2024年1月10日水曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その2

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、今回から14回に分けて紹介したい。


(1)A ♠️「エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)」



アガサ・クリスティーが創作したベルギー人の名探偵で、長編33作、短編54作および戯曲1作の計88作品で活躍する。

初登場作品は、長編「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affairs at Styles → 2023年12月3日 / 12月6日付ブログで紹介済)」(1920年)で、最終作は、長編「カーテン(Curtain)」(1975年)である。

エルキュール・ポワロシリーズの作品としては、「カーテン」がエルキュール・ポワロ最後の作品ではあるが、「カーテン」は1943年に執筆されているので、執筆順で言うと、長編「象は忘れない(Elephants Can Remember)」(1972年)が、実質的には、ポワロ最後の作品となる。


ポワロシリーズは、ミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズと並んで、生涯にわたり、アガサ・クリスティーが書き継ぐ代表シリーズとなった。

ただし、ミス・マープルとは異なり、作者のアガサ・クリスティーは、ポワロのことをあまり好んでおらず、彼女の自伝において、「最初の3、4作を執筆した段階で、彼(ポワロ)を見捨てて、もっと若い探偵役で再出発すべきであった。」と述べている。アガサ・クリスティーの読者にとって、ポワロは好まれていたため、出版社等によって、彼女は半ば強制されるように、ポワロシリーズを書き続けざるを得なかったと言うのが、真相である。


(2)A ❤️「兵隊人形(Soldier Boy)」



長編「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)において、重要な役割を果たすのが、兵隊人形である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第26作目に該る。アガサ・クリスティーの作品の中でも、代表作に挙げられている。


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島(Soldier Island)に、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使いと料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs Una Nancy Owen)に自分達は雇われていると、招待客に対して告げる。しかし、彼らの招待客で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。謎の声による告発を聞いた10人は戦慄する。


彼らを告発する謎の声は蓄音機からのもので、召使いのトーマス・ロジャーズ(Thomas Rogers)によると、オーウェン夫妻から、最初の日、晩餐会の際に録音したメッセージを流すよう、手紙で指示を受けていたと言う。謎の声による告発を聞いて彼の妻で、料理人であるエセル・ロジャーズ(Thomas Rogers)が気を失ってしまうという混乱の直後、毒物が入った飲み物を飲んだ招待客の一人であrアンソニー・ジェームズ・マーストン(Anthony James Marston)が急死するのであった。


その翌朝、エセル・ロジャーズがいつまで経っても起きて来ず、死亡しているのが発見される。残された8人は、アンソニー・ジェームズ・マーストンとエセル・ロジャーズの死に方が屋敷内に飾ってある童謡「10人の子供の兵隊」の内容に酷似していること、また、食堂のテーブルの上に置いてあった兵隊人形が10個から8個へと減っていることに気付く。それに加えて、迎えの船が兵隊島へやって来ないことが判り、残された8人は兵隊島に閉じ込められた状態になってしまう。


童謡「10人の子供の兵隊」の調べにのって、また一人また一人と、残された8人が正体不明の何者かに殺害されちく。それに伴って、食堂のテーブルの上にある兵隊人形の数も減っていくのである。彼らを兵隊島へ招待したオーウェン夫妻とは一体何者なのか?オーウェン夫妻の名前を略すと、どちらも「U. N. Owen」、つまり、「UNKOWN(招正体不明の者)」となる。オーウェン夫妻が正体不明の殺人犯で、残された人の中に居るのか?それとも、屋敷内のどこか、あるいは、兵隊島のどこかに隠れ潜んでいるのだろうか?恐怖が満ちる中、また一人、残された人と兵隊人形が減っていくのであった。


(3)A ♣️「チュニジアの短剣(Tunisian Dagger)」



長編「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」(1926年)において、犯人がロジャー・アクロイド(Roger Ackroyd)を刺殺するのに使用したのが、チュニジアの短剣である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第6作目に該り、そして、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては、第3作目に該る。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「アクロイド殺し」のペーパーバック版の表紙


本作品の場合、キングスアボット村(King's Abbot)に住むジェームズ・シェパード医師(Dr James Sheppard)が「わたし」という語り手になって、事件を記録している。

同村のキングスパドック館(King's Paddock)に住むドロシー・フェラーズ夫人(Mrs. Dorothy Ferrars)は、裕福な未亡人で、村のもう一人の富豪であるロジャー・アクロイド(Roger Ackroyd)との再婚が噂されていたが、9月17日(金)の朝、亡くなっているのが発見された。

検死を実施した結果、「わたし」は睡眠薬の過剰摂取と判断したが、噂好きな姉のキャロライン・シェパード(Caroline Sheppard)は、夫人の死を自殺だと出張するのであった。何故ならば、同村では、ドロシー・フェラーズ夫人が、酒好きで、だらしのない夫アシュリー・フェラーズ(Ashley Ferrars)を殺害したという噂も流布していたからである。


外出した「わたし」は、偶然出会ったロジャー・アクロイドから「相談したいことがある。」と言われ、彼が住むフェルンリーパーク館(Fernly Park)での夕食に招待された。

その日の午後7時半に、彼の屋敷を訪ねた「わたし」は、(1)ロジャー・アクロイド、(2)彼の義理の妹で、未亡人のセシル・アクロイド夫人(Mrs. Cecil Ackroyd)、(3)セシル・アクロイド夫人の娘フローラ・アクロイド(Flora Ackroyd)、(4)ロジャー・アクロイドの旧友ヘクター・ブラント少佐(Major Hector Blunt)、そして、(5)ロジャー・アクロイドの秘書ジェフリー・レイモンド(Geoffrey Raymond)と食事をした際、その席上、フローラ・アクロイドが、ロジャー・アクロイドの養子ラルフ・ペイトン大尉(Captain Ralph Paton)との婚約を発表する。


