英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。
(41)J ♠️「パーカー・パイン(Parker Pyne)」
パーカー・パインは、禿頭で度の強い眼鏡をかけた中年の男性で、以前は、某官庁において統計の仕事に就いていたが、退職した後、リッチモンドストリート(Richmond Street)に人生相談所を開設する。そして、「あなたは、幸せですか?そうでなければ、リッチモンドストリート17番地のパーカー・パインに御相談下さい。(Are you happy? If not, consult Mr Parker Pyne, 17 Richmond Street.)」と言う新聞広告を掲載して、依頼人を待っている。
人間を類型的に分類した上で、その傾向に基づいて、犯人や犯行を予測する推理手法を採る。依頼人の話を聞いただけで、事件の全体像を把握できるため、安楽椅子探偵に近いが、実際に事件を解決する手段として、人生相談所の事務員達を使っている。
登場作品
<短編>
*「パーカー・パイン登場(Parker Pyne Investigates)」(1934年)
・「中年夫人の事件(The Case of the Middle-Aged Wife)」
・「不満な軍人の事件(The Case of the Discontented Soldier)」
・「困った婦人の事件(The Case of the Distresses Lady)」
・「不満な夫の事件(The Case of the Discontented Husband)」
・「サラリーマンの事件(The Case of the City Clerk)」
・「大金持ちの婦人の事件(The Case of the Rich Woman)」
・「あなたは欲しいものを全て手に入れましたか?(Have You Got Everything You Want?)」
・「バグダッドの門(At the Gate of Baghdad)」
・「シラーズの家(The House at Shiraz)」
・「高価な真珠(The Pearl of Price)」
・「ナイル河の死(Death on the Nile)」
・「デルファイの神託(The Oracle at Delphi)」
*「黄色いアイリス(The Regatta Mystery)」(1939年)
・「レガッタデーの事件(The Regatta Mystery)」
・「ポレンサ海岸の事件(Problem at Pollensa Bay)」
(42)J ❤️「機密書類(Secret Papers)」
機密書類は、長編「秘密機関(The Secret Adversary)」(1922年)において、ドイツ軍の潜水艦が放った魚雷によって沈没した「ルシタニア号(Lusitania)」に乗船していた米国の諜報員が英国へと運ぶ任務を負っていた連合国側の運命を左右する非常に重要な書類である。
本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第2作目に該り、トミー(Tommy)とタペンス(Tuppence)シリーズの長編のうち、第1作目に該っている。
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英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作トミーとタペンスシリーズ 「秘密機関」のペーパーバック版の表紙 <Cover design : HarperCollinsPublishers / Agatha Christie Ltd 2015> |
1915年5月7日の午後2時、「ルシタニア号」は、ドイツ軍の潜水艦が放った魚雷2発を受けて、急速に沈没へと向かっていた。
女性子供優先で、救命ボートに乗り込むのを待つ集団の中に、18歳の娘が居た。
ある男性(米国の諜報員)が彼女に近寄り、彼女が米国国民であることを確認すると、彼女に対して、「自分は、この戦争において、連合国側の運命を左右する非常に重要な機密書類を携えて、英国へと向かっている。自分に代わって、貴方にこれを持って行ってもらいたい。」と依頼した。その男性は、更に、「自分が生き延びることができた場合、タイムズ紙の個人広告欄で連絡をする。もし、タイムズ紙に広告が掲載されなかった場合には、貴方自身が、ロンドンにある米国大使館へと直接持参してほしい。」と説明する。
男性から機密書類を受け取った娘は、悲鳴と騒音が渦巻く中、救命ボートへと乗り込んで行く。彼女の名前は、ジェーン・フイン(Jane Finn)と言った。
物語の舞台は、英国のロンドンへと移る。
友人の間で「タペンス」と言う愛称で通っているプルーデンス・カウリー(Prudence Cowley)が、昔馴染みのトマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー)に、5年ぶりに再会した。
トミーは、大戦中に負傷して、除隊。一方、タペンスは、大戦中、ボランティアとして、ずーっと働いていたが、現在、2人共、戦後の就職難に悩まされていたのであった。
(43)J ♣️「毒入りチョコレート(Poisoned Chocolates)」
毒入りチョコレートは、長編「エンドハウスの怪事件(Peril at End House)」(1932年)、長編「三幕の悲劇(Three Act Tragedy)」(1934年)、長編「バートラムホテルにて(At Bertram’s Hotel)」(1965年)や短編「チョコレートの箱(The Chocolate Box)」(1923年)において、使用されている。
「エンドハウスの怪事件」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第12作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第6作目に該っている。
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英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ 「エンドハウスの怪事件」のペーパーバック版の表紙 |
