英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。
(45)Q ♠️「ジェイン・マープル(Jane Marple)」
ミス・ジェイン・マープルは、アガサ・クリスティーが創作した英国人の老嬢で、長編12作と短編20作の計32作品に登場する。
初登場作品は、長編「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage → 2022年10月30日 / 10月31日付ブログで紹介済)」(1930年)で、最終作は、長編「スリーピングマーダー(Sleeping Murder)」(1976年)である。
ただし、厳密に言うと、「火曜(ナイト)クラブ(The Tuesday Night Club)」を皮切りに、1927年12月から雑誌「スケッチ誌」に掲載された短編の方が、ミス・マープルの初登場作品であるが、「牧師館の殺人」に遅れること、2年後の1932年に短編集「The Thirteen Problems(ミス・マープルと13の謎)<米題: The Tuesday Club Murders(火曜クラブ)>」として出版されている。
ミス・ジェイン・マープルシリーズの作品としては、「スリーピングマーダー」がミス・マープル最後の作品ではあるが、「スリーピングマーダー」は1943年に執筆されているので、執筆順で言うと、長編「復讐の女神(Nemesis)」(1971年)が、実質的には、ミス・マープル最後の作品となる。
ミス・ジェイン・マープルシリーズは、エルキュール・ポワロシリーズと並んで、生涯にわたり、アガサ・クリスティーが書き継ぐ代表シリーズとなった。
(46)Q ❤️「石棺(Sacrophagus)」
石棺は、長編「パディントン発4時50分(4.50 from Paddington)」(1957年)において、ミス・ジェイン・マープルの依頼により、ラザフォードホール(Rutherford Hall)に住むクラッケンソープ家(Crackenthorpe family)の家政婦として潜入したルーシー・アイルズバロウ(Lucy Eyelesbarrow)が発見した女性(=エルスペス・マギリカディー夫人(Mrs. Elspeth McGillicuddy)が目撃した女性と同一人物)の死体が隠されていた場所である。
本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第49作目に該り、ミス・ジェイン・マープルシリーズの長編のうち、第7作目に該っている。
米国の場合、「マギリカディー夫人が目撃した殺人(What Mrs McGillicuddy Saw!)」というタイトルで出版されている。
英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ 「パディントン発4時50分」のペーパーバック版の表紙 <イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)> |
ロンドン市内でクリスマス用の買い物を終えたエルスペス・マギリカディー夫人は、セントメアリーミード(St. Mary Mead)に住む友人のミス・ジェイン・マープルに会いに行くために、パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)発午後4時50分の列車に乗った。
彼女が乗った列車は、隣りの線路を同じ方向へ走る列車に並んだ。並走する列車のある車窓のブラインドが上がっており、マギリカディー夫人は、そこに驚くべき瞬間を目撃した。なんと、こちらに背中を向けた男が、金髪の女性の首を絞めている現場だったのである。
すぐさま、マギリカディー夫人は、車掌に対して、今目撃した内容を報告した。
ミス・マープルの家を訪れたマギリカディー夫人は、彼女にも、列車内で目撃した内容を話した。マギリカディー夫人から経緯を聞いたミス・マープルは、彼女の話を信じたが、翌日の朝刊には、それらしき記事が載っていなかった。
ミス・マープルとマギリカディー夫人の2人は、地元の警察を訪ねて、事件の経緯を話したものの、警察による捜査の結果、列車内にも、線路周辺にも、該当する女性の死体は発見されなかった。
上記の結果を受けて、ミス・マープルは、殺人犯は列車内で絞殺した女性の死体を列車から投げ落としたものと考えた。そうすると、ブラックハンプトン駅の手前で線路が大きくカーブしている地点にあるラザフォードホールが、正にその場所だと思われた。ラザフォードホールは、現在、クラッケンソープ家が所有していた。
そこで、ミス・マープルは、旧知の家政婦で、若いベテラン料理人であるルーシー・アイルズバロウに対して、クラッケンソープ家の家政婦として潜入して、マギリカディー夫人が目撃した女性の死体を探すように依頼した。
ミス・マープルの依頼に興味を覚えて、クラッケンソープ家の家政婦として採用されたルーシー・アイルズバロウは、数日後、ラザフォードホールの納屋の中にある石棺内に、マギリカディー夫人が目撃した女性の死体を発見したのである。
(47)Q ♣️「レインコートのベルト(Raincoat Belt)」
レインコートのベルトは、中編「三匹の盲目のねずみ(Three Blind Mice)」(1948年)において、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)近くの名もない下宿で、ライアン夫人と名乗っているモーリン・グレッグが何者かに殺害される際に使用された凶器である。
