アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1938年に発表した「ポワロのクリスマス(Hercule Poirot’s Christmas - 彼女が執筆した長編としては、第24作目に、そして、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては、第17作目に該る)」の場合、序文に彼女から義兄のジェイムズ(James)に対する献辞があるが、イングランドの劇作家 / 詩人であるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare:1564年ー1616年 → 2023年5月19日付ブログで紹介済)による戯曲「マクベス(Macbeth)」の有名なセリフである
“Yet who would have thought the old man to have had so much blood in him?”
「あの老人にこんなにたくさんの血があったなどと、誰が考えたことでしょう?」
が、その序文の前に掲げられている。
このように、有名な文章や詩作を引用して、小説の最初に掲げたものを「エピグラフ(epigraph)」と呼び、通常、物語の内容を暗示したり、あるいは、物語のテーマに繋がるような文章や詩作が使用されている。
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英国の HarperCollinsPublishers 社から以前に出版されていた アガサ・クリスティー作「ポワロのクリスマス」のペーパーバック版の表紙 -ゴーストンホールの2階の「密室」状態の自室において、 喉を切り裂かれて惨殺された当主のシメオン・リーを暗示するように、 彼の部屋のドアが表紙に描かれている。 |
アドルスフィールドのロングデイルにある屋敷ゴーストンホールの当主で、大富豪の老人であるシメオン・リー( Simeon Lee - 冷酷で横暴な性格)が、クリスマスに、不仲となって、方々に住んでいる自分の家族全員をゴーストンホールに呼び集めた上、彼らを色々と動揺させて楽しむと言う新しい気晴らしを思い付く。
ところが、クリスマスイヴの日(12月24日)に、自室において、自分が惨殺されてしまう。
シメオン・リーの惨殺死体を発見した家族の一人であるリディア・リー(Lydia Lee - シメオン・リーの長男アルフレッド・リー(Alfred Lee)の妻)が、その場において、思わず、この有名なセリフを口走るのである。
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| ナショナルポートレートギャラリー (National Portrait Gallery)で販売されている ウィリアム・シェイクスピアの肖像画の葉書 (Associated with John Taylor / 1610年頃 / Oil on panel 552 mm x 438 mm) |
ウィリアム・シェイクスピア作の悲劇「マクベス」(1606年)は、全5幕で構成されている。
「マクベス」は、実在したスコットランド王のマクベス(Macbeth 在位期間:1040年-1057年)をモデルにしていると考えられている。
「マクベス」は、「ハムレット(Hamlet)」(1600年ー1601年)、「オセロー(Othello)」(1603年ー1604年)、そして、「リア王(King Lear)」(1605年ー1606年)と並ぶウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の一つで、その中では最も短い作品である。
「マクベス」については、1611年4月にグローブ座(Globe Theatre → 2023年5月8日付ブログで紹介済)で上演されたのが、現存する最古の記録となっている。
<第1幕>
スコットランド軍は、反乱軍とノルウェー軍の連合軍を打ち破り、大勝利を挙げる。
スコットランドの将軍であるマクベス(Macbeth - グラミスの領主(Thane of Glamis))とバンクォー(Banquo)が、スコットランド国王ダンカン(Duncan)の陣営へと戻る途中、荒野において、3人の魔女(Three Witches)に出会う。魔女達は、マクベスに対して、「コーダーの領主(Thane of Cawdor)」、そして、「いずれ、王となるお方」と呼びかける一方、バンクォーに対しては、「あなたは王にはなれないが、あなたの子孫が王になる。」と予言すると、姿を消す。
すると、そこにダンカン国王の使者が到着して、武勲により、マクベスがコーダーの領主に任ぜられたことを伝えた。マクベスとバンクォーの2人は、魔女の予言通りになったことに驚く。そして、マクベスは、心の中で、王となると言う予言も現実となるのではないかと、秘かに希望を膨らませる。
陣営へと戻ったマクベスとバンクォーに対して、ダンカン国王は、2人の功績を讃えるが、自分の長男である王子マルカム(Malcolm)を王位継承者に定める。それを聞いたマクベスは、魔女達の予言の実現を危ぶみ、ある決意をするのであった。
<第2幕>
夫から魔女達の予言の話を聞いたマクベス夫人(Lady Macbeth)に唆されたマクベスは、ダンカン国王の暗殺を企てる。
マクベス夫人が、ダンカン国王の部屋付きの従者達に対して、薬を入れた酒を飲ませて、眠らせた後、マクベスが、ダンカン国王を短剣で殺害する。
翌朝、ダンカン国王の死体が発見されると、その混乱に乗じて、マクベスは、部屋付きの従者達を斬殺し、その口を封じた上で、彼らをダンカン国王の殺害犯だと報告した。
父王を殺されて、自分の命も危ういと恐れた長男のマルカム王子はイングランドへ、そして、次男のドナルベイン王子(Dobalbain)はアイルランドへと逃亡する。その結果、ダンカン国王を殺害した真の犯人の嫌疑が逃亡した2人の王子にふりかかることになり、マクベスが次のスコットランド国王に指名されるのであった。
<第3幕>
魔女達の予言通り、スコットランド国王の座に就いたマクベスであったが、魔女達がバンクォーに告げた予言が実現することを恐れ、バンクォーと彼の息子であるフリーアンス(Fleance)に対して、暗殺者を放った。バンクォーは暗殺できたものの、フリーアンスは取り逃がしてしまう。
貴族達との宴会の席において、その報告を聞いたマクベスは、ふと見ると、バンクォーの亡霊も宴会に列席していることに気付き、恐怖する。そして、夫を唆して、ダンカン国王を殺害させたマクベス夫人も、次第に不安に苛まれて行くのであった。
こうして、グラミスの領主で、将軍のマクベスが、妻と謀り、主君であるダンカン国王を暗殺して、王位に就いたものの、魔女達による予言の内容を恐れ、次第に錯乱して、暴君化する。
そして、最後は、マクベスは、イングランドへと亡命したために、妻子を殺害されたファイフの領主(Thane of Fife)であるマクダフ(Macduff)と父王を殺害されたマルカム王子による復讐劇により、命を失うのである。
「マクベス」において、「あの老人にこんなにたくさんの血があったなどと、誰が考えたことでしょう?」と言う有名なセリフは、マクベス夫人が発しているため、「ポワロのクリスマス」においても、女性であるリディア・リー(シメオン・リーの長男アルフレッド・リーの妻)に割り振られたものと思われる。






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