2023年4月15日土曜日

ヴォーン・エントウィッスル作「スラックストンホールの亡霊」(The Revenant of Thraxton Hall by Vaughn Entwistle) - その4

英国の Titan Publishing Group Ltd. から2014年に出ている
ヴォーン・エントウィッスル作「スラックストンホールの亡霊」の表紙(一部)
(Images : Dreamstime / Funny Little Fish)-
画面右側の人物が、アーサー・コナン・ドイルで、
画面左側の人物が、彼の友人で、作家でもあるオスカー・ワイルド。

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)


本作品「スラックストンホールの亡霊 / サー・アーサー・コナン・ドイルの超常現象事件簿(The Revenant of Thraxton Hall / The Paranormal Casebook of Sir Arthur Conan Doyle)」は、アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1893年12月号に「最後の事件(The Final Problem → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)」を発表して、自分が創り出したシャーロック・ホームズを、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」こと、ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor Jame Moriarty)と一緒に、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)の底へと葬ったところから始まる。

実際、1893年は、アーサー・コナン・ドイルにとって、最悪の年で、彼の父で、スコットランド労務局測量士補だったチャールズ・アルタモント・ドイル(Charles Altamont Doyle)が、長年にわたる鬱病とアルコール中毒を経て、精神病院において死去していた。また、彼の妻のルイーズ(Louise)が結核に感染していることも判明したのである。

つまり、アーサー・コナン・ドイルがホームズシリーズの執筆を一旦断った時期で、かつ、彼の人生で最悪な時期に該る1894年3月に、彼が巻き込まれたのが、本作品の事件である。

また、アーサー・コナン・ドイルが後に傾倒していくことになる降霊術の話が、本作品の主題となっている。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


ロンドンの高級住宅街メイフェア地区(Mayfair)内にある「xxxxx クレッセント42番地(42 xxxxx Crescent)」で出会った謎の女性(レディー・ホープ・スラックストン(Lady Hope Thraxton))の命を救うために、

アーサー・コナン・ドイルは、友人で、かつ、同業者(作家)でもあるオスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)と一緒に、ランカシャー州(Lancashire)に所在するスラックストンホール(Thraxton Hall)へと向かう。そして、二人は、現地において、「心霊現象研究協会(SPR : Society for Psychical Research)」のメンバー達と出会い、彼らの中に居ると思われるレディー・ホープ・スラックストンの命を狙っている犯人を探る。

本書は、全部で約350ページ位で、アーサー・コナン・ドイルとオスカー・ワイルドの二人がランカシャー州のスラックストンホールへと向かうのが、70ページ弱辺りである。そこから、降霊術会(seance)において、レディー・ホープ・スラックストンの命が狙われる300ページ過ぎまで、ある人物が亡くなるものの、基本的に、大きな展開はない。アーサー・コナン・ドイルとオスカー・ワイルドの二人が、心霊現象研究協会の各メンバーを調べていく話が進むが、200ページ以上にわたり、大きな展開がない話を読み進めていくのは、なかなか厳しい。


ナショナルポートレートギャラリー
(National Portrait Gallery)で販売されている
オスカー・ワイルドの写真の葉書
(Napoleon Sarony / 1882年 / Albumen panel card
305 mm x 184 mm) 


(3)アーサー・コナン・ドイル / オスカー・ワイルドの活躍について ☆☆☆(3.0)


アーサー・コナン・ドイルとオスカー・ワイルドの二人は、シャーロック・ホームズのような事件捜査の専門家ではないため、ランカシャー州のスラックストンホールにおいて、レディー・ホープ・スラックストンの命を狙っている犯人が居ると思われる心霊現象研究協会の各メンバーを調べていくものの、大きな進展はなかなかしない。

時々、ホームズの幻がアーサー・コナン・ドイルの前に姿を見せて、事件捜査の方向性について、指南を与える。この部分があるので、少し加点して居る。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)


アーサー・コナン・ドイルがホームズシリーズの執筆を一旦断った時期に巻き込まれることになった事件と言うことで、彼が後にホームズシリーズを再開する展開へと繋がる話も出てくるのかと言うやや過剰な期待感もあって、本作品を読んだものの、残念ながら、実際のところ、そこまでの深い展開はなかった。ただし、作者のヴォーン・エントウィッスル(Vaughn Entwistle)は、アーサー・コナン・ドイルとオスカー・ワイルドの二人を主人公にした第2作目以降を執筆する計画をしていたのか、それを予想させるエンディングにはなっている。

ホームズの幻からアーサー・コナン・ドイルへの「さあ、ゲームの始まりだ。(The game is afoot.)」と言う語りかけにより、本作品は本格的に始まり、そして、アーサー・コナン・ドイルから自分自身への「さあ、ゲームの始まりだ。」と言う語りかけで、本作品は終わりを迎える。最終章(第32章)の1つ前の章(第31章)のタイトルである「A STEP TO THE LIGHT」も、そういった展開を暗示している。


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