英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第47話(第7シリーズ)として、2000年1月19日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「エッジウェア卿の死(Lord Edgware Dies)」(1933年)のTV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。
(23)
<英国 TV ドラマ版>
スローンスクエア(Sloane Square)のローズデューマンションに部屋を借りている女芸人であるカーロッタ・アダムズ(Carlotta Adams)がヴェロナール(Veronal)の過剰摂取により死亡しているのが発見された後、エルキュール・ポワロの指示を受け、ミス・フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon)が、ヴェロナールの入った薬箱を持って、ロンドン市内の宝石店を巡り、誰がこの薬箱を注文したのかを調べる。
ミス・レモンによる調査の結果、鼻眼鏡をしたヴァン・デューセン夫人(Mrs. Van Dusen)がこの薬箱を注文したことを突き止めた。
<原作>
原作に、ミス・レモンは登場しない。この小箱の出所を調べ上げたのは、スコットランドヤードのジャップ警部(Inspector Japp)で、ポワロに電話で知らせてきた。
また、この小箱の注文を受けたのは、この種のものを専門に扱っているパリの有名な店で、手紙での注文だった。その手紙は、コンスタンス・アカーリイ(卿夫人)と言う署名が為されていたが、偽名と思われた。
小柄で鼻眼鏡をかけた中年の女性が、小箱を受け取りにやって来ている。
(24)
<英国 TV ドラマ版>
ポワロの代わりに、アーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)が食事会へと出かける。
場所:不明
主催者:新たにエッジウェア卿(Lord Edgware)となったロナルド・マーシュ(Ronald Marsh)
出席者(ヘイスティングス大尉を除く):
*ジェラルディン・マーシュ(Geraldine Marsh - 前エッジウェア卿と先妻の娘)
*ジェーン・ウィルキンスン(Jane Wilkinson - 舞台女優で、前エッジウェア卿の妻)
*マートン公爵(Duke of Merton - ジェーン・ウィルキンスンとの結婚を考えている)
*ブライアン・マーティン(Bryan Martin - 映画俳優)
*ペニー・ドライヴァー(Penny Driver - カーロッタ・アダムズの友人で、帽子店を営む)
*ロナルド・ロス(Ronald Ross - 若き劇作家)
食事会の会話中、ロナルド・ロスが、パリのことで何かひっかかる様子を見せる。
その頃、ポワロは、ホワイトヘイヴンマンションズ(Whitehaven Mansions)に残り、カーロッタ・アダムズが妹のルシー・アダムズ(Lucie Adams)宛に送った手紙を調べていた。
クラリッジズホテルの建物正面の外壁 |
<原作>
ポワロとヘイスティングス大尉は、昼食会へと招かれる。
場所:クラリッジズホテル(Claridge’s Hotel → 2014年12月31日付ブログで紹介済)
主催者:ウィドバーン夫人
出席者(ポワロ / ヘイスティングス大尉を除く):
*ジェーン・ウィルキンスン
*マートン公爵
*ブライアン・マーティン
*ジュヌヴィエーヴ・ドライヴァー(Genevieve Driver / 愛称:ジェニー(Jenny)- カーロッタ・アダムズの友人で、帽子店を営む)
*ロナルド・ロス(若き俳優)
昼食会の会話中、ロナルド・ロスが、パリのことでハッと息をのむ様子を見せた。
(25)
<英国 TV ドラマ版>
ポワロとミス・レモンは、ピカデリーパレスホテル(Piccadilly Palace Hotel)を訪れて、ヴァン・デューセン夫人のことを調べていた。ホテルによると、彼女は一泊だけの宿泊だった。
