2025年10月21日火曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その4

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、
兵隊島に建つ邸宅内のキッチンにおいて、
お湯を沸かすために、薬缶に水を入れようとしている。
<筆者撮影>

国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)

(3)(17)ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne)

三流学校の体育教師(games mistress)をしていたヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、高名な元判事であるローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)と同じく、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)12時40分発の列車に乗り、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、一等喫煙車に乗っていたが、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが乗っていたのは、三等車だった。

パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根
<筆者撮影>

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)を所有するユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)から、夏休みの間、秘書の仕事(summer secretarial post)に採用されたのである。

兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>

ユナ・ナンシー・オーウェン夫人の手紙によると、女性技能紹介所からの推薦を受けた、とのことで、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、学校休みのアルバイトとして、大勢の子供の世話ではなく、秘書の仕事にに就けるのは、本当にラッキーだと思っていた。

客車の中はうだる暑さなのに、ヴェラは突然身ぶるいした。海に行きたくない、と思った。頭の中に、ある光景がくっきり浮かんだ。シリルが岩に向かって泳いでいる。シリルの頭が、ポカッと浮かびあがっては沈む … 浮かんで沈んで … 浮かんで沈んで … そのあとを追って、泳ぎ慣れたヴェラは、ゆうゆうと水を切って泳いでいる … 水を切って進んではいても、間に合わないのはわかっている。絶対に間に合わない。

海 - 深々として暖かな海の青さ - 砂浜に寝転がってすごした朝 - ヒューゴー - ヒューゴーは言ってくれた - 愛しているって -

だめ、ヒューゴーのことを、考えちゃだめ … 。

(青木 久惠訳)


ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、
赤地に白い斑点があるスカーフを頭に巻き、サングラスをかけて、水着姿で砂浜に座っている。
<筆者撮影>


ジグソーパズルの左下の方にあり、赤枠で囲まれているヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、赤地に白い斑点があるスカーフを頭に巻き、サングラスをかけて、水着姿で砂浜に座っており、上記の場面が描かれていると言える。


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、シリル・オギルヴィー・ハミルトン(Cyril Ogilvie Hamilton - 家庭教師をしていた子供)を殺害したと告発された。のである。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、最後の被害者となる。


One little soldier boy left all alone; He went and hanged himself … And then there were None.

(1人の子供の兵隊さんが、後に残された。彼は自分で首を括って、そして、誰もいなくなった。)


ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、天井のフックからぶら下がっているロープの輪で、

自ら首を括って、自殺を遂げる。その際、最後の人形が、彼女の手から落ちる。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。
グラフィックノベル版の内容は、原作通り。


*被害者:ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*告発された罪状:シリル・オギルヴィー・ハミルトンを殺害したと告発された。

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、シリル・オギルヴィー・ハミルトンに対して、彼が望む通り、岩まで泳がせ他のである。また、溺れた彼を助けようと、彼女は、彼の後を追ったものの、泳いでいるふりをした。

シリル・オギルヴィー・ハミルトンが溺死した後、ヒューゴ(Hugo - シリル・オギルヴィー・ハミルトンの叔父 / 事件当日、外出していた)は、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、見ず知らずの他人を見るような視線を向けた。その後、ヒューゴーとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの恋愛関係は、終わりを迎えている。

*犯罪発生時期:1935年8月11日


フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)を射殺した後、

屋敷に戻ったヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、食堂に立ち寄り、

テーブルの上に置かれた3体の人形のうち、2体を取って、窓から外へ放り投げる。

そして、3体目の人形を手に取る。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。
グラフィックノベル版の内容は、原作通り。


*死因:絞首(縊死)

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、天井のフックからぶら下がっているロープの輪で、自ら首を括って、自殺を遂げる。その際、最後の人形が、彼女の手から落ちる。


2025年10月20日月曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その3

パディントン駅からオークブリッジ駅へと向かう列車の一等喫煙車内において、
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ元判事は、右手に持った葉巻を燻らせ、
コンスタンス・カルミントンと署名された手紙を左手に持ち、その内容を読んでいる。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


