アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」＜小説版（愛蔵版）＞（’Towards Zero’ by Agatha Christie ）- その３

２０２４年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」の
愛蔵版（ハードカバー版）の内扉
(Cover design by HarperCollinsPublishers Ltd. /
Cover illustration : Courtesy of the Mill at Sonning Theatre) 

 金持ちの未亡人で、寝たきりのカミラ・トレシリアン夫人（Lady Camilla Tressilian - ７０代初め）によって、ソルトクリーク（Saltcreek）の海辺の邸宅である「ガルズポイント（Gull’s Point）」の夕食会へ招かれた元弁護士のトリーヴス氏（Mr. Treves - 約８０歳 / トレシリアン夫妻の旧友）が、参加者に対して、急に昔の事件の話を始める。

それは、ある子供が友達を弓矢で撃ってしまった事故だが、トリーヴス氏によると、友達を弓矢で撃ってしまった子供が事前に弓矢の練習をしている現場を、近所の男性が目撃した、とのことだった。更に、トリーヴス氏は、友達を弓矢で撃ってしまった子供には、身体的な特徴があり、今会っても、直ぐに判ると語る。

「ガルズポイント」における夕食会の席上、唐突に奇妙な話を語ったトリーヴス氏であったが、翌朝、ホテルの部屋で亡くなっているのが見つかったのである。

検死の結果、トリーヴス氏の死因は、前夜、ホテルの部屋の階段を上がったことによる心不全とされた。

前夜、（１）オードリー・ストレンジ（Audrey Strange - ３２歳 / カミラ・トレシリアン夫人の亡き夫の被後見人で、テニス選手であるネヴィル・ストレンジ（Nevile Strange - ３３歳）の前妻）の従兄弟で、彼女に対して、長年の間、想いを寄せているトーマス・ロイド（Thomas Royde）と（２）ケイ・ストレンジ（Kay Strange - ２３歳 / ネヴィル・ストレンジの新妻）の友人であるテッド・ラティマー（Ted Latimer）が、「ガルズポイント」からホテルまで、トリーヴス氏を送って行ったのだが、２人によると、その際、エレベーターには、故障中を示す札が下がっていたことを覚えており、そのように証言した。

しかし、ホテルの従業員によると、前夜、エレベーターには何n問題もなく、正常に作動していた、とのことだった。

エレベーターが正常に作動していたのであれば、トリーヴス氏は、何故、エレベーターを使わないで、わざわざ階段を使って、自分の部屋へ戻ったのだろうか？

２０２４年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」の愛蔵版（ハードカバー版）に付されている
カミラ・トレシリアン夫人の邸宅「ガルズポイント」とその周辺の地図

トリーヴス氏の死から数日後、「ガルズポイント」において、カミラ・トレシリアン夫人がベッドで惨殺されているのが、発見される。その上、彼女付きのメイドが、薬で眠らされていた。

カミラ・トレシリアン夫人の殺害現場からは、ネヴィル・ストレンジの指紋が付いたゴルフクラブが見つかった。これが、凶器だと思われた。

スコットランドヤード（ロンドン警視庁）のバトル警視（Superintendent Battle）と彼の甥であるジェイムズ・リーチ警部（Inspector James Leach）が、「ガルズポイント」へと派遣される。

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、
２０２３年に発行されたアガサ・クリスティーをテーマにしたトランプのうち、
３ ♠️「バトル警視（Superintendent Battle）」

カミラ・トレシリアン夫人の遺産相続人は、ネヴィル・ストレンジとオードリー・ストレンジの２人だったので、当然のことながら、彼ら２人が容疑者と見做された。

実際、ネヴィル・ストレンジは、事件当夜、カミラ・トレシリアン夫人と激しく口論しているのを、他の人に聞かれていた。これにより、ネヴィル・ストレンジは、容疑者の最有力候補となる。ところが、メイドは、バトル警視に対して、「ネヴィル・ストレンジがカミラ・トレシリアン夫人の部屋を訪れた後、テッド・ラティマーを探すために、自分がイースターヘッド湾（Easterhead Bay）へ向かう前に、生きている夫人を見た。」と証言した結果、ネヴィル・ストレンジへの容疑は、一旦、解消された。

一方、ネヴィル・ストレンジへの容疑解消に呼応するように、オードリー・ストレンジが滞在している部屋の窓の下の蔦から、血の付いた彼女の手袋が発見される。続いて、カミラ・トレシリアン夫人を殺害した本当の凶器であるテニスラケットの柄と暖炉の縁にあった金属製のボールも見つかる。

カミラ・トレシリアン夫人からの遺産相続を狙って、彼女を殺害したのは、ネヴィル・ストレンジではなく、彼の前妻であるオードリー・ストレンジなのか？