2025年6月19日木曜日

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」<英国 TV ドラマ版>(And Then There Were None by Agatha Christie )- その3

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
「エピソード2」における1場面 -
エミリー・キャロライン・ブレントが殺された翌朝、
残った5人(
ヴェラ・エリザベス・クレイソーン、
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ、ウィリアム・ヘンリー・ブロア、
エドワード・ジョージ・アームストロングとフィリップ・ロンバード)が、
各人の部屋を捜索したが、盗まれた
フィリップ・ロンバードの銃を発見することはできなかった。
カメラは、食事をする5人を順番に撮し、
最後に、銃を盗まれた
フィリップ・ロンバードのアップで終わる。

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」を英国の BBC(British Broadcasting Corporation)が映像化した英国 TV ドラマ版の場合、アガサ・クリスティーの原作にかなり忠実に反映しているが、細かい点において、原作対比、以下のような違いがある。


今回は、2015年12月27日に放映された「エピソード2」にかかる部分について、述べたい。


(1)

<原作>

執事のトマス・ロジャーズ(Thomas Rogers)の妻で、料理人のエセル・ロジャーズ(Ethel Rogers)が亡くなった朝、朝食が滞りなく終わった後、医師のエドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong)が、他のゲスト達に対して、「ロジャーズの奥さんが、眠っている間に亡くなりました。」と告げる。

<英国 TV ドラマ版>

朝食の席上、エセル・ロジャーズが亡くなったことは、全てのゲスト達の間で共有されていて、秘書のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne)が、他のゲスト達に対して、「食堂のテーブルの上から、人形を2個取り去ったのは、あなたですか?」と聞きまくり始める。


(2)

<原作>

朝食後、トマス・ロジャーズに対して、「モーターボートは、いつもは何時に来るんだ?」と尋ねたのは、元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave)。

この問いに、トマス・ロジャーズは、「午前7時から午前8時の間です。午前8時を過ぎることも、時々あります。フレッド・ナラコット(Fred Narracott - 漁師)は、自分の具合が悪い時、弟を寄越すことになっておりますが、今朝は、どうしたんでしょう?」と答えている。

<英国 TV ドラマ版>

朝食の席上、トマス・ロジャーズに対して、「モーターボートは、いつもは何時に来るんだ?」と尋ねたのは、巡査部長(原作の場合、警部)のウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore)。

この問いに、トマス・ロジャーズは、「午前中の中頃から後半にかけてです。ただ、フレッド・ナラコットの来島時間は、いささか不規則ですが。」と答えている。


(3)

<原作>

朝食後、ゲスト達は、モーターボートの到着を待ちながら、各々の時間を過ごす。

<英国 TV ドラマ版>

他のゲスト達から満足できる回答を得られなかったヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、ヒステリー状態になり、


*アンソニー・ジェイムズ・マーストン(Anthony James Marston):ブランデー(brandy)が入ったグラスに投与された青酸カリによる中毒死

*エセル・ロジャーズ:睡眠薬クロラールの過剰摂取による中毒死


を元に、エドワード・ジョージ・アームストロングのことを疑い始める。そして、各人の手荷物検査を主張。

なお、その過程において、エドワード・ジョージ・アームストロングが、ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)にある自分の医院の階下になる癌の専門医のところへローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが通っているのを見かけたことを暴露し、判事自身も、それを認める場面が映像化されている。


(4)

<原作>

退役将軍であるジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur)は、戦地において、妻レスリー(Lesley)の愛人で、自分の部下のアーサー・リッチモンド(Arthur Richmond)を故意に死地へ赴かせたと告発されている。

<英国 TV ドラマ版>

退役将軍であるジョン・ゴードン・マッカーサーは、戦地の自分の部屋において、妻レスリーの愛人で、自分の部下のヘンリー・リッチモンド(Henry Richmond)を、背後から銃で撃つ場面が挿入される。


(5)

<原作>

元陸軍大尉のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard)が、エドワード・ジョージ・アームストロングに対して、兵隊島(Soldier Island)の捜索を提案し、ウィリアム・ヘンリー・ブロアも仲間に加わる。

島の捜索を始める際に、フィリップ・ロンバードは、他の2人に対して、自分は銃を携帯していることを教える。

<英国 TV ドラマ版>

フィリップ・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人が、兵隊島の捜索を始める。その際、フィリップ・ロンバードは、ウィリアム・ヘンリー・ブロアに対して、自分は銃を携帯していることを教える。


(6)

<原作>

海岸に座ったまま、昼食にやって来ないジョン・ゴードン・マッカーサーのことを心配したエドワード・ジョージ・アームストロングが、退役将軍の様子を見に出かけ、後頭部を鉛入りの護身用ステッキか何かで殴られて殺されているのを発見する。

<英国 TV ドラマ版>

テラスで毛糸を編んでいた老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent)が、海岸にカモメが群れているのを見て、近付き、ジョン・ゴードン・マッカーサーが殺されているのを発見する。


(7)

