2024年2月29日木曜日

アラン・アレクサンダー・ミルン作「赤い館の秘密」(The Red House Mystery by Alan Alexander Milne)- その2

英国の Penguin Random House UK 社から
2023年に刊行されている
 
Vintage Classics シリーズの1冊である
アラン・アレクサンダー・ミルン作「赤い館の秘密」の表紙
(Cover illustration by Nick Hayes)


ロンドンのキルバーン(Kilburn)生まれのスコットランド人で、児童文学作家、劇作家、そして、詩人として有名なアラン・アレクサンダー・ミルン(Alan Alexander Milne:1882年ー1956年)作「赤い館の秘密(The Red House Mystery)」(1921年に発表+1922年に単行本化)では、英国のカントリーサイドにある「赤い館(The Red House)」と呼ばれる屋敷において、事件が発生する。


その「赤い館」には、主人のマーク・アブレット(Mark Ablett)と彼の従兄弟であるマシュー・ケイリー(Matthew Cayley)が住んでいた。

マーク・アブレットは、ケンブリッジ(Cambridge)からロンドンに出て来て、事業で成功を収めると、「赤い館」を購入。また、彼は、お金を出して、マシュー・ケイリーをケンブリッジ大学(Cambridge University)を卒業させた後、自分の屋敷の管理を任せていた。マシュー・ケイリーは、現在、28歳であるが、外見は40歳位に老けて見えた。


その日、マーク・アブレットは、屋敷内でハウスパーティーを催しており、マシュー・ケイリーが、いろいろと段取りを進めていた。

マーク・アブレットのゲストは、以下の通り。


(1)キャラダイン夫人(Mrs. Calladine)/ 画家であるジョン・キャラダイン(John Calladine)の未亡人

(2)エリザベス・キャラダイン(Elizabeth Calladine - 愛称:ベティー(Betty))/ キャラダイン夫人の18歳の娘

(3)ラムボルド少佐(Major Rumbold)/ 退役軍人

(4)ルース・ノリス(Miss Ruth Norris)/ 女優

(5)ウィリアム・ベヴァリー(William Beverley - 愛称:ビル(Bill))/ ロンドンから招かれた青年


エリザベス・キャラダイン、ラムボルド少佐、ルース・ノリスとウィリアム・べヴァリーの4人は、今日の午前中、ゴルフをする予定で、キャラダイン夫人も、娘の付き添いで一緒に出かけることになっていた。

午前10時半に、車が彼ら5人を迎えに「赤い館」へ来る手筈が、マシュー・ケイリーによって為されていた。


朝食の席に一番最後にやって来たマーク・アブレットが、紅茶とトーストを手にして、席に座ると、今朝届いた手紙の束を確認していた際、突然、大きな声をあげた。

朝食の席に居た皆が、驚いて、マーク・アブレットの方を見ると、彼は、「自分の兄で、アブレット家の厄介者(the black sheep of the family)であるロバート・アブレット(Robert Ablett)が、15年振りにオーストラリアから英国に戻って来ていて、今日の午後、自分を訪ねて来るんだ。」と言う。


同じ頃、素人探偵(private sleuthhound)のアントニー・ギリンガム(Anthony Gillingham)が、ウッダム駅(Woodham Station)で下車する。彼の友人で、「赤い館」に宿泊しているウィリアム・べヴァリーに会うために、やって来たのである。

アントニー・ギリンガムは、駅近くの宿屋「The Georges」に宿をとり、宿屋の主人から「ここから「赤い館」まで、歩いて約1マイル。」と言う話を聞くと、徒歩で「赤い館」へと向かった。 

2024年2月28日水曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その30

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。

今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(76)ABC 鉄道案内(ABC timetable)


アガサ・クリスティーが座る椅子の右側にある本棚の上から2番目の棚の上に、
「ABC 殺人事件」において、殺害現場に必ず残されている ABC 鉄道案内が置かれている。


本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の右側にある本棚において、上から2番目の棚の左端に、ABC 鉄道案内が置かれている。


これから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1935年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「ABC 殺人事件(The ABC Murders)」である。本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第18作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第11作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ABC 殺人事件」のペーパーバック版の表紙

南アフリカから戻ったアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)は、ロンドンに新しいフラットを構えた友人エルキュール・ポワロの元を訪れた。

そんなポワロの元に、ABC と名乗る謎の人物から、「アンドーヴァー(Andover)を警戒せよ。」と警告する手紙が届いていたのだ。


そして、その手紙通り、「A」で始まるアンドーヴァーにおいて、小さなタバコ屋を切り盛りしていた老女で、イニシャルが「A. A.」のアリス・アッシャー(Alice Asher)が殺害されたのである。その上、彼女の死体の傍らには、「ABC 鉄道案内(ABC Railway Guide)」が置かれていた。

アリス・アッシャーの殺害犯として、大酒飲みで、妻の彼女に度々お金をせびっていた夫のフランツ・アッシャー(Franz Ascher)が、警察によって疑われる。


その最中、ABC と名乗る謎の人物からポワロの元に、第2、そして、第3の犯行を予告する手紙が届く。


第2の殺人事件として、「B」で始まるべクスヒル(Bexhill)において、カフェのウェイトレスとして働いていた若い女性で、イニシャルが「B. B.」のエリザベス(ベティー)・バーナード(Elizabeth (Betty) Barnard)が殺害される。

今度は、ベティー・バーナードの殺害犯として、彼女の婚約者で、不動産関係の仕事をしているドナルド・フレーザー(Donald Fraser)が、警察によって疑われる。何故なら、殺されたベティー・バーナードの場合、異性関係に少々だらしなかったため、彼女の異性関係に着いて、2人の間で、何度も言い争いが起きていたからである。


