![]() |
日本の出版社である東京創元社から創元推理文庫として出版された ジョン・ディクスン・カー作「死時計」の裏表紙 カバーイラスト:山田 雅史 |
9月4日、風が吹くひんやりした夜の12時近く、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)と歴史学者であるメルスン教授(Professor Melson)の2人は、劇場で映画を観た後、リンカーンズ・イン・フィールズ(Lincoln’s Inn Fileds → 2016年7月3日付ブログで紹介済)へと戻る途中だった。
ギディオン・フェル博士から、
(1)1週間程前にガムリッジデパートの貴金属宝石売場において発生した事件(女性の万引き犯による売場監督の殺害+懐中時計の盗難)のこと
(2)万引き犯の女性がガムリッジデパートの貴金属宝石売場から盗んだ懐中時計は、有名な時計師(clockmaker)であるジョハナス・カーヴァー(Johannus Carver)が所蔵していたものであること
(3)時計師のジョハナス・カーヴァーは、リンカーンズ・イン・フィールズ16番地(16 Lincoln’s Inn Fields)に住んでおり、それは、メルスン教授の宿であるリンカーンズ・イン・フィールズ15番地(15 Lincoln’s Inn Fields)の隣りの建物であること
を知らされたメルスン教授は、言葉を失う。
我に戻ったメルスン教授は、ギディオン・フェル博士に対して、今朝の出来事を話し出す。
メルスン教授は、朝食後の午前9時頃、外へ出ると、ベンチに腰かけて、タバコをふかしていた。
すると、ジョハナス・カーヴァーの家のドアが開いて、家政婦のミセス・ゴースンが怖い顔をして階段を降りて来ると、舗道を歩いて来た警官に対して、泥棒に押し入れられたと訴えた。
ミセス・ゴースンによると、ジョハナス・カーヴァーは、個人的な知り合いである貴族からの依頼を受けて、田舎の本邸の塔にはめ込む大時計を製作している最中、とのこと。昨夜、その時計が漸く出来上がったので、ジョハナス・カーヴァーが塗料を塗り、乾かすために、奥の部屋に置いたのだが、何者かが家に押し入り、その時計の針を外して、盗み去ったのである。
後から、ジョハナス・カーヴァーの養女であるエリナー・カーヴァー(Eleanor Carver)が出て来た。そして、「多分、悪戯だろう。」と言って、ミセス・ゴースンを宥めると、エリナー・カーヴァーは彼女を連れて、家の中へ戻って行った。なお、ジョハナス・カーヴァー本人は、姿を見せなかった。
ギディオン・フェル博士とメルスン教授の2人は、リンカーンズ・イン・フィールズの北側へ出た。
2人がジョン・ソーン博物館(Sir John Soane’s Museum - 現在の住所:リンカーンズ・イン・フィールズ12-14番地 / 12 - 14 Linclon’s Inn Fields)の手前まで歩いて来ると、その隣りは、メルスン教授の宿であるリンカーンズ・イン・フィールズ15番地で、更にその向こうは、時計師のジョハナス・カーヴァーの家であるリンカーンズ・イン・フィールズ16番地だった。
その時、ギディオン・フェル博士が、ジョハナス・カーヴァーの家の玄関のドアが空いているのに気付いた。また、メルスン教授は、家の真ん前の木の下に、ひときわ黒い影を見てとった。問題の家から呻き叫ぶ声が聞こえると、木の下の人影がその場を離れると、家の玄関前の石段を上がって行った。その人物の頭に、警官のヘルメットが黒く浮かび上がるのを見て、メルスン教授は思わずホッとした。
ギディオン・フェル博士が、その警官に追い付くと、彼は、スコットランドヤードのディヴィッド・ハドリー主任警部(Chief Inspector David Hadley)の部下であるピアスだった。
ギディオン・フェル博士、メルスン教授とピアス警官の3人が、ジョハナス・カーヴァーの家の玄関ホールに入ると、奥に一続きの階段があり、2階から射している明かりが階段下まで届いていた。3人が階段を上がり、2階の奥にある両開きのドアへと向かった。
その部屋では、2人の人間が入口の敷居を見つめており、もう一人は椅子に座って両手で頭をかかえていた。更に。その敷居のところには、一人の男が右脇をやや下にして仰向けに倒れていた。
最初の2人は、ジョハナス・カーヴァーの養女であるエリナー・カーヴァーとカーヴァー家の同居人であるカルヴィン・ボスコーム(Calvin Boscombe)で、カルヴィン・ボスコームは手にピストルを持っていた。
椅子に座って両手で頭をかかえていたのは、カルヴィン・ボスコームの友人で、スコットランドヤード犯罪捜査部(CID)の元主任警部(former Chief Inspector)であるピーター・E・スタンリー(Peter E. Stanley)だった。
そして、敷居のところに倒れていた男は、ピストルで撃たれた訳ではなく、背後から喉を貫き、胸の中へ突き刺されて殺されていた。被害者の体から突き出ている凶器を見たギディオン・フェル博士は、ジョハナス・カーヴァーがある貴族のために製作していた大時計から盗まれた長針だと推測する。
更に、驚くことに、後に判明した被害者の身元は、なんと、ガムリッジデパートの貴金属宝石売場において発生した事件を担当していたジョージ・フィンリー・エイムズ警部(Detecive-Inspector George Finley Ames)だったのである。
非常に不可思議な事件だと言えた。
一体、今夜、ジョハナス・カーヴァーの家の2階において、どういった出来事が起こったのか?
被害者であるジョージ・フィンリー・エイムズ警部は、ジョハナス・カーヴァーが製作していた大時計の長針で刺殺されていたにもかかわらず、何故、カルヴィン・ボスコームはピストルを手にして立っていたのか?
更に、ガムリッジデパートの貴金属宝石売場において発生した事件と今夜ジョハナス・カーヴァーの家の2階で発生したジョージ・フィンリー・エイムズ警部刺殺事件は、どのように結び付くのだろうか?

0 件のコメント:
コメントを投稿