第64話「オリエント急行の殺人」が収録された エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 8 の裏表紙 - 一番左側が「オリエント急行の殺人」の場面で、 右側の人物が、エルキュールポワロ (演:サー・デヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet)で、 左側の人物が、サミュエル・ラチェット(演:Toby Jones)である。 |
英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第64話(第12シリーズ)として、2010年12月25日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」(1934年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。
なお、今回は、エルキュール・ポワロがオリエント急行(Orient Express)に乗車する場面までとする。
(1)
<原作>
ポワロがオリエント急行に乗車する前に携っていた事件
・場所:シリア(Syria)
・依頼者:シリアに駐屯するフランス陸軍(と思われる)の将軍(General)
・内容:明確に言及されていないため、不明。
・犯人:「A very distinguished officer had committed suicide.」と述べられているだけで、具体的な名前や階級は与えられていない。また、共犯者なのか、それとも、犯人の上官なのか、判らないが、「Another had resigned.」と言う記載もある。
・結末:犯人が自殺。
<TV ドラマ版>
ポワロがオリエント急行に乗車する前に携っていた事件
・場所:パレスチナ(Palestine)
・関係者:パレスチナに駐屯する英国陸軍(と思われる)の将軍
・内容:英国陸軍(と思われる)の駐屯地から2マイル離れた場所で、ある女性が首の骨を折って死亡。 → ポワロによると、人間の手によるものではなく、転落による骨折、とのこと。
・犯人:モーリス中尉(Lieutenant Morris)
・結末:ポワロから厳しい糾弾を受けたモーリス中尉は、横に立っていた同僚の腰のベルトから銃を奪い、頭を撃って、自殺を遂げる。血の一部が、ポワロの顔に降りかかる場面も挿入されている。
(2)
<原作>
ポワロがイスタンブール(Istanbul)へと向かう場面
・アレッポ(Aleppo)駅で、イスタンブール行きのタウルス急行(Taurus Express)に乗車。
・シリアに駐屯するフランス陸軍(と思われる)のデュボスク中尉(Lieutenant Dubosc)が、アレッポ(Aleppo)駅で、ポワロを見送る。なお、デュボスク中尉は、ポワロがどういった事件を捜査していたのかについては、知らされておらず、あくまでも、ポワロの見送りだけを指示されていた。
<TV ドラマ版>
ポワロがイスタンブール(Istanbul)へと向かう場面
・船で、イスタンブールへ移動。
・パレスチナに駐屯する英国陸軍(と思われる)ブランシュフラワー中尉(Lieutenant Blanchflower - モーリス中尉の友人)が、パレスチナからイスタンブールまで、ポワロに帯同。なお、ブランシュフラワー中尉は、ポワロがどういった事件を操作していたのか、また、その結末についても、全て知っており、パレスチナからイスタンブールへと向かう船上において、ポワロに対して、上官からの感謝を伝えつつも、友人のモーリス中尉を自殺に追い詰めたことに異を唱えている。
(3)
<原作>
ポワロが、ジョン・アーバスノット大佐(Colonel John Arbuthnot - 英国人で、軍人)とメアリー・デベナム(Mary Hermione Debenham - 英国人で、家庭教師)の2人を最初に見かけるのは、アレッポ(Aleppo)駅から乗車したイスタンブール行きのタウルス急行内である。
<TV ドラマ版>
ポワロが、ジョン・アーバスノット大佐とメアリー・デベナムの2人を最初に見かけるのは、船が到着したイスタンブールの街頭においてである。
(4)
<原作>
メアリー・デベナムがジョン・アーバスノット大佐に対して発した「Not now. Not now. When it’s all over. When it’s behind us - then -」と言う言葉をポワロが耳にしたのは、イスタンブール行きのタウルス急行が停車した途中駅のプラットフォームにおいてである。
<TV ドラマ版>
メアリー・デベナムがジョン・アーバスノット大佐に対して発した「Not now. Not now. When it’s all over. When it’s behind us - then -」と言う言葉をポワロが耳にしたのは、船が到着したイスタンブールの街頭においてである。