続いて、第3の殺人事件として、「C」で始まるチャーストン(Churston)において、かつて医師として成功した大富豪で、イニシャルが「C. C.」のサー・カーマイケル・クラーク(Sir Carmichael Clarke)が殺害された。


ベティー・バーナードとサー・カーマイケル・クラークの死体の傍にも、「ABC 鉄道案内」が置かれていたのである。


ポワロは、ABC と名乗る犯人が、住んでいる場所の頭文字とイニシャルが合致する人物をアルファベット順に選び出した上で、殺害しているものと推測した。

ところが、それぞれの被害者に対して、殺害動機を有する者は存在しているが、全ての被害者に対して、殺害動機を有する人物は居なかった。また、被害者達には、ABC 以外の関連性はなく、ABC と名乗る犯人の正体とその動機については、判らなかった。


ポワロは、以下の事件関係者達を集まると、ABC と名乗る犯人の正体を捕まえるチームを結成するのであった。


(1)メアリー・ドローワー(Mary Drower)- アリス・アッシャーの姪で、アンドーヴァー近郊の屋敷でメイドとして働いている。

(2)ドナルド・フレーザー - ベティー・バーナードの婚約者

(3)メーガン・バーナード(Megan Barnard)- ベティー・バーナードの姉で、ロンドンでタイピストとして働いている。

(4)フランクリン・クラーク(Franklin Clarke)- サー・カーマイケル・クラークの弟で、兄の右腕として、兄が趣味としている骨董品を、世界中から買い集めている。

(5)ソーラ・グレイ(Thora Grey)- サー・カーマイケル・クラークの秘書


「ABC 殺人事件」は、ミッシングリンクをテーマにしたミステリー作品の中でも、最高峰と評価される作品で、知名度・評価ともに非常に高く、アガサ・クリスティーの代表作の一つとなっている。


2024年2月27日火曜日

ピーター・スワンスン作「8つの完璧な殺人」(Rules for Perfect Murders by Peter Swanson) - その3

英国の Faber & Faber Limited から
2020年に刊行されている

ピーター・スワンスン作「8つの完璧な殺人」のペーパーバック版の内扉
(Design by Faber +
Cover image by Kasia Baumann / Getty.Shutterstock)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


クリスマス間近のある日、マサチューセッツ州(Commonwealth of Massachusetts)のボストン(Boston)でミステリー専門書店 Old Devils Bookstore を経営している店主マルコム・カーショー(Malcolm Kershaw)の元を、FBI の女性捜査官(Special Agent)が訪れるところから、物語が始まるが、彼女によると、マルコム・カーショーが、以前、書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人(Eight Perfect Murders)」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件が続いている、と言う。


そのリストに掲載された犯罪小説8作品は、以下の通り。


*アラン・アレクサンダー・ミルン(Alan Alexander Milne:1882年ー1956年)作「赤い館の秘密(The Red House Mystery)」(1922年)

*アントニー・バークリー・コックス(Anthony Berkeley Cox:1893年ー1971年)作「殺意(Malice Aforethought)」(1931年)

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ABC 殺人事件(The A.B.C. Murders)」(1936年)

*ジェイムズ・マラハン・ケイン(James Mallahan Cain:1892年ー1977年)作「殺人保険(Double Indemnity)」(1943年)

*パトリシア・ハイスミス(Patricia Highsmith:1921年ー1995年)作「見知らぬ乗客(Strangers on a Train)」(1950年)

*ジョン・ダン・マクドナルド(John Dann MacDonald:1916年ー1986年)作「溺死者(The Drowner)」(1963年)

*アイラ・レヴィン(Ira Levin:1929年ー2007年)作「死の罠(Deathtrap)」(1978年)

*ドナ・タート(Donna Tartt:1963年ー)作「黙約(The Secret History)」(1992年)


事件や背景の設定については、非常に魅力的ではあるが、実際のところ、マルコム・カーショーが書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件が発生していることが事実として語られるだけで、ベースとなる作品の内容を含めて、ほとんど深掘りされないまま、物語が進んでいくことが残念である。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


前述の通り、事件や背景の設定は、申し分ないのであるが、マルコム・カーショーが書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件に関しては、ベースとなる作品の内容を含めて、ほとんど深掘りされず、彼の過去の話や彼が新たな殺人を単独で調べる話等が主体となっている。

よりハッキリと言えば、「8つの完璧な殺人」にかかる事件や背景の設定は、あくまでも、単なる「設定」に過ぎず、物語の展開とは、密接には関連していないので、読んでいても、あまり面白くは感じられなかった。


(3)マルコム・カーショーの推理について ☆☆半(2.5)


ボストンでミステリー専門書店 Old Devils Bookstore を経営している店主マルコム・カーショーが、本作品の探偵役を務めるものの、物語の中盤から、彼の過去の話がいろいろと出てくるが、それらがあまり良い話ではないので、彼に対して、感情輸入ができなくなる。


また、マルコム・カーショーが書店のブログに掲載した「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件を続ける犯人が、マルコム・カーショーに対して、ここまで執着する理由が、よく判らない。確かに、マルコム・カーショーの過去の話の中で、彼と犯人の接点は発生してしているのではあるが。

