2024年2月14日水曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その10

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。


(33)9 ♠️「アーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)」



アーサー・ヘイスティングスは、エルキュール・ポワロ の友人で、ポワロシリーズにおいて、ジョン・H・ワトスン役を務める。彼が登場する物語では、ワトスンと同様に、彼が事件を記録しているため、彼の一人称で語られる。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「スタイルズ荘の怪事件」のペーパーバック版の表紙

アーサー・ヘイスティングスの初登場作品は、「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affair at Styles → 2023年12月3日 / 12月6日付ブログで紹介済)」(1920年)。同作品によると、彼は、イートン校(Eaton)出身で、軍務に就くまでは、ロイズ・オブ・ロンドン(Lloyd’s of London → 2023年12月8日付ブロgで紹介済)に勤務していた。その後、第一次世界大戦(1914年ー1918年)に出征したが、負傷のため、予備役に退いている。最終的な階級は、大尉(Captain)。


レドンホールストリート沿いに建つロイズ保険組合の本社ビル「ロイズビル」


アーサー・ヘイスティングスは、生真面目で、正義感が強いが、それ故に、必要以上に感情移入するため、推理に関しては、相当な迷走ぶりを度々見せるので、ポワロには呆れられている。一方で、事件の表層面に惑わされず、本人が気付かないまま、本質を見抜いて、事件の核心部分に迫る何気ない一言を発するため、彼の発言が、ポワロの事件解決に大いに役立ったことが、しばしばある。


また、英国紳士らしく、アーサー・ヘイスティングスは、女性に対しては、優しい態度を取り、特に鳶色の髪をした女性には、ロマンを抱いている。

彼は、「ゴルフ場殺人事件(The Murder on the Links → 2022年11月14日付ブログで紹介済)」(1923年)において、アクロバット女優であるダルシー・デュヴィーン(Dulcie Duveen - 愛称:シンデレラ(Cinderella))と出会い、結婚。結婚後は、アルゼンチンへ移住して、そこで牧場の経営を始め、妻の助力もあり、成功を収める。それ以降は、アルゼンチンから英国に一時帰国した際に、ポワロの事件解決に立ち会うと言う形を取るため、ポワロシリーズの最終作を含めて、長編6作に登場するだけである。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ゴルフ場殺人事件」のペーパーバック版の表紙


登場作品

<長編>

*「スタイルズ荘の怪事件」(1920年)

*「ゴルフ場殺人事件」(1923年)

*「ビッグ4(The Big Four)」(1927年)

*「エンドハウスの怪事件(Peril at End House)」(1932年)

*「エッジウェア卿の死(Lord Edgware Dies)」(1933年)

*「ABC 殺人事件(The ABC Murders)」(1935年)

*「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」(1937年)

*「カーテン(Curtain)」(1975年)

<短編>

*「ポワロ登場(Poirot Investigates)」(1924年)

 ・「西洋の星盗難事件(The Adventure of The Western Star)」

 ・「マースドン荘の悲劇(The Tragedy at Marsdon Manor)」

 ・「安アパート事件(The Adventure of the Cheap Flat)」

 ・「狩人荘の怪事件(The Mystery of Hunter’s Lodge)」

 ・「百万ドル債券盗難事件(The Million Dollar Bond Robbery)」

 ・「エジプト墳墓の謎(The Adventure of the Egyptian Tomb)」

 ・「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件(The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan)」

 ・「首相誘拐事件(The Kidnapped Prime Minster)」

 ・「ダヴンハイム氏の失踪(The Disappearance of Mr. Davenheim)」

 ・「イタリア貴族殺害事件(The Adventure of the Italian Nobleman)」

 ・「謎の遺言書(The Case of the Missing Will)」

 ・「ヴェールをかけた女(The Veiled Lady)」- 米版(1925年)で追加

 ・「消えた廃坑(The Lost Mine)」- 米版(1925年)で追加

  ・「チョコレートの箱(The Chocolate Box)」- 米版(1925年)で追加

*「黄色いアイリス(The Regatta Mystery)」(1939年)