(5)
<TV ドラマ版>
イスタンブールの街頭において、他の男性の子供を宿したトルコ人の女性が、彼女の夫を含む集団に追われて、皆から石を投げ付けられた上に、唾を吐きかけられると言う私刑を受ける。
その場に居合わせたジョン・アーバスノット大佐とメアリー・デベナムの2人は、為す術もなく、立ち尽くすしかなかった。
同じく、その場に居合わせたポワロは、この私刑について、「地元の正義が行われたまでのこと。」と評するのであった。
TV ドラマ版の場合、モーリス中尉 / ブランシュフラワー中尉の件、イスタンブールの街頭における他の男性の子供を宿したトルコ人の女性に対する私刑、そして、オリエント急行内での殺人事件と、「法とは、何か?正義とは、何か?」と言う問い掛けが、何度も提示され、原作に比べると、全体を通して、非常に暗く、かつ、重苦しい内容となっている。
<原作>
原作の場合、このような場面はない。
(6)
<原作>
ポワロがイスタンブールのホテル(The Tokatlian Hotel)に到着した後の流れ
・ポワロは、ホテルのコンシェルジュから、「直ぐにロンドンへ戻られたし。」という電報を受領。
・ポワロは、ホテルのコンシェルジュに対して、イスタンブール発カレー(Calais)行きのオリエント急行(Orient Express)の手配を依頼。
・ポワロは、ホテルのレセプションへ行って、部屋の予約をキャンセル。
・ホテルのホールにおいて、ポワロは、ベルギー時代からの友人で、国際寝台車会社(Compagnie Internationale des Wagons Lits)の重役ブック氏(Mr. Bouc)に再会。ブック氏は、仕事の関係で、スイスのローザンヌ(Lausanne)へと向かう予定で、後で一緒に駅へ向かう約束をした。
・ポワロは、ホテルのレストランで、夕食をとっている際、それ程離れていないテーブルに居るサミュエル・ラチェット(Samuel Ratchett - 米国人の実業家)とヘクター・マックイーン(Hector MacQueen - 米国人で、ラチェットの秘書)の2人に興味を抱いた。
・ポワロが、ホテルのラウンジにおいて、ブック氏と落ち合った際、サミュエル・ラチェットとヘクター・マックイーンの2人がホテルから出て行くのを見かける。
・ホテルのコンシェルジュがポワロの元へとやって来て、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行の一等寝台席が満席であることを告げる。
・ボック氏は、ポワロに対して、「一等寝台席の16号室は、常に予備として空けてあるので、大丈夫だ。(There is always one compartment - the No. 16, which is not engaged. The conductor sees to that!)」と請け合い、2人は駅へと向かった。
<TV ドラマ版>
ポワロがイスタンブールのホテル(The Tokatlian Hotel)に到着した後の流れ
・ポワロは、ホテルのコンシェルジュから、「直ぐにロンドンへ戻られたし。」という電報を受領。
・ポワロは、ホテルのコンシェルジュに対して、部屋の予約をキャンセルするとともに、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行の手配を依頼。
・オリエント急行の手配を待つポワロは、サミュエル・ラチェットとヘクター・マックイーンの2人がホテルから出て行くのを見かける。
・続いて、ポワロは、ベルギー時代からの友人で、国際寝台車会社の重役ザビエル・ブック(Xavier Bouc)に再会。
・ホテルのコンシェルジュが、ポワロに対して、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行の一等寝台席が満席であることを告げる。
・ボック氏は、ポワロに対して、「寝台席を必ず確保できるから、大丈夫だ。」と請け合い、2人は駅へと向かった。
原作の場合、「ブック氏」と呼ばれているだけであるが、TV ドラマ版の場合、「ザビエル・ブック」と言うフルネームが与えられている。
また、上記の通り、ポワロがイスタンブールのホテルに到着した後、原作の場合、コンシェルジュ(手紙や電報の受領+オリエント急行の手配依頼)、レセプション(ホテルの予約キャンセル)、ホール(ブック氏との再会)、レストラン(サミュエル・ラチェットとヘクター・マックイーンの2人を見かける)、そして、ラウンジ(オリエント急行の一等寝台席が満席であることを告げられる)と言うように、場所がいろいろと切り替わるが、TV ドラマ版の場合、時間の関係上、全て、コンシェルジュのところにまとめられている。
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