2024年6月4日火曜日

ロバート・J・ハリス作「悪魔の業火」(The Devil’s Blaze by Robert. J. Harris)- その3

英国の Birlinn Ltd から、Polygon Book として
2022年に刊行されている
 ロバート・J・ハリス
作「悪魔の業火」の
ペーパーバック版表紙(部分)

(Cover images : Alamy Stock Photo /
Cover design by Abigail Salvesen

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆(4.0)


スコットランドのダンディー(Dundee)出身の学者 / 作家であるロバート・J・ハリス(Robert. J. Harris:1955年ー)によるシャーロック・ホームズシリーズの第1作目に該る「深紅色の研究(A Study in Crimson → 2024年5月6日 / 5月12日 / 5月16日付ブログで紹介済)」(2020年)の場合、第二次世界大戦(1939年ー1945年)中の1942年9月から10月にかけて、「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」事件の再来と思われる「血塗れジャック(Crimson Jack)」による女性惨殺事件が描かれる。

第2作目に該る「悪魔の業火(The Devil’s Blaze)」(2022年)の場合、「血塗れジャック」事件が解決した翌年の1943年5月、英国政府の要人達が、突然、炎に包まれて、焼死する事件が、連続して発生する。この謎の連続焼死事件に、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンが挑むことになる。

事件の捜査を進めていく過程で、ホームズとワトスンの2人は、ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)と彼の右腕であるセバスチャン・モラン大佐(Colonel Sebastian Moran)と遭遇する。内容的には、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)原作の「最後の事件(The Final Problem → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)」のロバート・J・ハリス版と言える。


(2)物語の展開について ☆☆☆☆(4.0)


「悪魔の業火」も、「深紅色の研究」と同様に、本編とは関係のない前振りの事件が発生するものの、「深紅色の研究」とは異なり、半分の20ページ程で解決されて、直ぐに本編に突入してくれる。

また、ホームズの宿敵となるモリアーティー教授とモラン大佐の登場も割合と早く、それ以降、ホームズとモリアーティー教授の戦いが最後まで、非常にテンポ良く続いていく。そして、コナン・ドイル原作の「最後の事件」と同じように、物語の最終場面は、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)へと繋がっていくのである。


また、「深紅色の研究」における前振りの事件に登場した女性科学者のエルスペス・マックレディー博士(Dr. Elspeth Mac Ready)が再登場し、ホームズとワトスンの2人に協力して、モリアーティー教授との戦いにも活躍する。

マックレディー博士の学友で、女性福音伝道者(evangelist)でもあるオフェーリア・フェイス(Ophelia Faith)が、当初、謎の連続焼死事件の容疑者として疑われるが、やや顔見せ程度の登場なので、彼女が福音伝道者に何故なったのか、詳しい経緯が書かれている割りには、残念である。「深紅色の研究」に少しだけ出てきたマックレディー博士が、「悪魔の業火」に再登場して、活躍したことを考えると、オフェーリア・フェイスも、第3作目以降に再登場するのかもしれない。

また、英国政府からの指示を受けて、ホームズとワトスンの運転手を務めるレン・ジェイン・ガリック(Miss Wren Jane Garrick)も登場するが、何か重要な役割を果たすか、あるいは、ホームズやワトスンと一緒に活躍をするかと思われたが、彼女もやや顔見せ程度だったので、これも残念だった。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)


「悪魔の業火」の場合、「深紅色の研究」とは異なり、前振りの事件が迅速に解決された後、直ぐに本編が始まり、モリアーティー教授の登場も早いので、ワトスンとマックレディー博士の協力を得たホームズとモリアーティー教授の戦いを中心にして、物語は展開していく。


フェンシングを使ったホームズとモラン大佐の決闘、スコットランドの孤島にあるモリアーティー教授の秘密基地への潜入、そして、モリアーティー教授達に誘拐されたマックレディー博士の救出と脱出等、ホームズ、ワトスンやマックレディー博士による活躍が非常にテンポ良く描かれているので、「深紅色の研究」に比べると、とても読み進めやすい。


(4)総合評価 ☆☆☆☆(4.0)


ロバート・J・ハリスが独自に発案した謎の連続焼死事件に、コナン・ドイル原作の「最後の事件」の内容ををうまく絡めて、物語の最後まで、非常にテンポ良く展開していく。

物語のかなり早い段階から、ホームズとモリアーティー教授の戦いを中心にして、物語が進むこともあって、「深紅色の研究」に比べると、とても印象が異なる(良いと言う意味で)。


なお、ロバート・J・ハリス版のホームズシリーズの場合、コナン・ドイル原作の「最後の事件」は発生していない世界観となっており、ホームズがモリアーティー教授と実際に出会い、戦いを繰り広げるのは、本作品「悪魔の業火」が初めてと言う設定となっている。



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