英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第54話(第10シリーズ)として、2006年1月1日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「青列車の秘密(The Mystery of the Blue Train)」(1928年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。
今回は、エルキュール・ポワロを含む事件が関係者達が青列車に乗車してから、ルース・ケタリング(Ruth Kettering)の死体が発見されるまでの部分について、相違点を列挙する。
(14)
<TV ドラマ版>
青列車に乗車したキャサリン・グレイ(Katherine Grey)は、ルース・ケタリングから話しかけられる。
ルース・ケタリングは、キャサリン・グレイに対して、自分の愛人であるアルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵(Armand, Comte de la Roche)を見せると、部屋を変えてほしいと頼む。何故かと言うと、キャサリン・グレイの部屋(7号室)は、アルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵の部屋に近いからであった。
キャサリン・グレイは、ルース・ケタリングの依頼通りに、部屋の交換を聞き入れた。
<原作>
昼食をとるために、食堂車へと向かったキャサリン・グレイは、ルース・ケタリングと隣席になる。ルース・ケタリングは、「自分がこれからパリでしようとしている逢い引きについて、無謀だった。」と感じ始めており、キャサリン・グレイに対して、自分の気持ちを吐露するのであった。
キャサリン・グレイとルース・ケタリングの間の会話は、上記の内容にとどまっており、2人が部屋を交換することはない。
(15)
<TV ドラマ版>
ポワロがキャサリン・グレイに合流すると、彼女の従姉妹であるレディー・ロザリー・タンプリン(Lady Rosalie Tamplin)が寄って来て、ポワロに対し、ニース(Nice)では、ホテルではなく、自分の屋敷(Villa Margerite)に宿泊するように頼んだ。
<原作>
通常、こういった打ち明け話をした場合、打ち明けた当人は、打ち明けた相手に対して、二度と会いたがらないものだ。実際、ルース・ケタリングは、自室内で夕食を取るようで、食堂車へ赴いたキャサリンは、別の人物と同席することになる。それは、他ならぬエルキュール・ポワロだった。
原作の場合、レディー・ロザリー・タンプリン、コーキー(Corky - レディー・ロザリー・タンプリンの4番目の夫 / 原作では、チャビー(Chubby)と呼ばれている)とレノックス・タンプリン(Lenox Tamplin - レディー・ロザリー・タンプリンの娘)の3人は、青列車に乗車していないので、このような会話は為されていない。
(16)
<TV ドラマ版>
ルース・ケタリングの部屋へ、彼女の夫であるデリク・ケタリング(Derek Kettering)がいきなり訪ねて来る。ルース・ケタリングは、デリク・ケタリングに対して、手切れ金を渡すが、彼は納得しない。
<原作>
原作の場合、このような会話は為されていない。
(17)
<TV ドラマ版>
昼食後、キャサリン・グレイは、自分の部屋で、ポワロに対して、自分の身の上話を始める。
彼女の父親は、千人以上の従業員が居る会社を経営していた。米国の大富豪であるルーファス・ヴァン・オールディン(Rufus Van Aldin)が保有するヴァン・オールディン石油会社(Van Aldin Oli)が、「従業員を引き続き雇用する条件」で、会社を買った。ところが、その1週間後、ヴァン・オールディン石油会社は、従業員全員の解雇を実施した。そのため、責任を感じた彼女の父親は、自殺してしまったのである。
<原作>
原作の場合、このような記述はない。
(18)
<TV ドラマ版>
午後8時45分に、青列車は、パリのリヨン駅(Paris Gare Lyon)に到着。
キャサリン・グレイと部屋を交換して、7号室に入ったルース・ケタリングは、午後10時に遅い夕食を自分の部屋へ持って来るように、車掌に依頼。画面上、ルース・ケタリングの姿は見えないが、ポワロがこの場面を見かける。
ルース・ケタリングのメイドであるエイダ・メイスン(Ada Mason)が、リヨン駅で下車する。
午後10時になると、ルース・ケタリングの部屋(7号室)へ、夕食が運ばれてくる。画面上、ルース・ケタリングの姿が少しだけ見えるが、ポワロがこの場面を見かける。
一方、ルース・ケタリングの夫であるデリク・ケタリングと彼女の愛人であるアルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵は、同じコンパートメントで、カードゲームを翌朝まで続けた。レディー・ロザリー・タンプリンの4番目の夫であるコーキーも、同席していた。
翌日の午前4時に、青列車は、マルセーユ駅(Gare Marseille)に到着。
コーキーが、休憩のために、プラットフォームへ降りて来る。ポワロが、自分の部屋から、この場面を見かける。
<原作>
原作の場合、デリク・ケタリングは、青列車に乗車しているが、愛人のミレーユ(Mirelle)と一緒であり、TV ドラマ版のような場面はない。また、アルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵は、パリに居て、ルース・ケタリングの到着を待っているので、青列車には乗車していない。更に、コーキー(原作では、チャビー)も、青列車には乗車していない。
(19)
<原作>
昼食の席で、ルース・ケタリングに話しかけられたこと、そして、夕食の席で、ポワロと同席になったことを除くと、キャサリン・グレイの身辺には、特に何も起きなかった。しかし、青列車がニースに到着すると、彼女は恐ろしい事件に巻き込まれることになる。
昨日、昼食の席で隣席となったルース・ケタリングが、自室内において、就寝中、何者かによって、首を絞められて殺害された後、激しい一撃で、顔の見分けがつかない程になっているのが、車掌によって発見されたのである。そして、彼女が携えていた「炎の心臓(Heart of Fire)」が紛失していた。
メイドのエイダ・メイスンも、その姿を消していたため、警察は、キャサリン・グレイに対して、身元の確認を依頼するが、顔の判別がつかず、それは難しかった。
そして、その場に居合わせたポワロが、警察に対して、捜査の協力を申し出るのであった。
<TV ドラマ版>
翌日の午前7時に、青列車は、ニース駅に到着。
レディー・ロザリー・タンプリンとレノックス・タンプリンが、7号室へ行って、ルース・ケタリングの死体を発見して、叫び声を上げる。2人は、キャサリン・グレイとルース・ケタリングが部屋を交換したことを知らない上に、死体の顔面がメチャメチャになっていて、判別が非常に困難であったため、ルース・ケタリングの死体をキャサリン・グレイだと勘違いしたのである。
そこへ、ルーファス・ヴァン・オールディンが駆け付けて来る。彼がルース・ケタリングの部屋を調べると、金庫が開けられており、彼女が携えていた「炎の心」が紛失していたのだった。
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