それに、犯人が「8つの完璧な殺人」のリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件を続けるにしても、前半の被害者達は、マルコム・カーショーが直接は知らない人物ばかりで、自分が書いたリストに含まれている作品の手口に似た殺人事件が続いているとは、彼としては、到底知り得ない。犯人としては、自分が続けている連続殺人事件のことを、マルコム・カーショーに知らせたいと言う欲求がある筈なのに、不思議である。確かに、途中からは、マルコム・カーショーが知っている人物が、やっと被害者にはなるが、それは、FBI の女性捜査官(Special Agent)が彼の元を訪れた以降なので、犯人の意図がよく判らない。


(4)総合評価 ☆☆半(2.5)


本作品「8つの完璧な殺人」は、彼の第6作目に該る推理小説で、日本語翻訳版が、2023年8月に、東京創元社から刊行されている。

なお、本作品は、


*第6位<週刊文春>2023ミステリーベスト10 海外部門

*第8位「このミステリーがすごい!2024年版」海外編

*第8位<ハヤカワ・ミステリマガジン>ミステリが読みたい!2024年版 海外篇

*第9位「2024本格ミステリ・ベスト10」海外篇


に選出された。


英国の小説家で、人権擁護活動家でもあるシヴォーン・ダウド(Siobhan Dowd:1960年ー2007年)が、2006年に作家デビューした後、2007年に発表した第2作目に該るジュヴナイル向けの推理小説「ロンドンアイの謎(The London Eye Mystery → 2024年1月11日 / 1月15日 / 1月19日付ブログで紹介済)」の日本語翻訳版が、2022年7月に、東京創元社から刊行され、


*第3位「2023本格ミステリ・ベスト10」海外篇

*第7位「このミステリーがすごい!2023年版」海外編

*第9位<週刊文春>2022ミステリーベスト10 海外部門


に選出された程ではないものの、本作品も、まあまあ良い評価を得ているが、上記の理由から、個人的には、あまり同意できないので、「☆☆半(2.5)」とした。


2024年2月26日月曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その13

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。


(45)Q ♠️「ジェイン・マープル(Jane Marple)」



ミス・ジェイン・マープルは、アガサ・クリスティーが創作した英国人の老嬢で、長編12作と短編20作の計32作品に登場する。

初登場作品は、長編「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage → 2022年10月30日 / 10月31日付ブログで紹介済)」(1930年)で、最終作は、長編「スリーピングマーダー(Sleeping Murder)」(1976年)である。


ただし、厳密に言うと、「火曜(ナイト)クラブ(The Tuesday Night Club)」を皮切りに、1927年12月から雑誌「スケッチ誌」に掲載された短編の方が、ミス・マープルの初登場作品であるが、「牧師館の殺人」に遅れること、2年後の1932年に短編集「The Thirteen Problems(ミス・マープルと13の謎)<米題: The Tuesday Club Murders(火曜クラブ)>」として出版されている。


ミス・ジェイン・マープルシリーズの作品としては、「スリーピングマーダー」がミス・マープル最後の作品ではあるが、「スリーピングマーダー」は1943年に執筆されているので、執筆順で言うと、長編「復讐の女神(Nemesis)」(1971年)が、実質的には、ミス・マープル最後の作品となる。


ミス・ジェイン・マープルシリーズは、エルキュール・ポワロシリーズと並んで、生涯にわたり、アガサ・クリスティーが書き継ぐ代表シリーズとなった。


(46)Q ❤️「石棺(Sacrophagus)



石棺は、長編「パディントン発4時50分(4.50 from Paddington)」(1957年)において、ミス・ジェイン・マープルの依頼により、ラザフォードホール(Rutherford Hall)に住むクラッケンソープ家(Crackenthorpe family)の家政婦として潜入したルーシー・アイルズバロウ(Lucy Eyelesbarrow)が発見した女性(=エルスペス・マギリカディー夫人(Mrs. Elspeth McGillicuddy)が目撃した女性と同一人物)の死体が隠されていた場所である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第49作目に該り、ミス・ジェイン・マープルシリーズの長編のうち、第7作目に該っている。

米国の場合、「マギリカディー夫人が目撃した殺人(What Mrs McGillicuddy Saw!)」というタイトルで出版されている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ
「パディントン発4時50分」のペーパーバック版の表紙

<イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)>

ロンドン市内でクリスマス用の買い物を終えたエルスペス・マギリカディー夫人は、セントメアリーミード(St. Mary Mead)に住む友人のミス・ジェイン・マープルに会いに行くために、パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)発午後4時50分の列車に乗った。

彼女が乗った列車は、隣りの線路を同じ方向へ走る列車に並んだ。並走する列車のある車窓のブラインドが上がっており、マギリカディー夫人は、そこに驚くべき瞬間を目撃した。なんと、こちらに背中を向けた男が、金髪の女性の首を絞めている現場だったのである。

すぐさま、マギリカディー夫人は、車掌に対して、今目撃した内容を報告した。


ミス・マープルの家を訪れたマギリカディー夫人は、彼女にも、列車内で目撃した内容を話した。マギリカディー夫人から経緯を聞いたミス・マープルは、彼女の話を信じたが、翌日の朝刊には、それらしき記事が載っていなかった。

ミス・マープルとマギリカディー夫人の2人は、地元の警察を訪ねて、事件の経緯を話したものの、警察による捜査の結果、列車内にも、線路周辺にも、該当する女性の死体は発見されなかった。


上記の結果を受けて、ミス・マープルは、殺人犯は列車内で絞殺した女性の死体を列車から投げ落としたものと考えた。そうすると、ブラックハンプトン駅の手前で線路が大きくカーブしている地点にあるラザフォードホールが、正にその場所だと思われた。ラザフォードホールは、現在、クラッケンソープ家が所有していた。


