2024年5月3日金曜日

横溝正史作「犬神家の一族」(The Inugami Curse by Seishi Yokomizo)- その4

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2020年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「犬神家の一族」の内扉
(Cover design by Anna Morrison)


194x年(昭和2x年)の2月、那須(Nasu)湖畔の本宅において、信州財界の大物(one of the leading businessmen of the Shinshu region)である犬神佐兵衛(Sahei Inugami)が、81歳の生涯を終えた。

犬神佐兵衛は、裸一貫の身から事業を興して、犬神グループ(Inugami Group)を創設すると、グループの中核となる製糸業で、莫大な資産を築き、日本の生糸王(Silk King of Japan)と称されるまでになっていた。


同年の10月18日、私立探偵(private investigator)の金田一耕助(Kosuke Kindachi)が、東京から那須湖畔を訪れた。

彼が那須湖畔を訪れたのは、古館法律事務所(Furudate Law Office)に勤務する若林豊一郎(Toyoichiro Wakabayashi)から、「近いうちに、犬神家に容易ならざる事態が起きそうだ。そこで、那須へ来て、調査してほしい。そして、容易ならざる事態をなんとか未然に防いでほしい。」と書かれた手紙を受け取ったからである。


那須ホテル(Nasu Inn)に宿泊した金田一耕助は、早速、電話で若林豊一郎に連絡をとったが、湖へと漕ぎ出した野々宮珠世(Tamayo Nonomiya - 那須神社の神官で、犬神佐兵衛が終生の恩人と慕う野々宮大弐(Daini Nonomiya)の孫)が乗るボートが突然沈み始めるのを目撃し、慌てて湖畔へと駆け出す。

そして、金田一耕助が、野々宮珠世の身辺の世話役で、護衛も務める下男の猿増(Saruzo)と一緒に、沈むボートから彼女を救出した後、那須ホテルへ戻ったところ、彼に仕事を依頼してきた古館法律事務所の若林豊一郎が、何者かによって毒殺されていたのだ。


那須ホテルへと駆け付けた古館法律事務所の所長である古館恭三(Kyozo Furudate)によると、若林豊一郎が犬神家の誰かに買収されて、古館法律事務所の金庫に保管している犬神佐兵衛の遺言状を盗み見て、買収者にその内容を知らせていたようだった。

部下の若林豊一郎が心配していた通り、犬神家に容易ならざる事態が起きる可能性を懸念した古館恭三は、金田一耕助に、犬神佐兵衛の遺言状の公開の場に立ち会うように依頼するのであった。


同年の11月1日、犬神佐兵衛の長女である犬神松子(Matsuko Inugami)の一人息子で、第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年ー1945年)に出征していた犬神佐清(Sukekiyo Inugami)が、戦地のビルマ(Burma)から、遂に復員した。

驚くことに、犬神佐清は、ビルマでの戦いの際、顔に大怪我を負ったため、負傷した顔を隠すべく、ゴムマスクを被った姿で、母親の松子と一緒に、那須湖畔の本宅へと戻って来たのである。


犬神佐清が復員したことを受け、犬神家の顧問弁護士(Inugami clan’s attorney)である古館恭三は、金田一耕助の立ち会いの下、犬神佐兵衛の遺言状を公開した。

犬神佐兵衛が残した遺言状は、


*全相続権を示す犬神家の家宝である「斧(よき)」・「琴(こと)」・「菊(きく)」の3つを、犬神佐兵衛の終生の恩人である野々宮大弐の孫娘である野々宮珠世が、犬神佐兵衛の孫である犬神佐清、犬神佐武(Suketake Inugami - 次女の犬神竹子(Takeko Inugami)の息子)、そして、犬神佐智(Suketomo Inugami - 三女の犬神梅子(Umeko Inugami)の息子)の3人の中から配偶者を選ぶことを条件に、彼女に与える。

*野々宮珠世が、3人の中から配偶者を選ばず、相続権を失った場合、または、3人の中から配偶者を選ぶ前に、死亡した場合、犬神家の全財産は5等分され、犬神佐清、犬神佐武、そして、犬神佐智の3人がそれぞれ 1 / 5 ずつを相続し、残りの 2 / 5 については、犬神佐兵衛の愛人である青沼菊乃(Kikuno Aonuma)の息子の青沼静馬(Shizuma Aonuma)が相続する。


と言う内容だった。


古館恭三によって公開された犬神佐兵衛の遺言状の内容を聞いた長女の犬神松子、次女の犬神竹子、そして、三女の犬神梅子の憎悪と怒りは、頂点に達した。

以前から、3姉妹の家族同士の折り合いは、あまり良くなく、お互いが常に反目し合っていたが、犬神佐兵衛の遺言状の公開を受けて、3姉妹の仲は更に険悪となり、野々宮珠世の関心を得ようと、躍起になったのである。

また、本物の犬神佐清は、実は既に戦死していて、ゴムマスクを被った犬神佐清は、偽者ではないのかと言う嫌疑をかけられ、出征前に那須神社に奉納した手形(指紋)との照合を迫られるが、母親の犬神松子がこれを拒否した。


犬神佐清が那須湖畔の本宅へと戻って来て、半月が経過した同年の11月15日、次女の犬神竹子の息子である犬神佐武は、犬神佐清の手形合わせの件で呼び出された野々宮珠世に対して、強引に関係を迫るが、そこへ駆け付けた猿蔵に妨害されて、未遂に終わった。その後、犬神佐武は、何者かに惨殺され、その生首が「菊」人形として飾られると言う事件が発生する。


更に、三女の犬神梅子の息子である犬神佐智が、野々宮珠世を薬で眠らせて襲い、既成事実をつくろうとしたが、顔を隠した復員服の男に妨害され、その男から電話連絡を受けた猿蔵が野々宮珠世を救出して、失敗に終わった。その後、犬神佐智は、何者によって、「琴」の糸で首を絞められて殺害された。


野々宮珠世が相続する予定の犬神家の財産を狙う求婚者が2人、殺害されると言う事件が続いたのである。


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