(2)(18)ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave)


ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、高名な元判事である。


物語の冒頭、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴから登場する。


ウォーグレイヴ判事は、一等喫煙車の隅の席で葉巻をくゆらせていた。少し前に公職を退いた判事の目は、<<タイムズ>>紙の政治記事を追っている。判事は新聞をおいて、窓の外を眺めた。列車はイギリス南西部のサマーセット州を走っている。判事は時計を見た -  あと二時間か。


(中略)


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


ウォーグレイヴ判事は、ポケットから手紙を一通取りだした。手書きの文字はひどく読みにくかった。だが、ところどころ、いやにはっきり読みとれるところがある。”ロレンスさま … あなたさまのお噂を、最後に耳にしたのは、いつのこと … ぜひとも兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)においで … こんなすばらしい所は、ほかには … 積もる話が、たんと … なつかしいあの頃 … 自然に囲まれて … 日光浴 … ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)十二時四十分発 … オークブリッジ(Oakbridge)で、お目にかかり …” そして最後に、きどった飾り文字で、”コンスタンス・カルミントン”と署名があった。

(青木 久惠訳)


パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根
<筆者撮影>


ジグソーパズルの右下の方にあり、赤枠で囲まれているローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事の場合、上記の場面が描かれていると言える。


テラスのイスに、年配の紳士が座っていた。アームストロング医師(Dr. Armstrong)はその顔に、なんとなく見おぼえがあった。あのカエル顔、どこで見たんだっけなあ。あのカメのような首に、それに、猫背の背中。そして、そう、あの射抜くように鋭い、色の薄い、小さな目 - そう、そうだよ、あれは、ウォーグレイヴ判事じゃないか。アームストロングは、ウォーグレイヴ判事の法廷で一度、証人になったことがある。いつも半分眠っているような人だが、こと法律となると、あれほど鋭い人はめったにいない。ウォーグレイヴ判事は、陪審員に強い影響力を持っていた。どんな場合であろうと、陪審員を思い通りに操作できると言われている。首を傾げるような有罪の評決を出させたことも、一度や二度はある。死刑好きな判事、と呼び人もいた。

こんなところで、あの人に会うとはな … こんな遠く離れたところで …

(青木 久惠訳)


ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ元判事は、
兵隊島に建つ邸宅の玄関右脇のテラスにおいて、
左手に眼鏡を持ち、椅子に腰掛けている。
<筆者撮影>

ジグソーパズルの中央やや右側、兵隊島に建つ邸宅の玄関の右脇にあるテラスにおいて、左手に眼鏡を持ち、椅子に座っているローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事の場合、上記の場面が描かれていると言える。


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事を含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、皆が無実の被告だと確信していたエドワード・シートン(Edward Seton)に対して、陪審員達を巧みに誘導し、不当な死刑判決出したと告発されたのである。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、6番目の被害者となる。


Five little soldier boys going in for law; One got in chancery and then there were Four.

(5人の子供の兵隊さんが、法律を志した。一人が大法官府(裁判所)に入って、残りは4人になった。)



厳密に言うと、アガサ・クリスティーの原作の場合、

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが見つかったのは、応接間(1階)で、

兵隊人形が置かれているのは、食堂(1階)なので、この場面は正しくない。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*被害者:ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*告発された罪状:皆が無実の被告だと確信していたエドワード・シートンに対して、陪審員達を巧みに誘導し、不当な死刑判決出したと告発された。

*犯罪発生時期:1930年6月10日

*死因:裁判官の服装をして、額に銃弾を受けていた。なお、裁判官が被るカツラは、エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent - 信仰心の厚い老婦人)が失くしたグレーの毛糸からできており、また、身体に纏っている真っ赤なガウンは、トマス・ロジャーズ(Thomas Rogers - 執事)が「浴室から無くなった。」と言っていた真っ赤なカーテンで代用されていた。

                                             

2025年10月19日日曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その2

兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、今回から順番に紹介していきたい。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