 ・「バグダッドの大櫃の謎(The Mystery of the Baghdad Chest)

*「愛の探偵たち(Three Blind Mice and Other Stories)」(1950年)

 ・「ジョニー・ウェイバリーの冒険(The Adventure of Johnnie Waverly)」

*「教会で死んだ男(The Underdog and Other Stories)」(1951年)

 ・「戦勝記念舞踏会事件(The Affair at the Victory Hall)」

 ・「潜水艦の設計図(The Submarine Plans)」

 ・「クラブのキング(The King of Clubs)」

 ・「マーケット・ベイジングの怪事件(The Market Basing Mystery)」

   ・「二重の手掛かり(The Double Clue)」

 ・「呪われた相続人(The Lemesurier Inheritance)」

 ・「コーンウォールの毒殺事件(The Cornish Mystery)」

 ・「プリマス行き急行列車(The Plymouth Express)」

 ・「料理人の失踪(The Adventure of the Clapham Cook)」

 ・「二重の罪(Duble Sin)」

<戯曲>

*「ブラックコーヒー(Black Coffee)」(1934年)


(34)9 ❤️鶫<ツグミ>(Blackbird)



長編「ポケットにライ麦を(A Pocket Full of Rye)」(1953年)は、マザーグース(Mother Goose)の童謡の歌詞通りに、殺人事件が発生する「見立て殺人」をテーマにしており、ある関係で事件に関与することになったミス・ジェイン・マープルが、警察から話を暫く聞いた後、突然、節をつけて歌い出した「ポケットにライ麦を詰めて歌うは、町の唄。」で始まり、「そこへ小鳥が飛んで来て、可愛いお鼻を突っ突いた。」で終わるマザーグースの童謡の中に、「鶫」が登場する。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第45作目に該り、ミス・ジェイン・マープルシリーズの長編のうち、第6作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ
「ポケットにライ麦を」のペーパーバック版の表紙
<イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)>


ロンドンにある投資信託会社の社長であるレックス・フォーテスキュー(Rex Fortescue)が、オフィスにおいて、朝の紅茶を飲んだ後、急逝したため、スコットランドヤードのニール警部(Inspector Neele)が、捜査に入った。

検死解剖の結果、レックス・フォーテスキューの体内から、イチイの木(yew tree)から抽出される毒性のアルカロイド(toxic alkaloid)であるタキシン(taxine)が見つかり、死因は、タキシンによる中毒であることが判明した。レックス・フォーテスキューは、朝食でとったマーマレードとともに、タキシンを摂取したものと思われた。

更に、レックス・フォーテスキューの着衣を調べたところ、不思議なことに、上着のポケットから、大量のライ麦(rye)が出てきたのである。


当然のことながら、スコットランドヤードによって、レックス・フォーテスキューの妻であるアディール・フォーテスキュー(Adele  Fortescue)が、第一容疑者と見做された。

ケニア(Kenya)において結婚したばかりの次男のランスロット・ フォーテスキュー(Lancelot Fortescue - 愛称:ランス(Lance))と妻のパトリシア・フィーテスキュー(Patricia Fortescue - 愛称:パット(Pat))の二人は、レックス・フォーテスキューの招待に応じて、丁度、ケニアからロンドンへと向かっている最中で、「翌日、英国に帰国する。」という電報がパリから入ったので、警察が空港まで彼らを出迎えに行った。


ランスロットが、妻のパトリシアをロンドンに残して、フォーテスキュー家の邸宅であるイチイ荘(Yewtree Lodge)に到着した正にその日、母親のアディールが、青酸カリ(cyanide)が混入された紅茶を飲んで、死亡した。

更に、その数時間後、メイドのグラディス・マーティン(Gladys Martin)が、イチイ荘の庭において、絞殺死体で発見された。しかも、彼女の鼻には、洗濯バサミが付けられていたのである。


ニール警部は、ヘイ巡査部長(Sergeant Hay)と一緒に、捜査を進めるものの、残念ながら、何の進展も得られなかった。

そこへ、3件の殺人事件の記事を新聞で読んだミス・マープルが、イチイ荘を訪れる。不思議な縁で、亡くなったメイドのグラディスは、以前、ミス・マープルの家でメイドとして働いていたからである。


