アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」を英国の BBC(British Broadcasting Corporation)が映像化した英国 TV ドラマ版として映像化しているが、2015年12月28日に放映された「エピソード3」において使用された童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers)」は、以下の通り。
(6)
Five little soldier boys going in for law; One got in chancery and then there were Four.
(5人の子供の兵隊さんが、法律を志した。一人が大法官府(裁判所)に入って、残りは4人になった。)
*被害者:ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave - 高名な元判事)
*告発された罪状:アガサ・クリスティーの原作の場合、皆が無実の被告だと確信していたエドワード・シートン(Edward Seton)に対して、陪審員達を巧みに誘導し、不当な死刑判決出したと告発された。
なお、原作の場合、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、他の全員が無罪だと思っていたエドワード・シートンに対して、有罪判決を下し、絞首刑に処しているだけにとどまっているが、英国 TV ドラマ版の場合、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、エドワード・シートンの絞首刑執行の場に立ち会っている。また、エドワード・シートンも、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴに見せつけるように、顔を覆うフードなしで、絞首刑になっている。
*犯罪発生時期:英国 TV ドラマ版の場合、具体的な時期については、言及されていないが、アガサ・クリスティーの原作の場合、「1930年6月10日」と明記されている。
*死因:裁判官の服装をして、額に銃弾を受けていた。なお、裁判官が被るカツラは、エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent - 信仰心の厚い老婦人)が失くしたグレーの毛糸からできており、また、身体に纏っている真っ赤なガウンは、トマス・ロジャーズ(Thomas Rogers - 執事)が「浴室から無くなった。」と言っていた真っ赤なカーテンで代用されていた。
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画面左側から、エドワード・ジョージ・アームストロング、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ、 フィリップ・・ロンバード、ウィリアム・ヘンリー・ブロア、 そして、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン。- HarperCollins Publishers 社から出ている アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。 |
原作の場合、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne - 秘書)の悲鳴を聞いても、居間から一緒に来なかったローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが見つかった場所は、応接間(1階)。エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong - 医師)が、他の3人に近付かないように合図して、「ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、頭を撃ち抜かれている。即死だ。」と告げる。ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴを2階にある彼の部屋へと運んだのが、誰なのかについては、明記されていない。おそらく、エドワード・ジョージ・アームストロング、フィリップ・・ロンバード(Philip Lombard - 元陸軍大尉)とウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore - 元警部(Detective Inspector)/ 英国 TV ドラマ版の場合、巡査部長(Detective Sergeant))の3人だと思われる。
一方、英国 TV ドラマ版の場合、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの悲鳴を聞いて、既に退いていた自分の部屋から出て来なかったローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが見つかった場所は、彼の部屋(2階)。エドワード・ジョージ・アームストロングが、自分のジャケットを脱いで、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴの身体を覆っている。
(7)
Four little soldier boys going out to sea; A red herring swallowed one and then there were Three.
(4人の子供の兵隊さんが、海へ出かけた。一人が燻製の鰊(ニシン)に呑みれて、残りは3人になった。)
*被害者:エドワード・ジョージ・アームストロング
*告発された罪状:アガサ・クリスティーの原作の場合、アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリース(Louisa Mary Clees)の手術を執刀して、死に至らせたと告発された。
*犯罪発生時期:英国 TV ドラマ版の場合、具体的な時期については、言及されていないが、アガサ・クリスティーの原作の場合、「1925年3月14日」と明記されている。
*死因:溺死
なお、「red herring」とは、本来の問題点から皆の注意を他に逸らして、論点をすり替える論理的誤謬を指す用語で、推理小説においては、登場人物(警察や探偵等を含む)や読者を誤った結論へと導くために使用される虚偽の証拠や情報等のことを言う。
つまり、夜中に、エドワード・ジョージ・アームストロングが部屋から抜け出して、外へ出て行ったため、フィリップ・・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人が、「エドワード・ジョージ・アームストロングが、一連の殺人を行った犯人だ。」と考えて、彼の後を追うが、これは、登場人物である彼らと読者を誤った結論へと導いていることを、作者であるアガサ・クリスティーが「red herring」と言う用語を使って、匂わせているものと思われる。