アガサ・クリスティーファンであれば、御存知の通り、「ねずみとり(The Mousetrap → 2015年10月11日付ブログで紹介済)」(1954年)は、最初から戯曲として書かれた訳ではなく、「愛の探偵たち(Three Blind Mice and Other Stories)」(1950年)と言う短編集に収録されている中編「三匹の盲目のねずみ」を脚色したものである。
より正確に言うと、王太后メアリー・オブ・テックの80歳の誕生日を祝うため、BBCの依頼により、アガサ・クリスティーが1947年にラジオドラマとして執筆したのが、上記の中編のベースとなっている。
小説において、物語は、第一の殺人の場面からいきなり幕を開ける。
場所は、ロンドンのパディントン駅近くの名もない下宿で、ライアン夫人と名乗っているモーリン・グレッグが何者かに殺害される。殺人犯は、お得意の歌として、「三匹の盲目のねずみ(Three Blind Mice / 英国の有名な伝承童謡で、マザーグースの一つ)」を口ずさむ。
そして、物語の舞台は、ロンドンからバークシャー(Berkshire)のハープレーデンという町の近くにあるマンクスウェル館(Monkswell Manor)に移る。
戯曲の「ねずみとり」では、ロンドンでの殺人シーンはなく、マンクスウェル館から物語が始まる。その代わりに、マンクスウェル館のラジオから「ロンドンで殺人事件が発生し、殺人犯が逃走中である。」というニュースが流される。
(ここからの登場人物は、戯曲の「ねずみとり」をベースにしている。)
マンクスウェル館は、モリー(Mollie Ralston)とジャイルズ(Giles Ralston)の若きロールストン夫妻が経営する、小さいがオープンしたてのゲストハウスで、雪が降る中、かねてからの予約客4名が次々に到着する。
(1)若い男性建築家のクリストファー・レン(Christopher Wren)
(2)年輩の女性ボイル夫人(Mrs. Boyle)
(3)中年男性のメトカーフ少佐(Major Metcalf)
(4)若い女性のミス・ケースウェル(Miss Casewell)
雪が尚も激しく降り続く中、(5)外国人風の男性パラヴィチー二氏(Mr. Paravicini)が現れ、玄関をノックする。パラヴィチー二氏は、車がスリップしてしまったと言い、マンクスウェル館に急遽宿泊することになる。
その直後、記録破りの大雪によって、館に続く道も埋まり、マンクスウェル館は外界から完全に孤立してしまう。
翌日の昼食後、雪で閉ざされて孤立したマンクスウェル館に警察から電話連絡が入り、警官を1名差し向けると言う。
その連絡に基づいて、ややロンドン訛の陽気で平凡な若い男性であるトロッキー刑事(Detective Sergeant Trotter)がスキーでマンクスウェル館までやってくるのである。
ロンドンで発生した殺人事件の犯人は、大雪のため、不運にもマンクスウェル館に閉じ込められた滞在客の中に紛れ込んでいるのか?疑惑は段々深まっていく。更に悪いことに、モリーとジャイルズのロールストン夫妻までが、お互いのことを凶悪な殺人犯ではないかと疑い始める。
その緊張状態が極限まで達したかに思えた時、遂に、第二の殺人が発生する。そして、流れる不気味な「三匹の盲目のねずみ」の童謡...
そして、ねずみとりはいきなりガシャンと閉まり、我々の目の前に、驚くべき殺人犯がその姿を現すのである。
(48)Q ♦️「エメラルドが飾られた踊り用の衣装(Emerald-studded Dancing Costume)」
エメラルドが飾られた踊り用の衣装は、短編「教会で死んだ男(Sanctuary)」(1954年)において、ミス・ジェイン・マープルが最後に突き止めるものである。
本作品は、短編集「二重の罪(Double Sin and Other Stories)」(1961年)に収録されている。
英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ 「ミス・マープル最後の事件簿」のペーパーバック版の表紙 <イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)> |
ある日の早朝、牧師の妻である「バンチ(Bunch)」こと、ダイアナ・ハーモン(Diana Harmon)は、チッピングクレグホーン(Chipping Cleghorn)の教会に入って行き、教会内に菊の花を生けようとしたところ、祭壇の前に、見窄らしい身なりをした中年の男が倒れているのを発見する。彼女は、一目見て、男が撃たれていて、瀕死の状態であることが判った。
ダイアナ・ハーモンが男の弱々しい脈を調べていると、その男は、「サンクチュアリ(sanctuary)」と、震えるような囁き声で、そう言い残すと、息を引き取った。
グリフィス医師と村のヘイズ巡査部長が現場に呼ばれて、男の持ち物を調べるが、男の身元も、彼が教会で何をしていたのかも、残念ながら、判明しなかった。
また、静かな村であるチッピング クレグホーンに住む人達も、男が言い残した「サンクチュアリ」の意味を、誰も判らなかった。
まもなく、男の親族を名乗る夫婦が、男の遺体を引き取りにやって来るが、彼らの態度に怪しさを感じたダイアナ・ハーモンは、死んだ男が着ていた背広に縫い込んであった荷札の預かり証のことを話さなかったし、渡しもしなかった。
そこで、ダイアナ・ハーモンは、自分の名付け親であるミス・ジェイン・マープルのところへ、相談に赴くのであった。
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