そこで、ミス・マープルは、旧知の家政婦で、若いベテラン料理人であるルーシー・アイルズバロウに対して、クラッケンソープ家の家政婦として潜入して、マギリカディー夫人が目撃した女性の死体を探すように依頼した。

ミス・マープルの依頼に興味を覚えて、クラッケンソープ家の家政婦として採用されたルーシー・アイルズバロウは、数日後、ラザフォードホールの納屋の中にある石棺内に、マギリカディー夫人が目撃した女性の死体を発見したのである。


(47)Q ♣️「レインコートのベルト(Raincoat Belt)」



レインコートのベルトは、中編「三匹の盲目のねずみ(Three Blind Mice)」(1948年)において、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)近くの名もない下宿で、ライアン夫人と名乗っているモーリン・グレッグが何者かに殺害される際に使用された凶器である。


アガサ・クリスティーファンであれば、御存知の通り、「ねずみとり(The Mousetrap → 2015年10月11日付ブログで紹介済)」(1954年)は、最初から戯曲として書かれた訳ではなく、「愛の探偵たち(Three Blind Mice and Other Stories)」(1950年)と言う短編集に収録されている中編「三匹の盲目のねずみ」を脚色したものである。

より正確に言うと、王太后メアリー・オブ・テックの80歳の誕生日を祝うため、BBCの依頼により、アガサ・クリスティーが1947年にラジオドラマとして執筆したのが、上記の中編のベースとなっている。


アガサ・クリスティーの戯曲「ねずみとり」は、
1952年11月25日に
ロンドン・ウェストエンドの
アンバサダーズ劇場(Ambassador's Theatre →
2015年9月27日付ブログで紹介済)で初演された後、
1974年3月25日にアンバサダーズ劇場から
隣りのセントマーティンズ劇場(St, Martin's Theatre →
2014年8月10日 / 2015年10月4日付ブログで紹介済)に
上演の舞台が移り、
最長不倒のロングラン上演を続けており、
2022年には上演70周年を迎えた。

小説において、物語は、第一の殺人の場面からいきなり幕を開ける。

場所は、ロンドンのパディントン駅近くの名もない下宿で、ライアン夫人と名乗っているモーリン・グレッグが何者かに殺害される。殺人犯は、お得意の歌として、「三匹の盲目のねずみ(Three Blind Mice / 英国の有名な伝承童謡で、マザーグースの一つ)」を口ずさむ。

そして、物語の舞台は、ロンドンからバークシャー(Berkshire)のハープレーデンという町の近くにあるマンクスウェル館(Monkswell Manor)に移る。

戯曲の「ねずみとり」では、ロンドンでの殺人シーンはなく、マンクスウェル館から物語が始まる。その代わりに、マンクスウェル館のラジオから「ロンドンで殺人事件が発生し、殺人犯が逃走中である。」というニュースが流される。


(ここからの登場人物は、戯曲の「ねずみとり」をベースにしている。)

マンクスウェル館は、モリー(Mollie Ralston)とジャイルズ(Giles Ralston)の若きロールストン夫妻が経営する、小さいがオープンしたてのゲストハウスで、雪が降る中、かねてからの予約客4名が次々に到着する。


(1)若い男性建築家のクリストファー・レン(Christopher Wren)

(2)年輩の女性ボイル夫人(Mrs. Boyle)

(3)中年男性のメトカーフ少佐(Major Metcalf)

(4)若い女性のミス・ケースウェル(Miss Casewell)


雪が尚も激しく降り続く中、(5)外国人風の男性パラヴィチー二氏(Mr. Paravicini)が現れ、玄関をノックする。パラヴィチー二氏は、車がスリップしてしまったと言い、マンクスウェル館に急遽宿泊することになる。

その直後、記録破りの大雪によって、館に続く道も埋まり、マンクスウェル館は外界から完全に孤立してしまう。


翌日の昼食後、雪で閉ざされて孤立したマンクスウェル館に警察から電話連絡が入り、警官を1名差し向けると言う。

その連絡に基づいて、ややロンドン訛の陽気で平凡な若い男性であるトロッキー刑事(Detective Sergeant Trotter)がスキーでマンクスウェル館までやってくるのである。


ロンドンで発生した殺人事件の犯人は、大雪のため、不運にもマンクスウェル館に閉じ込められた滞在客の中に紛れ込んでいるのか?疑惑は段々深まっていく。更に悪いことに、モリーとジャイルズのロールストン夫妻までが、お互いのことを凶悪な殺人犯ではないかと疑い始める。

その緊張状態が極限まで達したかに思えた時、遂に、第二の殺人が発生する。そして、流れる不気味な「三匹の盲目のねずみ」の童謡...

そして、ねずみとりはいきなりガシャンと閉まり、我々の目の前に、驚くべき殺人犯がその姿を現すのである。


(48)Q ♦️「エメラルドが飾られた踊り用の衣装(Emerald-studded Dancing Costume)」



エメラルドが飾られた踊り用の衣装は、短編「教会で死んだ男(Sanctuary)」(1954年)において、ミス・ジェイン・マープルが最後に突き止めるものである。


本作品は、短編集「二重の罪(Double Sin and Other Stories)」(1961年)に収録されている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ
「ミス・マープル最後の事件簿」のペーパーバック版の表紙

<イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)>

ある日の早朝、牧師の妻である「バンチ(Bunch)」こと、ダイアナ・ハーモン(Diana Harmon)は、チッピングクレグホーン(Chipping Cleghorn)の教会に入って行き、教会内に菊の花を生けようとしたところ、祭壇の前に、見窄らしい身なりをした中年の男が倒れているのを発見する。彼女は、一目見て、男が撃たれていて、瀕死の状態であることが判った。

