2025年6月7日土曜日

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」<英国 TV ドラマ版>(And Then There Were None by Agatha Christie )- その2

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
「エピソード1」における1場面 -
謎のオーウェン氏に招待された面々が、兵隊島に上陸したところ。
画面右側から、
ヴェラ・エリザベス・クレイソーン、
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ、ウィリアム・ヘンリー・ブロア、
エドワード・ジョージ・アームストロング、フィリップ・ロンバード、
ジョン・ゴードン・マッカーサー、そして、船乗りのフレッド・ナラコット。
なお、
エミリー・キャロライン・ブレントとアンソニー・ジェイムズ・マーストンの2人は、
他のメンバーを待たずに、先に兵隊島に到着済である。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」を英国の BBC(British Broadcasting Corporation)が映像化した英国 TV ドラマ版の場合、アガサ・クリスティーの原作にかなり忠実に反映しているが、細かい点において、原作対比、以下のような違いがある。


今回は、2015年12月26日に放映された「エピソード1」にかかる部分について、述べたい。


(1)

<原作>

物語の冒頭、トマス・ロジャーズ(Thomas Rogers:執事)とエセル・ロジャーズ(Ethel Rogers:執事の妻)を除く8人が兵隊島(Soldier Island)へと向かっている場面から始まる。

<英国 TV ドラマ版>

謎のオーウェン氏(Mr. Owen)から、トマス・ロジャーズとエセル・ロジャーズを除く8人宛に、兵隊島への招待状が送られるところから、物語が始まる。

続いて、オーウェン氏が、男性の俳優に依頼して、ウェストエンド(West End)で上演する演劇で使用すると言う名目で、10人に対する罪状告発のレコード録音が行われる。


(2)

<原作>

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave:元判事)

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne:女子校の体育教師)

*フィリップ・ロンバード(Philip Lombard:元陸軍大尉)

*エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent:老婦人)

上記の4人は、ロンドン方面(パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)から兵隊島の最寄りの駅であるオークブリッジ駅へと向かう。


パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根


*ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur:退役将軍)

デヴォン州(Devon)の州都であるエクセター(Exeter)で列車を乗りかえて、兵隊島の最寄りの駅であるオークブリッジ駅へと向かう。


*エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong:医師)

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン(Anthony James Marston:青年)

上記の2人は、それぞれ車で移動。


*ウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore:元警部)

デヴォン州 の港町であるプリマス(Plymouth → 2023年9月8日付ブログで紹介済)から兵隊島への船着き場へ向かう。


プリマス海軍記念館(Plymouth Naval Memorial)は、
第一次世界大戦と第二次世界大戦で亡くなった
英国と英国連邦の船員に敬意を表して、捧げられている。


オークブリッジ駅に到着した後、2台のタクシーに分乗して、兵隊島があるスティクルヘイヴンへと向かった。


(先行した1台目のタクシー:2人乗車)

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*エミリー・キャロライン・ブレント


(5分程遅れて到着したジョン・ゴードン・マッカーサーを待った2台目のタクシー:3人乗車)

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ジョン・ゴードン・マッカーサー


<英国 TV ドラマ版>

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

上記の4人は、同じ列車で到着し、兵隊島への船着き場へと向かう。


*エドワード・ジョージ・アームストロング

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン(彼は、他のメンバーを待たず、先行して兵隊島へと渡っている)

上記の2人は、それぞれ車で移動。


*ジョン・ゴードン・マッカーサー

彼は、既に船着き場で待っていた。


なお、エミリー・キャロライン・ブレントも、他のメンバーを待たず、既に兵隊島に到着済である。


(3)

<英国 TV ドラマ版>

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、オーウェン氏の秘書の仕事を斡旋した紹介所の所長として、アイザック・モリス(Issac Morris)が、また、彼のタイピストとして、オードリー(Audrey)が登場する。

<原作>

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、オーウェン氏の秘書の仕事を斡旋した紹介所として、特に具体的な人物の名前等は言及されていない。

原作にも、アイザック・モリスは登場するが、彼は、オーウェン氏に代わって、兵隊島の買取りにかかる全てを取り仕切っている。彼は、3年前に起きたベニー証券詐欺事件に関与している他、麻薬の密売にも手を出していた模様。その後、オーウェン氏に殺害されたものと思われる。


(4)