(35)9 ♣️「外科用メス(Scalpel)」



外科用メスは、長編「ナイルに死す(Death on the Nile → 2020年10月4日付ブログで紹介済)」(1937年)において、英国で最も裕福な女性であるリネット・リッジウェイ(Linnet Ridgeway)を銃で射殺した犯人を強請った彼女のメイドであるルイーズ・ブールジェ(Louise Bourget)の口を封じるために、犯人が使用した凶器である。なお、この外科用メスは、ナイル河の遊覧船に同乗していたカール・ベスナー医師(Dr. Karl Bessner)が携帯していたもので、犯人が失敬している。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第22作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第15作目に該っている。また、本作品は、「メソポタミヤの殺人(Murder in Mesopotamia → 2020年11月8日付ブログで紹介済)」(1936年)に続く中近東を舞台にした長編第2作目で、中近東シリーズの最高峰に該る作品でもある。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ナイルに死す」のペーパーバック版の表紙


弱冠20歳のリネット・リッジウェイは、英国で最も裕福な女性だった。ある日、学生時代の古い友人であるジャクリーン・ド・ベルフォール(Jacqueline de Bellefort)が彼女に電話を架けてきた。

ジャクリーン(通称:ジャッキー(Jackie))の家族が2年前に破産してしまい、それ以来、彼女は辛い日々を送っていた。それに加えて、今度は、彼女の婚約者であるサイモン・ドイル(Simon Doyle)が失業してしまったのである。

ジャッキーは、リネットに対して、サイモンをリネットが住む屋敷の管理人にしてほしいと頼み込んだ。「私、サイモンと結婚できなければ、死んでしまうわ!(If I don’t marry him, I’ll die!)」と。ジャッキーの懇願に根負けしたリネットは、ジャッキーに対して、「面接をするので、あなたの恋人(サイモン)を私の屋敷に連れて来て。」と答えた。

翌日、ジャッキーは、サイモンを連れて、リネットの屋敷へと向かった。ジャッキーによる紹介を受けて、リネットとサイモンはお互いに見つめ合い、リネットは、その場でサイモンを自分の屋敷の管理人として採用することを決める。


そして、場面は変わり、エルキュール・ポワロは、エジプトで休暇を楽しんでいた。彼が、アスワンで知り合った若い女性のロザリー・オッタボーン(Rosalie Otterbourne)と一緒に、ナイル河沿いを散歩していると、ルクソールから到着した大型汽船から、あるカップルが降りてくる。それは、リネット・リッジウェイとサイモン・ドイルの二人であった。ロザリーによると、二人が最近結婚したことが新聞に出ていた、とのこと。

ポワロは、リネットの目の下のくまと、そして、指の関節が白くなる程に、彼女が日傘を強く握りしめていたことから、彼女が何かに非常に困っているに違いないと感じるのであった。


夕闇が迫るホテルのテラスにおいて、リネットとサイモンが過ごしていると、回転ドアが廻り、ワインカラーのドレスを着た女性がゆっくりとテラスを横切って、リネットの視線の先に座る。それは、サイモンの元婚約者のジャッキーだった。

この出来事にひどく動揺したりネットは、その晩、ポワロに相談を持ちかける。リネットは、ジャッキーが、新婚の彼女とサイモンの二人が行くところ、ずーっとつきまとっているのだ、と言う。彼女によると、新婚旅行先のヴェニスから始まり、ブリンジジ、カイロ、そして、アスワンまで続いているらしい。


ジャッキーによるつきまといから逃れるために、リネットとサイモンの二人は、ある計画を立てた。自分達の周囲の人達には、アスワンにこのまま滞在する予定と話しておいて、実際には、二人は、ナイル河の遊覧に参加することにしたのである。ポワロも、リネットとサイモンの二人が乗る汽船で、ナイル河を遊覧することになった。