そこへ、同ホテルに宿泊しているヘイスティングス大尉が戻る。ヘイスティングス大尉は、ポワロに対して、ロナルド・ロスの名刺を渡して、彼へ電話するように依頼する。
なお、彼の名刺には、「Donald Ross / 4a Church Street, Kensington, London SW6 / Telephone : Ken. 2510」と記されていた。
<原作>
ウィドバーン夫人が主催した昼食会の後、ポワロは、別件(ある外国大使の長靴紛失事件)で、午後2時半の約束があるため、先に帰宅。
ドナルド・ロスがヘイスティングス大尉のところへやって来て、「ポワロさんにちょっと話したいことがある。」と告げる。ヘイスティングス大尉は、ドナルド・ロスに対して、「ポワロは、午後5時には帰って来る筈だから、その頃、電話をするか、もしくは、会いに来て下さい。」と答えている。
(26)
<英国 TV ドラマ版>
ヘイスティングス大尉の依頼を受けて、ポワロは、ドナルド・ロスのフラットに電話をする。
ドナルド・ロスは、丁度、フラットに帰って来たところで、受話器を取った。そのため、フラットのドアは開いたまま。
ポワロと話している最中に、ドナルド・ロスは、フラット内に侵入して来た何者かに、首をナイフで刺されて死亡。
<原作>
ポワロが外出先からフラットに戻ったところ、ドナルド・ロスからの電話があった。
ドナルド・ロスは、ポワロと話している最中、遠くで鳴るベルの音を聞くと、「ちょっと待って下さい。」と言い、受話器を置き、席を外す。
ポワロとヘイスティングス大尉は、5分程待ったが、ドナルド・ロスは戻って来なかった。
ポワロは、電話交換台を呼び出したが、「向こうの受話器は外されたままで、何の応答もない。」と言われ、ヘイスティングス大尉と一緒に、ケンジントン(Kensington)にあるドナルド・ロスのフラットでタクシーで向かう。
残念ながら、時既に遅く、ドナルド・ロスは、頭蓋のつけねを刺されて、亡くなっていたのである。
(27)
<英国 TV ドラマ版>
ドナルド・ロスが刺殺されたフラットには、ポワロ、ヘイスティングス大尉、ミス・レモン、そして、スコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)が居た。
ポワロに、昼食会から席を立った順を尋ねられたヘイスティングス大尉は、当初、
(A)ブライアン・マーティン
(B)ペニー・ドライヴァー
(C)ジェーン・ウィルキンスン / マートン公爵
の順番だと答えたが、「順番が逆だった。(The other way round.)」と言い出して、
(A)ジェーン・ウィルキンスン / マートン公爵
(B)ペニー・ドライヴァー
(C)ブライアン・マーティン
が正しいと訂正した。
ヘイスティングス大尉による「順番が逆だった。」と言う発言を受けて、ポワロは事件の真相を見抜く。
<原作>
ドナルド・ロスが刺殺されたフラットからホワイトヘイヴンマンションズに戻って来たポワロは、ヘイスティングス大尉が居眠りをしている間、カーロッタ・アダムズの妹であるルシー・アダムズから来た手紙を、傍目もふらずに読み耽り、事件解決の糸口を見つけている。
(28)
<原作>
ポワロとヘイスティングス大尉は、リージェントゲート(Regent Gate → 2025年3月23日付ブログで紹介済)にある前エッジウェア卿邸を訪れて、秘書のミス・キャロル(Miss Carroll)と面会する。
帰る際、テーブルの上に置いた手袋を取る時に、ポワロは、誤ったふりをして、カフスをミス・キャロルの鼻眼鏡の鎖に引っかけて、鼻眼鏡ごと払い落としてしまう。そして、ミス・キャロルの鼻眼鏡を拾い上げる時に、カーロッタ・アダムズのハンドバッグに入っていた鼻眼鏡と入れ替える実験を行っている。
ただし、ミス・キャロルには、「これは、自分の鼻眼鏡ではない。」と指摘されてしまう。
<英国 TV ドラマ版>
このような場面は、描写されていない。
(29)
<英国 TV ドラマ版>
ポワロとヘイスティングス大尉は、ジェーン・ウィルキンスンのフラットを訪れる。