ダイアナ・ハーモンが男の弱々しい脈を調べていると、その男は、「サンクチュアリ(sanctuary)」と、震えるような囁き声で、そう言い残すと、息を引き取った。


グリフィス医師と村のヘイズ巡査部長が現場に呼ばれて、男の持ち物を調べるが、男の身元も、彼が教会で何をしていたのかも、残念ながら、判明しなかった。

また、静かな村であるチッピング クレグホーンに住む人達も、男が言い残した「サンクチュアリ」の意味を、誰も判らなかった。


まもなく、男の親族を名乗る夫婦が、男の遺体を引き取りにやって来るが、彼らの態度に怪しさを感じたダイアナ・ハーモンは、死んだ男が着ていた背広に縫い込んであった荷札の預かり証のことを話さなかったし、渡しもしなかった。


そこで、ダイアナ・ハーモンは、自分の名付け親であるミス・ジェイン・マープルのところへ、相談に赴くのであった。


2024年2月25日日曜日

アラン・アレクサンダー・ミルン作「赤い館の秘密」(The Red House Mystery by Alan Alexander Milne)- その1

英国の Penguin Random House UK 社から
2023年に刊行されている
 
Vintage Classics シリーズの1冊である
アラン・アレクサンダー・ミルン作「赤い館の秘密」の表紙
(Cover illustration by Nick Hayes)


米国の小説家であるピーター・スワンスン(Peter Swanson:1968年ー)が2020年に発表した「8つの完璧な殺人(Rules for Perfect Murders → 2024年xx日 / xx日 / xx日付ブログで紹介済)」において、マサチューセッツ州(Commonwealth of Massachusetts)のボストン(Boston)でミステリー専門書店 Old Devils Bookstore を経営している店主マルコム・カーショー(Malcolm Kershaw)が、当時の店主であるジョン・ヘイリー(John Haley)に言われて、店のブログを開設した時に、最初の記事として、彼は、「完璧な殺人」が出てくる犯罪小説8作品を選んで、店のブログにリストを掲載した。


そのリストに掲載された犯罪小説8作品には、アラン・アレクサンダー・ミルン(Alan Alexander Milne:1882年ー1956年)作「赤い館の秘密(The Red House Mystery)」(1922年)が含まれている。


「赤い館の秘密」(1921年に発表+1922年に単行本化)を執筆したアラン・アレクサンダー・ミルンは、ロンドンのキルバーン(Kilburn)生まれのスコットランド人で、児童文学作家、劇作家、そして、詩人として有名である。


彼の代表作は、以下の「クマのプーさん」シリーズで、これらは、彼の一人息子であるクリストファー・ロビン・ミルン(Christopher Robin Milne:1920年ー1996年)のために書かれたものである。


(1)「クマのプーさん(Winnie-the-Pooh)」(1926年)

(2)「プー横丁の家(The House at Pooh Corner)」(1928年)

(3)詩集「クリストファー・ロビンのうた(When We Were Very Young)」(1924年)

(4)詩集「クマのプーさんとぼく(Now We Are Six)」(1927年)


なお、上記のシリーズ作品には、挿絵画家のアーネスト・ハワード・シェパード(Ernest Howard Shepard:1879年ー1976年)がイラストを添えており、これらのイラストを含め、今日でも世界中で愛されている。


A.A.ミルンは、若かりし頃、アマチュアのクリケットチームでプレイしており、スコットランド人つながりで、同じチームには、シャーロック・ホームズシリーズ作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-193年)とピーターパン(Peter Pan)の生みの親で、児童文学作家で劇作家のサー・ジェイムズ・マシュー・バリー(Sir James Matthew Barrie:1860年ー1937年)も在籍していた。


2024年2月24日土曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その29

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。


今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(75)毒入りのシャンペングラス(poisoned champagne glass)



本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の右側にある本棚において、上から2番目の棚の右端に、シャンペングラスが置かれている。


これから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1945年に発表した「忘れられぬ死(Sparkling Cyanide)」である。本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第36作目に該っている。

本作品は、米国において、「Remembered Death」と言う題名で出版されたが、英国で出版される際に、「Sparkling Cyanide」に改題された。


6人の人物が、1年前に亡くなったローズマリー・バートン(Rosemary Barton)のことを考えていた。

ローズマリー・バートンは、ロンドンにある高級レストラン「ルクセンブルク(Luxembourg)」において開催された彼女の誕生日パーティーの席上、青酸カリが入ったシャンペンを飲んで、死亡したのだった。


*ローズマリー・バートンは、数日前から罹患していたインフルエンザの後、鬱状態だったこと

*ローズマリー・バートン以外の人物が、彼女のシャンペンに青酸カリを混入することは不可能だったこと

*ローズマリー・バートンが持っていたバッグの中から、青酸カリを包んでいた紙が発見されたこと


等から、当時、彼女の死は自殺として処理された。


ところが、ローズマリー・バートンの誕生日パーティーに同席していた以下の6人には、彼女の死を望む動機があったのである。


(1)アイリス・マール(Iris Marle):ローズマリー・バートンの妹(6歳年下で、当時17歳)/ 彼女が21歳になった場合、あるいは、結婚した場合、ローズマリー・バートンの遺産を全て受け継ぐことになっていた。

(2)ジョージ・バートン(George Barton):ローズマリー・バートンの夫(彼女よりも15歳年上) / ローズマリー・バートンが別の男性に宛てた手紙を見つけて、彼女との離婚を考えていた。

