2024年12月27日金曜日

森見登美彦作「シャーロック・ホームズの凱旋(The Triumphant Return of Sherlock Holmes by Tomihiko Morimi)」- その2

日本の中央公論社英から2024年1月に刊行されている
森見登美彦作「シャーロック・ホームズの凱旋」(ハードカバー版)の裏表紙
(装画:森 優 / 装幀:岡本歌織 <next door design>)

日本の小説家である森見登美彦(Tomihiko Morimi:1979年ー)2014年1月に中央公論社から出版した「シャーロック・ホームズの凱旋(The Triumphant Return of Sherlock Holmes)」の物語は、ヴィクトリア女王が統治するヴィクトリア朝の京都市が舞台となる。


ハドソン夫人が経営する京都市寺町通221B に住むシャーロック・ホームズは、洛中洛外にその名を轟かせた名探偵だったが、現在、深刻なスランプに陥っていた。

その原因は、ホームズが関わった「赤毛連盟事件」であった。


昨年の晩秋、四条柳馬場通で小さな質屋を経営しているジェイベズ・ウィルソンが、寺町通221B のホームズの元を訪れたことが、きっかけだった。彼は、非常に鮮やかな赤毛の人物であった。


ジェイベズ・ウィルソンによると、ひょんなことから「赤毛連盟」の一員となった。

「赤毛連盟」は、ある大富豪の遺言に基づいて、赤毛の人達とその子孫の繁栄のために設立された組織で、ジェイベズ・ウィルソンは、加入以降、かたちばかりの気楽な仕事、つまり、平凡社の「世界大百科辞典」を書き写すことにより、高額な報酬を得ることができた。

「赤毛連盟」の仕事自体は、とても奇妙なアルバイトであったが、ジェイベズ・ウィルソンは、非常に割りが良い報酬に満足して、日々を送ってきた。

ところが、その日の朝、ジェイベズ・ウィルソンが、いつものように「赤毛連盟」の事務所へと赴いたところ、事務所のドアに、「赤毛連盟は解散せり」と言う張り紙が貼られていた。

まるで狐につままれたようで、事情がよく判らないジェイベズ・ウィルソンは、ホームズに対して、「どう言う事情なのか、よく調べてほしい。」と依頼するのであった。


ここまでの経緯は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)による原作「赤毛組合(The Red-Headed League → 2022年9月25日 / 10月9日 / 10月11日 / 10月16日付ブログで紹介済)」と一緒である。


ホームズは、相棒で事件の記録者でもあるジョン・H・ワトソンを伴い、四条柳馬場通に面したジェイベズ・ウィルソンの質屋へ出向いたところ、その裏手が四条通に面した大銀行の蔵と、塀を挟んで隣り合わせになっていることを発見した。その上、その大銀行の地下金庫へは、大量のナポレオン金貨が運び込まれたばかりだった。


コナン・ドイルの原作と同様に、ホームズは、出不精であるジェイベズ・ウィルソンを、毎日一定時間、質屋から外出させ、彼の不在中、「赤毛連盟」が、ナポレオン金貨強奪のための地下トンネルを、質屋から大銀行の地下金庫まで掘削したものと推理した。

ホームズは、早速、京都警視庁(スコットランドヤード)のレストレード警部経由、大銀行の頭取を説得して、大勢の警察官達を大銀行の地下金庫に待機させた。


ホームズ、ワトソン、レストレード警部や警察官達は、ナポレオン金貨強奪のために地下トンネルから這い出してくる犯人達を現行犯逮捕するべく、一晩中、底冷えする地下金庫において、ひたすら待ち続けたが、ホームズが期待する犯人達は、結局、姿を見せなかったのである。


後になって、「赤毛連盟は解散せり」と言う張り紙は、ある人物による悪戯であることが判明した。

その人物は、前回の「赤毛連盟」の欠員補充の際、ジェイベズ・ウィルソンに席を奪われたことを恨んでおり、そのための悪戯だった。

「赤毛連盟」と言う組織は、実際に存在していたのである。また、大銀行の地下金庫から、ナポレオン金貨を強奪する計画は全くなく、当然のことながら、ジェイベズ・ウィルソンの質屋から大銀行の地下金庫までの地下トンネルも存在していなかった。


大山鳴動して鼠一匹出なかったと言う大失態を仕出かしたホームズのことを、烏丸御池に本社を有するデイリー・クロニクル紙がすっぱ抜いた。

更に、ホームズがデイリー・クロニクル本社に乗り込んで、抗議を行ったが、火に油を注ぐだけだった。


その結果、デイリー・クロニクル紙による記事の反響は非常に大きく、ホームズの悪評は洛中洛外に響き渡り、ホームズは、深刻なスランプに陥ったのである。

ホームズの相棒を務め、彼の冒険譚を雑誌「ストランド・マガジン」に発表して、洛中洛外の探偵小説愛好家達を熱狂させていたワトソンも、ホームズのスランプによる巻き添いを食い、ホームズ譚の連載は、無期限休止を余儀無くされた。その上、彼が京都市の下鴨本通に構える診療所の経営も、破綻の危機に瀕していた。


           

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