英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第64話(第12シリーズ)として、2010年12月25日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」(1934年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。
なお、今回は、サミュエル・ラチェット(Samuel Ratchett - 米国人の実業家)の刺殺死体が発見されてから、エルキュール・ポワロによる乗客への事情聴取が行われる場面までとする。
(14)
<原作>
翌朝、ポワロが目を覚ましたのは、午前9時過ぎだった。オリエント急行(Orient Express)は、積雪による吹き溜まりに突っ込んで、立ち往生したままであった。
午前9時45分に、ポワロは、朝食のために、食堂車へと向かう。ポワロが周りを見回したところ、何名かがまだ来ていないようだった。
ポワロが食事をしていると、車掌のピエール・ミシェル(Pierre Michel - フランス人)がやって来て、アテネ(Athens)発パリ(Paris)行きの車輌へと呼び出される。そこは、ベルギー時代からの友人で、国際寝台車会社(Compagnie Internationale des Wagons Lits)の重役ブック氏(Mr. Bouc)の部屋ではなかったが、ブック氏達が、ポワロを待っていた。そこで、ポワロは、ブック氏から、コンスタンティン博士(Dr. Constantine - ギリシア人で、医師)を紹介される。そして、ポワロの隣りの2号室(一等寝台席)に宿泊していたサミュエル・ラチェットの刺殺死体が発見されたことを告げられるのであった。
<TV ドラマ版>
翌朝、目を覚ましたポワロが、朝食のために、身支度を整えていたところ、ブック氏が、突然、ポワロの部屋のドアを激しくノックする。ポワロは、「少し待って欲しい!」と返事を返したが、ブック氏は、お構いなく、ポワロの部屋へと強引に入って来る。そして、ブック氏は、ポワロに対して、ポワロの隣りの2号室(一等寝台席)に宿泊していたサミュエル・ラチェットの刺殺死体が発見されたことを告げるのであった。
(15)
<原作>
ブック氏に依頼されたコンスタンティン博士が、サミュエル・ラチェットの刺殺死体を検死した結果、「刺し傷は、12箇所。(I make it twelve. One or two are so slight as to be practically scratches. On the other hand, at least three would be capable of causing death.)」と、ポワロに告げている。
<TV ドラマ版>
ブック氏に依頼されたコンスタンティン博士が、サミュエル・ラチェットの刺殺死体を検死した結果、「刺し傷は、12箇所。」と告げたが、同じく、サミュエル・ラチェットの死体を調べたポワロが、「15回は刺されている。」と訂正している。
(16)
<原作>
サミュエル・ラチェットが殺害された現場には、燃やされた手紙が残っていて、ポワロは、その手紙に残された「-member little Daisy Armstrong」から、デイジー・アームストロング(Daisy Armstrong)という言葉を解読する。そして、サミュエル・ラチェットという名前は偽名であり、彼は、5年前に、米国において、幼いデイジー・アームストロングを誘拐して殺害した犯人カセッティ(Cassetti)で、身代金を持って海外へ逃亡していたことを解明するのであった。
<TV ドラマ版>
サミュエル・ラチェットが殺害された現場には、燃やされた手紙が残っていて、ポワロは、その手紙に残された「aisy Arms」から、デイジー・アームストロングという言葉を解読するが、原作と比べると、ポワロに与えられた情報が、かなり限定されている。
(17)
<原作>
イスタンブール(Istanbul)発カレー(Calais)行きの車輌の乗客は、以下の通り。
2013年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された アガサ・クリスティー作「オリエント急行の殺人」 (ペーパーバック版)内に記載されている オリエント急行の イスタンブール発カレー行き寝台車の見取り図 |
*1号室(一等寝台席):エルキュール・ポワロ
*2号室(一等寝台席):サミュエル・エドワード・ラチェット
*3号室(一等寝台席):キャロライン・マーサ・ハバード夫人(Mrs. Caroline Martha Hubbard)- 陽気でおしゃべりな中年女性(米国人)
*4号室(二等寝台席):エドワード・ヘンリー・マスターマン(Edward Henry Masterman)- ラチェットの執事(英国人)
*5号室(二等寝台席):アントニオ・フォスカレリ(Antonio Foscarelli)- 自動車のセールスマン(米国に帰化したイタリア人)
*6号室(二等寝台席):ヘクター・ウィラード・マックイーン(Hector Willard MacQueen) - ラチェットの秘書(米国人)
*7号室(二等寝台席):空室(当初、ポワロが使用していた)
*8号室(二等寝台席):ヒルデガード・シュミット(Hildegarde Schmidt)- ドラゴミロフ公爵夫人に仕える女中(ドイツ人)
*9号室(二等寝台席):空室
*10号室(二等寝台席):グレタ・オルソン(Greta Ohisson) - 信仰心の強い中年女性(スウェーデン人)