<原作>

タクシーで到着した5人

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*エミリー・キャロライン・ブレント

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

と既に船着場に到着していた1人

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

と少し遅れて自分の車で到着した1人

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン

の合計7人は、フレッド・ナラコット(Fred Narracott)のモーターボートに乗り、先に兵隊島へと渡る。

夕方、自分の車で到着したエドワード・ジョージ・アームストロングは、フレッド・ナラコットのモーターボートで、1人遅れて兵隊島へと渡る。

<英国 TV 版>

フレッド・ナラコットのモーターボートに乗り、兵隊島へと渡る場面が描かれるのは、以下の6人のみ。

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*エドワード・ジョージ・アームストロング


アンソニー・ジェイムズ・マーストンとエミリー・キャロライン・ブレントの2人に関しては、他のメンバーを待たず、既に兵隊島へと渡っている。


(5)

<英国 TV 版>

最初の晩の夕食時、車の強引な追越しの件で、エドワード・ジョージ・アームストロングとアンソニー・ジェイムズ・マーストンは言い合いになるが、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが仲裁に入り、2人に握手させている。

<原作>

原作の場合、このような場面はない。


(6)

<原作>

夕食後の寛いだ雰囲気の中で行われたオーウェン氏による罪状告発は、以下の順。

*エドワード・ジョージ・アームストロング

*エミリー・キャロライン・ブレント

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン

トマス・ロジャーズ / エセル・ロジャーズ

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ


各人の罪状の年月日について、具体的に言及されている(例:1925年3月14日)。


また、各人の罪状の形態に関して、「死に至らせた」、「死に追いやった」や「殺害した」等、異なっている。


<英国 TV ドラマ版>

夕食後の寛いだ雰囲気の中で行われたオーウェン氏による罪状告発は、以下の順。

*エドワード・ジョージ・アームストロング

*エミリー・キャロライン・ブレント

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

トマス・ロジャーズ / エセル・ロジャーズ

英国 TV ドラマ版の場合、原作対比、トマス・ロジャーズ / エセル・ロジャーズとローレンス・ジョン・ウォーグレイヴの罪状告発の順番が、逆になっている。


各人の罪状の年月日について、全く言及されていない。


また、各人の罪状の形態に関しては、「殺害した(did murder)」で統一されている。


(7)

<原作>

エセル・ロジャーズが倒れたのは、オーウェン氏による罪状告発の時点で、倒れた場所は、夕食後、ゲスト達が移動した応接室の外である。

彼女は、一旦、フィリップ・ロンバードとアンソニー・ジェイムズ・マーストンによって、応接室のソファーに寝かされ、ブランディーを飲んだ後、少し落ち着いた。その後、トマス・ロジャーズとエドワード・ジョージ・アームストロングに支えられて、彼女は使用人部屋(屋敷の2階)で休むことになった。

<英国 TV ドラマ版>

エセル・ロジャーズがオーウェン氏による罪状告発を聞いた場所は、原作とは異なり、応接室の外ではなく、キッチンで、身体がひどく震えていたものの、倒れるまでには至っていない。

その後、夫であるトマス・ロジャーズに抱えられ、エドワード・ジョージ・アームストロングに付き添われて、彼女は使用人部屋(屋敷の地下)で休むことになった。


(8)

<原作>

オーウェン氏による罪状告発が録音されたレコードがセットされた蓄音機は、応接室の隣りの部屋に設置されていた。


オーウェン氏による指図に基づき、夕食後、トマス・ロジャーズが応接間に居るゲスト達へコーヒーを運んだ時点で、エセル・ロジャーズが「白鳥の歌(Swan Song)」と表示されたレコードを回す手筈になっていた。


<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、オーウェン氏による罪状告発が録音されたレコードがセットされた蓄音機は、応接室の隣りの部屋ではなく、地下のある部屋に設置されていた。


オーウェン氏による指図に基づき、夕食後、トマス・ロジャーズが「白鳥の歌」と表示されたレコードをスタートさせる手筈になっていた。


(9)

<原作>

去年(last year)の11月14日、アンソニー・ジェイムズ・マーストンは、ケンブリッジ(Cambridge)の近くで、ジョン・クームズ(John Coombes)とルーシー・クームズ(Lucy Coombes)と言う二人の子供を車で轢き殺している。アンソニー・ジェイムズ・マーストン本人は、「二人は、小さな家みたいなところから、いきなり飛び出して来た。」と抗弁している。

<英国 TV ドラマ版>

ジョン・クームズとルーシー・クームズの二人は、それぞれランタンを手にして、薄暗い道を歩いていたところ、スピードを出し過ぎていたアンソニー・ジェイムズ・マーストンが気付くのに遅れて、彼の車に轢き殺される場面が回想される。


(10)

