チャールズ・ディケンズ作「ディヴィッド・コッパーフィールド」において、 主人公のディヴィッド・コッパーフィールドは、 母クララが再婚した義理の父エドワード・マードストンと彼の姉ジェーン・マードストンによって、 テムズ河沿いに建つマードストン・アンド・グリンビー倉庫で働かせられる羽目に陥る。 |
英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、2021年に発売されたジグソーパズル「チャールズ・ディケンズの世界(The World of Charles Dickens)」のイラスト内には、ヴィクトリア朝を代表する英国の小説家であるチャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens:1812年ー1870年)や彼が生きた時代の人物、そして、彼の作品に登場するキャラクター等が散りばめられているので、次回以降、順番に紹介していきたい。
今回紹介するのは、チャールズ・ディケンズの少年時代と彼の小説「ディヴィッド・コッパーフィールド(David Copperfield)」(1849年ー1850年)である。
チャールズ・ディケンズの家は、中流階級の家庭であったが、父親で、海軍の会計史(clerk in the Navy Pay Office)であるジョン・ディケンズ(John Dickens:1785年ー1851年)は、金銭感覚に乏しい人物で、母親のエリザベス・ディケンズ(Elizabeth Dickens:1789年ー1863年)も、同様の傾向が見られた。
サマセットハウスの建物外観 |
1822年6月、父ジョンは、ケント州(Kent)の港町チャタム(Chatham)からロンドンのサマセットハウス(Somerset House → 2016年7月17日付ブログで紹介済)にある海軍会計局の本部へ異動となった。チャールズ・ディケンズは、最終学期があったため、ディケンズ家は、彼をチャタムに残したまま、ロンドンのカムデンタウン(Camden Town)へと転居した。
チャタムに居る頃から濫費により、ディケンズ家の家計は、1824年に遂に破綻して、父ジョンは、多額の借金の不払いのため、ロンドンのサザーク(Southwark)にあるマーシャルシー債務者監獄(Marshalsea Debtors’ Prison)へと収監されてしまったのである。学校に通っていたチャールズ・ディケンズを除く家族も、父ジョンと一緒に、収監された。正確に言うと、家族は、債務者監獄において、父ジョンと一緒に、生活をすることが認められたのである。
その結果、チャールズ・ディケンズは、12歳の若さで、彼の親戚が経営していたウォーレン靴墨工場(Warren’s Blacking Factory)へ一人働きに出されることになった。なお、ウォーレン靴墨工場は、ストランド通り(Strand → 2015年3月29日付ブログで紹介済)とテムズ河(River Thames)の間にあった工場である。この靴墨工場における労働は非常に過酷な上に、そこで受けた仕打ちは酷かったため、彼の精神に深い傷を残した。
この少年期の経験は、チャールズ・ディケンズが1849年から1850年にかけて雑誌に月刊連載した小説「ディヴィッド・コッパーフィールド」に反映されている。
主人公のディヴィッド・コッパーフィールド(David Copperfield)は、心優しい母クララ・コッパーフィールド(Clara Copperfield)の下に出生するが、この時点で、彼の父は既に亡くなっていた。
ディヴィッドの大伯母であるベッツィ・トロットウッド(Betsey Trotwood)は、女の子の誕生を望んでおり、男の子だったことに失望して、家を出て行ってしまった。
大伯母ベッツィ・トロットウッドが家を出て行った後、ディヴィッド・コッパーフィールドは、母クララと陽気で献身的な乳母であるクララ・ペゴティー(Clara Peggotty)と一緒に暮らしていたが、冷酷なエドワード・マードストン(Edward Murdstone)に言葉巧みに言い寄られた母クララは、彼と再婚してしまう。
結婚後、エドワード・マードストンと彼の姉であるジェーン・マードストン(Jane Murdstone)の2人は、我が物顔で家に居座るようになり、母クララは、心身ともにやつれ果てて、亡くなってしまった。
ディヴィッド・コッパーフィールドは、義理の父とその姉によって、テムズ河沿いのブラックフライアーズ(Blackfriars)に建つマードストン・アンド・グリンビー倉庫(Murdstone and Grinby’s warehouse)で働かせられる等、手酷い扱いを受けた上に、学校も辞めさせられた。
ディヴィッド・コッパーフィールドは、貧乏人であるが、かなりの呑気者であるウィルキンズ・ミコーバー(Wilkins Micawber)と彼の妻であるエマ・ミコーバー(Emma Micawber)の下で暮らすようになるが、その後、ウィルキンズ・ミコーバーは、借金の不払いのため、警察に逮捕されてしまう。
ディヴィッド・コッパーフィールドは、大伯母ベッツィ・トロットウッドに対して、助けを求めるために、カンタベリー(Cantebury)へと向かうのであった。
上記の通り、物語の前半、ディヴィッド・コッパーフィールドは、辛酸を嘗めるが、作者のチャールズ・ディケンズが実際に経験したことが、ベースとなっている。
チャールズ・ディケンズの父ジョン・ディケンズは、「ディヴィッド・コッパーフィールド」の前半部分に登場するウィルキンズ・ミコーバーのモデルになったと言われている。
上記の通り、「ディヴィッド・コッパーフィールド」の前半部分は、作者チャールズ・ディケンズの自伝的要素が色濃く出ているのである。
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