英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から 2009年に出版された マンリー・ウェイド・ウェルマン / ウェイド・ウェルマン共作 「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 宇宙戦争」の表紙(部分) |
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆半(2.5)
本作品は、シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝と同時代の1898年に英国の作家であるハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells:1866年ー1946年)が発表した SF 小説「宇宙戦争(The War of the Worlds)」を設定として使用しているため、時代背景はうまくリンクしている。
人間の常識や科学を超えているとは言え、ドラキュラ伯爵(Count Dracula)、ジキル博士 / ハイド氏(Dr. Jekyll & Mr. Hyde)やドリアン・グレイ(Dorian Gray)がホームズと対決するのは、個人的には、許容範囲内であると言える。何故ならば、基本的に、読者が求めるのは、ホームズと相手の間の知的な闘いであり、ドラキュラ伯爵、ジキル博士 / ハイド氏やドリアン・グレイであれば、それが可能だからである。
一方、ホームズが闘う相手が火星人(厳密に言うと、本作品では、「外宇宙から飛来した異星人」と設定)となった場合、物語の内容次第では面白くなるのかもしれないが、ホームズと相手の間で知的な闘いができる余地がほとんど発生せず、ストーリー的には、かなり無理があるように思えてしまう。
(2)物語の展開について ☆☆(2.0)
H・G・ウェルズが執筆した「宇宙戦争」の前日譚である「水晶の卵(The Crystal Egg)」を物語の導入部にうまく取り入れたり、水晶の卵を取り返すために、異星人がベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)に侵入してきたりと、所々、物語を盛り上げる要素はある。
一方で、本作品の主役を務めるホームズやジョージ・エドワード・チャレンジャー教授(Professor George Edward Challenger)達によるロンドン脱出行に、ストーリー全体の約 2/5 に該る約100ページが割かれているため、中弛み感が強い。
また、物語の最終部分に、本来のストーリーとは直接関係がない事件がやや唐突に付け加えられていることもあり、少しばかり欲張った感が強く、やや食傷気味と言える。実際のところ、ホームズと異星人の間で知的な闘いを展開することが非常に難しい関係上、推理小説的な意味合いで、それまでの間、活躍することができなかったホームズに対して、著者であるマンリー・ウェイド・ウェルマン(Manly Wade Wellman:1903年ー1986年)と息子のウェイド・ウェルマン(Wade Wellman)は、物語の最後に活躍の場を与えたかったのかもしれない。
(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆半(1.5)
ホームズと言えども、所詮は人間であり、外宇宙から飛来した異星人と闘わせるのは、正直ベース、酷な話であり、無理があると言える。
ましてや、異星人は周囲を一瞬で焼き払うことができる熱線を武器にしており、更に、ロンドンを含む英国内では、異星人の戦闘機械(Tripod)が動きまわっているのである。
非常に優秀で、高い推理能力を有しているとは言え、ホームズが異星人相手に活躍できる余地はほとんどなく、とても気の毒である。
(4)総合評価 ☆☆(2.0)
本作品の場合、H・G・ウェルズの原作に比べて、異星人による地球征服計画が途中で頓挫した原因がより論理的に説明されている点は、評価できる。
著者のマンリー・ウェイド・ウェルマンと息子のウェイド・ウェルマンは頑張って執筆したのかもしれないが、ホームズやチャレンジャー教授達によるロンドン脱出行が長過ぎると言う印象を拭いきれず、物語があまり盛り上がらない。
また、物語の最終部分に、本来のストーリーとは直接関係がない事件を組み入れる等、いろいろと欲張り過ぎたために、物語がうまく着地できていないと言う印象が強い。
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