*11号室(二等寝台席):メアリー・ハーマイオニー・デベナム(Mary Hermione Debenham)- 家庭教師(英国人)
*12号室(一等寝台席):エレナ・マリア・アンドレニ伯爵夫人(Countess Elena Maria Andrenyi / 旧姓:エレナ・マリア・ゴールデンベルク(Elena Maria Goldenberg))- ルドルフ・アンドレニ伯爵の妻(ハンガリー人)
*13号室(一等寝台席):ルドルフ・アンドレニ伯爵(Count Rudolf Andrenyi)- 外交官(ハンガリー人)
*14号室(一等寝台席):ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人(Princess Natalia Dragomiroff)- 亡命貴族の老婦人(フランスに帰化したロシア人)
*15号室(一等寝台席):アーバスノット大佐(Colonel Arbuthnot)- 軍人(英国人)
*16号室(一等寝台席):サイラス・ベスマン・ハードマン(Cyrus Bethman Hardman)- セールスマンと言っているが、実はラチェットの身辺を護衛する私立探偵(米国人)
<TV ドラマ版>
TV ドラマ版の場合、車輌の図面(乗客名を含む)は表示されないため、具体的に、誰がどの部屋に居たのかについては、明確には言及されていない。
映像上、明確に描かれているのは、ポワロ、サミュエル・ラチェットとキャロライン・ハバード夫人の3人の部屋が隣り合っていること位である。
また、TV ドラマ版の場合、サイラス・ハードマンが登場しない関係上、コンスタンティン博士が、サイラス・ハードマンに代わって、16号室(一等寝台席)に宿泊していたものと思われる。
(18)
<原作>
ポワロによる乗客への事情聴取の順番
(1人目)
Wagon Lit Conductor:ピエール・ミシェル
(2人目)
Secretary:ヘクター・マックイーン
(3人目)
Valet:エドワード・マスターマン
(4人目)
American Lady:キャロライン・ハバード夫人
(5人目)
Swedish Lady:グレタ・オルソン
(6人目)
Russian Princess:ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人
(7人目+8人目)
Count and Countess Andrenyi:ルドルフ・アンドレニ伯爵+エレナ・アンドレニ伯爵夫人
(9人目)
Colonel Arbuthnot:アーバスノット大佐
(10人目)
Mr. Hardman:サイラス・ベスマン・ハードマン
(11人目)
Italian:アントニオ・フォスカレリ
(12人目)
Miss. Debenham:メアリー・デベナム
(13人目)
German Lady’s-Maid:ヒルデガード・シュミット
<TV ドラマ版>
ポワロによる乗客への事情聴取の順番
(1人目)
Wagon Lit Conductor:ピエール・ミシェル
(2人目)
Valet:エドワード・マスターマン
(3人目)
Secretary:ヘクター・マックイーン
(4人目)
American Lady:キャロライン・ハバード夫人
(5人目)
Swedish Lady:グレタ・オルソン
(6人目)
Russian Princess:ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人
(7人目)
Italian:アントニオ・フォスカレリ
(8人目)
German Lady’s-Maid:ヒルデガード・シュミット
(9人目+10人目)
Count and Countess Andrenyi:ルドルフ・アンドレニ伯爵+エレナ・アンドレニ伯爵夫人
(11人目+12人目)
Miss. Debenham:メアリー・デベナム
Colonel Arbuthnot:アーバスノット大佐
(19)
<TV ドラマ版>
ポワロ、ブック氏とコンスタンティン博士の3人が、サミュエル・ラチェットの2号室(一等寝台席)において、ヘクター・マックイーンの事情聴取を行なっていた際、大雪に突っ込んで、急停車した列車の修理中、電気がショートして、停電してしまう。これが、後々、乗客と乗務員に対して、大変な事態を引き起こすことになる。
<原作>
原作の場合、TV ドラマ版のような事態は、発生していない。
(20)
<原作>
ヘクター・マックイーンの父親は、アームストロング家の弁護士であった。
<TV ドラマ版>
ヘクター・マックイーンの父親は、米国人の実業家であるサミュエル・エドワード・ラチェットと言う偽名を使用していたランフランコ・カセッティ(Lanfranco Cassetti)を処罰する検事と言う設定に変更されている。
(21)
<原作>
ポワロがグレタ・オルソンの事情聴取を行なった際、特に、深い宗教談義は為されていない。
<TV ドラマ版>
今回、「法とは、何か?正義とは、何か?」と言う問い掛けが何度も繰り返される関係上、ポワロがグレタ・オルソンの事情聴取を行なった際、彼と彼女の間で、特に、カトリックにかかる宗教談義が為されている。
(22)
<原作>
ポワロの事情聴取において、アーバスノット大佐は、メアリー・デベナムとの関係について言及することを、頑なに拒否する。
<TV ドラマ版>
ポワロの事情聴取において、アーバスノット大佐は、メアリー・デベナムとの関係について、「結婚して20年になる妻と、現在、離婚協議中のため、彼女(メアリー・デベナム)との関係について、明らかにできなかった。」と説明している。
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