一番最初は、兵隊島(Soldier Island)

兵隊島は、ジグソーパズルの左下の角にあり、赤枠で囲まれている。


(1)兵隊島


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


2016年に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から発行された
アガサ・クリスティー没後40周年の記念切手の1枚である「そして誰もいなくなった」 -
記念切手には、沖合いに浮かぶ兵隊島を陸地から見たシーンが描かれている。
夜間のシーンで、兵隊島内に建つ屋敷の窓には、明かりが灯っている。
よく見ると、兵隊島が人間(男性?)の顔の形になっている上に、明かりが灯る屋敷の窓が目に該っている。
兵隊島の前の海に浮かぶ黄色い物には、
オーウェン夫妻の名前を略した「U. N. Owen」が逆さまに表示されている。
更に、画面の左下には、童謡「10人の子供の兵隊」の内容が、これも同様に逆さまに記載されている。
この童謡は、マザーグースの一つとして分類されるが、大元の「Ten Little Nigger Boys」は、
英国の作詞家フランク・グリーン(Frank Green)が1869年に翻案した作品のため、
「Frank Green 1869」と表示されている。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。謎の声による告発を聞いた以下の10人は戦慄する。


(1)ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave)

高名な元判事で、陪審員を誘導して、無実の被告を有罪として、死刑に処したと告発された。

(2)ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne)

秘書や家庭教師を職業とする若い女性で、家庭教師をしていた子供に無理な距離を泳がせることを許可し、その結果、その子供を溺死させたと告発された。

(3)フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)

元陸軍中尉で、東アフリカにおいて先住民族から食料を奪った後、彼ら21人を見捨てて死なせたと告発された。

(4)エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent)

信仰心の厚い老婦人で、使用人の娘に厳しく接して、その結果、彼女を自殺させたと告発された。

(5)ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur)

退役した老将軍で、妻の愛人だった部下を故意に死地へ追いやったと告発された。

(6)エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong)

医師で、酔って酩酊したまま手術を行い、患者を死なせたと告発された。

(7)アンソニー・ジェイムズ・マーストン(Anthony James Marston)

遊び好きの上、生意気な青年で、自動車事故により二人の子供を死なせたと告発された。

(8)ウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore)

元警部で、偽証により無実の人間に銀行強盗の罪を負わせて、死に追いやったと告発された。

(9)トマス・ロジャーズ(Thomas Rogers)

(10)エセル・ロジャーズ(Ethel Rogers)

仕えていた老女が発作を起こした際、彼らは必要な薬を投与しないで、老女を死なせたと告発された。


アガサ・クリスティーが1939年に「そして誰もいなくなった」を発表した時点での英語の原題は「Ten Little Niggers(10人の小さな黒んぼ)」で、作品中、これは非常に重要なファクターを占める童謡を暗示している。

ただし、「Nigger」という単語がアフリカ系アメリカ人に対する差別用語だったため、米国版のタイトルは「Ten Little Indians(10人の子供のインディアン)」に改題された。それに伴い、


*島の名前: 黒人島(Nigger Island)→ インディアン島(Indian Island)

*童謡名: 10人の小さな黒んぼ(Ten Little Niggers)→ 10人の子供のインディアン(Ten Little Indians)

*人形名: 黒人人形 → インディアン人形


へと変更された。


日本の株式会社 早川書房から出ている
クリスティー文庫80「そして誰もいなくなった」の復刻版表紙
(装幀: 真鍋 博)


近年、「インディアン」も差別用語と考えられているため、英米で発行されている「そして誰もいなくなった」のタイトルには、「And Then There Were None」が使用されている。「And Then There Were None」は、童謡の歌詞の最後の一文から採られている。その結果、


*島の名前: インディアン島 → 兵隊島(Soldier Island)

*童謡名: 10人の子供のインディアン → 10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers)

*人形名: インディアン人形 → 兵隊人形


へという変遷を辿っているのである。


英国本島にある小村であるビッグバン・オン・シーから
沖合いに浮かぶバーアイランドを望んだ風景 -
左側に建つ建物が「バーアイランドホテル」で、
右側に建つ建物が「ピルチャードイン」と言うパブ。
<以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)から抜粋。>