(3)アンソニー・ブラウン(Anthony Brown):本名は、トニー・モレリ(Tony Morelli)/ 以前、刑務所に入っていたことを、ローズマリー・バートンに知られてしまった。現在、アイリス・マールと交際しているが、彼女に惹かれる前に、一時、ローズマリー・バートンと関係があった。

(4)スティーヴン・ファラデー(Stephen Farraday):下院議員 / 一時、ローズマリー・バートンと不倫関係にあった。彼女がそれを公にすることで、自分の経歴と結婚に大きな傷がつくことを懸念していた。

(5)アレクサンドラ・ファラデー(Alexandra Farraday):英国で最も勢力があるキダミンスター一族の出身で、スティーヴン・ファラデーの妻 / 夫とローズマリー・バートンの不倫関係を知っており、夫が自分を捨てて、ローズマリー・バートンの元へ走るのではないかと懸念していた。

(6)ルース・レシング(Ruth Lessing):ジョージ・バートンの秘書 / 「ローズマリー・バートンが居なければ、ジョージ・バートンは自分と結婚した筈だ。」と、ルシーラ・ドレイク(Lucilla Drake - ロースマリーとアイリスの伯母)のろくでなしの息子であるヴィクター・ドレイク(Victor Drake)から吹き込まれて、彼女を非常に憎んでいた。


ローズマリー・バートンの死から1年後、ジョージ・バートンは、彼女が亡くなった時と同じメンバーを招待して、アイリス・マールの18歳の誕生日パーティーを催す計画を立てた。

6ヶ月前に、「ローズマリー・バートンは殺された。」と言う手紙を受け取っていたジョージ・バートンは、元陸軍情報部員で、現在は、英国政府の情報機関に勤務する友人のジョン・レイス大佐(Colonel John Race)に対して、「アイリス・マールの18歳の誕生日パーティーを名目にして、犯人に罠を掛けるつもりだ。」と打ち明けた。ジョージ・バートンは、ジョン・レイス大佐に同席を依頼するが、「無鉄砲な計画は止めるんだ。」と忠告される。


英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、2023年に発行された

アガサ・クリスティーをテーマにしたトランプのうち、

「4 ♠️「ジョン・レイス大佐を抜粋。

しかし、ジョージ・バートンは、ジョン・レイス大佐の忠告を聞かず、当初の予定通り、1年前と同じく、高級レストラン「ルクセンブルク」において、アイリス・マールの18歳の誕生日パーティーが開催された。

アイリス・マールのために乾杯した後、6人全員がテーブルを離れると、ダンスへと向かった。ダンスから戻った6人が、テーブルからグラスを取り、ローズマリー・バートンのために乾杯した直後、ジョージ・バートンが急死してしまう。青酸カリによる中毒死だった。

しかし、警察による捜査の結果、最初の乾杯の後、ジョージ・バートンが飲んだグラスに青酸カリを入れる機会が、誰にもなかったことが判明するばかりであった。


友人のジョージ・バートンを亡くしたジョン・レイス大佐は、捜査担当者であるスコットランドヤードのケンプ主任警部(Chief Inspector Kemp)に協力して、ローズマリー・バートンとジョージ・バートンの毒殺事件の解明に取り組む。


本作「忘れられぬ死」は、エルキュール・ポワロ シリーズの短編「黄色いアイリス(Yellow Iris)」(1937年)を長編化した作品である。忘れられぬ死」は、毒殺方法を含めて、基本的に、「黄色いアイリス」と同じ流れであるものの、探偵役や犯人が異なっている。


本作「忘れられぬ死」において、探偵役を務めるジョン・レイス大佐は、


*「茶色の服を着た男(The Man in the Brown Suit)」(1925年)

*「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)- エルキュール・ポワロ シリーズ

*「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)- エルキュール・ポワロ シリーズ


に登場するが、本作「忘られぬ死」は、彼が登場する最後の作品となる。


2024年2月23日金曜日

シャーロック・ホームズのトランプ(Sherlock Holmes - Playing Cards)- その15

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、一昨年(2022年)に発行されたシャーロック・ホームズをテーマにしたトランプの各カードについて、前回に引き続き、紹介したい。今回が最終分です。


(53)ジョーカー 「サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle)」



サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(1859年ー1930年)は、英国の作家 / 医師 / 政治活動家で、シャーロック・ホームズシリーズの作者である。


<長編>

*「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済」- ホームズシリーズの記念すべき第1作目で、英国では、「ビートンのクリスマス年鑑(Beeton’s Christmas Annual)」(1887年11月)に掲載された後、単行本化。

*「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)」- 「リピンコット・マンスリー・マガジン(Lippincott’s Monthly Magazine)」の1890年2月号に掲載された後、単行本化。

*「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」- 「ストランドマガジン」1901年8月号から1902年4月号にかけて連載された後、単行本化。

*「恐怖の谷(The Valley of Fear)」-「ストランドマガジン」1914年9月号から1915年5月号にかけて連載された後、単行本化。

<短編集>

*「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)

*「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)

*「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」(1905年)

*「シャーロック・ホームズ最後の挨拶(His Last Bow)」(1917年)

*「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」(1927年)


(54)ジョーカー 「シドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget)」



シドニー・エドワード・パジェット(1860年ー1908年)は、シャーロック・ホームズシリーズのうち、以下の作品について、挿絵を担当している。


<長編>

*「バスカヴィル家の犬」

<短編集>

*「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)

*「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)

*「シャーロック・ホームズの帰還」(1905年)


<シドニー・エドワード・パジェットが描いた最初の挿絵>

英国で出版された「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」
1891年7月号「ボヘミアの醜聞に掲載された挿絵 -

