2022年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された アガサ・クリスティー作「アクロイド殺し」の 愛蔵版(ハードカバー版)の裏表紙 (Cover design by Holly Macdonald / Illustrations by Shutterstock.com) |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1926年に発表した「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」(1926年)では、キングスアボット村(King's Abbot)に住むジェイムズ・シェパード医師(Dr. James Sheppard)が「わたし」という語り手になって、事件を記録している。
同村のキングスパドック館(King's Paddock)に住むドロシー・フェラーズ夫人(Mrs. Dorothy Ferrars)は、裕福な未亡人で、村のもう一人の富豪であるロジャー・アクロイド(Roger Ackroyd)との再婚が噂されていたが、9月17日(金)の朝、亡くなっているのが発見された。
検死を実施した結果、「わたし」は睡眠薬の過剰摂取と判断したが、噂好きな姉のキャロライン・シェパード(Caroline Sheppard)は、夫人の死を自殺だと出張するのであった。何故ならば、同村では、ドロシー・フェラーズ夫人が、酒好きで、だらしのない夫アシュリー・フェラーズ(Ashley Ferrars)を殺害したという噂も流布していたからである。
外出した「わたし」は、偶然出会ったロジャー・アクロイドから「相談したいことがある。」と言われ、彼が住むフェルンリーパーク館(Fernly Park)での夕食に招待された。
その日の午後7時半に、彼の屋敷を訪ねた「わたし」は、(1)ロジャー・アクロイド、(2)彼の義理の妹で、未亡人のセシル・アクロイド夫人(Mrs. Cecil Ackroyd)、(3)セシル・アクロイド夫人の娘フローラ・アクロイド(Flora Ackroyd)、(4)ロジャー・アクロイドの旧友ヘクター・ブラント少佐(Major Hector Blunt)、そして、(5)ロジャー・アクロイドの秘書ジェフリー・レイモンド(Geoffrey Raymond)と食事をした際、その席上、フローラ・アクロイドが、ロジャー・アクロイドの養子ラルフ・ペイトン大尉(Captain Ralph Paton)との婚約を発表する。
食事の後、書斎へ移動した「わたし」は、ロジャー・アクロイドから悩みを打ち明けられる。
彼によると、昨日(9月16日)、再婚を考えていたドロシー・フェラーズ夫人から「夫のアシュリー・フェラーズを毒殺した。」と告白された、と言うのである。その上、彼女はそのことで正体不明の何者かに強請られていた、とのことだった。
ちょうどそこに、ドロシー・フェラーズ夫人からの手紙が届く。ロジャー・アクロイドは、その手紙を開封しようとしたが、彼女を強請っていた恐喝者の名前を知らせる内容が書かれているものと考えた彼は「落ち着いて、後で一人でゆっくりと読むつもりだ。」と告げると、「わたし」に帰宅を促すのであった。
2022年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された アガサ・クリスティー作「アクロイド殺し」の 愛蔵版(ハードカバー版)内にある ロジャー・アクロイド邸のフェルンリーパーク館の見取り図 (Cover design by Holly Macdonald / Illustrations by Shutterstock.com) |
徒歩での帰宅途中、「わたし」は見知らぬ男性にフェルンリーパーク館、即ち、ロジャー・アクロイド邸への道を尋ねられる。
「わたし」が自宅に戻ると、急に電話の音が鳴り響く。「わたし」が受話器をとると、それは、ロジャー・アクロイドの執事ジョン・パーカー(John Parker)だった。彼によると、ロジャー・アクロイドが部屋で亡くなっている、とのことだった。
「わたし」は、姉のキャロラインにそのことを知らせると、車に飛び乗り、ロジャー・アクロイド邸へと戻った。
ロジャー・アクロイド邸に着いた「わたし」を出迎えたジョン・パーカーに電話のことを尋ねると、彼は「そんな電話をした覚えはない。」と答えるのであった。
ロジャー・アクロイドのことが心配になった「わたし」が、ジョン・パーカーと一緒に、彼の部屋へ赴くと、彼は刺殺されていて、ドロシー・フェラーズ夫人から届いた手紙も消えていた。
2022年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された アガサ・クリスティー作「アクロイド殺し」の 愛蔵版(ハードカバー版)内にある ロジャー・アクロイドの書斎の見取り図 (Cover design by Holly Macdonald / Illustrations by Shutterstock.com) |
フローラ・アクロイドの婚約者で、ロジャー・アクロイドの遺産を相続することになるラルフ・ペイトン大尉が姿を消したため、地元警察は、彼を有力な容疑者と考え、彼の行方を追う。
ラルフ・ペイトン大尉の身を案じたフローラ・アクロイドは、私立探偵業から隠退し、キングスアボット村の「わたし」の隣りに引っ越して、カボチャ栽培に精を出していたエルキュール・ポワロに、事件の真相解明を依頼するのであった。
本作品を未読の方も居ると思われるので、詳細な説明を省くが、アガサ・クリスティーは、読者から犯人を秘匿するために、既に前例はあったものの、あるトリックを使用しており、本作品の発表時に、フェア・アンフェア論争を引き起こしている。
物語の中で、彼女が仕掛けたトリックは、その内容故に、映画、TV やグラフィックノベル等による「視覚化」が、非常に困難である。本作品のグラフィックノベル版(→ 2022年11月1日 / 11月3日付ブログで紹介済)の場合、イラストレーターは、アガサ・クリスティーによるトリックの内容をうまく視覚化の上、あまり目立たないよう、物語の各シーンの中に、うまく溶け込ませていると言える。
ただ、トリックが特殊である関係上、映画、TV やグラフィックノベル等に「視覚化」すると、物語自体が普通の推理小説になってしまう可能性が非常に高く、そういった意味では、本作品は、「視覚化」には適していない。従って、本作品の真の面白さを知るためには、原作自体を文章で読むしかないと言える。
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