2023年4月20日木曜日

アガサ・クリスティー作「雲をつかむ死」<英国 TV ドラマ版>(Death in the Clouds by Agatha Christie )- その3

英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第32話(第4シリーズ)として、1992年1月12日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「雲をつかむ死(Death in the Clouds)」(1935年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、名探偵エルキュール・ポワロがパリ(Le Bourget Airfield)からロンドン(Croydon Airport)へと戻る飛行機の後部区画の搭乗客について、かなりの整理が行われている。


アガサ・クリスティーの原作の場合、ポワロが搭乗する飛行機の後部区画には、彼以外に、10名の搭乗客が居た。


(1)ダニエル・クランシー(Daniel Clancy - 推理作家)

(2)アルマン・デュポン(Armand Dupont - 考古学者)

(3)ジャン・デュポン(Jean Dupont - 考古学者アルマン・デュポンの息子)

(4)ノーマン・ゲイル(Norman Gale - 歯科医)

(5)ブライアント医師(Dr. Bryant - 耳鼻咽喉科医)

(6)マダム・ジゼル(Madame Giselle - フランス人の金貸し / 本名:マリー・モリソー(Marie Morisot))

(7)ジェイムズ・ライダー(James Ryder - セメント会社の支配人)

(8)シシリー・ホーバリー(Cicely Horbury - 伯爵夫人)

(9)ヴェニーシャ・カー(Venetia Kerr - 貴族の令嬢)

(10)ジェーン・グレイ(Jane Grey - 美容院の助手)


一方、英国 TV ドラマ版の場合、ポワロ以外の搭乗客は、以下のように整理されている。


(1)ダニエル・クランシー(推理作家)

(2)ジャン・デュポン(考古学者)

(3)ノーマン・ゲイル(歯科医)

(4)マダム・ジゼル(フランス人の金貸し)

(5)シシリー・ホーバリー(伯爵夫人)

(6)ヴェニーシャ・カー(貴族の令嬢)




パリからロンドンへと戻るために、
名探偵エルキュール・ポワロが搭乗した飛行機(Empire Airways)の後部区画座席表
<筆者が独自に作成>


上記の通り、ポワロ以外の搭乗客は、アガサ・クリスティーの原作の10名から6名へと減らされている。原作対比、英国 TV ドラマ版から減らされた登場人物は、「アルマン・デュポン」、「ブライアント医師」、「ジェイムズ・ライダー」と「ジェーン・グレイ」の4名である。

英国 TV ドラマ版の場合、アルマン・デュポンの息子であるジャン・デュポンが、父親の代わりに考古学者となっており、彼の父親は、1年前に亡くなったという設定になっている。ブライアント医師とジェイムズ・ライダーの2人は、物語において、大きな出番はないため、時間の関係上、割愛されたものと思われる。なお、ジェーン・グレイについては、既に述べた通り、乗客(美容院の助手)からは外されているが、原作のアルバート・ディヴィス(Albert Davis - セカンドステュワード)の代わりに、ステュワーデスとして登場している。


また、英国 TV ドラマ版に登場する人物についても、原作対比、以下のような差異が見受けられる。


(1)ダニエル・クランシー → 英国 TV ドラマ版の場合、ダニエル・クランシーは、自分が創り出した探偵「ウィルブラハム・ライス(Wilbraham Rice)」が、逆に、自分を支配しているという幻想を抱いている。一方、原作の場合、そのような記述はない。

(2)ジャン・デュポン → 原作の場合、物語の最後に、ポワロが、ジェーン・グレイと事件中に彼女に対して好意を抱いたジャン・デュポンを引き合わせる。一方、英国 TV ドラマ版の場合、そのような結末には至らない。ジャン・デュポンは、事件中に、ジェーン・グレイに対して、何度も接触するが、その目的は、彼女経由、ポワロに対して、自分の発掘調査の投資を引き出すためであった。

(3)ノーマン・ゲイル → 英国 TV ドラマ版の場合、物語の序盤、パリで開催されたテニスの試合(Roland Garros Paris)を観戦した後のバーにおいて、ノーマン・ゲイルは、ジェーン・グレイに対して、話し掛ける。その後、パリからロンドンへ戻る Empire Airways の飛行機でも一緒になり(ノーマン・ゲイルは搭乗客で、ジェーン・グレイはステュワーデス)、事件中も、ノーマン・ゲイルは、ジェーン・グレイに対して、積極的なアプローチを続ける。その結果、ジェーン・グレイも、ノーマン・ゲイルに対して、次第に恋愛感情を抱いていく。一方、原作の場合、そのような記述はなく、前述の通り、ジェーン・グレイに対して恋愛感情を抱くのは、ノーマン・グレイではなく、ジャン・デュポンである。

(4)マダム・ジゼル → 英国 TV ドラマ版の場合、借金で首がまわらないシシリー・ホーバリーと金貸しのマダム・ジゼルの間の確執について、事件発生前に、相当の時間が割かれている。一方、原作の場合、そのような記述はない。

(5)シシリー・ホーバリー → 同上。

(6)ヴェニーシャ・カー → 英国 TV ドラマ版の場合、ヴェニーシャ・カーは、シシリー・ホーバリー達と一緒に、パリのホテルに到着する場面、パリで開催されたテニスの試合を観戦する場面や観戦後のバーで歓談する場面等、事件発生前は、それなりの出番はあるものの、残念ながら、事件発生後は、出番が全くない。また、英国 TV ドラマ版の場合、ヴェニーシャ・カーがパリからロンドンへ向かう飛行機に搭乗した際、彼女は、最初から、シシリー・ホーバリーと向かい合う席に座っている。一方、原作の場合、飛行機に登場した際、ポワロが、ヴェニーシャ・カーに対して、自分の席を譲って、席を移動する記述が為されている。


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