2024年2月27日火曜日

ピーター・スワンスン作「8つの完璧な殺人」(Rules for Perfect Murders by Peter Swanson) - その3

英国の Faber & Faber Limited から
2020年に刊行されている

ピーター・スワンスン作「8つの完璧な殺人」のペーパーバック版の内扉
(Design by Faber +
Cover image by Kasia Baumann / Getty.Shutterstock)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


クリスマス間近のある日、マサチューセッツ州(Commonwealth of Massachusetts)のボストン(Boston)でミステリー専門書店 Old Devils Bookstore を経営している店主マルコム・カーショー(Malcolm Kershaw)の元を、FBI の女性捜査官(Special Agent)が訪れるところから、物語が始まるが、彼女によると、マルコム・カーショーが、以前、書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人(Eight Perfect Murders)」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件が続いている、と言う。


そのリストに掲載された犯罪小説8作品は、以下の通り。


*アラン・アレクサンダー・ミルン(Alan Alexander Milne:1882年ー1956年)作「赤い館の秘密(The Red House Mystery)」(1922年)

*アントニー・バークリー・コックス(Anthony Berkeley Cox:1893年ー1971年)作「殺意(Malice Aforethought)」(1931年)

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ABC 殺人事件(The A.B.C. Murders)」(1936年)

*ジェイムズ・マラハン・ケイン(James Mallahan Cain:1892年ー1977年)作「殺人保険(Double Indemnity)」(1943年)

*パトリシア・ハイスミス(Patricia Highsmith:1921年ー1995年)作「見知らぬ乗客(Strangers on a Train)」(1950年)

*ジョン・ダン・マクドナルド(John Dann MacDonald:1916年ー1986年)作「溺死者(The Drowner)」(1963年)

*アイラ・レヴィン(Ira Levin:1929年ー2007年)作「死の罠(Deathtrap)」(1978年)

*ドナ・タート(Donna Tartt:1963年ー)作「黙約(The Secret History)」(1992年)


事件や背景の設定については、非常に魅力的ではあるが、実際のところ、マルコム・カーショーが書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件が発生していることが事実として語られるだけで、ベースとなる作品の内容を含めて、ほとんど深掘りされないまま、物語が進んでいくことが残念である。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


前述の通り、事件や背景の設定は、申し分ないのであるが、マルコム・カーショーが書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件に関しては、ベースとなる作品の内容を含めて、ほとんど深掘りされず、彼の過去の話や彼が新たな殺人を単独で調べる話等が主体となっている。

よりハッキリと言えば、「8つの完璧な殺人」にかかる事件や背景の設定は、あくまでも、単なる「設定」に過ぎず、物語の展開とは、密接には関連していないので、読んでいても、あまり面白くは感じられなかった。


(3)マルコム・カーショーの推理について ☆☆半(2.5)


ボストンでミステリー専門書店 Old Devils Bookstore を経営している店主マルコム・カーショーが、本作品の探偵役を務めるものの、物語の中盤から、彼の過去の話がいろいろと出てくるが、それらがあまり良い話ではないので、彼に対して、感情輸入ができなくなる。


また、マルコム・カーショーが書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件を続ける犯人が、マルコム・カーショーに対して、ここまで執着する理由が、よく判らない。確かに、マルコム・カーショーの過去の話の中で、彼と犯人の接点は発生してしているのではあるが。

それに、犯人が「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件を続けるにしても、前半の被害者達は、マルコム・カーショーが直接は知らない人物ばかりで、自分が書いたリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件が続いているとは、彼としては、到底知り得ない。犯人としては、自分が続けている連続殺人事件のことを、マルコム・カーショーに知らせたいと言う欲求がある筈なのに、不思議である。確かに、途中からは、マルコム・カーショーが知っている人物が、やっと被害者にはなるが、それは、FBI の女性捜査官(Special Agent)が彼の元を訪れた以降なので、犯人の意図がよく判らない。


(4)総合評価 ☆☆半(2.5)


本作品「8つの完璧な殺人」は、彼の第6作目に該る推理小説で、日本語翻訳版が、2023年8月に、東京創元社から刊行されている。

なお、本作品は、


*第6位<週刊文春>2023ミステリーベスト10 海外部門

*第8位「このミステリーがすごい!2024年版」海外編

*第8位<ハヤカワ・ミステリマガジン>ミステリが読みたい!2024年版 海外篇

*第9位「2024本格ミステリ・ベスト10」海外篇


に選出された。


英国の小説家で、人権擁護活動家でもあるシヴォーン・ダウド(Siobhan Dowd:1960年ー2007年)が、2006年に作家デビューした後、2007年に発表した第2作目に該るジュヴナイル向けの推理小説「ロンドンアイの謎(The London Eye Mystery → 2024年1月11日 / 1月15日 / 1月19日付ブログで紹介済)」の日本語翻訳版が、2022年7月に、東京創元社から刊行され、


*第3位「2023本格ミステリ・ベスト10」海外篇

*第7位「このミステリーがすごい!2023年版」海外編

*第9位<週刊文春>2022ミステリーベスト10 海外部門


に選出された程ではないものの、本作品も、まあまあ良い評価を得ているが、上記の理由から、個人的には、あまり同意できないので、「☆☆半(2.5)」とした。


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