食事の後、書斎へ移動した「わたし」は、ロジャー・アクロイドから悩みを打ち明けられる。

彼によると、昨日(9月16日)、再婚を考えていたドロシー・フェラーズ夫人から「夫のアシュリー・フェラーズを毒殺した。」と告白された、と言うのである。その上、彼女はそのことで正体不明の何者かに強請られていた、とのことだった。

ちょうどそこに、ドロシー・フェラーズ夫人からの手紙が届く。ロジャー・アクロイドは、その手紙を開封しようとしたが、彼女を強請っていた恐喝者の名前を知らせる内容が書かれているものと考えた彼は「落ち着いて、後で一人でゆっくりと読むつもりだ。」と告げると、「わたし」に帰宅を促すのであった。


徒歩での帰宅途中、「わたし」は見知らぬ男性にフェルンリーパーク館、即ち、ロジャー・アクロイド邸への道を尋ねられる。

「わたし」が自宅に戻ると、急に電話の音が鳴り響く。「わたし」が受話器をとると、それは、ロジャー・アクロイドの執事ジョン・パーカー(John Parker)だった。彼によると、ロジャー・アクロイドが部屋で亡くなっている、とのことだった。

「わたし」は、姉のキャロラインにそのことを知らせると、車に飛び乗り、ロジャー・アクロイド邸へと戻った。


ロジャー・アクロイド邸に着いた「わたし」を出迎えたジョン・パーカーに電話のことを尋ねると、彼は「そんな電話をした覚えはない。」と答えるのであった。

ロジャー・アクロイドのことが心配になった「わたし」が、ジョン・パーカーと一緒に、彼の部屋へ赴くと、彼は刺殺されていて、ドロシー・フェラーズ夫人から届いた手紙も消えていた。


(4)A ♦️「真珠のネックレス(Pearl Necklace)」



長編「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)において、ナイル河の遊覧船に乗船するリネット・リッジウェイ(Linnet Ridgeway)が、深夜、何者かによって射殺された後、盗まれたのが、真珠のネックレスである。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第22作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては、第15作目に該っている。

また、本作品は、「メソポタミヤの殺人(Murder in Mesopotamia)」(1936年)に続く中近東を舞台にした長編第2作目で、中近東シリーズの最高峰に該る作品でもある。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ナイルに死す」のペーパーバック版の表紙


弱冠20歳のリネット・リッジウェイは、英国で最も裕福な女性だった。ある日、学生時代の古い友人であるジャクリーン・ド・ベルフォール(Jacqueline De Bellefort)が彼女に電話を架けてきた。

ジャクリーン(通称:ジャッキー(Jackie))の家族が2年前に破産してしまい、それ以来、彼女は辛い日々を送っていた。それに加えて、今度は、彼女の婚約者であるサイモン・ドイル(Simon Doyle)が失業してしまったのである。

ジャッキーは、リネットに対して、サイモンをリネットが住む屋敷の管理人にしてほしいと頼み込んだ。「私、サイモンと結婚できなければ、死んでしまうわ!(If I don’t marry him, I’ll die!)」と。ジャッキーの懇願に根負けしたリネットは、ジャッキーに対して、「面接をするので、あなたの恋人(サイモン)を私の屋敷に連れて来て。」と答えた。

翌日、ジャッキーは、サイモンを連れて、リネットの屋敷へと向かった。ジャッキーによる紹介を受けて、リネットとサイモンはお互いに見つめ合い、リネットは、その場でサイモンを自分の屋敷の管理人として採用することを決める。


そして、場面は変わり、エルキュール・ポワロは、エジプトで休暇を楽しんでいた。彼が、アスワンで知り合った若い女性のロザリー・オッタボーン(Rosalie Otterbourne)と一緒に、ナイル河沿いを散歩していると、ルクソールから到着した大型汽船から、あるカップルが降りてくる。それは、リネット・リッジウェイとサイモン・ドイルの二人であった。ロザリーによると、二人が最近結婚したことが新聞に出ていた、とのこと。

ポワロは、リネットの目の下のくまと、そして、指の関節が白くなる程に、彼女が日傘を強く握りしめていたことから、彼女が何かに非常に困っているに違いないと感じるのであった。


夕闇が迫るホテルのテラスにおいて、リネットとサイモンが過ごしていると、回転ドアが廻り、ワインカラーのドレスを着た女性がゆっくりとテラスを横切って、リネットの視線の先に座る。それは、サイモンの元婚約者のジャッキーだった。

この出来事にひどく動揺したりネットは、その晩、ポワロに相談を持ちかける。リネットは、ジャッキーが、新婚の彼女とサイモンの二人が行くところ、ずーっとつきまとっているのだ、と言う。彼女によると、新婚旅行先のヴェニスから始まり、ブリンジジ、カイロ、そして、アスワンまで続いているらしい。


ジャッキーによるつきまといから逃れるために、リネットとサイモンの二人は、ある計画を立てた。自分達の周囲の人達には、アスワンにこのまま滞在する予定と話しておいて、実際には、二人は、ナイル河の遊覧に参加することにしたのである。ポワロも、リネットとサイモンの二人が乗る汽船で、ナイル河を遊覧することになった。


ナイル河の遊覧船への乗船を無事済ませ、ホッと安心して船室から出てきたリネットとサイモンの二人であったが、そこに笑い声が聞こえてくる。リネットが驚いて振り返ると、そこには、ジャッキーが立っていた。呆然自失となるリネットと怒りを隠せないサイモンの二人。


ナイル河の遊覧船がアブ・シンベルに到着した晩、船内の緊張が限界まで高まり、ある悲劇が発生するのであった。


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