2023年11月1日水曜日

アガサ・クリスティー作「オリエント急行の殺人」<英国 TV ドラマ版>(Murder on the Orient Express by Agatha Christie )- その4

第64話「オリエント急行の殺人」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 8 ケースの裏表紙
 -
一番左側と左側から2番目が「オリエント急行の殺人」の場面で、
一番左側の場面において、右側の人物が、エルキュールポワロ
(演:
サー・デヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet)で、
左側の人物が、
サミュエル・ラチェット(演:Toby Jones)である。
左側から2番目の場面には、
米国人で、サミュエル・ラチェットの秘書である
ヘクター・マックイーン(演:Brian J. Smith)が出ている。

英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第64話(第12シリーズ)として、2010年12月25日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」(1934年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。

なお、今回は、サミュエル・ラチェット(Samuel Ratchett - 米国人の実業家)の刺殺死体が発見されてから、エルキュール・ポワロによる乗客への事情聴取が行われる場面までとする。


(14)

<原作>

翌朝、ポワロが目を覚ましたのは、午前9時過ぎだった。オリエント急行(Orient Express)は、積雪による吹き溜まりに突っ込んで、立ち往生したままであった。

午前9時45分に、ポワロは、朝食のために、食堂車へと向かう。ポワロが周りを見回したところ、何名かがまだ来ていないようだった。

ポワロが食事をしていると、車掌のピエール・ミシェル(Pierre Michel - フランス人)がやって来て、アテネ(Athens)発パリ(Paris)行きの車輌へと呼び出される。そこは、ベルギー時代からの友人で、国際寝台車会社(Compagnie Internationale des Wagons Lits)の重役ブック氏(Mr. Bouc)の部屋ではなかったが、ブック氏達が、ポワロを待っていた。そこで、ポワロは、ブック氏から、コンスタンティン博士(Dr. Constantine - ギリシア人で、医師)を紹介される。そして、ポワロの隣りの2号室(一等寝台席)に宿泊していたサミュエル・ラチェットの刺殺死体が発見されたことを告げられるのであった。

<TV ドラマ版>

翌朝、目を覚ましたポワロが、朝食のために、身支度を整えていたところ、ブック氏が、突然、ポワロの部屋のドアを激しくノックする。ポワロは、「少し待って欲しい!」と返事を返したが、ブック氏は、お構いなく、ポワロの部屋へと強引に入って来る。そして、ブック氏は、ポワロに対して、ポワロの隣りの2号室(一等寝台席)に宿泊していたサミュエル・ラチェットの刺殺死体が発見されたことを告げるのであった。


(15)

<原作>

ブック氏に依頼されたコンスタンティン博士が、サミュエル・ラチェットの刺殺死体を検死した結果、「刺し傷は、12箇所。(I make it twelve. One or two are so slight as to be practically scratches. On the other hand, at least three would be capable of causing death.)」と、ポワロに告げている。

<TV ドラマ版>

ブック氏に依頼されたコンスタンティン博士が、サミュエル・ラチェットの刺殺死体を検死した結果、「刺し傷は、12箇所。」と告げたが、同じく、サミュエル・ラチェットの死体を調べたポワロが、「15回は刺されている。」と訂正している。


(16)

<原作>

サミュエル・ラチェットが殺害された現場には、燃やされた手紙が残っていて、ポワロは、その手紙に残された「-member little Daisy Armstrong」から、デイジー・アームストロング(Daisy Armstrong)という言葉を解読する。そして、サミュエル・ラチェットという名前は偽名であり、彼は、5年前に、米国において、幼いデイジー・アームストロングを誘拐して殺害した犯人カセッティ(Cassetti)で、身代金を持って海外へ逃亡していたことを解明するのであった。

<TV ドラマ版>

サミュエル・ラチェットが殺害された現場には、燃やされた手紙が残っていて、ポワロは、その手紙に残された「aisy Arms」から、デイジー・アームストロングという言葉を解読するが、原作と比べると、ポワロに与えられた情報が、かなり限定されている。


(17)

<原作>

イスタンブール(Istanbul)発カレー(Calais)行きの車輌の乗客は、以下の通り。


2013年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「オリエント急行の殺人」
(ペーパーバック版)内に記載されている
オリエント急行の
イスタンブール発カレー行き寝台車の見取り図


*1号室(一等寝台席):エルキュール・ポワロ

*2号室(一等寝台席):サミュエル・エドワード・ラチェット

*3号室(一等寝台席):キャロライン・マーサ・ハバード夫人(Mrs.   Caroline Martha Hubbard)- 陽気でおしゃべりな中年女性(米国人)

*4号室(二等寝台席):エドワード・ヘンリー・マスターマン(Edward Henry Masterman)- ラチェットの執事(英国人)

*5号室(二等寝台席):アントニオ・フォスカレリ(Antonio Foscarelli)- 自動車のセールスマン(米国に帰化したイタリア人)

*6号室(二等寝台席):ヘクター・ウィラード・マックイーン(Hector Willard MacQueen) - ラチェットの秘書(米国人)

*7号室(二等寝台席):空室(当初、ポワロが使用していた)

*8号室(二等寝台席):ヒルデガード・シュミット(Hildegarde Schmidt)- ドラゴミロフ公爵夫人に仕える女中(ドイツ人)