「三幕の悲劇」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第16作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第9作目に該っている。
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英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ 「三幕の悲劇」のペーパーバック版の表紙 |
「バートラムホテルにて」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第56作目に該り、ミス・ジェイン・マープルシリーズの長編のうち、第10作目に該っている。
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英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ 「バートラムホテルにて」のペーパーバック版の表紙 <イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)> |
「チョコレートの箱」は、短編集「ポワロ初期の事件(Poirot’s Early Cases)」(1974年)に収録されている。
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英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ 「ポワロ初期の事件」のペーパーバック版の表紙 |
(44)J ♦️「カットしていないダイヤモンド(Uncut Diamonds)」
カットしていないダイヤモンドは、長編「ポワロのクリスマス(Hercule Poirot’s Christmas)」(1938年)において、若い頃、南アフリカにおいて、ダイヤモンドを採掘して、ひと財産を築いた老富豪のシメオン・リー(Simeon Lee)が、未だに収集していたものである。
本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第24作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第17作目に該っている。
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英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ 「ポワロのクリスマス」のペーパーバック版の表紙 |
アドルスフィールドのロングデイルに所在するゴーストン館に住む老富豪のシメオン・リーは、若い頃、南アフリカにおいて、ダイヤモンドを採掘して、ひと財産を築いていた。彼は、冷酷で、横暴な性格で、若い頃の残酷な仕打ちと絶え間ない女遊びのために、彼の妻は、心身を傷付けられて、既に亡くなっていた。
クリスマスが間近に迫る中、シメオン・リーは、クリスマスのイヴェントとして、ある計画を思い付いた。それは、方々に住んでいる家族をゴーストン館に呼び、集められた彼らをどれだけ動揺させることができるかを見て楽しむことだった。
シメオン・リーの計画を聞き、父親と同居している長男のアルフレッド・リー(Alfred Lee)と妻のリディア・リー(Lydia Lee)は、困惑の表情を浮かべるしかなかった。
シメオン・リーによる招集に基づき、彼の家族がゴーストン館に呼び集められる。
*ジョージ・リー(Georege Lee - アルフレッドの弟で、下院議員)
*マグダリーン・リー(Magdalene Lee - ジョージの妻)
*ディヴィッド・リー(David Lee - アルフレッドの弟で、画家)
*ヒルダ・リー(Hilda Lee - ディヴィッドの妻)
*ハリー・リー(Harry Lee - アルフレッドの弟で、放蕩息子 / 父シメオンのお金を着服して、行方を晦ますものの、その後も不始末を起こしては、シメオンにお金をせびっていた)
*ピラール・エストラヴァドス(Pilar Estravados - シメオンの孫娘であるが、彼も一度も会ったことがない)
上記の面々に加えて、シメオン・リーの旧友の息子であるスティーヴン・ファー(Stephen Farr)もゴーストン館を訪れ、屋敷に滞在することとなった。
不仲なアルフレッドとハリーは啀み合い、ジョージは、議員活動と妻の浪費のため、多大な資金を必要としており、そして、不遇のうちに亡くなった母親を慕うディヴィッドは、父シメオンに対して、長年の恨みを募らせる等、再会した彼らにとって、クリスマスと言う雰囲気はなく、正にシメオンの計画通りだった。
更に、シメオンは、彼らの感情を逆撫でるように、弁護士に電話をすると、クリスマスが終わった後、遺言書の内容を書き換えると伝えたため、屋敷内には、不穏な空気が満ち満ちたのである。
皆が恐れていた通り、クリスマスイヴの夜に、事件は起きた。
シメオンの部屋から、凄まじい絶叫と家具が倒れる音が聞こえてきたので、屋敷内の皆が、施錠されたドアを壊して、シメオンの部屋の中に入ったところ、そこには、引っくり返った家具と、その横にシメオンの血塗れの死体が倒れていた。
屋敷内の皆が警察を呼ぼうとしたところ、なんと、地元警察のサグデン警視(Superintendent Sugden)が、既に屋敷の玄関口に居たのである。
サグデン警視によると、シメオン・リーから、「金庫から、ダイヤモンドの原石が大量に盗まれた。」と聞き付けたため、ゴーストン館を訪れた、とのこと。
クリスマスを過ごすために、ミドルシャー州の警察部長(Chief Constable)であるジョンスン大佐(Colonel Johnson)の家を訪れていたエルキュール・ポワロは、サグデン警視による事件捜査に協力することになった。
本作品「ポワロのクリスマス」は、アガサ・クリスティーの長編作品の中で、密室殺人を取り扱った唯一のものである。