2024年6月30日日曜日

デヴォン州(Devon) バーアイランド(Burgh Island)

英国本島にある小村であるビッグバン・オン・シーから
沖合いに浮かぶバーアイランドを望んだ風景 -
左側に建つ建物が「バーアイランドホテル」で、
右側に建つ建物が「ピルチャードイン」と言うパブ。
<以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)から抜粋。>

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「白昼の悪魔(Evil Under the Sun → 2024年6月8日 / 6月12日付ブログで紹介済)」(1941年)の場合、名探偵エルキュール・ポワロは、デヴォン州(Devon)の密輸者島(Smugglers’ Island)にあるジョリーロジャーホテル(Jolly Roger Hotel)に滞在して、静かな休暇を楽しんでいるところから、物語が始まる。同ホテルには、美貌の元女優で、実業家ケネス・マーシャル(Captain Kenneth Marshall)の後妻となったアリーナ・ステュアート・マーシャル(Arlena Stuart Marshall)も宿泊しており、周囲の異性に対して、魅力を振り撒きながら、避暑地を満喫していたが、ホテルの宿泊客の数名が、アリーナ・マーシャルの存在を疎ましく感じていた。ホテル内に、不穏な空気が次第に立ち込める中、ポワロは、「白昼にも、悪魔は居る。(There is evil everywhere under the sun.)」と呟かざるを得なかった。ポワロの懸念が的中するかのように、8月25日の昼頃、アリーナ・ステュアート・マーシャルの絞殺死体が、Pixy Cove の浜辺において発見されるのであった。


以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)の表紙

「白昼の悪魔」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第29作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第20作目に該っている。


ビッグバン・オン・シーと
沖合いに浮かぶバーアイランドについては、
画面の地図の一番左端に描かれている。
<以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)から抜粋。>

「白昼の悪魔」の舞台となる「密輸者島」と「ジョリーロジャーホテル」は、架空の場所であるが、デヴォンの南海岸に所在するビッグベリー・オン・シー(Bigbury-on-Sea)と言う小村の沖合いに浮かぶ「バーアイランド(Burgh Island)」と当該島に建つ「バーアイランドホテル(Burgh Island Hotel)」が、そのモデルになっていると言われている。


バーアイランドには、元々、修道院(monastry)が建っていたが、テューダー朝(House of Tudor)の第2代イングランド王であるヘンリー8世(Henry VIII:1491年ー1547年 在位期間:1509年ー1547年)による宗教改革の一環である修道院解散を以って、取り壊されてしまった。


地下鉄チャリングクロス駅(Charing Cross Tube Station)の
ベーカルーライン(Bakerloo Line)のプラットフォームにある壁画 -
一番右手の人物が、姦通罪等を理由にして、
ロンドン塔において、2番目の王妃であるアン・ブーリンを(一番左手の人物)斬首刑に処したヘンリー8世。
(なお、画面中央の人物は、メアリー1世である。)


その後、鰯(sardine = pilchard)を捕る漁師達が、島を使用するようになった。

島には、開業が1336年にまで遡るピルチャードイン(Pilchard Inn)と呼ばれるパブが、漁師達で繁盛した。一方で、パブは、密輸業者や海賊等で賑わった。


筆者が所有している株式会社 昭文社発行の
「マップルマガジン イギリス」から抜粋。

1890年代にミュージックホールのコメディアン / 歌手 / 演奏家であるジョージ・H・チルグウィン(George H. Chirgwin:1854年ー1922年)が島に家を建て、招待客と一緒に、週末のパーティーに使われた。

1929年になると、大富豪で、映画制作者でもあるアーチボルド・ネトルフォルド(Archibald Nettlefold)が島を買い取って、アール・デコ調(Art Deco)のホテルを建設した。


アーチボルド・ネトルフォルドは、ロンドンのウェストエンド(West End)で劇場も経営しており、当該劇場でアガサ・クリスティーによる戯曲が上演された関係で、アガサ・クリスティーも、ホテルに何度も宿泊している。

数度のホテル滞在経験をベースにして、アガサ・クリスティーは、「白昼の悪魔」を執筆したと言う訳である。

付け加えると、彼女の「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の舞台となる「兵隊島(Soldier Island)」のモデルも、バーアイランドである。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「白昼の悪魔」のペーパーバック版表紙


1980年代に入ると、アーチボルド・ネトルフォルドが建てたアール・デコ調のホテルもかなり老朽化したため、売却に出され、これを購入したファッションコンサルタントであるトニー・ポーター(Tony Porter)とベアトリス・ポーター(Beatrice Porter)の夫妻が、ホテルを建設当時の状態に改装した。


英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、英国の俳優であるサー・デイヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet:1946年ー)が名探偵エルキュール・ポワロを演じた「白昼の悪魔」の TV ドラマ版(→ 2023年5月10日 / 5月14日 / 5月18日付ブログで紹介済)が、「Agatha Christie’s Poirot」の第48話(第8シリーズ)として、2001年4月20日に放映されているが、当該 TV ドラマ版は、バーアイランドとバーアイランドホテルにおいて撮影されている。


第48話「白昼の悪魔」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 5 の表紙


バーアイランドは、英国本島から約250mの沖合いで、干潮時には、本島から島まで歩いて行くことが可能で、満了時には、シートラクター(Sea Tractor)と言う乗り物を使用することになる。

満潮時に、英国本島にある小村であるビッグバン・オン・シーから
沖合いに浮かぶバーアイランドまで渡る際に使用するシートラクター
<以前、デヴォン州を訪問した際に、筆者が購入した
デイヴィッド・ジェラード作「Expoloring Agatha Christie Country」
(Agatha Christie Ltd. / English Riviera Tourist Board が協力)から抜粋。>


バーアイランドは、2018年4月に、それまでの所有者だったデボラ・クラーク(Deborah Clark)とトニー・オーチャード(Tony Orchard)から投資会社(Bluehone Capital / Marechale Capital)へ売却され、2023年5月には、再度、売却に出されている。


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