ナイル河の遊覧船への乗船を無事済ませ、ホッと安心して船室から出てきたリネットとサイモンの二人であったが、そこに笑い声が聞こえてくる。リネットが驚いて振り返ると、そこには、ジャッキーが立っていた。呆然自失となるリネットと怒りを隠せないサイモンの二人。


ナイル河の遊覧船がアブ・シンベルに到着した晩、船内の緊張が限界まで高まり、ある悲劇が発生するのであった。


(36)9 ♦️「中国の磁器(Chinese Porcelain)」



中国の磁器は、長編ABC 殺人事件(The ABC Murders)」(1935年)において、3番目の被害者となったサー・カーマイケル・クラーク(Sir Carmichael Clarke)が収集していた骨董品の一つである。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第18作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第11作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ABC 殺人事件」のペーパーバック版の表紙


南アフリカから戻ったアーサー・ヘイスティングス大尉は、ロンドンに新しいフラットを構えた友人エルキュール・ポワロの元を訪れた。

そんなポワロの元に、ABC と名乗る謎の人物から、「アンドーヴァー(Andover)を警戒せよ。」と警告する手紙が届いていたのだ。


そして、その手紙通り、「A」で始まるアンドーヴァーにおいて、小さなタバコ屋を切り盛りしていた老女で、イニシャルが「A. A.」のアリス・アッシャー(Alice Asher)が殺害されたのである。その上、彼女の死体の傍らには、「ABC 鉄道案内(ABC Railway Guide)」が置かれていた。

アリス・アッシャーの殺害犯として、大酒飲みで、妻の彼女に度々お金をせびっていた夫のフランツ・アッシャー(Franz Ascher)が、警察によって疑われる。


その最中、ABC と名乗る謎の人物からポワロの元に、第2、そして、第3の犯行を予告する手紙が届く。


第2の殺人事件として、「B」で始まるべクスヒル(Bexhill)において、カフェのウェイトレスとして働いていた若い女性で、イニシャルが「B. B.」のエリザベス(ベティー)・バーナード(Elizabeth (Betty) Barnard)が殺害される。

今度は、ベティー・バーナードの殺害犯として、彼女の婚約者で、不動産関係の仕事をしているドナルド・フレーザー(Donald Fraser)が、警察によって疑われる。何故なら、殺されたベティー・バーナードの場合、異性関係に少々だらしなかったため、彼女の異性関係に着いて、2人の間で、何度も言い争いが起きていたからである。


続いて、第3の殺人事件として、「C」で始まるチャーストン(Churston)において、かつて医師として成功した大富豪で、イニシャルが「C. C.」のサー・カーマイケル・クラークが殺害された。


ベティー・バーナードとサー・カーマイケル・クラークの死体の傍にも、「ABC 鉄道案内」が置かれていたのである。


ポワロは、ABC と名乗る犯人が、住んでいる場所の頭文字とイニシャルが合致する人物を、アルファベット順に選び出した上で、殺害しているものと推測した。

ところが、それぞれの被害者に対して、殺害動機を有する者は存在しているが、全ての被害者に対して、殺害動機を有する人物は居なかった。また、被害者達には、ABC 以外の関連性はなく、ABC と名乗る犯人の正体とその動機については、判らなかった。


ポワロは、以下の事件関係者達を集まると、ABC と名乗る犯人の正体を捕まえるチームを結成するのであった。


*メアリー・ドローワー(Mary Drower)- アリス・アッシャーの姪で、アンドーヴァー近郊の屋敷でメイドとして働いている。

*ドナルド・フレーザー - ベティー・バーナードの婚約者

*メーガン・バーナード(Megan Barnard)- ベティー・バーナードの姉で、ロンドンでタイピストとして働いている。

フランクリン・クラーク(Franklin Clarke)- サー・カーマイケル・クラークの弟で、兄の右腕として、兄が趣味としている骨董品を、世界中から買い集めている。

*ソーラ・グレイ(Thora Grey)- サー・カーマイケル・クラークの秘書


「ABC 殺人事件」は、ミッシングリンクをテーマにしたミステリー作品の中でも、最高峰と評価される作品で、知名度・評価ともに非常に高く、アガサ・クリスティーの代表作の一つとなっている。


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