結婚して、開業医に戻ったジョン・H・ワトスンは、
1888年3月20日の夜、
往診の帰り道、久し振りに
ベイカーストリート221B(221B Baker Street →
2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の
シャーロック・ホームズの元を訪ねた。
画面左側の人物がワトスンで、画面右側の人物はホームズ。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(1860年 - 1908年)


<シドニー・エドワード・パジェットが描いた一番有名と思われる挿絵>

英国で出版された「ストランドマガジン」
1902年4月号に掲載された挿絵 -
第14章「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」
サー・ヘンリー・バスカヴィル(Sir Henry Baskervilles)に対して
襲い掛かる黒い魔犬の脇腹に向けて、
シャーロック・ホームズは、回転式連発拳銃から、
立て続けに、5発の銃弾を撃ち込んだ。
(Holmes had emputied five barrels of his revolver into the creature's flank.)
画面左側から、ジョン・H・ワトスン、
ホームズ、サー・ヘンリー・バスカヴィル、
そして、伝説の黒い魔犬。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年ー1908年)


キャラバッシュ型パイプ(Curved Pipe → 2024年1月x日付ブログで紹介済)と合わせて、鹿撃帽(Deerstalker → 2024年1月x日付ブログで紹介済)も、シャーロック・ホームズのトレードマークとなっているが、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイルの原作上、鹿撃帽のことに関しては、言及されていない。

ホームズに鹿撃帽を冠らせたのは、挿絵画家のシドニー・エドワード・パジェットによる発案で、鹿撃帽を冠ったホームズが初登場するのは、短編4作目の「ボスコム谷の謎(The Boscombe Valley Mystery)」である。

英国で出版された「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」
1891年10月号「ボスコム谷の謎」に掲載された挿絵 -
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人は、事件捜査のため、
パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)から
イングランド西部(West of England)のボスコム谷(Boscombe Valley)へと向かう。
画面左側の人物がワトスンで、画面右側の人物がホームズ。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)


2024年2月22日木曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その12

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。

(41)J ♠️「パーカー・パイン(Parker Pyne)」



パーカー・パインは、禿頭で度の強い眼鏡をかけた中年の男性で、以前は、某官庁において統計の仕事に就いていたが、退職した後、リッチモンドストリート(Richmond Street)に人生相談所を開設する。そして、「あなたは、幸せですか?そうでなければ、リッチモンドストリート17番地のパーカー・パインに御相談下さい。(Are you happy? If not, consult Mr Parker Pyne, 17 Richmond Street.)」と言う新聞広告を掲載して、依頼人を待っている。


人間を類型的に分類した上で、その傾向に基づいて、犯人や犯行を予測する推理手法を採る。依頼人の話を聞いただけで、事件の全体像を把握できるため、安楽椅子探偵に近いが、実際に事件を解決する手段として、人生相談所の事務員達を使っている。


登場作品

<短編>

*「パーカー・パイン登場(Parker Pyne Investigates)」(1934年)

 ・「中年夫人の事件(The Case of the Middle-Aged Wife)」

 ・「不満な軍人の事件(The Case of the Discontented Soldier)」

 ・「困った婦人の事件(The Case of the Distresses Lady)」

 ・「不満な夫の事件(The Case of the Discontented Husband)」

 ・「サラリーマンの事件(The Case of the City Clerk)」

 ・「大金持ちの婦人の事件(The Case of the Rich Woman)」

 ・「あなたは欲しいものを全て手に入れましたか?(Have You Got Everything You Want?)」

 ・「バグダッドの門(At the Gate of Baghdad)」

 ・「シラーズの家(The House at Shiraz)」

 ・「高価な真珠(The Pearl of Price)」

 ・「ナイル河の死(Death on the Nile)」

   ・「デルファイの神託(The Oracle at Delphi)」

*「黄色いアイリス(The Regatta Mystery)」(1939年)

 ・「レガッタデーの事件(The Regatta Mystery)」

 ・「ポレンサ海岸の事件(Problem at Pollensa Bay)」


(42)J ❤️「機密書類(Secret Papers)



機密書類は、長編「秘密機関(The Secret Adversary)」(1922年)において、ドイツ軍の潜水艦が放った魚雷によって沈没した「ルシタニア号(Lusitania)」に乗船していた米国の諜報員が英国へと運ぶ任務を負っていた連合国側の運命を左右する非常に重要な書類である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第2作目に該り、トミー(Tommy)とタペンス(Tuppence)シリーズの長編のうち、第1作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作トミーとタペンスシリーズ
「秘密機関」のペーパーバック版の表紙

<Cover design : HarperCollinsPublishers /
Agatha Christie Ltd 2015>

1915年5月7日の午後2時、「ルシタニア号」は、ドイツ軍の潜水艦が放った魚雷2発を受けて、急速に沈没へと向かっていた。

女性子供優先で、救命ボートに乗り込むのを待つ集団の中に、18歳の娘が居た。

ある男性(米国の諜報員)が彼女に近寄り、彼女が米国国民であることを確認すると、彼女に対して、「自分は、この戦争において、連合国側の運命を左右する非常に重要な機密書類を携えて、英国へと向かっている。自分に代わって、貴方にこれを持って行ってもらいたい。」と依頼した。その男性は、更に、「自分が生き延びることができた場合、タイムズ紙の個人広告欄で連絡をする。もし、タイムズ紙に広告が掲載されなかった場合には、貴方自身が、ロンドンにある米国大使館へと直接持参してほしい。」と説明する。

