2024年2月21日水曜日

ロビン・スティーヴンス作「グッゲンハイムの謎」(The Guggenheim Mystery by Robin Stevens)- その3

2018年に英国の Penguin Random House UK 社から出版された
シヴォーン・ダウド原案 / ロビン・スティーヴンス作
「グッゲンハイムの謎」の
ペーパーバック版の内扉


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


「グッゲンハイムの謎(The Guggenheim Mystery)」(2017年)は、気象学の知識は専門家並みと言う少し「変わった」頭脳を持つ12歳の少年であるテッド・スパーク(Ted Spark)を主人公とする第1作目に該るジュヴナイル向けの推理小説「ロンドンアイの謎(The London Eye Mystery → 2024年1月11日 / 1月15日 / 1月19日付ブログで紹介済)」(2007年)の続編である。

「ロンドンアイの謎」の作者(=英国の小説家で、人権擁護活動家)であるシヴォーン・ダウド(Siobhan Dowd:1960年ー2007年)が、同作の発表直後の2007年8月21日に、乳癌のために亡くなってしまった。彼女は、「ロンドンアイの謎」を出版した時点で、第2作目に該る「グッゲンハイムの謎」を執筆する契約を既に交わしていた。ところが、その直後に、作者本人が亡くなったため、テッド・スパークシリーズの第2作目が宙に浮いてしまう。

そこで、シヴォーン・ダウド基金(Siobhan Dowd Trust)は、「ロンドンアイの謎」の続編を執筆できる作家を選定の上、2015年に、米国カリフォルニア州出身で、現在、英国オックスフォード(Oxford)在住の作家であるロビン・スティーヴンス(Robin Stevens: 1988年ー)に白羽の矢を立てた。

こうした経緯を経て、2017年に「グッゲンハイムの謎」は発表されたのである。


「ロンドンアイの謎」の場合、多くの観光客と一緒に、ロンドンアイ(London Eye - テムズ河の南岸に建つ巨大な観覧車)のカプセルに乗り込んで行った従兄弟のサリム・マククラウド(Salim McCloud)が、テッド・スパークと姉のカトリーナ(Katrina - 愛称:カット(Kat))が見守る中、一周して、下に降りてきたカプセルから降りて来ず、彼だけが、どこかに消えてしまったと言う「密室状況」における人間消失事件を扱っているのに対して、「グッゲンハイムの謎」の場合、母の妹で、「ハリケーングロリア(Hurricane Gloria)」と呼ばれている叔母のグロリア・マククラウド(Gloria McCloud)が学芸員(curator)の職を得たニューヨークのグッゲンハイム美術館(Guggenheim Museum)におけるワシリー・カンディンスキー(Vassily Kandinsky)の名画「黒い正方形の中に(In the Black Square)」の盗難事件を扱っており、テッド・スパーク、姉のカトリーナと従兄弟のサリムの3人が、叔母のグロリアに着せられた無実の罪を晴らすべく、ニューヨーク中を奔走するのである。


(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)


「ロンドンアイの謎」の場合、「密室状況」における人間消失と言うたった一つのトリックで成り立っているのだが、筆者には、サリムがロンドンアイのカプセルから姿を消してしまった謎が、その時点(約60ページ目)で判ってしまった。ただし、物語の最後までに、260ページ近くが残っており、なかなか話が進展しない中、残りのページを読み進めて行くのは、大変だった。

一方、「グッゲンハイムの謎」の場合、グッゲンハイム美術館からカンディンスキーの名画を盗み出す方法を解き明かすまでに、二転三転する上、容疑者に該るスタッフや業者も数人居るため、テッド・スパーク、姉のカトリーナと従兄弟のサリムの3人は、叔母のグロリアに着せられた無実の罪を晴らすべく、ニューヨーク中を奔走するので、物語の最後まで、「ロンドンアイの謎」のように、話がだれることはない。


(3)テッド・スパークの活躍について ☆☆☆半(3.5)


「グッゲンハイムの謎」の場合も、「ロンドンアイの謎」と同様に、主人公のテッド・スパークは、幾つもの仮説を導き出し、姉のカトリーナと従兄弟のサリムによる協力の下、最後には真相を解き明かして、叔母のグロリアに着せられた無実の罪を無事晴らす。


その一方で、以前住んでいたマンチェスター(Manchester)からニューヨークへと旅立った従兄弟のサリムが、自分ではなく、姉のカトリーナと頻繁に連絡をとりあって、非常に仲が良く、サリムとは自分の方が親密だと思っていたテッド・スパークは、自分だけが除け者になっているように感じる場面が多々あり、少し「変わった」頭脳を持つものの、12歳の少年らしいところも、十分見受けられる。


(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)


ロビン・スティーヴンスによる後書きによると、テッド・スパークシリーズの本来の作者であるシヴォーン・ダウドが亡くなった2007年時点において、第2作目に該る「グッゲンハイムの謎」を執筆する契約を既に交わしていたものの、タイトルのみが決まっていたようである。

シヴォーン・ダウド基金から「ロンドンアイの謎」の続編執筆を依頼されたロビン・スティーヴンスは、「グッゲンハイムの謎」と言うタイトルをベースにして、一から物語を創り上げている。

通常、別の作家が執筆する続編の場合、どうしても、本来の作者が執筆してきたシリーズの内容とは、多少なりともずれる部分は発生するし、違和感も出てくることは、やむを得ない。

ところが、「グッゲンハイムの謎」の場合、本来の作者であるシヴォーン・ダウドが亡くなったために、ロビン・スティーヴンスと言う別の作家が執筆しているにもかかわらず、十二分な事前調査が行われたのか、「ロンドンアイの謎」とほとんど違和感がないような内容となっている。主人公であるテッド・スパークを初めとして、物語のキーパーソンとなる姉のカトリーナと従兄弟のサリムのキャラクターも、本来の作者であるシヴォーン・ダウドが創造した通りになっている。ある意味で、ロビン・スティーヴンスによる「グッゲンハイムの謎」の方が、本来の作者であるシヴォーン・ダウドによる「ロンドンアイの謎」よりも、非常に良く出来ていると、筆者は感じている。 

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