2025年5月2日金曜日

ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」(The Women of Baker Street by Michelle Birkby)- その1

英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版の表紙
(Cover Images : Roy Bishop / Arcangel Images & Shutterstock)


今回は、英国の作家であるミシェル・バークビー(Michelle Birkby)作の長編「ベイカー街の女たちと幽霊少年団(The Women of Baker Street)」について、紹介したい。

ミシェル・バークビーは、コナン・ドイル財団(Conan Doyle Estate Ltd.)が公認したシャーロック・ホームズのパスティーシュとして、2016年に長編「ベイカー街の女たち(The House at Baker Street → 2025年3月30日 / 4月2日 / 4月10日 / 4月26日付ブログで紹介済)」で作家デビュー。

「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」(2017年)は、「ベイカー街の女たち」に続くシリーズ第2作目に該る。


サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)による原作の場合、皆さんも御存知の通り、シャーロック・ホームズと相棒で、事件の記録者でもあるジョン・H・ワトスン医師が主人公となるが、ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たち」と「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」の場合、他のパスティーシュとも異なり、ホームズが下宿するベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)と呼ばれているマーサ・ハドスン(Martha Hudson)と「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)を通じて出会ったジョン・H・ワトスンと結婚したメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))が、主人公となって、事件の調査に挑むのである。


マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人が、金銭目的ではなく、自分の支配力を誇示したいがために、大勢の女性を食い物にしている強請屋(ゆすりや)を退治した1889年4月から約6ヶ月が経過した同年10月30日から、再度、物語が始まる。

「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」事件を解決して、ダートムーア(Dartmoor)からロンドンへと帰還したシャーロック・ホームズは、自室に閉じこもって、まるで孤島暮らしをしているかのようだった。

ホームズと同じく、ロンドンに戻ったワトスンは、妻のメアリーを連れて、2週間の予定で、エディンバラ(Edinburgh)へ休暇旅行に出かけていた。彼らは、ベイカーストリート221B 住み込みの給仕であるビリー(Billy)も一緒に伴っていた。

一人になったハドスン夫人は、数ヶ月前の事件のことをどうしても頭から振り払うことができず、この2週間、気を紛らすために、暇さえあれば、お菓子やパンを焼いていた。


ベイカー街を10分程行った場所に食料雑貨店を開いたレベッカ・フェイ(Rebecca Fey)に、焼き立てのパウンドケーキを配達したハドスン夫人は、ベイカーストリート221B へ戻る途中、異様な疲れを感じていた。

ベイカーストリート221B に辿り着いて、玄関ホールに入った途端、ハドスン夫人は、いきなり激痛に襲われて、咄嗟に階段の支柱を掴む。今回の痛みは、これまでにない程、ひどかった。

2階の部屋からホームズが出て来る気配を感じたが、ハドスン夫人は、真っ暗な闇に飲み込まれて、ホームズの足下に蹲ったのである。


次に、ハドスン夫人が目を覚ましたのは、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)内の特別病棟のベッドの上だった。

ハドスン夫人がホームズの足下に蹲った時、丁度運良く、ワトスン夫妻が帰って来たのである。ワトスンは、ハドスン夫人を抱きかかえて、辻馬車まで運び、顔が利くセントバーソロミュー病院への入院手続を取ってくれたのである。


モルヒネと麻酔薬の投与により、目が覚めた後も頭にまだ霞がかかったようになっていたハドスン夫人は、病室のとりわけ暗い一角に、うごめく影のかたまりを見た。ハドスン夫人が目を凝らしていると、影のかたまりは、彼女のベッドの裾を横切り、彼女の斜向かいにあるベッドへと向かった。

朦朧とする意識のなか、ハドスン夫人は、その影のかたまりがそのベッドの上に覆いかぶさるのを目撃した後、突如、深い眠りへ引きずり込まれると、意識が遠のく。


翌朝、影のかたまりが覆いかぶさっていたベッドの女性が亡くなっているのが見つかった。

ハドスン夫人にとっての第二の事件が、こうして幕を開けたのである。


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