<原作>

ジョン・ゴードン・マッカーサーの遺体を邸内へ運び込んだのが、誰なのかについては、言及されていない。

ただし、彼の遺体を彼の部屋まで運んで行ったのは、エドワード・ジョージ・アームストロングとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人である。

<英国 TV ドラマ版>

ジョン・ゴードン・マッカーサーの遺体を邸内へ運び込んだのは、エドワード・ジョージ・アームストロング、ウィリアム・ヘンリー・ブロア、フィリップ・ロンバードとトマス・ロジャーズの4人である。


(8)

<原作>

その後、食堂のテーブルの上に置かれた兵隊の人形の数が8個から7個へと減っているのを見つけたのは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンとトマス・ロジャーズの2人である。

<英国 TV ドラマ版>

その後、食堂のテーブルの上に置かれた兵隊の人形の数が8個から7個へと減っているのを見つけたのは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンのみ。


(9)

<英国 TV ドラマ版>

その日の夕方、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは兵隊島から泳いで帰ろうとするが、あとを追って来たローレンス・ジョン・ウォーグレイヴに止められる。

海に入ったヴェラ・エリザベス・クレイソーンとローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが冷えた身体を暖めている際、「フィリップ・ロンバードが銃を保持している」ことが、ウィリアム・ヘンリー・ブロアによって明らかにされる。

<原作>

このような場面はない。


(10)

<原作>

翌朝、トマス・ロジャーズは、裏庭の奥にある小さな洗濯小屋において、台所の火をおこすための薪を小さな斧で割っていた際、何者かにより、後頭部を大きい斧で割られて殺されているのが発見される。

<英国 TV ドラマ版>

翌朝、エドワード・ジョージ・アームストロングが、朝のコーヒーを欲して、トマス・ロジャーズを探したところ、地下において、何者かにより斧で殺されたトマス・ロジャーズの遺体が発見される。


(11)

<英国 TV ドラマ版>

落ち着きを取り戻したエドワード・ジョージ・アームストロングが、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴに対して、昨日、判事の病気のことを暴露したことを謝罪する。

また、医師は、判事に対して、「他の人は誰も信用できない。信用できるのは、判事だけだ。」と告げる。

<原作>

このような場面はない。


(12)

<原作>

エミリー・キャロライン・ブレントは、以前、ビアトリス・テイラー(Beatrice Taylor)と言う娘を使っていたが、誰の子か判らない子を身ごもったため、彼女を解雇。また、ビアトリス・テイラーの両親も、娘の不始末を許さなかったので、彼女は、川に身を投げて、自分の命を絶っている。

<英国 TV ドラマ版>

エミリー・キャロライン・ブレントは、以前、ビアトリス・テイラーと言う娘を使っていた。ビアトリス・テイラーの母親は、身持ちが悪く、だらしなかった。そこで、ビアトリス・テイラーは、エミリー・キャロライン・ブレントに対して、自分の母親の援助を依頼したが、エミリー・キャロライン・ブレントは、これを拒絶。その結果、困ってしまったビアトリス・テイラーは、列車に身を投げて、自分の命を絶っている。


(13)

<原作>

朝食後、他のゲスト達が食器等の後片付けをする中、エミリー・キャロライン・ブレントは、食堂に一人取り残された。その際、青酸カリが入った皮下注射器で首の横を刺されて殺される。

<英国 TV ドラマ版>

その日の夕食が終わり、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが茶碗や皿等を洗っているところに、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴがやって来て、タオルでそれを拭いていく。その後、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが食堂へ行き、テーブルの上に置かれた人形の数が5個に減っていることを見つけ、銅鑼を鳴らす。そして、エミリー・キャロライン・ブレントが首筋を刺されて殺されているのを発見する。


(14)

<原作>

エミリー・キャロライン・ブレントが殺された現場には、蜂が放たれていた。

残る5人の手荷物検査が行われた後に、凶器の皮下注射器は、食堂の窓から少し離れたところに、落ちてい流のが見つかる。更に、そのそばに、兵隊の人形が割れて、散らばっていた。

<英国 TV ドラマ版>

エミリー・キャロライン・ブレントが殺された現場には、蜂が放たれておらず、その代わりに、彼女の首筋には、皮下注射器が刺さったままで、その皮下注射器に「SOB (Stung of a bee - 蜂のひと刺し)」と印されていた。


(15)

<原作>

エミリー・キャロライン・ブレントの遺体が発見された後、残された5人の手荷物検査が行われるが、注射器は見つからなかった。

その際、フィリップ・ロンバードは、ベッドの横のテーブルの引き出しに隠してあるピストルを持って来るように言われるが、皆で彼の部屋へ行くと、その引き出しは空っぽだった。

<英国 TV ドラマ版>

エミリー・キャロライン・ブレントの遺体が発見された日の翌朝、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンと話をしたフィリップ・ロンバードが、施錠してあった自分の部屋に戻ると、銃が引き出しから盗まれていることを見つけた。

早速、残された5人で、各人の部屋の捜索を始めたが、銃はどこにもなかった。


白熊の毛皮の口の中に、銃が隠されている場面を以って、英国 TV ドラマ版の「エピソード2」は、終わりを迎えるのである。


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