表紙が、謎の死を遂げたエミリー・アランデルの飼い犬であるボブの形に切り取られている。 |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から出ているエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2024年カレンダーのうち、2番目を紹介したい。
(2)長編「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」(1937年)
本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第21作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第14作目に該っている。
ある年の6月28日、エルキュール・ポワロは、エミリー・アランデル(Emily Arundell)と名乗る老婦人から、自分の命に危険が迫っていることを示唆する内容の手紙を受け取る。奇妙なことに、手紙の日付は、その年の4月17日になっており、手紙が書かれてから2ヶ月後に投函されているのだった。
ポワロの相棒で、友人でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉(Capitain Arthur Hastings)は、「老婦人のとりとめのない妄想ではないか?」と疑問を呈したが、手紙が差し出された経緯について興味を覚えたポワロは、ヘイスティングス大尉を伴って、事実を確かめるために、エミリー・アランデルが住むバークシャー州(Berkshire)のマーケットベイジング(Market Basing)へ赴くことにした。
ポワロとヘイスティングス大尉の二人が、エミリー・アランデルの住所である小緑荘(Littlegreen House)を訪れると、屋敷の前には、「売家」の札が掲げられていた。疑問を抱いた二人が地元で尋ねると、エミリー・アランデル本人は、1ヶ月以上も前になくなっていたのである。
亡くなったエミリー・アランデルは、長女マチルダ(Matilda)、三女アラベラ(Arabella)、長男トマス(Thomas)および四女アグネス(Agnes)の五人兄弟の次女で、ただ一人存命中だった。彼女は、父親のアランデル将軍からかなりの財産を相続しており、非常に裕福であった。彼女は、生涯未婚の上、自分の財産を遺す子供が居なかったため、以下の姪と甥が将来彼女の遺産を分け合うものと思われていた。
(1)ベラ・タニオス(Bella Tanios):三女アラベラの娘
ジャコブ・タニオス(Dr. Jacob Tanios):ギリシア人の医者で、ベラの夫
(2)チャールズ・アランデル(Charles Arundell):長男トマスの長男で、テリーザの兄
(3)テリーザ・アランデル(Theresa Arundell):長男トマスの長女で、チャールズの妹
レックス・ドナルドスン(Dr. Rex Donaldson):医者で、テリーザの婚約者
ところが、エミリー・アランデルは、亡くなるわずか数日前に、遺言書を書き換えていて、新しい遺言書により、彼女の全財産は、彼女の相手役(コンパニオン)であるウィルへルミナ・ロウスン(Wilhelmina Lawsonー通称:ミニー(Minnie))に遺贈され、彼女の本当の肉親である姪2人と甥1人に対しては、何も残されなかったのである。そのため、地元マーケットベイジングの住人達の間では、その噂でもちきりだった。
エミリー・アランデルの遺族の間で憤懣がつのる中、彼女の愛犬であった「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」のテリア犬ボブ(Bob)は、彼女の死の真相究明に乗り出したポワロとヘイスティングス大尉に対して、何かを伝えようとしていた。
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