日本の出版社である株式会社早川書房から発行されている アガサ・クリスティー作「青列車の秘密」の文庫版表紙 (カバーイラスト:真鍋博氏) |
英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第54話(第10シリーズ)として、2006年1月1日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「青列車の秘密(The Mystery of the Blue Train)」(1928年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。
今回は、ニース(Nice)に到着した青列車内において、ルース・ケタリング(Ruth Kettering)の死体が発見された以降、物語の最後までの部分について、相違点を列挙する。
(20)
<TV ドラマ版>
ニースにあるレディー・ロザリー・タンプリン(Lady Rosalie Tamplin - キャサリン・グレイ(Katherine Grey)の従姉妹)の屋敷(Villa Margerite)において、自身の誕生日パーティーが開催される。
その誕生日パーティーには、エルキュール・ポワロの他に、米国の大富豪で、殺されたルース・ケタリングの父親であるルーファス・ヴァン・オールディン(Rufus Van Aldin)、彼の秘書であるリチャード・ナイトン少佐(Major Richard Knighton)、ルース・ケタリングの夫だったデリク・ケタリング(Derek Kettering)やルース・ケタリングの愛人だったアルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵(Armand, Comte de la Roche)が招待される。ルース・ケタリングのメイドだったエイダ・メイスン(Ada Mason)も、メイドとして来ている。
誕生日パーティーにおいて、キャサリン・グレイとリチャード・ナイトン少佐は、よい雰囲気になっている。
そこへ、ルーファス・ヴァン・オールディンの愛人であるミレーユ・ミレジ(Mirelle Milesi)が、突然、会場に入って来て、彼を殴りつける。
<原作>
原作の場合、レディー・ロザリー・タンプリンの屋敷において、事件関係者達が一堂に会することはない。
(21)
<TV ドラマ版>
ルーファス・ヴァン・オールディンの妻で、ルース・ケタリングの母であるドロレス・ヴァン・オールディン(Dolores Van Aldin)は、娘ルースの出産後に、精神を病んで、ニースの教会において、シスター・ロザリアに保護されていたことが判明する。
<原作>
原作の場合、ルーファス・ヴァン・オールディンの妻は登場しない。
(22)
<TV ドラマ版>
レディー・ロザリー・タンプリンの誕生日パーティーにメイドとして来ていたエイダ・メイスンは、ポワロ、ルーファス・ヴァン・オールディンとリチャード・ナイトン少佐の前で、「青列車のルース・ケタリングの部屋に居ることを見かけた男性は、デリク・ケタリングだったことを思い出した。」と証言する。
<原作>
デリク・ケタリングが青列車のルース・ケタリングの部屋に出入りしていたことを見かけたのは、エイダ・メイスンではなく、キャサリン・グレイである。
(23)
<TV ドラマ版>
誕生日パーティーが行われた日の深夜、キャサリン・グレイとレディー・ロザリー・タンプリンの娘であるレノックス・タンプリン(Lenox Tamplin)の部屋に、賊が侵入して、寝ていたキャサリン・グレイを、ナイフで刺し殺そうとする。目が覚めたキャサリン・グレイが叫び声を上げて起き上がったため、賊はキャサリン・グレイを刺す代わりに、彼女の枕を何度も刺すことになった。レノックス・タンプリンが、後ろから賊に飛び付いて、賊の首筋を噛んで、撃退する。
翌朝、リチャード・ナイトン少佐が、キャサリン・グレイの見舞いに訪れる。
ポワロは、キャサリン・グレイに対して、「青列車において、命を狙われていたのは、ルース・ケタリングではなく、貴方だったのではないか?」と、意見を述べる。
リチャード・ナイトン少佐がキャサリン・グレイの部屋から退去する際、ポワロは彼の首筋を調べて、レノックス・タンプリンの噛み跡がないことを確認する。
<原作>
原作の場合、このような展開はない。
(24)
<TV ドラマ版>
ポワロは、フランス警察のコウ警部(Inspector Caux)と事件関係者達の全員を青列車に呼んで、ルース・ケタリング殺害事件の真相を明らかにする。
TV ドラマ版において、エルキュール・ポワロが ルース・ケタリング殺害事件の真相を明らかにする際の 青列車内の座席配置図 <筆者作成> |
<原作>
ルース・ケタリング殺害事件の真相を明らかにするために、ポワロが青列車に読んだのは、ルーファス・ヴァン・オールディンとリチャード・ナイトン少佐の2人のみである。
(25)
<TV ドラマ版>
ルース・ケタリングを殺害して、彼女から「炎の心臓(Heart of Fire)」を奪った犯人として、ポワロに指摘されたリチャード・ナイトン少佐は、ナイフを持って、キャサリン・グレイを人質にして、逃げようとする。また、リチャード・ナイトン少佐の共犯者であるエイダ・メイスンは、皆に飛び掛かって、彼女が愛するリチャード・ナイトン少佐を逃がそうとした。
リチャード・ナイトン少佐は、ポワロの説得に応じて、キャサリン・グレイを解放すると、線路に飛び降りて、対向列車に轢かれて、死亡する。
リチャード・ナイトン少佐の共犯者であるエイダ・メイスンは、彼を愛していたため、彼とキャサリン・グレイがよい雰囲気になっていくことに非常な嫉妬を覚え、キャサリン・グレイを殺害しようとして、彼女の部屋に侵入したが、彼女の殺害に失敗して、レノックス・タンプリンに首筋を噛まれ、撃退される羽目となったのであった。
<原作>
原作の場合、ポワロの推理に基づいて、リチャード・ナイトン少佐と彼の共犯者であるエイダ・メイスンの2人は、フランス警察によって逮捕されるだけで、TV ドラマ版のように、リチャード・ナイトン少佐が命を落とすような展開はない。
(26)
<TV ドラマ版>
物語の最後、ニースの海岸において、傷心のキャサリン・グレイは、ポワロに対して、「まだロンドンへ戻るつもりはない。ニースの後、ウィーン(Vienna)へ行って、そこからオリエント急行(Orient Express)に乗ろうと考えている。」と伝える。「オリエント急行に乗車したことがあるか?」と尋ねるキャサリン・グレイに、ポワロは、「まだないが、いつか乗りたいと思っている。(Not once. But I must.)」と答える。
その後、キャサリン・グレイは、ポワロの元から去って行き、ポワロは、彼女を見送る。そして、少し下の海岸の砂浜において、レディー・ロザリー・タンプリン、コーキー(Corky - レディー・ロザリー・タンプリンの4番目の夫 / 原作では、チャビー(Chubby)と呼ばれている)とレノックス・タンプリンの3人が戯れている場面を以って、物語は終わりを迎える。
<原作>
原作の場合、このような展開はない。
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