2023年11月23日木曜日

アガサ・クリスティー作「予告殺人」<英国 TV ドラマ版>(A Murder Is Announced by Agatha Christie )- その3

2016年9月15日に、アガサ・クリスティー没後40周年に際して、
英国のロイヤルメール(Royal Mail)が発行した記念切手6種類のうちの
1枚である「予告殺人」 -
リトルパドックス館内の明かりが突然消えて、部屋の扉が開き、
懐中電灯を持った謎の男(ルディー・シャーツ)が部屋に侵入して来たシーンが描かれている。
ルディー・シャーツが持った懐中電灯で照らされた部屋の壁が、時計のようにデザインされている。
明かりが消えたランプが12時を、ミス・ジェイン・マープルの横顔が描かれた絵が3時を、
午後6時半を示すスイス製時計が午後9時を、
そして、ルディー・シャーツの拳銃で狙われた女性が6時を指している。
また、その女性は右手に地元紙朝刊「ギャゼット」を持っていて、
予告殺人が掲載された広告欄が懐中電灯に照らし出されている。


英国の TV 会社 ITV 社が制作したアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「「予告殺人(A Murder Is Announced → 2022年12月5日付ブログで紹介済)」(1950年)の TV ドラマ版である「Agatha Christie’s Miss Marple」の第4話(第1シリーズ)「予告殺人」の場合、アガサ・クリスティーの原作に比べると、物語の展開上、以下の違いが見受けられる。


チッピングクレグホーン村(Chipping Cleghorn)の郊外にあるリトルパドックス館(Little Paddocks)の女主人レティシア・ブラックロック(Letitia Blacklock)は、かつて資産家ランダル・ゲドラー(Randall Goedler)の下で、秘書として働いていた。

ランダル・ゲドラーの遺産は、彼の死後、彼の妻ベル・ゲドラー(Belle Goedler)が相続したが、彼女の死期が近かった。

ベル・ゲドラーが亡くなった場合、レティシア・ブラックロックが、ゲドラー家の財産を相続するが、万が一、レティシア・ブラックロックがベル・ゲドラーよりも先に亡くなった場合、ゲドラー家の財産は、20年前に、ランダル・ゲドラーの反対を押し切って、駆け落ち結婚をした妹ソニア・ゲドラー(Sonia Goedler)の双子の子供であるピップ(Pip)とエマ(Emma)の手に渡る手筈になっていた。


捜査主任のダーモット・クラドック警部(Inspector Dermot Craddock)は、スコットランドへ赴き、病床に臥すベル・ゲドラーと面会する。

ベル・ゲドラーによると、彼女も、レティシア・ブラックロックも、ソニア・ゲドラーの一家が、現在、どこに居るのか、また、成長した双子のピップとエマの2人が、現在、どんな容貌になっているのか、知らないとのことだった。


(4)

<原作>

原作の場合、ランダル・ゲドラーの妹ソニア・ゲドラーが駆け落ち結婚をした相手の名前は、ディミトリ・スタンフォーディス(Dmitri Stamfordis)となっている。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、ソニア・ゲドラーが駆け落ち結婚をした相手の名前は、アレックス・ファブリカント(Alex Fabricant)に変更されている。更に、彼には、犯罪歴があったと言う設定になっている。


ベル・ゲドラーは、更に、レティシア・ブラックロックのことにも言及した。

レティシア・ブラックロックには、甲状腺腫(goitre)を患うシャーロット・ブラックロック(Charlotte Blacklock)と言う妹が居たが、医者だった姉妹の父親は、甲状腺の手術を信用していなかった。甲状腺の手術を受けられなかった結果、シャーロットの病状は悪化して、彼女は引き籠もりになった。

第二次世界大戦(1939年-1945年)の少し前に、姉妹の父親が亡くなった際、レティシア・ブラックロックは、資産家ランダル・ゲドラーのところでの仕事を辞めると、妹シャーロットをスイスへと連れて行き、甲状腺の手術を受けさせた。

レティシアとシャーロットのブラックロック姉妹は、スイスにそのままとどまり、終戦を待ったが、妹シャーロットは、結核(consumption)のため、急死してしまった。

その結果、レティシア・ブラックロックは、独りでスイスから英国へと戻って来たのである。


(5)

<原作>

原作の場合、レティシア・ブラックロックの妹シャーロット・ブラックロックについて、ダーモット・クラドック警部は、ベル・ゲドラーから、話を聞いている。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、シャーロット・ブラックロックに関して、ダーモット・クラドック警部は、ルディー・シャーツ(Rudi Scherz - リトルパドックス館へ押し入ったスイス人の強盗)が殺害された時点で、レティシア・ブラックロック本人から、話を聞いている。


レティシア・ブラックロックは、彼女の親友で、リトルパドックス館に同居するドラ・バンナー(Dora Bunner)のために、誕生日会を開催して、ルディー・シャーツが殺害された際、現場に居たほぼ全員をリトルパドックス館に招待した。ミッチー・コジンスキー(Mitzi Kosinski - リトルパドックス館で働く外国人のメイド / 料理人)は、ドラ・バンナーのために、「甘美なる死(Delicious Death)」と命名した特製ケーキを焼いた。


(6)

<原作>

原作の場合、リトルパドックス館で働く外国人のメイド / 料理人の名前は、単にミッチーとなっている。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、ミッチー・コジンスキーと、フルネームが設定されている上、ポーランド出身となっている。


