米国の作家である Mr. Murray Shaw / Ms. M. J. Cosson が構成を、そして、フランスのイラストレーターである Ms. Sophie Rohrbach がイラストを担当したグラフィックノベル版「まだらの紐(The Speckled Band)」の場合、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の原作に比べると、物語の展開上、以下の違いが見受けられる。
(8)
<原作>
原作の場合、ロンドンの北西部にあるハーロウ(Harrow)に、双子姉妹ジュリア・ストーナー(Julia Stoner - 姉) / ヘレン・ストーナー(Helen Stoner - 妹)の母の妹に該るホノリア・ウェストファイル(Honoria Westphail)と言う未婚の叔母が住んでいる。ジュリアとヘレンの2人は、短期間であれば、叔母の家に泊まることが許されていた。
2年前のクリスマスに、ジュリアは、叔母の家へ出かけた際、そこで休職手当を受給している海軍少佐(half-pay major of marines)と出会い、婚約することになる。
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、ハーロウに住む叔母の家で、ジュリア・ストーナーが出会うのは、「休職手当を受給している海軍少佐」ではなく、「ハンサムな水兵(a handsome sailor)」に変更されている。
双子の姉ジュリア・ストーナーが婚約したのは、 原作上、休職手当を受給している海軍少佐だったが、 グラフィックノベル版の場合、ハンサムな水兵に変更されている。 |
(9)
<原作>
原作の場合、ジュリア・ストーナーが謎の死を遂げたのは、彼女の結婚式当日まで2週間を切った日(within a fortnight of the day which had been fixed for the wedding)と記述されている。
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、「ジュリア・ストーナーが謎の死を遂げたのは、彼女の結婚式当日の2週間前だ。(two weeks before Julia’s wedding)」と、ヘレン・ストーナーは、ホームズに対して、語っている。
双子の姉ジュリア・ストーナーが謎の死を遂げたのは、 原作上、彼女の結婚式当日まで2週間を切った日となっていたが、 グラフィックノベル版の場合、 彼女の結婚式当日の2週間前に変更されている。 |
(10)
<原作>
原作の場合、恐怖に満ちた叫び声を上げた後、ジュリア・ストーナーが自分の部屋から出てくると、慌てて駆け付けたヘレン・ストーナーに対して、「ヘレン!バンドだったわ!まだらのバンド!(Oh, my God! Helen! It was the band! The speckled band!)」と言い残して、義父グリムズビー・ロイロット博士(Dr. Grimesby Roylott)の部屋の方向を指差すと、息絶えてしまう。
ジュリア・ストーナーの右手には、マッチの燃えさしが、また、左手には、マッチ箱が残されていた。(In her right hand was found the charred stump of a match, and in her left a matchbox.)
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、恐怖に満ちた叫び声を上げた後、自分の部屋から出て来たジュリア・ストーナーは、右手にマッチの燃えさしを、また、左手にマッチ箱を持っておらず、素手のままである。
原作では、ジュリア・ストーナーは、 右手にマッチの燃えさしを、また、左手にマッチ箱を持っていたことが後で判るが、 グラフィックノベル版の場合、両手とも素手であるように描かれている。 |
「マッチの燃えさしとマッチ箱は、ジュリア・ストーナーのベッドの近くで見つかった。(a charred silver of wood and a mathcbox were found near her bed.)」と、ヘレン・ストーナーは、ホームズに対して、説明している。
物語の流れとしては、右手にマッチの燃えさしを、また、左手にマッチ箱を持ったまま、ジュリア・ストーナーが一連の行動をとるのは、やや無理があるので、原作よりも、グラフィックノベル版の方が、より自然だと言える。
グラフィックノベル版の場合、マッチの燃えさしとマッチ箱は、 亡くなったジュリア・ストーナーのベッドの近くで見つかったことになっているが、 原作よりも、グラフィックノベル版の方が、より自然だと言える。 |
(11)
<原作>
原作の場合、1ヶ月前、知り合ってから数年経つ親しい友人であるパーシー・アーミテージ(Percy Armitage)が、ヘレン・ストーナーに対して、結婚を申し込む。そして、2人は、春に結婚することになった。
2日前(two days ago)、ストークモラン屋敷(Stoke Moran Manor)の補修工事が始まり、ヘレン・ストーナーは、自分の部屋から姉のジュリア・ストーナーが使用していた部屋へ移ることを余儀無くされた。
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、ヘレン・ストーナーが、自分の部屋から姉のジュリア・ストーナーが使用していた部屋へ移ったのは、「2日前」ではなく、「昨日(yesterday)」である。
屋敷の補修工事の関係上、ヘレン・ストーナーが、 自分の部屋から亡くなった姉ジュリア・ストーナーの部屋へ移ることになったのは、 原作上、2日前になっていたが、 グラフィックノベル版の場合、昨日に変更されている。 |
(12)
<原作>
原作の場合、事件の依頼人であるヘレン・ストーナーから事件の説明を一通り聞いた後、シャーロック・ホームズは、義父のことを庇っている。」と言うと、彼女が膝の上に置いていた手にはめた黒いレースの手袋のフリルをずらす。すると、彼女の白い手首には、5本の指の跡がくっきりと残っていた。すると、ホームズは、彼女に対して、「あなたは、義父に酷い扱いを受けている。」と告げる。
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、少年少女向けのためか、あるいは、ページ数の都合か、原作のような展開はない。
(13)
<原作>
原作の場合、ヘレン・ストーナーがシャーロック・ホームズの元を辞去した後、彼女の義父グリムズビー・ロイロット博士がベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の部屋に押し入って来て、ホームズを威嚇すると、暖炉の側にあった火搔き棒を掴み、ひん曲げてしまう。
グリムズビー・ロイロット博士が帰った後、ホームズはひん曲げられた火搔き棒を取り上げると、グッと力を込めて、元の真っ直ぐに戻した。
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、グリムズビー・ロイロット博士が火搔き棒をひん曲げる場面については、絵で表現されているが、ホームズがそれを元の真っ直ぐに戻す場面に関しては、文章で処理されている。
グラフィックノベル版では、 ヘレン・ストーナーの後をつけて来たグリムズビー・ロイロット博士が、 暖炉の側の火搔き棒をひんまげる場面は、 絵で描かれている。 |
グリムズビー・ロイロット博士によりひん曲げられた火搔き棒を シャーロック・ホームズが元の通り真っ直ぐに戻す場面は、 文章で処理されている。 |
(14)
<原作>
原作の場合、グリムズビー・ロイロット博士が帰った後、シャーロック・ホームズは外出すると、ジュリアとヘレンの母であるストーナー夫人(Mrs. Stoner)の遺言書の内容を確認して来た。
ホームズがジョン・H・ワトスンに対して説明したところでは、ストーナー夫人による投資から得られる収入について、彼女が亡くなった時点で、1100ポンドに満たない位(at the time of the wife’s death was little short of £ 1,100)で、その後、農産物価格が下落したため、現時点では、750ポンドを超えない位(is not more than £ 750)とのことだった。
<グラフィックノベル版>
グラフィックノベル版の場合、少年少女向けの作品であるためか、ストーナー夫人による投資から得られる収入について、彼女が亡くなった時点で、1000ポンドで、その後、現時点では、750ポンドと、切りの良い金額へと変更されている。
ストーナー夫人による投資から収入について、 原作上、当初は1100ポンドに満たない位で、 現在は750ポンドを超えない位と記述されていたが、 グラフィックノベル版の場合、 当初は1000ポンドで、現在は750ポンドと、 切りの良い金額に変更されている。 |
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