シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、43番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1913年12月号に、また、米国の「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1913年11月22日号に掲載されたサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「瀕死の探偵(The Dying Detective → 2025年5月5日 / 5月21日付ブログで紹介済)」は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、第6シリーズ(The Memoirs of Sherlock Holmes)の第2エピソード(通算では第37話)として、TV ドラマとして映像化され、英国では1994年に放映されているが、全体で50分程ある物語のうち、始まりから35分位までの間は、オリジナルの脚本になっており、コナン・ドイルの原作に到るまでの事件の経緯について、詳細に描くことで、原作に膨らみを持たせていると言える。
馬車に乗ったままで、屋敷(サマリーハウス(Somerleigh House))からの立退きを渋るアデレイド未亡人達(Adelaide Savage)のところへ、屋敷を引き継いだカルヴァートン・スミス(Culverton Smith:ヴィクター・サヴィジ(Victor Savage - アデレイド・サヴィッジの亡き夫)の従兄で、アマチュアの病理学者)が、警官2名を呼び付けて、「不法侵入者」として排除しようとする。
カルヴァートン・スミスにうまく罠に嵌められたことを嘆くアデレイド未亡人と、彼女を慰めるジョン・H・ワトスン。
ワトスン、アデレイド未亡人(Adelaide Savage)と警官2名が見守る中、シャーロック・ホームズは、屋敷から姿を出て来ないカルヴァートン・スミスに対して、大声で叫ぶ。
「お前が研究している病気が元となって、莫大な富を持つ資産家が亡くなり、お前が遺産を相続したのは、単なる偶然とは到底信じられない。お前は、必ず医学界から追放されるだろう。」と、ホームズは、高らかに宣言したのである。
その後、何者かからベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済) へローデシア煙草が郵送されてきて、ハドスン夫人(Mrs. Hudson)がホームズの元へ持って来る。
そして、アデレイド未亡人を励ましていたワトスンのところへ、慌てふためいたハドスン夫人が、駆け込んで来た。
「ホームズさんが瀕死の状態なんです(’Mr Holmes is dying.’)」と。
いよいよ、ここからコナン・ドイルによる原作の話が始まるのである。
<英国 TV ドラマ版>
ハドスン夫人からの話を聞いて、ワトスンが慌ててベイカーストリート221B に駆け付けると、ホームズは、毛布を掛けて、ソファーに寝ていた。
<原作>
ハドスン夫人からの話を聞いて、ワトスンが慌ててベイカーストリート221B に駆け付けると、ホームズは、シーツに覆われて、ベッドに横たわっていた。
<英国 TV ドラマ版>
慌てて駆け付けたワトスンに対して、ホームズは、「二枚貝があるならば、一枚貝もある筈だ。(If there are bi-valves, presumably there are mono-valves.)」と、うわ言のように告げる。
<原作>
コナン・ドイルの原作上、ホームズは、このような言葉は発していない。
<英国 TV ドラマ版>
また、ホームズは、ワトスンに対して、「牡蠣は、繁殖を続けている。何故、海底が全て牡蠣の塊で埋め尽くされないのか、理解できない。(Oysters, They do bread, don’t they ? I cannot think why the whole bed of the ocean is not one slid mass of oysters.)」と付け加えている。
<原作>
コナン・ドイルの原作上、ホームズがワトスンに対して言ったうわ言は、「実際のところ、何故、海底が全て牡蠣の塊で埋め尽くされないのか、理解できない。牡蠣は、あれ程繁殖力が旺盛なのに。(Indeed, I cannot think why the whole bed of the ocean is not one slid mass of oysters, so prolific the creatures seem.)」となっており、英国 TV ドラマ版におけるホームズのセリフは、若干変更されている。
<原作>
ホームズから「ロウワーバークストリート13番地(13 Lower Burke Street → 2015年5月9日付ブログで紹介済)に住むカルヴァートン・スミスを連れて来てほしい。」と頼まれたワトスンが、ベーカーストリート221B から外へ出て、辻馬車を読んでいると、そこでスコットランドヤードのモートン警部(Inspector Morton)に出会う。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合、このような場面はない。
<原作>
カルヴァートン・スミスが住むロウワーバークストリート13番地は、ノッティングヒル(Notting Hill)地区とケンジントン地区(Kensington)の間辺りに所在していると言う記述がある。
<英国 TV ドラマ版>
カルヴァートン・スミスは、先代から相続したサマリーハウスに住んでいるが、この屋敷がどこにあるのかについては、物語上、言及されていない。
<原作>
カルヴァートン・スミスの屋敷から、先にベーカーストリート221B へと戻ったワトスンに対して、ホームズは、「カルヴァートン・スミスが来る前に、隠れるんだ。」と急きたてられて、ホームズが横たわるベッドの頭のところにある隙間(’There is just room behind the head of my bed, Watson.’)に姿を隠す。
<英国 TV ドラマ版>
カルヴァートン・スミスの屋敷から、先にベーカーストリート221B へと戻ったワトスンに対して、ホームズは、「カルヴァートン・スミスが来る前に、隠れるんだ。」と急きたてられて、窓の横にあるカーテンの陰に姿を隠す。
<英国 TV ドラマ版>
ベーカーストリート221B へとやって来たカルヴァートン・スミスは、ソファーに横たわるホームズに対して、従弟であるヴィクター・サヴィッジの殺害方法を明かす。
「ロザーハイズ(Rotherhithe - テムズ河(River Thames)の南岸)にある阿片窟で、菌を持つ蚊をヴィクター(・サヴィッジ)の首にとまらせて、感染させた。(I put an infected mosquito to his neck while he was in a opiate stupor.)」と。
<原作>
コナン・ドイルの原作上、このような場面はない。
<英国 TV ドラマ版>
また、カルヴァートン・スミスは、ホームズに対して、ホームズにも菌を感染させた方法を明かす。
「(ホームズ宛に送った)ローデシア煙草入れの小箱に仕込んだ鋲だ。」と。
<原作>
コナン・ドイルの原作の場合、カルヴァートン・スミスがホームズ宛に送った小さな白黒の象牙の箱(a small black and white ivory box with a sliding lid)に仕込まれた鋭いバネ(a sharp spring)が、その手段となる。
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英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、 2022年に発行されたシャーロック・ホームズをテーマにしたトランプのうち、 「3 ♠️ 象牙の箱」 |
<英国 TV ドラマ版>
カルヴァートン・スミスが逮捕されて、事件は無事に解決。
その結果、アデレイド未亡人達は、サマリーハウスへと戻ることができた。
ヴィクター・サヴィッジとアデレイド・サヴィッジの夫妻には、マリーナ・サヴィジ(Marina Savage:姉)とジョージ・サヴィジ(George Savage:弟)の二人の子供が居たが、第三子が生まれている。
娘のマリーナ・サヴィジがワトスンに感謝の意を伝えると、ワトスンは彼女に「御礼なら、ホームズに。」と言うと、彼女は、緊張した様子で、帽子で顔を覆って寛いでいるホームズの元へと向かう。
マリーナ・サヴィジが、ホームズに手を差し出して、「心から感謝しています。(We are very grateful to you, sir.)」と告げると、ホームズは、手袋を外して、彼女の手を握り返し、「あなたのお役に立てて、光栄だ。(My previlege, Miss Savage.)」と答えたところで、物語は終わりを迎える。
<原作>
上記の場面は、英国 TV ドラマ版のオリジナルなので、コナン・ドイルの原作上、このような場面はない。