(7)

<原作>

原作の場合、誕生日パーティーの後、ドラ・バンナーは、頭痛を訴えて、レティシア・ブラックロックの部屋にあったアスピリン(Aspirin - 解熱・鎮痛・消炎剤)を飲むが、翌朝、彼女が、アスピリンに仕込まれていた毒により、亡くなっているのが発見される。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、誕生日パーティーの翌朝、ドラ・バンナーが毒殺されているのが、メイドに代わって、朝食を運んで来たレティシア・ブラックロックによって発見されるが、頭痛とアスピリンの件については、映像上、言及されていない。


(8)

<原作>

原作の場合、アーチー・イースターブルック大佐(Colonel Archie Easterbrook - インドから戻った軍人)には、ローラ・イースターブルック(Laura Easterbrook)と言う若妻が居る。従って、アーチー・イースターブルック大佐は、スウェッテナム夫人(Mrs. Swetlenham)との間に、恋愛関係はない。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、アーチー・イースターブルック大佐は、飲酒癖のため、妻から離婚され、現在、一人暮らしとなっている。また、ロンドンに住むローラ(Laura)と言う娘が居るが、離婚後、全く会えていないと言う設定も、付け加えられている。

原作の場合、文学青年エドマンド・スウェッテナム(Edmund Swetlenham)の母の名前は、スウェッテナム夫人となっているが、TV ドラマ版の場合、サディー・スウェッテナム(Sadie Swetlenham)と、フルネームが設定されている。

TV ドラマ版の場合、アーチー・イースターブルック大佐は、現在、サディー・スウェッテナムと交際しているが、サディー・スウェッテナムの息子であるエドマンド・スウェッテナムは、そのことを快く思っていないと言う設定も追加されている。

また、ルディー・シャーツを撃った銃は、アーチー・イースターブルック大佐が机の引き出しから盗まれたものであるが、彼は、その銃の許可証を持っていなかった。彼と自分の母親の交際を快く思わないエドマンド・スウェッテナムが、警察に対して、そのことを証言したため、アーチー・イースターブルック大佐は、ダーモット・クラドック警部によって、一時、拘束されてしまうことになる。


(9)

<原作>

原作の場合、ジュリアン・ハーモン(Julian Harmon - 牧師)とダイアナ・ハーモン(Diana Harmon - ジュリアン・ハーモンの妻)の家に滞在しているミス・ジェイン・マープルは、牧師が飼っている猫がランプをショートさせて、牧師館内が停電したことから、ルディー・シャーツが殺害された際、リトルパドックス館内を停電させた方法に思い当たる。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、ジュリアン・ハーモンとダイアナ・ハーモンは登場しないため、ミス・マープルは、エイミー・マーガトロイド(Amy Murgatroyd - 養鶏業者)とリジー・ヒンチクリフ(Lizzie Hinchcliffe - 養鶏業者で、エイミー・マーガトロイドの同居人)の家に滞在している。ミス・マープルが、就寝前に、ベッドの上でルディー・シャーツが殺害された事件のことを検討していた際、ベッド脇にあるランプのコードのうち、剥き出しになった部分に、コップの水をかけ、家中を停電させたことから、ルディー・シャーツが殺害された際、リトルパドックス館内を停電させた方法に思い当たる。


(10)

<原作>

原作の場合、エイミー・マーガトロイドとミス・ヒンチクリフの2人が、家において、ルディー・シャーツが殺害された事件のことを振り返っていた際、ルディー・シャーツが開けたドアの横に居たエイミー・マーガトロイドは、ある人物が問題の室内に居なかったことを思い出した。その時、電話が掛かってきて、その電話を受けたミス・ヒンチクリフは、車で出かけて行く。エイミー・マーガトロイドは、ミス・ヒンチクリフが運転する車の後を追いながら、「彼女が、そこに居なかった。(She wasn’t there !)」と叫んだ。

自宅へと戻る途中、ミス・ヒンチクリフは、ミス・ジェイン・マープルを車に乗せる。自宅に戻ったミス・ヒンチクリフとミス・マープルの2人は、エイミー・マーガトロイドが絞殺されているのを発見する。

<TV ドラマ版>

原作の場合、養鶏業者で、エイミー・マーガトロイドの同居人の名前は、ミス・ヒンチクリフとなっているが、TV ドラマ版の場合、リジー・ヒンチクリフと、フルネームが設定されている。

TV ドラマ版の場合、エイミー・マーガトロイドは、台所の引き出しから包丁を取り出した際、外で鳴った雷の光を受け、ある人物が問題の室内に居なかったことを思い出した。

リジー・ヒンチクリフは、外で豚に餌を与えていた。

エイミー・マーガトロイドは、外へと飛び出して、リジー・ヒンチクリフに対して、「彼女が、そこに居なかった。」と叫んだが、生憎と、激しい雷雨のため、リジー・ヒンチクリフの耳には届かなかった。

雷雨の中、びしょ濡れになる洗濯物を取り込もうとするエイミー・マーガトロイドの背後から、何者かが近付き、彼女を絞殺。

寝室から階下へと降りて来たミス・ジェイン・マープルが、窓から、外に倒れているエイミー・マーガトロイドを見つけて、外へと駆け出す。エイミー・マーガトロイドの元に駆け付けたものの、為す術もないミス・マープルが、悲しみに暮れているところへ、リジー・ヒンチクリフがやって来て、驚愕する。


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