2023年4月30日日曜日

綾辻行人作「水車館の殺人」<小説版>(The Mill House Murders by Yukito Ayatsuji ) - その1

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2023年に刊行されている
Pushkin Vertigo シリーズの一つである
綾辻行人作「水車館の殺人」の英訳版の表紙
(Cover design by Jo Walker /
Cover image by Marcelo Eduardo)

「水車館の殺人(The Mill House Murders)」は、日本の小説家 / 推理作家である綾辻行人(Yukito Ayatsuji:1960年ー)が発表した長編推理小説で、作家デビュー作の「十角館の殺人(The Decagon House Murders → 2023年2月21日 / 2月25日 / 3月9日 / 3月18日付ブログで紹介済)」に続く「館シリーズ」の第2作目に該る。


「水車館の殺人」は、1988年2月5日、講談社の講談社ノベルスとして出版された後、1992年3月15日に文庫化(講談社文庫)され、そして、2008年4月15日に、文庫の新装改訂版が出ている。


英国では、プーシキン出版(Pushkin Press)から、2023年3月末に英訳版が出版されている。

なお、プーシキン出版からは、本作品以外に、日本の推理作家である横溝正史(1902年ー1981年)による金田一耕助シリーズ作品や日本の推理小説家 / 小説家である島田荘司氏(1948年ー)による御手洗潔シリーズ作品等の英訳版も出ている。


中国地方の岡山県北部の人里離れた山奥に建つ古城を思わせる異形の屋敷「水車館(Mill House)」。

それは、「幻視者(prodigious visionary painter)」と呼ばれた画家の藤沼一成(Issei Fujinuma:故人)の依頼に基づき、建築家の中村青司(Seiji Nakamura)が設計した屋敷である。


1985年9月20日の早朝、九州S半島J岬の沖合いに浮かぶ角島(Tsunojima)において、中村青司が住む「青屋敷(Blue Mansion - 中村青司自身が設計)」が全焼するという事件が発生。「青屋敷」の焼け跡から、中村青司、彼の妻である中村和枝(Kazue Nakamura)、そして、住み込みの使用人である北村夫妻と思われる計4名の遺体が発見されたため、凄惨な四重殺人事件と言われた。

その半年後、角島を訪れた大分県O市K大学の推理小説研究会(Mystery Club)の一行が、火災から免れた十角形という奇妙なデザインの「十角館(Decagon House)」において、全員が殺害されるという事件も発生するのであった。


藤沼一成息子である藤沼紀一(Kiichi Fujinuma)は、父親とは違って、絵の才能が全くないことを覚り、大学で経済学を専攻すると、卒業後は、藤沼家の莫大な財産を使い、不動産業を始め、大成功を収めていた。


悲劇は、12年前の1973年のクリスマスイヴ(12月24日)の夜に起きた。

神戸にある藤沼家の屋敷に行われたパーティーの後、藤沼紀一は、大学の後輩で、友人でもある正木慎吾(Shingo Masaki)と正木の婚約者の二人を、車で送って行った際、凍った路面にハンドルをとられて、大事故を起こしてしまう。

車を運転していた藤沼紀一は、その事故で顔と手足に大怪我を負ってしまい、車椅子生活を余儀なくされた。また、顔に負った酷い傷を隠すために、白いゴムの仮面をつける羽目となった。

一方、正木慎吾は、奇跡的に、身体的には無傷だったが、不幸なことに、彼の婚約者は即死だった。

当時、正木慎吾は、藤沼紀一の父親である藤沼一成に師事し、将来を期待された画家であったが、この事故がもとで、筆を擱くと、行方不明となってしまう。


父親の藤沼一成の弟子である柴垣浩一郎(Koichiro Shibagaki)が病気で亡くなった際、藤沼紀一は、幼少だった娘の柴垣由里絵(Yurie Shibagaki)を引き取り、自分が営んでいた不動産業を全て処分すると、由里絵を伴い、水車館へと隠棲した。また、父親の藤沼一成が残した莫大な遺産を使い、藤沼紀一は、父親の絵画をほとんど買い戻して、水車館内に飾った。

美術マニアにとって、藤沼一成の絵画は垂涎の的であり、誰もが鑑賞したがったが、美術マニアの期待に反して、藤沼紀一は、父親の絵画を非公開としてしまい、水車館を訪れて、藤沼一成が残した絵画を鑑賞できる人は、非常に限定的だった。


その後、長じた柴垣由里絵は、藤沼紀一と結婚して、藤沼由里絵(Yurie Fujinuma)となった。


そして、12年の時が経過した1985年9月28日。

藤沼紀一の妻となった由里絵は、19歳となっていた(翌年の春には、20歳を迎える予定)。

今日は、年1回、藤沼紀一が、非常に限定した人達に対して、父親の藤沼一成が残した絵画を公開する日だった。


その日、水車館において、最初の惨劇が幕を開ける。 


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