日本の出版社である早川書房から クリスティー文庫の1冊として出版されている アガサ・クリスティー作「春にして君を離れ」の表紙(部分) Photograph : CORBIS / amana images Cover Design : Hayakawa Design |
1930年代、主婦であるジョーン・スカダモア(Joan Scudamore)は、急病になった末娘(次女)であるバーバラを見舞うために、英国のクレイミンスターからバグダッド(当時、英国の勢力圏内)に来ていた。
ジョーンの手当で、次女のバーバラは、無事に回復期へ入った。
急病となったバーバラと全く頼りにならない夫のウィリアムの2人により混乱した家庭を、ジョーンは、万事怠り無く立て直したものと満足していた。
ところが、次女のバーバラが急病になった原因が、何故かハッキリとしない上に、バーバラとウィリアムに加えて、彼らの主治医までが、ジョーンに対して、非常に余所余所しい態度をみせる。
更に、バーバラが回復期に入ったため、ジョーンが英国へ引き上げようとするそぶりを見せると、バーバラとウィリアムの2人は、ジョーンを引き留めようとは、全くしなかった。寧ろ、どちらかと言うと、2人は、ジョーンに早く帰って欲しそうだった。それが、ジョーンには、非常に奇妙に思えたのである。
バーバラとウィリアムの2人の態度がよく判らないものの、ジョーン・スカダモアは、バグダッドから英国への帰路に着いた。
ジョーンは、悪天候の中、汽車と自動車を乗り継いで、イラクとトルコの国境に到着し、砂漠の真っ只中にあるテル・アブ・ハミド駅の鉄道宿泊所(レストハウス)に宿泊する。
テル・アブ・ハミド駅は、イラクとトルコの国境近くにあるトルコ鉄道の終着駅で、トルコ領内にあった。一方、ジョーンが宿泊することになった鉄道宿泊所は、イラク領内にあり、テル・アブ・ハミド駅とレストハウスの間には、国境の鉄条網が設置されていた。
ジョーンは、鉄道宿泊所において、聖アン女学院の同級生だったブランチ・ハガードと偶然再会する。
ブランチ・ハガードは、現在の夫である鉄道技師(ドノヴァン氏)が住むバグダッドへと向かう途上にあった。
聖アン女学院在籍当時、ブランチ・ハガードは、ジョーンを含め、女生徒達の憧れの的だったが、その後、恋愛事件も何度も引き起こしており、イラクでの再会時点では、すっかりと老け込んでいた。更に、ブランチ・ハガードが語る彼女自身の奔放な人生の話を聞いて、ジョーンは、彼女の零落を憐れむ。
悪天候の影響は続き、交通網は寸断され、本来であれば、翌朝、イスタンブール駅からテル・アブ・ハミド駅に到着する予定だった列車が着かなかった。
鉄道宿泊所には、インド人の管理人、アラブ少年の使用人とコックが居たが、管理人によると、悪天候のため、イスタンブール駅からの列車が到着する見込みが全くたたない、とのことだった。
こうして、ジョーン・スカダモアは、イスタンブール駅からの列車が来るあてのないまま、砂漠の真っ只中にある鉄道宿泊所に、たった一人、何日も留まることを余儀なくされる。
彼女の朝食と昼食の内容は、以下の通り。
<朝食>
コーヒー / ミルク(缶入り)/ 卵の目玉焼き / 固く小さなトースト数枚 / ジャム / 怪しげなスモモを煮たもの
<昼食>
オムレツ / 卵のカレー炒め / 缶詰の鮭 / ベークドビーンズ / 缶詰の桃
夕食も、朝食や朝食と似たような内容で、毎日、同じメニューの繰り返しで、ジョーンは飽きてしまう。
また、ジョーンは、「ダイサード夫人回想録」、推理小説と「パワーハウス」の本3冊を持って来ていたが、鉄道宿泊所に滞在している間に、全て読み切ってしまった。
何もすることがなくなったジョーン・スカダモアは、自分の今までの人生を回想し始めた。
そして、やがて、ジョーンは、これまでの親子関係(長男:トニー / 長女:エイヴラル / 次女:バーバラ)と夫婦の愛情(夫:ロドニー)にかかる自分の認識に疑念を抱き、今まで判らなかった真実に気付くのであった。
物語の最後、バグダッドから英国のクレイミンスターへとなんとか辿り着いたジョーン・スカダモアは、久し振りに、夫のロドニーの元へ帰ったが、彼女を出迎えたロドニーが、彼女にかけた言葉とは裏腹に、心の中で呟く言葉は、(通常の推理小説で発生するような殺人事件等は、本作品内では発生しないものの、)非常に恐ろしい内容だった。