*9号室(二等寝台席):空室

*10号室(二等寝台席):グレタ・オルソン(Greta Ohisson) - 信仰心の強い中年女性(スウェーデン人)

*11号室(二等寝台席):メアリー・ハーマイオニー・デベナム(Mary Hermione Debenham)- 家庭教師(英国人)

*12号室(一等寝台席):エレナ・マリア・アンドレニ伯爵夫人(Countess Elena Maria Andrenyi / 旧姓:エレナ・マリア・ゴールデンベルク(Elena Maria Goldenberg))- ルドルフ・アンドレニ伯爵の妻(ハンガリー人)

*13号室(一等寝台席):ルドルフ・アンドレニ伯爵(Count Rudolf Andrenyi)- 外交官(ハンガリー人)

*14号室(一等寝台席):ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人(Princess Natalia Dragomiroff)- 亡命貴族の老婦人(フランスに帰化したロシア人)

*15号室(一等寝台席):アーバスノット大佐(Colonel Arbuthnot)- 軍人(英国人)

*16号室(一等寝台席):サイラス・ベスマン・ハードマン(Cyrus Bethman Hardman)- セールスマンと言っているが、実はラチェットの身辺を護衛する私立探偵(米国人)


<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、車輌の図面(乗客名を含む)は表示されないため、具体的に、誰がどの部屋に居たのかについては、明確には言及されていない。

映像上、明確に描かれているのは、ポワロ、サミュエル・ラチェットとキャロライン・ハバード夫人の3人の部屋が隣り合っていること位である。

また、TV ドラマ版の場合、サイラス・ハードマンが登場しない関係上、コンスタンティン博士が、サイラス・ハードマンに代わって、16号室(一等寝台席)に宿泊していたものと思われる。


(18)

<原作>

ポワロによる乗客への事情聴取の順番

(1人目)

Wagon Lit Conductor:ピエール・ミシェル

(2人目)

Secretary:ヘクター・マックイーン

(3人目)

Valet:エドワード・マスターマン

(4人目)

American Lady:キャロライン・ハバード夫人

(5人目)

Swedish Lady:グレタ・オルソン

(6人目)

Russian Princess:ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人

(7人目+8人目)

Count and Countess Andrenyi:ルドルフ・アンドレニ伯爵+エレナ・アンドレニ伯爵夫人

(9人目)

Colonel Arbuthnot:アーバスノット大佐

(10人目)

Mr. Hardman:サイラス・ベスマン・ハードマン

(11人目)

Italian:アントニオ・フォスカレリ

(12人目)

Miss. Debenham:メアリー・デベナム

(13人目)

German Lady’s-Maid:ヒルデガード・シュミット


<TV ドラマ版>

ポワロによる乗客への事情聴取の順番

(1人目)

Wagon Lit Conductor:ピエール・ミシェル

(2人目)

Valet:エドワード・マスターマン

(3人目)

Secretary:ヘクター・マックイーン

(4人目)

American Lady:キャロライン・ハバード夫人

(5人目)

Swedish Lady:グレタ・オルソン

(6人目)

Russian Princess:ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人

(7人目)

Italian:アントニオ・フォスカレリ

(8人目)

German Lady’s-Maid:ヒルデガード・シュミット

(9人目+10人目)

Count and Countess Andrenyi:ルドルフ・アンドレニ伯爵+エレナ・アンドレニ伯爵夫人

(11人目+12人目)

Miss. Debenham:メアリー・デベナム

Colonel Arbuthnot:アーバスノット大佐


(19)

<TV ドラマ版>

ポワロ、ブック氏とコンスタンティン博士の3人が、サミュエル・ラチェットの2号室(一等寝台席)において、ヘクター・マックイーンの事情聴取を行なっていた際、大雪に突っ込んで、急停車した列車の修理中、電気がショートして、停電してしまう。これが、後々、乗客と乗務員に対して、大変な事態を引き起こすことになる。

<原作>

原作の場合、TV ドラマ版のような事態は、発生していない。


(20)

<原作>

ヘクター・マックイーンの父親は、アームストロング家の弁護士であった。

<TV ドラマ版>

ヘクター・マックイーンの父親は、米国人の実業家であるサミュエル・エドワード・ラチェットと言う偽名を使用していたランフランコ・カセッティ(Lanfranco Cassetti)を処罰する検事と言う設定に変更されている。


(21)

<原作>

ポワロがグレタ・オルソンの事情聴取を行なった際、特に、深い宗教談義は為されていない。

<TV ドラマ版>

今回、「法とは、何か?正義とは、何か?」と言う問い掛けが何度も繰り返される関係上、ポワロがグレタ・オルソンの事情聴取を行なった際、彼と彼女の間で、特に、カトリックにかかる宗教談義が為されている。


(22)

<原作>

ポワロの事情聴取において、アーバスノット大佐は、メアリー・デベナムとの関係について言及することを、頑なに拒否する。

<TV ドラマ版>

ポワロの事情聴取において、アーバスノット大佐は、メアリー・デベナムとの関係について、「結婚して20年になる妻と、現在、離婚協議中のため、彼女(メアリー・デベナム)との関係について、明らかにできなかった。」と説明している。


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