2024年6月23日日曜日

ロジャー・スカーレット作「猫の足」(Cat’s Paw by Roger Scarlett)- その1

米国の Penzler Publishers 社から
American Mystery Classics シリーズの1冊として
2022年に出版された
ロジャー・スカーレット作「猫の足」の表紙
< Cover Image : Andy Ross
           Cover Design : Mauricio Diaz >


日本の推理作家である横溝正史(Seishi Yokomizo:1902年ー1981年)が、金田一耕助(Kosuke Kindaichi)シリーズの第1作目に該り、降り積もった雪で囲まれた日本家屋での密室殺人事件を取り扱っている長編推理小説「本陣殺人事件(The Honjin Murders → 2024年3月16日 / 3月21日 / 3月26日 / 3月30日付ブログで紹介済)」(1946年)を執筆する際に着想を得た米国の推理作家であるロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)作「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells)」(1932年)については、2024年4月2日 / 4月5日 / 4月8日付ブログで紹介済である。


ロジャー・スカーレットは、実は、イヴリン・ペイジ(Evelyn Page:1902年ー1977年)とドロシー・ブレア(Dorothy Blair:1903年ー1976年)と言う女性2人のペンネームである。


イヴリン・ペイジの経歴は、以下の通り。

1902年(11月9日):ウィリアム・ハンセルとサラ・ペイジ夫妻の子として、ペンシルヴァニア州(Commonwealth of Pennsylvania)フィラデルフィア(Philadelphia)に出生。

1923年:ブリン・モー・カレッジ(Bryn Mawr College)文学部を卒業。

1926年:ブリン・モー・カレッジ大学院修士課程を終了。

その後、出版社に勤務して、フリーランスのライターとしても活躍。

1942年ー1945年:海軍飛行研究所と空軍の飛行検査官(aircarft inspector)

1945年ー1949年:陸軍婦人部隊(Women’s Army Corps)の医療部隊に配属され、後に軍曹(sergeant)に昇進。

1949年ー1956年:マサチューセッツ州(Commonwealth of Massachusetts)ノーサンプトン(Northampton)のスミスカレッジ(Smith College)の専任講師となり、後に助教授(assistant professor)に昇格。

1956年ー1964年:コネティカット州(Commonwealth of Connecticut)ニューロンドン(New London)のコネティカットカレッジ(Connecticut College)へと移り、英語学の助教授(1956年ー1962年)、そして、歴史学の助教授(1962年ー1964年)を務める。

彼女は、単独の著作として、長編小説「The Chestnut Tree」(1964年)と学術書「American Genesis : Pre-Colonial writing in the North」(1973年)を発表している。


一方のドロシー・ブレアの経歴は、以下の通り。

1903年:地元の医師の子として、モンタナ州(Commonwealth of Monata)ボーズマン(Bozeman)に出生。

1924年:ヴァサーカレッジ(Vassar College)を卒業。


イヴリン・ペイジとドロシー・ブレアの2人は、大学卒業後、マサチューセッツ州ボストン(Boston)にあるホートンミフリンハーコート(Houghton Mifflin Harcourt)と言う出版社で、編集者として働いている時に出会い、共同生活を始める。

そして、彼女達は、ロジャー・スカーレットと言うペンネームを使い、僅か4年の間に、長編推理小説を5作発表した。なお、ロジャー・スカーレットと言う筆名は、彼女達がペットのブルドッグの名前をつけるために、ボストンの電話帳からランダムに選ばれたものを、そのままペンネームとして使用した、とのこと。


(1)「ビーコン街の殺人(The Beacon Hill Murders)」(1930年)

(2)「白魔(Back-Bay Murder Mystery)」(1930年)

(3)「猫の足(Cat’s Paw)」(1931年)

(4)「エンジェル家の殺人」(1932年)

(5)「ローリング邸の殺人(In the First Degree)」(1933年)


上記の5作は、いずれも、米国のダブルデー社(Doubleday, Doran & Co.)から出版されている。

残念ながら、その後、彼女達は、推理小説の筆を断ってしまった。これは、イヴリン・ペイジの母親が1932年に、また、ドロシー・ブレアの父親が1933年に亡くなっており、彼女達として、双方の両親を財政的に援助するために、作家業を続けていく必要性がなくなったからではないかと言う説がある。


イヴリン・ペイジとドロシー・ブレアの2人がロジャー・スカーレットとして活動した期間は、非常に短期間だったこともあり、米国では、すっかりと忘れ去られた作家である。

一方、日本では、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(Rampo Edogawa:1894年ー1965年)が「エンジェル家の殺人」を「三角館の恐怖(→ 2024年4月13日 / 4月16日 / 4月19日付ブログで紹介済)」(1951年)として翻案していることもあって、米国とは異なり、未だに知名度が高い作家である。


ニューヨーク(New York)にある Henzler Publishers 社から、American Mystery Classics シリーズの1冊として、ロジャー・スカーレットの第3作目である「猫の足」が2022年に刊行されているので、今回、本作品に関して、紹介したい。


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