男性から機密書類を受け取った娘は、悲鳴と騒音が渦巻く中、救命ボートへと乗り込んで行く。彼女の名前は、ジェーン・フイン(Jane Finn)と言った。


物語の舞台は、英国のロンドンへと移る。

友人の間で「タペンス」と言う愛称で通っているプルーデンス・カウリー(Prudence Cowley)が、昔馴染みのトマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー)に、5年ぶりに再会した。

トミーは、大戦中に負傷して、除隊。一方、タペンスは、大戦中、ボランティアとして、ずーっと働いていたが、現在、2人共、戦後の就職難に悩まされていたのであった。


(43)J ♣️「毒入りチョコレート(Poisoned Chocolates)」



毒入りチョコレートは、長編「エンドハウスの怪事件(Peril at End House)」(1932年)、長編「三幕の悲劇(Three Act Tragedy)」(1934年)、長編「バートラムホテルにて(At Bertram’s Hotel)」(1965年)や短編「チョコレートの箱(The Chocolate Box)」(1923年)において、使用されている。


エンドハウスの怪事件は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第12作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第6作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「エンドハウスの怪事件」のペーパーバック版の表紙

三幕の悲劇は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第16作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第9作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「三幕の悲劇」のペーパーバック版の表紙

バートラムホテルにては、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第56作目に該り、ミス・ジェイン・マープルシリーズの長編のうち、第10作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ
「バートラムホテルにて」のペーパーバック版の表紙

<イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)>

「チョコレートの箱」は、短編集「ポワロ初期の事件(Poirot’s Early Cases)」(1974年)に収録されている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ポワロ初期の事件」のペーパーバック版の表紙

(44)J ♦️「カットしていないダイヤモンド(Uncut Diamonds)」



カットしていないダイヤモンドは、長編「ポワロのクリスマス(Hercule Poirot’s Christmas)」(1938年)において、若い頃、南アフリカにおいて、ダイヤモンドを採掘して、ひと財産を築いた老富豪のシメオン・リー(Simeon Lee)が、未だに収集していたものである。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第24作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第17作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ポワロのクリスマス」のペーパーバック版の表紙

アドルスフィールドのロングデイルに所在するゴーストン館に住む老富豪のシメオン・リーは、若い頃、南アフリカにおいて、ダイヤモンドを採掘して、ひと財産を築いていた。彼は、冷酷で、横暴な性格で、若い頃の残酷な仕打ちと絶え間ない女遊びのために、彼の妻は、心身を傷付けられて、既に亡くなっていた。


クリスマスが間近に迫る中、シメオン・リーは、クリスマスのイヴェントとして、ある計画を思い付いた。それは、方々に住んでいる家族をゴーストン館に呼び、集められた彼らをどれだけ動揺させることができるかを見て楽しむことだった。

シメオン・リーの計画を聞き、父親と同居している長男のアルフレッド・リー(Alfred Lee)と妻のリディア・リー(Lydia Lee)は、困惑の表情を浮かべるしかなかった。


シメオン・リーによる招集に基づき、彼の家族がゴーストン館に呼び集められる。


*ジョージ・リー(Georege Lee - アルフレッドの弟で、下院議員)

*マグダリーン・リー(Magdalene Lee - ジョージの妻)

*ディヴィッド・リー(David Lee - アルフレッドの弟で、画家)

*ヒルダ・リー(Hilda Lee - ディヴィッドの妻)

*ハリー・リー(Harry Lee - アルフレッドの弟で、放蕩息子 / 父シメオンのお金を着服して、行方を晦ますものの、その後も不始末を起こしては、シメオンにお金をせびっていた)

*ピラール・エストラヴァドス(Pilar Estravados - シメオンの孫娘であるが、彼も一度も会ったことがない)


上記の面々に加えて、シメオン・リーの旧友の息子であるスティーヴン・ファー(Stephen Farr)もゴーストン館を訪れ、屋敷に滞在することとなった。


不仲なアルフレッドとハリーは啀み合い、ジョージは、議員活動と妻の浪費のため、多大な資金を必要としており、そして、不遇のうちに亡くなった母親を慕うディヴィッドは、父シメオンに対して、長年の恨みを募らせる等、再会した彼らにとって、クリスマスと言う雰囲気はなく、正にシメオンの計画通りだった。

更に、シメオンは、彼らの感情を逆撫でるように、弁護士に電話をすると、クリスマスが終わった後、遺言書の内容を書き換えると伝えたため、屋敷内には、不穏な空気が満ち満ちたのである。


皆が恐れていた通り、クリスマスイヴの夜に、事件は起きた。

シメオンの部屋から、凄まじい絶叫と家具が倒れる音が聞こえてきたので、屋敷内の皆が、施錠されたドアを壊して、シメオンの部屋の中に入ったところ、そこには、引っくり返った家具と、その横にシメオンの血塗れの死体が倒れていた。


屋敷内の皆が警察を呼ぼうとしたところ、なんと、地元警察のサグデン警視(Superintendent Sugden)が、既に屋敷の玄関口に居たのである。

サグデン警視によると、シメオン・リーから、「金庫から、ダイヤモンドの原石が大量に盗まれた。」と聞き付けたため、ゴーストン館を訪れた、とのこと。


クリスマスを過ごすために、ミドルシャー州の警察部長(Chief Constable)であるジョンスン大佐(Colonel Johnson)の家を訪れていたエルキュール・ポワロは、サグデン警視による事件捜査に協力することになった。


本作品「ポワロのクリスマスは、アガサ・クリスティーの長編作品の中で、密室殺人を取り扱った唯一のものである。