<原作>

アンソニー・ジェイムズ・マーストンが何かに喉を詰まらせて死亡した際、彼が持っていたグラスの底に残っている酒に、エドワード・ジョージ・アームストロングが指を一本ちょっとつけ、その指を自分の舌に近付けると、用心深くそっと舐めている。そして、エドワード・ジョージ・アームストロングは、「アンソニー・ジェイムズ・マーストンの死因は、おそらく青酸カリだ。」と、皆に告げている。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、このような場面はない。翌朝、迎えのボーターボートを待つ中、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの部屋を訪れたウィリアム・ヘンリー・ブロアが、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの口元からアーモンドの臭いがすることに気付き、後から部屋にやって来たフィリップ・ロンバードに、そのことを告げている。


(11)

<原作>

アンソニー・ジェイムズ・マーストンが亡くなった後、エドワード・ジョージ・アームストロングとフィリップ・ロンバードの2人が、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの遺体を彼の部屋へと運んでいる。

自分の部屋で休むエセル・ロジャーズを除く他の皆は、応接室で待っていた。

<英国 TV ドラマ版>

アンソニー・ジェイムズ・マーストンが亡くなった後、エドワード・ジョージ・アームストロング、フィリップ・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの3人が、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの遺体を彼の部屋へと運んでいる。

その際、フィリップ・ロンバードが、アンソニー・ジェイムズ・マーストンを安置したベッド脇にあるテーブルの引き出しから、コカインが入ったケースを見つけている。


(12)

<原作>

ゲスト達が各自の部屋へ退いた後、トマス・ロジャーズが食堂のテーブルを片付けている時、テーブルの上にある人形の数が10個から9個へと減っていることに気付く。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、このような場面はない。


(13)

<原作>

トマス・ロジャーズと妻のエセル・ロジャーズの二人は、1926年5月6日の嵐の夜、仕えていた老女であるジェニファー・ブレイディー(Jennifer Brady)が発作を起こした際、処方薬を適切に投与せず、医者を呼びに行っている間に、発作を悪化させて、死に至らせたことになっている。

英国 TV ドラマ版>

トマス・ロジャーズが眠っている老女の顔の上に枕を押し付け、呼吸困難から心臓麻痺を起こさせて、殺害したことに変更されている。なお、妻のエセル・ロジャーズは、夫が老女を殺害する現場を近くで震えて見ていた。


(14)

英国 TV ドラマ版

ゲスト達が各自の部屋へ退いた後、トマス・ロジャーズがキッチンで後片付けをしている時、何者かがエセル・ロジャーズの部屋のドアをノックする。

<原作>

原作の場合、このような場面はない。


(15)

<原作>

翌朝、エドワード・ジョージ・アームストロングが悪夢から目覚めると、真っ青な顔をしたトマス・ロジャーズが彼の上に屈み込んで、彼を揺さぶっていた。「妻(エセル・ロジャーズ)が目を覚さない。何か様子がおかしい。」とのことだった。

英国 TV ドラマ版

翌朝、エドワード・ジョージ・アームストロングが悪夢から目覚めると、彼の部屋のドアをトマス・ロジャーズがノックしているところだった。「妻(エセル・ロジャーズ)が目を覚さない。何か様子がおかしい。」と言って。英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、トマス・ロジャーズは、エドワード・ジョージ・アームストロングの部屋の中まで立ち入っていない。


(16)

<原作>

翌朝、午前9時からの朝食が終わった後、エドワード・ジョージ・アームストロングは、他のゲスト達に対して、「エセル・ロジャーズが眠っている間に亡くなった。ただし、死因については、現時点では、はっきりしない。」と告げている。

英国 TV ドラマ版

トマス・ロジャーズに呼ばれて、エセル・ロジャーズの死亡を確認したエドワード・ジョージ・アームストロングが、自分の部屋へ戻るために、地下から上がって来た際、1階に居たヴェラ・エリザベス・クレイソーンに尋ねられて、エセル・ロジャーズが亡くなったことを告げている。


(17)

<原作>

朝食を終えたゲスト達が迎えのモーターボートを待つ中、テラスに居たエドワード・ジョージ・アームストロングのところへ、トマス・ロジャーズが慌てた様子でやって来る。そして、「食堂のテーブルの上にある人形の数が10個から、昨晩、9個へ、そして、今朝、8個へと減っている。」と話した。

英国 TV ドラマ版

英国 TV ドラマ版の場合、上記(14)の時点で、食堂のテーブルの上にある人形の数が10個から8個へと減っているのを、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが見つけて、エドワード・ジョージ・アームストロングに対して、疑問を呈している。


ここで、英国 TV ドラマ版の「エピソード1」は、終わりを迎えるのである。


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