サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「瀕死の探偵(The Dying Detective)」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、43番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1913年12月号に、また、米国の「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1913年11月22日号に掲載された。
同作品は、1917年に発行されたホームズシリーズの第4短編集「シャーロック・ホームズ最後の挨拶(His Last Bow)」に収録されている。
ジョン・H・ワトスンが結婚し、シャーロック・ホームズとの共同生活を解消してから、2年が経過していた。
11月の霧がかかって薄暗い午後、ベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)が、ワトスンの家を訪れる。
ハドスン夫人曰く、ホームズが何か訳の分からない病に罹患して、「ここ3日間でどんどん衰弱して、瀕死の状態なのだ(’He’s dying, Dr Watson.’)。」と言う。更に、今朝、ハドスン夫人が「ホームズさんの許可があろうとなかろうと、今直ぐ、医者を呼びに行く。」と告げると、ホームズは、「それじゃ、ワトスンを呼んでくれ。」と答えたのだった。
ハドスン夫人からの話を聞いたワトスンは、急いでコートと帽子を身に着けると、ハドスン夫人と一緒に、馬車でベーカーストリート221B へと向かった。
ベーカーストリート221B へと向かう馬車の中で、ワトスンは、ハドスン夫人に詳しい事情を尋ねる。
ハドスン夫人によると、ホームズは、ある事件のため、テムズ河(River Thames)南岸のロザーハイズ(Rotherhithe)へ出かけ、そこで病気を移されて、帰って来たらしい。そして、ホームズは、水曜日の午後から寝たきりで、この3日間、食事も飲み物もとっていないのだった。
午後4時頃、ベーカーストリート221B に着いたワトスンは、ホームズの様子を見て、愕然とする。
ベッドに横たわるホームズの顔は、痩せ衰えており、熱で目はぎらぎらとして、頬も紅潮していた。更に、ベッドカバーの上に置かれた細い手は、ひっきりなしに痙攣していたのである。
ワトスンがベッドに近寄ろうとすると、ホームズは、「下がれ!直ぐに下がれ!(Stand back! Stand right back!)」と言って、恐ろしい形相で制止する。
ホームズによると、自分が罹患した病気は、船乗りから感染したスマトラ島(Sumatra)のクーリー病(coolie disease)で、接触感染する、とのことだった。
ホームズの制止に構わず、ワトスンは診察しようとするが、ホームズは、「君は、ただの一般開業医だ。非常に限られた経験とありふれた能力しかない。」と強く拒絶した。ワトスンは、「熱帯病に詳しい医師を連れて来る。」と提案したが、ホームズは、この提案も受け入れなかった。
更に、ホームズは、ワトスンに対して、奇妙なことを言い出す。「午後6時になったら、自分が指定する人物をここに呼んで来てほしい。」と言い張るのだ。
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英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、 2022年に発行されたシャーロック・ホームズをテーマにしたトランプのうち、 「3 ♠️ 象牙の箱」 |
やつれ果てたホームズの姿を見て、落ち着かないワトスンは、ホームズの部屋の中をうろつき回る。
そして、ワトスンが、暖炉の上に散らかっているガラクタの中から、横にスライドして開ける蓋が付いた小さな白黒の象牙の箱(a small black and white ivory box with a sliding lid)を手に取ったところ、ホームズが絶叫した。「それを下ろせ!ワトスン、今直ぐ下ろすんだ!今直ぐに、と言っているだろう!(Put it down! Down, this instant, Watson - this instant, I say!)」と。ホームズの叫び声を聞いたワトスンは、呆然としてしまう。
暫くすると、ホームズは、ワトスンに対して、「ロウワーバークストリート13番地(13 Lower Burke Street → 2015年5月9日付ブログで紹介済)に住むカルヴァートン・スミス(Culverton Smith)を連れて来てほしい。」と頼む。
ホームズによると、「カルヴァートン・スミスは、医者ではなく、農場主(planter)ではあるが、自分が罹患した病気に詳しい唯一の人物。」とのこと。また、「恐ろしい死に方をした甥の殺害の嫌疑をかけたため、カルヴァートン・スミスは、自分をひどく恨んでいるが、どんな手段を使っても構わないので、彼をここに呼んで来てくれ。」と懇願するのであった。
ホームズの依頼を受けたワトスンは、カルヴァートン・スミスが住むロウワーバークストリート13番地へと向かった。

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