英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第64話(第12シリーズ)として、2010年12月25日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」(1934年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。
なお、今回は、エルキュール・ポワロがオリエント急行(Orient Express)に乗車してから、サミュエル・ラチェット(Samuel Ratchett - 米国人の実業家)の刺殺死体が発見される場面までとする。
(7)
<原作>
ベルギー時代からの友人で、国際寝台車会社(Compagnie Internationale des Wagons Lits)の重役ブック氏(Mr. Bouc)と一緒に、イスタンブール(Istanbul)駅に到着したポワロであったが、オリエント急行のピエール・ミシェル(Pierre Michel - フランス人で、オリエント急行の車掌)から、「常に予備として空けてある一等寝台席の16号室も、今日は空いていない。」と告げられる。
それを聞いたブック氏は、出発時刻の午後9時まで、あと4分しかないにもかかわらず、まだ姿を見せていないハリス氏(Mr. Harris)の7号室(二等寝台席)を、ポワロの部屋とするよう、車掌のピエール・ミシェルに対して、指示する。
1号室(一等寝台席)を使用するブック氏が別の車輌へ移るまでの一晩、ポワロは、6号室(二等寝台席)を使用するヘクター・マックイーン(Hector MacQueen - 米国人で、ラチェットの秘書)と同室となるのであった。
<TV ドラマ版>
基本的に、原作と同じである。
(8)
<原作>
原作の場合、ポワロがヘクター・マックイーンと同室になった場面から、翌日、ポワロが、昼食のために、食堂車輌(Wagon Restaurant)へと向かう場面へと、一気に展開する。
<TV ドラマ版>
TV ドラマ版の場合、ポワロがヘクター・マックイーンと同室になり、オリエント急行がイスタンブール駅を出発した後の場面が挿入されている。
・ポワロは、6号室 / 7号室(二等寝台席)を出て、廊下に佇んでいる。
・2号室(一等寝台席)から出て来たサミュエル・ラチェットが、廊下を歩いて来たメアリー・デベナム(Mary Hermione Debenham - 英国人で、家庭教師)の腕を急に取るが、拒絶される。
・ポワロは、メアリー・デベナムに対して、話しかける。そして、イスタンブールの街頭で、他の男性の子供を宿したトルコ人の女性が、彼女の夫を含む集団に追われて、皆から石を投げ付けられた上に、唾を吐きかけられると言う私刑を受けていた件を、話題にする。ポワロは、メアリー・デベナムに、「Justice is often upsetting to witness. In another cultre it is best not to intervene, mademoiselle. I also found it upsetting. It is not pleasant.」と言うように、「地元の正義が行われたまでのこと。」と評するのであった。
・10号室 / 11号室(二等寝台席)から、グレタ・オルソン(Greta Ohisson - スウェーデン人で、愛想のいい中年女性)が出て来る。彼女と入れ違いに、メアリー・デベナムが、部屋の中へ入ってしまう。
・サミュエル・ラチェットが、車掌のピエール・ミシェルを自分の部屋(2号室 - 一等寝台席)に呼んで、お金を彼のポケットに捻じ込むと、一等寝台席の乗客の情報を求めた。
(9)
<原作>
翌日、ポワロが、昼食のために、食堂車輌へ向かい、ブック氏と同席になる。オリエント急行は、通常、冬場(12月)は比較的空いている筈にもかかわらず、季節外れの満席の上、国際色豊かな乗客の面々だった。
<TV ドラマ版>
翌朝、ポワロが、朝食のために、食堂車輌へ向かい、ブック氏に加えて、コンスタンティン博士(Dr. Constantine - ギリシア人で、医師)と同席になる。コンスタンティン博士は、ポワロ達に対して、「アンカラ(Ankara)から米国へ帰る途中。」と告げる。
原作の場合、コンスタンティン博士は、別の車輌の乗客で、ポワロとブック氏が彼に出会うのは、サミュエル・ラチェットの刺殺死体が発見されてからである。
(10)
<原作>
昼食が終わった後、サミュエル・ラチェットが、ポワロに接触して来た。彼は、最近脅迫状を数回受け取っていたため、身の危険を感じており、ポワロに対して、自分の護衛を依頼してきたのであった。サミュエル・ラチェットは、自分の命を守ってくれる報酬として、2万ドルまで吊り上げたが、彼の狡猾な態度を不快に思ったポワロは、サミュエル・ラチェットに対して、「If you will forgive me for being personal - I do not like your face, M. Ratchett.」と言って、即座に断った。
<TV ドラマ版>
夕食が終わった後、サミュエル・ラチェットが、ポワロに接触して来た。サミュエル・ラチェットは、自分の命を守ってくれる報酬として、バーのカウンターの上に、お金を積み上げる。しかし、ポワロは、サミュエル・ラチェットに対して、「I do not play poker with you, monsieur. Non.」と言って、即座に断ったところ、サミュエル・ラチェットは、バーのカウンターの上に積み上げたお金を持って、立ち去るのであった。
