英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、一昨年(2022年)に発行されたシャーロック・ホームズをテーマにしたトランプの各カードについて、前回に引き続き、紹介したい。
(5)2 ❤️「炭酸水製造器と酒瓶棚(Gasogene and Tantalus)」
「gasogene」は、炭酸水製造器で、アルカリ炭酸塩と酸の化学反応により、少量の炭酸水をつくるものである。シャーロック・ホームズがウィスキーのソーダ割りを飲むために使っていたもので、英国の家庭では、当時、よく使われていた模様。
サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)による原作において、炭酸水製造器が言及されているのは、「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」と「マザリンの宝石(The Mazarin Stone)」の2回のみである。
「ボヘミアの醜聞」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、最初(1番目)に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1891年7月号に掲載された。同作品は、1892年に発行されたホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。
「マザリンの宝石」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、45番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1921年10月号に、また、米国では、「ハーツ インターナショナル(Heart's International)」の1921年11月号 に掲載された。同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている。
また、「tantalus」は、鍵付きの酒瓶棚で、瓶の酒量が見えるようになっている。
(6)2 ♠️「木製の義足(Wooden Leg)」
「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)」事件において、復讐のため、相棒のトンガ(Tonga)と一緒に、ジョン・ショルトー少佐(Major John Sholto)の息子で、双子の一人であるバーソロミュー・ショルトー(Bartholomew Sholto)を毒矢で殺害した犯人であるジョナサン・スモール(Jonathan Small)が、右足の大腿の下に付けていたのが、木製の義足である。
なお、「四つの署名」は、シャーロック・ホームズシリーズの長編第2作目で、「リピンコット・マンスリー・マガジン(Lippincott’s Monthly Magazine)」の1890年2月号に掲載された後、単行本化。
(7)2 ♦️「ライオンのたてがみ / サイアネア・カピラータ(Lion’s mane jellyfish / Cyanea capillata))」
「ライオンのたてがみ(The Linon’s Mane)」事件において、シャーロック・ホームズが、「ザ・ゲイブルズ(The Gables)」と言う職業訓練学校を経営しているハロルド・スタックハースト(Harold Stackhurst)とサセックス州警察(Sussex Constabulary)のバードル警部(Inspector Bardle)を連れて、海岸へと向かい、1週間前にフィッツロイ・マクファースン(Fitzroy McPherson)青年を殺害し、ハロルド・スタックハーストが経営している職業訓練学校の数学講師であるイアン・マードック(Ian Murdoch)の命を奪いかけた真犯人として指摘したのが、「ライオンタテガミクラゲ(Lion’s mane jellyfish)」/ 「サイアネアクラゲ(Cyanea jellyfish)」と呼ばれる鉢虫鋼旗口クラゲ目ユウレイクラゲ科ユウレイクラゲ属に属するクラゲで、学名は「サイアネア・カピラータ(Cyanea capillata)」となっている。
ライオンのたてがみのような赤銅色の触手を有していることが、「ライオンタテガミクラゲ」と呼ばれる所以である。
ロンドンをベースとするイラストレーターの Mr. Doug John Miller が、各カードのイラストを担当しているが、トランプ上に描かれているのは、厳密に言うと、別のクラゲであって、「ライオンのたてがみ / サイアネア・カピラータ」とは異なるのではないかと思われ、非常に残念である。
英国の Bonnier Books UK(本社:スウェーデン)から 2022年に発行された「Oceanarium Postcards」 (Curated by Teagan White and Loveday Trinick) のうちの1枚で、 「ライオンタテガミクラゲ」が単独で描かれている。 |
「ライオンタテガミクラゲ」は、巨大なクラゲで、傘の直径は2m程に達する。
1870年に米国マサチューセッツ州において確認された今まで最大の個体は、傘の直径2.3mで、触手の先端まで37mあった。
「ライオンタテガミクラゲ」は、英国の西岸、南西部、そして、南部の海岸でよく見かけられる。
また、日本では、北海道から三陸沿岸等の寒冷海域において、生息が確認されている。なお、日本においては、「ライオンタテガミクラゲ」よりも、「キタユウレイクラゲ」の名前がよく使用されている。
「ライオンタテガミクラゲ」の体色は、黄色から濃橙色で、若い頃は淡い体色であるが、年齢を経るに連れて、体色が濃くなっていく。
「ライオンタテガミクラゲ」に刺されると、身体中に激痛が走り、場合によっては、病院で治療を受ける必要がある。
「ライオンのたてがみ」は、シャーロック・ホームズシリーズの56ある短編小説のうち、53番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1926年12月号に、また、米国では、「リバティー(Liberty)」の1926年11月27日号に掲載された。
また、同作品は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」(1927年)に収録されている。
(8)2 ♣️「警察の巡視艇(Police Launch)」
「四つの署名」事件において、復讐のため、ジョン・ショルトー少佐の息子で、双子の一人であるバーソロミュー・ショルトーを毒矢で殺害した犯人であるジョナサン・スモールと相棒のトンガを乗せたオーロラ号(Aurora)が隠れているテムズ河(River Thames)の南岸にあるジェイコブソン修理ドック(Jacobson’s Yard)を、シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスンとスコットランドヤードのアセルニー・ジョーンズ警部(Inspector Athelney Jones)の三人が警察官達と一緒に乗った巡視艇が、テムズ河の対岸から見張る。そして、物語の終盤、テムズ河を舞台にした追跡劇が、大きな見せ場となる。
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