「そして誰もいなくなった」の舞台となる「兵隊島」は、架空の場所であるが、デヴォンの南海岸に所在するビッグベリー・オン・シー(Bigbury-on-Sea)と言う小村の沖合いに浮かぶ「バーアイランド(Burgh Island → 2024年6月30日付ブログで紹介済)」と当該島に建つ「バーアイランドホテル(Burgh Island Hotel)」が、そのモデルになっていると言われている。


以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)の表紙


バーアイランドには、元々、修道院(monastry)が建っていたが、テューダー朝(House of Tudor)の第2代イングランド王であるヘンリー8世(Henry VIII:1491年ー1547年 在位期間:1509年ー1547年)による宗教改革の一環である修道院解散を以って、取り壊されてしまった。


ケンブリッジ大学(University of Cambridge)創立800周年を記念して、
英国の児童文学作家 / イラストレーターであるクェンティン・ブレイク
(Quentin Blake:1932年ー)が描いた
ヘンリー8世とキングスカレッジ合唱団の絵葉書
<筆者がケンブリッジのフィッツウィリアム博物館(Fitzwilliam Museum
→ 2024年7月20日 / 7月24日付ブログで紹介済)で購入>


その後、鰯(sardine = pilchard)を捕る漁師達が、島を使用するようになった。

島には、開業が1336年にまで遡るピルチャードイン(Pilchard Inn)と呼ばれるパブが、漁師達で繁盛した。一方で、パブは、密輸業者や海賊等で賑わった。


ビッグバン・オン・シーと
沖合いに浮かぶバーアイランドについては、
画面の地図の一番左端に描かれている。
<以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)から抜粋。>


1890年代にミュージックホールのコメディアン / 歌手 / 演奏家であるジョージ・H・チルグウィン(George H. Chirgwin:1854年ー1922年)が島に家を建て、招待客と一緒に、週末のパーティーに使われた。

1929年になると、大富豪で、映画制作者でもあるアーチボルド・ネトルフォルド(Archibald Nettlefold)が島を買い取って、アール・デコ調(Art Deco)のホテルを建設した。


アーチボルド・ネトルフォルドは、ロンドンのウェストエンド(West End)で劇場も経営しており、当該劇場でアガサ・クリスティーによる戯曲が上演された関係で、アガサ・クリスティーも、ホテルに何度も宿泊している。


筆者が所有している株式会社 昭文社発行の
「マップルマガジン イギリス」から抜粋。


1980年代に入ると、アーチボルド・ネトルフォルドが建てたアール・デコ調のホテルもかなり老朽化したため、売却に出され、これを購入したファッションコンサルタントであるトニー・ポーター(Tony Porter)とベアトリス・ポーター(Beatrice Porter)の夫妻が、ホテルを建設当時の状態に改装した。


バーアイランドは、英国本島から約250mの沖合いで、干潮時には、本島から島まで歩いて行くことが可能で、満了時には、シートラクター(Sea Tractor)と言う乗り物を使用することになる。


満潮時に、英国本島にある小村であるビッグバン・オン・シーから
沖合いに浮かぶバーアイランドまで渡る際に使用するシートラクター
<以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)から抜粋。>


バーアイランドは、2018年4月に、それまでの所有者だったデボラ・クラー(Deborah Clark)とトニー・オーチャード(Tony Orchard)から投資会社(Bluehone Capital / Marechale Capital)へ売却され、2023年5月には、再度、売却に出されている。 


                                               