(11)
<原作>
午後8時45分に、イスタンブール発カレー(Calais)行きのオリエント急行は、ベオグラード(Belgrade - 現在のセルビア共和国の首都)に到着。そして、アテネ(Athens)発パリ(Paris)行きの車輌と接続される。
ポワロは、一旦、プラットフォームへと降りるが、あまりの寒さのため、車輌に戻る。そして、ポワロは、車掌のピエール・ミシェルから、「あなたの荷物を、ブック氏が使っていた1号室(一等寝台席)へと移動させました。」と告げられる。
ポワロは、ブック氏を探しに行くと、彼はアテネ発パリ行きの車輌に居た。ブック氏によると、「アテネ発パリ行きの車輌は空いていて、自分とギリシア人の医師(コンスタンティン博士)の2人しか居ない。」とのことだった。
ポワロが1号室(一等寝台席)へ向かうと、廊下でジョン・アーバスノット大佐(Colonel John Arbuthnot - 英国人で、軍人)と会話をしていたヘクター・マックイーンは、ポワロの姿を見て、驚く。ポワロは、ヘクター・マックイーンに対して、「今夜から、別の部屋へ移動した。」と告げた。
<TV ドラマ版>
イスタンブール発カレー行きのオリエント急行は、ベオグラードに到着。そして、アテネ発パリ行きの車輌と接続される。
ポワロが、プラットフォームへと降りると、ヘクター・マックイーンも降りて来る。「ここで降りるんじゃないのですか?」と言うヘクター・マックイーンの問いに、ポワロは、「今夜から、別の部屋へ移動する。」と答える。そこへ車掌のピエール・ミシェルがやって来て、ポワロに対して、「1号室(一等寝台席)の準備が出来ました。」と告げる。
(12)
<TV ドラマ版>
ポワロが、1号室(一等寝台席)において、お祈りをする。
「I thank thee for having created me … for having made me a Catholic. … and if I have done any good, deign to accept it. Amen.」そして、ポワロは、ロザリオ(十字架)にキスをする。
一方、サミュエル・ラチェットも、2号室(一等寝台席)において、祈りを捧げている。
「Pardon me for all evil I have done this day. Watch over me while I take my rest. And deliver me from danger.」
米国において、幼いデイジー・アームストロング(Daisy Armstrong)を誘拐して殺害したことについ関して、悔恨の念を抱いているように見受けられる。
「法とは、何か?正義とは、何か?」と言う問い掛けが、何度も提示され、原作に比べると、全体を通して、非常に暗く、かつ、重苦しい内容となっている。
<原作>
原作の場合、このような場面はない。
(13)
<原作>
眠りについたポワロは、夜中、隣りの部屋の叫び声に目を覚ます。
車掌のピエール・ミシェルが、サミュエル・ラチェットが宿泊している2号室(一等寝台席)をノックする。すると、内から、「Ce n’est rien. Je me suis trompe.」と言う返事がある。午前0時37分のことだった。
残念ながら、ポワロは、眠れなくなってしまった。
3号室(一等寝台席)に宿泊しているキャロライン・マーサ・ハバード夫人(Mrs. Caroline Martha Hubbard - 米国人で、陽気でおしゃべりな中年女性)が、車掌のピエール・ミシェルを呼んで、「部屋の中に、誰か居る。」とクレームした。
ポワロは、車掌のピエール・ミシェルに、水を頼む。その際、彼から、「オリエント急行は、ヴィンコヴツィ(Vinkovci - 現在のクロアチア(Croatia)共和国領内)近くで積雪による吹き溜まりに突っ込んで、立ち往生しています。」と告げられる。
再び、ベッドに戻ったポワロであったが、何か重いものがドアに当たった音がした。ポワロがドアを空けて、廊下を見てみると、赤い着物を羽織った女性が、廊下を歩き去って行くところだった。その先の車掌の席には、ピエール・ミシェルが書類仕事をしていた。
<TV ドラマ版>
眠りについたポワロは、夜中、隣りの部屋の叫び声に目を覚ます。
車掌のピエール・ミシェルが、サミュエル・ラチェットが宿泊している2号室(一等寝台席)をノックする。すると、内から、「C’est rien. Je me suis trompe.」(原作対比、セリフが若干の異なっている)と言う返事がある。午前0時半頃のことだった。
再度、ポワロは、眠りにつく。
オリエント急行は、大雪に突っ込んで、急停車する。午前2時頃のことだった。
3号室(一等寝台席)に宿泊しているキャロライン・マーサ・ハバード夫人が、車掌のピエール・ミシェルを呼んで、「部屋の中に、誰か居る。」とクレームする。
もう一度、ベッドに戻ったポワロであったが、彼の部屋のドアがノックされる。ポワロがドアを空けて、廊下を見てみると、赤いキモノを着た女性が、廊下を歩き去って行くところだった。その先の車掌の席には、ピエール・ミシェルが書類仕事をしていた。午前2時半頃のことだった。
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