日本の中央公論社英から2024年1月に刊行されている 森見登美彦作「シャーロック・ホームズの凱旋」(ハードカバー版)の 本体の表紙 (装画:森 優 / 装幀:岡本歌織 <next door design>) |
日本の小説家である森見登美彦(Tomihiko Morimi:1979年ー)が2014年1月に中央公論社から出版した「シャーロック・ホームズの凱旋(The Triumphant Return of Sherlock Holmes)」の物語は、ヴィクトリア女王が統治するヴィクトリア朝の京都市が舞台となる。
<第3章 レイチェル・マスグレーヴの失踪>
シャーロック・ホームズ譚の連載が無期限休止に追い込まれた「ストランド・マガジン」に、新連載が巻頭に掲載された。それは、「アイリーン・アドラーの事件簿」で、驚くことに、著者は、ジョン・H・ワトソンの妻メアリ・モースタンだった。
一方、ホームズが深刻なスランプへと陥った本当の原因は、12年前に遡ることが判る。それは、「マスグレーヴ家」と言う長い歴史を持つ洛西の旧家に起こった事件だった。
先代のロバート・マスグレーヴは、実業家としても、政治家としても、非常に有能であり、旧来の荘園経営に加えて、鉄鋼業や化学工業にも手を伸ばして、大成功を納めていた。彼は、ホールドハースト卿の次女であるエリザベスと結婚したが、彼女は病気がちで気難しい性格の上、夫のロバート自身が家庭を顧みない人物だったため、夫婦仲は良くなかった。
問題の事件が発生した際、マスグレーヴ夫人は既に亡くなっており、長男のレジナルドが20歳、長女のレイチェルが14歳の時だった。
レイチェルは、身体があまり丈夫ではなかったが、知的好奇心は旺盛で、マスグレーヴ家の領主館「ハールストン館」の蔵書については、誰よりも詳しく、母親と同じく、ピアノの達人で、天体観測や科学実験にも興味を示した。彼女は、学校で学ぶ機会はなかったため、半年に一度、鹿ケ谷寄宿学校の生徒達をお茶会に招待してするが、慣例だった。
事件が起きたのは、12年前の初冬で、マスグレーヴ家は代々理事を務める鹿ケ谷寄宿学校から、生徒が数名、マスグレーヴ家のお茶会へと招待された。
レイチェルは、普段通り、女生徒達をもてなして、特に変わった様子はなかったが、夕刻になって、招待された女生徒達が迎えの馬車に乗るために玄関広場に集合しても、彼女は姿を見せなかった。
父のロバートは、商談先から帰宅して、娘レイチェルの失踪を知る。長男のレジナルドは、海外旅行中で、不在だった。
執事のブラントンは、女生徒達をひとまず馬車で帰宅させた後、使用人達に命じて、ハールストン館を徹底的に探したが、レイチェルを発見することはできなかった。
レイチェルの姿は、それ以降、今に到るまでの間、誰も見ていないのである。
<第4章 メアリ・モースタンの決意>
ハールストン館では、1日の間に、リッチボロウ夫人の降霊会、<東の東の間>に突然出現した階段、辺りを白昼のように照らし出す巨大な月、月ロケット発射基地の草原、リッチボロウ夫人の逮捕、そして、レイチェル・マスグレーヴの帰還と、非常に奇妙な事柄が次々と起きた。そして、ジェイムズ・モリアーティ教授は、レイチェル・マスグレーヴの帰還のために、その身を挺したようで、その日以降、彼は姿を消して、寺町通221B へは戻らなかったのである。
姿を消したモリアーティ教授の部屋には、京都によく似て入るものの、京都ではない架空である「模型の街」が残されており、それには、「ロンドン」と名付けられていた。
それにヒントを得たジョン・H・ワトスンは、架空の街であるロンドンを舞台にしたロンドン版「シャーロック・ホームズ」の物語を執筆し始め、「赤毛連盟」の他に、2作を完成させた。
<第5章 シャーロック・ホームズの凱旋>
ロンドンのブルームズベリーの屋根裏下宿部屋において、ジョン・H・ワトスンは、「シャーロック・ホームズの凱旋」を第4章まで執筆したが、そこで行き詰まってしまい、既に1週間が経過していた。
ワトソンは、半年前の晩秋に、妻のメアリを亡くしていた。
ホームズの「伝記作者」として、彼がベーカー街221B へ足繁く通っていた時期は、妻メアリの胸に巣くった病魔が、密かに勢いを増していく時期と一致していたのである。ハーリー街の専門医が診断を下した段階では、既に手遅れだった。
メアリの葬儀が終わり、僅かな参会者達が帰路に着いた後、ホームズとワトソンは、墓地を歩きながら、言葉を交わした。
「今直ぐにと言う訳ではないが、ベーカー街へ戻って来ないか?」と尋ねるホームズであったが、メアリの死去に伴い、それまでワトソンを魅了していた全てのものが、すなわち、推理も、冒険も、探偵小説も、そして、シャーロック・ホームズも、憎むべき対象へと変貌していたため、ワトスンは、ホームズに対して、絶交を宣言した。
それ以降、ワトスンは、ホームズと会っていなかった。
そんな最中、ホームズが、突然、ワトソンの元を訪れる。「悪の組織であるモリアーティ教授とその手下達を一網打尽にするために、君に協力してほしい。」と、ホームズは告げるのだった。
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