2025年10月18日土曜日

ガストン・ルルー作「オペラ座の怪人」<小説版>(The Phantom of the Opera by Gaston Leroux )- その1

ヒズ・マジェスティーズ劇場において上演されている
ミュージカル「オペラ座の怪人」
<筆者撮影>


ロンドンの中心部であるシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のセントジェイムズ地区(St. James’s)内 にある ヘイマーケット通り(Haymarket → 2025年9月30日 / 10月14日付ブログで消化済)沿いに建つヒズ・マジェスティーズ劇場(His Majesty’s Theatre)において、1986年10月9日の世界初演以降、40年近くのロングランを続けているミュージカル「オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)」は、フランスの小説家 / 新聞記者であるガストン・ルイス・アルフレッド・ルルー(Gaston Louis Alfred Leroux:1868年ー1927年 → 2017年9月10日付ブログで紹介済)が発表したゴシック小説「オペラ座の怪人(Le Fantome de l’Opera)」がベースとなっている。


ヘイマーケット通りの東側から
ヒズ・マジェスティーズ劇場を見上げたところ
<筆者撮影>


ガストン・ルルー作「オペラ座の怪人」は、1909年9月23日から1910年1月8日まで日刊紙「ル・ゴロワ(Le Gaulois)」に連載された後、1910年3月にピエール・ラフィット社(Pierre Lafitte)から出版された。

なお、「オペラ座の怪人」の英語版は、1911年に出ている。


ガストン・ルルー作「オペラ座の怪人」は、19世紀にパリ国立オペラ(Opera national de Paris)で実際に起こった史実を引用しつつ、ドイツ・ロマン派初期の作曲家 / 指揮者 / ピアニストであるカール・マリア・フリードリヒ・エルンスト・フォン・ウェーバー(Carl Maria Friedrich Ernst von Weber:1786年ー1826年)が作曲した全3幕のオペラ「魔弾の射手(Der Freischütz)」が1841年に公演された際の粗筋をベースにしていると考えられている。


ヒズ・マジェスティーズ劇場では、
1986年10月9日の世界初演以降、
ミュージカル「オペラ座の怪人」がロングランを継続中。
<筆者撮影>


ガストン・ルルー作「オペラ座の怪人」の場合、1910年の出版以降、映画、テレビドラマやミュージカル等が数多く制作されている。

その中でも、ロイド=ウェーバー男爵アンドリュー・ロイド・ウェーバー(Andrew Lloyd Webber, Baron Lloyd-Webber:1948年ー)によるミュージカル「オペラ座の怪人」が、最も有名だと言える。


2025年10月17日金曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その1

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


英国の The Orion Publishing Group Ltd. より、今年(2025年)、「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズルが出ているので、紹介したい。


ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の完成過程(その1)
<筆者撮影>


「「そして誰もいなくなった」の世界」は、ニュージーランド(New Zealand)出身で、現在はロンドン在住のイラストレーター / デザイナーのルビー・アッシュ(Ruby Ash)が描いたものが、ジグソーパズル(1000ピース - 縦:約70㎝ / 横:約50㎝)となっている。


ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の完成過程(その2)
<筆者撮影>


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)関係のジグソーパズルの場合、The Orion Publishing Group Ltd. より、他には、


ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の完成過程(その3)
<筆者撮影>


(1)「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie → 2022年12月26日付ブログ等で紹介済)」(2022年)


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2022年に出ている
ジグソーパズル「アガサ・クリスティーの世界」(1000ピース)


(2)「エルキュール・ポワロの世界(The World of Hercule Poirot → 2025年10月10日付ブログ等で紹介済)」(2023年)


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
ジグソーパズル「エルキュール・ポワロの世界」(1000ピース)


(3)「ミス・マープルの世界(The World of Miss Marple → 2024年8月5日付ブログ等で紹介済)」(2024年)


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2024年に出ている
ジグソーパズル「ミス・マープルの世界」(1000ピース)


が出ているが、これらについては、イラストレーターの Ms. Ilya Milstein (ミラノ生まれで、メルボルンで育ち、現在、ニューヨーク在住)が担当している。


日本の株式会社 早川書房から出ている
クリスティー文庫80「そして誰もいなくなった」の復刻版表紙
(装幀: 真鍋 博)


本ジグソーパズルのイラスト内には、アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連するもして、47個にわたる手掛かりが散りばめられているので、次回以降、順番に紹介していきたい。