英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から 2024年に刊行されている Pushkin Vertigo シリーズの一つである 高木彬光作「能面殺人事件」の裏表紙 (Cover design by Jo Walker) |
日本の推理作家である高木彬光(Akimitsu Takagi:1920年ー1995年)によるデビュー長編推理小説で、神津恭介(Kyosuke Kamizu)シリーズの第1作目に該る「刺青殺人事件(The Tattoo Murder → 2024年4月21日 / 4月23日 / 4月25日付でブログで紹介済)」(1948年)に続く長編推理小説の第2作である「能面殺人事件(The Noh Mask Murder)」は、第二次世界大戦(1939年-1945年)/ 太平洋戦争(1941年-1945年)直後の1946年(昭和21年)8月下旬、神奈川県の三浦半島にある海水浴場において、作者と同じ名前である高木彬光(Akimitsu Takagi)が、高校時代の友人である柳光一(Koichi Yanagi)に再会したところから、物語が始まる。
第二次世界大戦 / 太平洋戦争中、高木彬光は、大学卒業後、軍需会社の技師をしており、今は探偵小説家を志望していた。一方、柳光一は、大学理学部化学科を卒業した後、ビルマに出征しており、最近、日本へ復員したばかりだった。住居や仕事がない柳光一は、名家である千鶴井(Chizui)家に居候していた。
再会を喜ぶ高木彬光に対して、柳光一は、ある依頼をし始める。
物語は、少し遡る。
千鶴井家に居候する柳光一は、石狩弘之(Hiroyuki Ishikari)にも再会していた。
石狩弘之は、柳光一の父親である柳源一郎(Genichiro Yanagi - 故人)の友人で、現在は、横浜地方検察庁(Yokohama District Prosecutor’s Office)の次席検事を務めていた。
再会の夜を楽しんだ柳光一と石狩検事の2人が千鶴井家の屋敷へ歩いて戻って来ると、屋敷の2階から千鶴井緋紗子(Hisako Chizui)が弾くピアノの音色が聞こえてきた。すると、鬼女(般若)の面を付けた謎の人物が、突然、屋敷の2階の窓から顔を突き出す現場を目撃するのであった。
鬼女(般若)の面は、千鶴井家に秘蔵されている面で、能楽師である宝生源之丞(Gennojo Hosho)の呪詛を宿したと言われる曰く付きのものだった。
鬼女(般若)の面を付けた謎の人物が姿を見せたことに、犯罪の前兆を感じた石狩検事は、柳光一に依頼して、屋敷の主人である千鶴井泰次郎(Taijiro Chizui)に面会すると、今さっき目撃したことを話す。
実は、千鶴井家の当主は、長男である千鶴井壮一郎(Soichiro Chizui)であった。千鶴井壮一郎は、大学の教授で、世界的な放射能化学の権威であったが、実験中、ガラスのフラスコが爆発し、フラスコの破片を上半身に浴びると言う事故が発生して、寝たきりの状態になってしまった。その後、彼は、心臓麻痺により、死去。それは、10年前のことだった。
それが原因なのか、彼の妻である千鶴井香代子(Kayoko Chizui)は、精神に異常をきたして、現在も、荻窪(Ogikubo)にある精神病院に入院中だった。
長女である千鶴井緋紗子(27歳 / A 型)は、千鶴井香代子から遺伝のためか、現在は、狂人となっている。
また、千鶴井賢吉(Kenkichi Chizui - 14歳 / A 型)は、強度の心臓弁膜症のため、明日もしれぬ状態だった。
千鶴井壮一郎の弟である千鶴井泰次郎の一家は、東京空襲により、自分の屋敷から焼け出されて、神奈川県の三浦半島へと疎開しており、この混乱に乗じて、千鶴井家を乗っ取り、現当主の座におさまったのである。
柳光一は、父親の柳源一郎を亡くした後、千鶴井壮一郎が保証人になってもらったことに恩義を感じており、また、出征前、千鶴井緋紗子の家庭教師をしていたこともあって、千鶴井緋紗子と千鶴井賢吉の世話をするために、千鶴井家の居候となっていたのだった。
千鶴井泰次郎に面会して、鬼女(般若)の面を付けた謎の人物を目撃したことを話した翌日、石狩検事は、柳光一に対して、これから起きる可能性が高い事件の解明について、後々役立つように、気が付いたことを全て手記に残すよう、依頼したのである。
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