ポワロは、ジェーン・ウィルキンスンのメイドであるエリス(Ellis)に対して、カーロッタ・アダムズが妹のルシー・アダムズ宛に送った手紙を見せ、カーロッタ・アダムズのフラットにあった鼻眼鏡を渡し、内容を読ませる実験を行っている。
<原作>
ジェーン・ウィルキンスンの不在中、彼女が滞在しているサヴォイホテル(Savoy Hotel → 2016年6月12日付ブログで紹介済)から、彼女のメイドであるエリスを、ポワロはホワイトヘイヴンマンションズへ呼び出す。
ポワロは、誤ったふりをして、暖炉の上の棚に置かれた薔薇の花瓶をひっくり返して、エリスの頭や顔に水をかけてしまう。そのどさくさの最中に、ポワロは、エリスがかけていた鼻眼鏡を、カーロッタ・アダムズのハンドバッグに入っていた鼻眼鏡と入れ替える実験を行っている。
鼻眼鏡を入れ替えられたエリスは、何の問題もなく、ポワロのフラットから帰って行った。
(30)
<原作>
ポワロが真相を解明する場面には、
*ヘイスティングス大尉
*ジャップ警部
*ブライアン・マーティン
*ジュヌヴィエーヴ・ドライヴァー
が出席する。
なお、場所は、ホワイトヘイヴンマンションズである。
<英国 TV ドラマ版>
ポワロが真相を解明する場面には、
*ヘイスティングス大尉
*ジャップ主任警部
*ミス・レモン
*ジェーン・ウィルキンスン
*マートン公爵
*ジェラルディン・マーシュ
*ロナルド・ロス
*ミス・キャロル
*ペニー・ドライヴァー
*ブライアン・マーティン
と、生存している事件の関係者が全員出席している。
なお、場所は、おそらく、劇場である。
(31)
<原作>
前エッジウェア卿が殺害される要因として、ポワロは、「マートン公爵家は代々英国国教会の大立者であり、たとえ離婚したとしても、前夫が生きている女性と結婚することは、夢想だにできない。」と述べている。
<英国 TV ドラマ版>
前エッジウェア卿が殺害される要因として、ポワロは、「マートン公爵は、カトリック教であり、離婚した女性とは結婚できない。」と述べている。
また、マートン公爵がカトリック教徒であることが判った理由として、ポワロは、「マートン公爵は、ウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)ではなく、ウェストミンスター大聖堂(Westminster Cathedral)において、ジェーン・ウィルキンスンとの結婚式を行う予定だったから。」と説明している。
(32)
<英国 TV ドラマ版>
事件が無事解決した後、ポワロは、ヘイスティングス大尉に対して、小切手を手渡す。それは、マートン公爵がヘイスティングス大尉宛に振り出された小切手だった。
ポワロによると、当初、マートン公爵は、感謝の意図して、ポワロ宛に小切手を振り出そうとしたが、ポワロが、マートン公爵に対して、ヘイスティングス大尉宛の小切手を依頼した、とのこと。
それは、ヘイスティングス大尉が呟いた「The other way round.」と言う一言が、ポワロにとって、事件解明の非常に重要なヒントとなったからであった。
物語の冒頭部分で、ヘイスティングス大尉は、
*アルゼンチンにおいて、Pampas de Fernandez Consolidated Railway に全額を投資したものの、鉄道の施設がうまく行かず、投資が失敗し、全額を失ったこと
*牧場を売却するため、彼の妻は現地にまだ残っていること
*ヘイスティングス大尉夫妻は、アルゼンチンから英国へ戻る計画であること
*ヘイスティングス大尉は、住居を探すために、先に帰国した次第で、住居を探す間、ピカデリーパレスホテルに宿泊する予定であること
と述べていたが、マートン公爵が振り出した高額の小切手を、ヘイスティングス大尉は、英国で住居を探すための費用に充当することが可能となったのである。
ポワロの説明を受けて、非常に喜ぶヘイスティングス大尉であったが、ジャップ主任警部が、ヘイスティングス大尉に対して、冗談で新たな投資話を持ち掛けるところで、物語は終わりを迎える。
<原作>
原作の場合、処刑後に犯人からポワロ宛に送られた手記の写しの内容を、ヘイスティングス大尉が述べるところで、物語は終わりを迎えているので、英国 TV ドラマ版のような結末は描かれていない。
