英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から 2024年に刊行されている Pushkin Vertigo シリーズの一つである 綾辻行人作「迷路館の殺人」の英訳版の表紙 (Cover design by Jo Walker / Cover image by Shutterstock) |
「迷路館の殺人(The Labyrinth House Murders)」は、日本の小説家 / 推理作家である綾辻行人(Yukito Ayatsuji:1960年ー)が発表した長編推理小説で、作家デビュー作の「十角館の殺人(The Decagon House Murders → 2023年2月21日 / 2月25日 / 3月9日 / 3月18日付ブログで紹介済)」と第2作目の「水車館の殺人(The Mill House Murders → 2023年4月30日 / 5月3日 / 5月13日付ブログで紹介済)」に続く「館シリーズ」の第3作目に該る。
「迷路館の殺人」は、1988年9月5日、講談社の講談社ノベルスとして出版された後、1992年9月15日に文庫化(講談社文庫)され、そして、2009年11月13日に、文庫の新装改訂版が出ている。
英国では、プーシキン出版(Pushkin Press)から、2024年に英訳版が出版されている。
1988年の夏に、大手出版社である「稀譚社(Kitansha)」から、鹿谷門実(Kadomi Shishiya)のデビュー作となる「迷路館の殺人(The Labyrinth House Murders)」が出版される。
当作品は、作者自身が巻き込まれた現実の連続殺人事件(1987年4月に発生)をベースにした推理小説だった。
鹿谷門実作「迷路館の殺人」は、次のようにして始まる。
稀譚社の編集者である宇多山英幸(Hideyuki Utayama:40歳)は、妊娠中の妻を伴って、実家がある京都府宮津市へと帰省したついでに、推理作家界の巨匠である宮垣葉太郎(Yotaro Miyagaki:60歳)の元を訪れる。
宮垣葉太郎は、太平洋大戦(1941年ー1945年)後間もない1948年に、21歳の若さで推理作家としてデビューし、それ以降、推理小説界を席巻、推理作家界の重鎮へと登りつめた。特に、彼が50歳の時に発表した「For a Magnificent Downfall」は、日本における推理小説の三大奇書と言われる
(1)小栗虫太郎(Mushitaro Oguri:1901年ー1946年)作「黒死館殺人事件(The Black Death Murder Case)」(1934年)
(2)夢野久作(Kyusaku Yumeno:1889年ー1936年)作「ドグラ・マグラ(Dogra Magra)」(1935年)
(3)中井英夫(Hideo Nakai:1922年ー1993年)作「虚無への供物(Offerings to the Void)」(1964年)
と並び評された。
「For a Magnificent Downfall」の発表後、弟子である若手推理作家達の後進育成に注力していたが、昨年の4月、宮垣葉太郎は、突然、それまでの推理小説の執筆活動を全て取り止め、東京都の成城にあった邸宅を売り払うと、父方の出身地である京都府の丹後地方へと引っ込んでしまった。そこには、10年前に建てられた「迷路館(The Labyrinth House)」と呼ばれる彼の別宅があった。建設当初、夏の間だけ、彼は「迷路館」に滞在していた。
稀譚社の編集者で、宮垣葉太郎の担当でもある宇多山英幸は、彼に対して、新作の執筆を依頼するが、宮垣葉太郎には、その気は全く無いようだった。
また、宮垣葉太郎の体調は、どうやら、あまり優れないようだった。彼は、元々、医者嫌いで、周囲の勧めにも反して、健康診断を全く受けていなかったのである。
意図的に話を逸らした宮垣葉太郎は、宇多山英幸に対して、「4月1日の誕生日に、還暦(60歳)の祝賀パーティーを、この迷路館において、ささやかに行う予定」であること、また、「この祝賀パーティーには、宇多山英幸を含めて、数名を招待する予定」であることを告げる。
宇多山英幸は予期していなかったが、これが、彼が生きた宮垣葉太郎と言葉を交わした最後の時となったのである。
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