語がアフリカ系アメリカ人に対する差別用語だったため、米国版のタイトルは「Ten Little Indians(10人の子供のインディアン)」に改題された。
それに伴い、
*島の名前: 黒人島(Nigger Island)→ インディアン島(Indian Island)
*童謡名: 10人の小さな黒んぼ(Ten Little Niggers)→ 10人の子供のインディアン(Ten Little Indians)
*人形名: 黒人人形 → インディアン人形
へと変更された。
近年、「インディアン」も差別用語と考えられているため、英米で発行されている「そして誰もいなくなった」のタイトルには、「And Then There Were None」が使用されている。「And Then There Were None」は、童謡の歌詞の最後の一文から採られている。
その結果、
*島の名前: インディアン島 → 兵隊島(Soldier Island)
*童謡名: 10人の子供のインディアン → 10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers)
*人形名: インディアン人形 → 兵隊人形
へという変遷を辿っているのである。














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