ハノーヴァー朝(House of Hanover)の第6代女王で、かつ、初代インド女帝であるヴィクトリア女王(Queen Victoria:1819年ー1901年 在位期間:1837年ー1901年 → 2017年12月10日 / 12月17日付ブログで紹介済)の第2子(長男)で、サクス=コバーグ・アンド・ゴータ朝(House of Saxe-Coburg and Gotha)の初代英国国王 / インド皇帝であるエドワード7世(Edward VII:1841年ー1910年 在位期間:1901年ー1910年 → 2025年5月10日 / 5月26日 / 5月31日 / 6月8日 / 6月15日付ブログで紹介済)が国王に即位した後に登場した「高名な依頼人(The Illustrious Client)」は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、50番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1925年2月号と同年3月号に、また、米国の「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1924年11月8日号に掲載された。
同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている。
コナン・ドイル作「高名な依頼人」は、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンがトルコ式風呂(Turkish Bath)に居るところから始まる。
Both Holmes and I had a weakness for the Turkish Bath. It was over a smoke in the pleasant lassitude of the drying-room that I found him less reticent and more human than anywhere else. On the upper floor of the Northumberland Avenue establishment there is an isolated corner where two couches lie side by side, and it was on these that we lay upon September 3, 1902, the day when my narrative begins. I had asked him whether anything was stirring, and for answer he had shot his long, thin, nervous arm out of the sheets which enveloped him and had drawn an envelope from the inside pocket of the coat which hung beside him.
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右手奥に見えるのが、「ネヴィルのトルコ式風呂(Neville's Turkish Bath)」の 女性用入口であった場所 |
ホームズも私(ワトスン)もトルコ式風呂には目がなかった。乾燥室内に漂う心地良い脱力感の下、一服すると、ホームズの無口さは影を潜め、いつになく人間らしい彼を垣間見ることができた。ノーサンバーランドアベニューにある施設の上階には、2つの寝椅子が隣り合って並ぶ隔離した一角がある。1902年9月3日、私達はそれらの寝椅子の上に身を横たえていた。正にその日、これから述べる物語が始まるのである。私はホームズに対して、今手掛けている事件はあるのかを尋ねた。すると、ホームズは、私の質問に答えるために、包まっていたシーツから、細長くて神経質そうな手をさっと出すと、側に掛かっていたコートの内ポケットから封筒を取り出したのである。
セントジェイムズストリート(St. James's Street → 2021年7月24日付ブログで紹介済)沿いに建つ カールトンクラブ(黄土色の建物) |
その手紙は、前日の夜、カールトンクラブ(Carlton Club → 2014年11月16日付ブログで紹介済)から出されていた。
手紙の差出人は、サー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery)で、非常に繊細かつ重要な相談事のため、明日の午後4時半にベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を訪れたい、とのことだった。
手紙の内容通り、サー・ジェイムズ・デマリー大佐は、ベイカーストリート221B のホームズの元を訪ねて来た。
デマリー大佐の話によると、ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢であるヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)が、今、オーストリアのアデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Grunner:現在、英国のキングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジ(Vernon Lodge)に居住)に夢中で、彼と結婚しようとしていた。
実際、グルーナー男爵はハンサムであるが、非常に残虐な男である。本人曰く、彼が当時結婚していた妻は事故で死亡したと言って、プラハでの裁判では罪を免れたが、本当は彼が自分の妻を自ら殺害したものと一般には考えられていた。
ド・メルヴィル将軍をはじめ、ド・メルヴィル嬢の周りの者は彼女にグルーナー男爵との結婚を思いとどまるよう言い含めるものの、グルーナー男爵に対する妻殺害疑惑を濡れ衣だと思い込まされている彼女の態度は非常に頑なで、どんな説得にも耳を貸そうとはしなかったのである。
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コナン・ドイル作「高名な依頼人」における 各登場人物の相関関係を示した図 (Dorling Kindersley Limited から発行されている 「The Sherlock Holmes Book」から抜粋) |
ホームズは、デマリー大佐に対して、本件にかかる本当の依頼人が誰なのかを尋ねたが、デマリー大佐は、「依頼人が匿名を望んでいること」、そして、「依頼人の名前が、この事件に一切関与しないことが重要であること」を告げ、本当の依頼人の正体を一切明らかにしなかったのである。
「ド・メルヴィル嬢とグルーナー男爵の結婚をなんとか阻止してほしい。」というデマリー大佐の依頼を受けたホームズは、早速行動を開始すると約束した。
