2022年11月24日木曜日

アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」<グラフィックノベル版>(The Secret of Chimneys by Agatha Christie )- その1

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」の
グラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
事件の舞台となるチムニーズ館と
画面の左上には、ジェイムズ・マグラスより、
アンソニー・ケイドが預かった
ヴァージニア・レヴェル本人宛に返す手紙が描かれている。


19番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第5作目に該るが、シリーズ探偵のエルキュール・ポワロ、トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))/ プルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence)やミス・ジェイン・マープル等は登場しない。所謂、ノンシリーズの長編としては、「茶色の服の男(The Man in the Brown Suit)」(1924年)に続く作品である。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランスの作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、スイスの SF 作家兼グラフィックアーティストであるローレンス・スーナー(Laurence Suhner:1968年ー)が作画を担当して、2002年にフランスの Heupe SARL から「Le Secret de Chimneys」というタイトルで出版された後、2007年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。


HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」の
グラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
事件の舞台となるチムニーズ館のどこかに隠されている
宝石が描かれている。


南アフリカの町ブラワヨ(Bulawayo - 現在のジンバブエ共和国南西部に所在する都市)にある旅行社に案内役として勤務しているアンソニー・ケイド(Anthony Cade - 愛称:トニー(Tony))は、旧友のジェイムズ・マグラス(James McGrath - 愛称:ジミー(Jimmy))に、偶然、再会する。その際、アンソニー・ケイドは、ジェイムズ・マグラスから、2つの依頼を受けた。


南アフリカの町ブラワヨにある旅行社に案内役として勤務するアンソニー・ケイドは、
旧友のジェイムズ・マグラスに、偶然、再会した。

(1)

4年前、ジェイムズ・マグラスが、パリの人気のない辺りを一人で歩いていた際、無力な老紳士が暴漢達に襲われている現場に出くわした。ジェイムズは、老紳士を助けるべく、暴漢達を叩きのめして、追い払った。

その後、ジェイムズが助けた老紳士が、ヘルツォスロヴァキア(Herzoslovakia)の元総理であるスティルプティッチ伯爵(Count Stylptitch)であることが判明する。スティルプティッチ伯爵は、偉大な外交家の上、影の実力者で、「バルカンの長老」と呼ばれている人物であった。

ヘルツォスロヴァキアは、バルカン半島にある小国で、7年前に、国王のニコライ4世(King Nicholas IV)が、パリの演劇場に芸人として出ていた素性の知れない女性であるアンジェル・モリー(Angele Mory)をロマノフ王朝の末裔であると、国民に信じ込ませ、彼女と結婚して、ヴァラガ女王(Queen Varaga)として公布した。このニコライ4世による国民への策略が契機となり、革命が起こり、国王夫妻は王座から追われただけでなく、宮殿の階段において暗殺され、共和制へと移行したが、最近、王政復古の機運が高まっていた。また、同国内において、油田が発見されたという噂がありその情報の真偽について、英国政府も注目していた。

ジェイムズは、2週間前に、スティルプティッチ伯爵がパリで死去したという新聞記事を読んだが、その直後、伯爵の回顧録の入った小包が彼宛に送られてきた。同封されていた手紙によると、ロンドンのある出版社に、伯爵の回顧録を届ければ、1千ポンドの報酬を支払うという提案が為されていたのである。

ジェイムズは、アンソニーに対して、「スティルプティッチ伯爵の話によると、彼を襲っていた暴漢達は、有名な宝石泥棒であるキングヴィクター(King Victor)が雇った手先だ。なお、キングヴィクターは、パリ警視庁に逮捕されて、数年間、刑務所に入っていたが、最近出所したらしい。」と語るとともに、「自分の代わりに、伯爵の回顧録をロンドンの出版社に届けてほしい。」と頼むのであった。


アンソニー・ケイドは、旧友のジェイムス・マグラスより、
パリにおいて暴漢達から助けた
ヘルツォスロヴァキアの元総理であるスティルプティッチ伯爵から、
彼の死後、託された彼の回顧録をロンドンのある出版社に届けると、
1千ポンドの報酬が得られる話を聞かされる。

(2)

それに加えて、ジェイムズは、アンソニーに対して、ヴァージニア・レヴェル(Virginia Revel)という女性に、彼女自身のスキャンダル絡みの手紙を返してほしいと依頼する。その手紙は、ジェイムズがウガンダに居た頃に助けた人物が持っていたもので、彼の死に際に渡されたもの、とのことだった。


更に、事情を訪ねるアンソニーであったが、ジェイムズは、「信頼すべき情報に基づいて、アフリカ奥地のある地域へ金鉱探しに出かける。金鉱に比べたら、1千ポンド等、取るに足らない。ただ、うまみのある話をみすみす失うのは、勿体無い気がするので、アンソニーに自分の代わりを務めてほしい。」との返事であった。


1千ポンドの報酬のうち、250ポンドの分け前をもらう条件で、
旧友のジェイムズ・マグラスからの依頼を引き受けた
アンソニー・ケイドは、ロンドンへと旅立つ。

アンソニーとしては、伯爵の回顧録が入った小包をパリからロンドンへと送るのに、何故、わざわざアフリカを経由するのか、疑問を感じたが、ジェイムズに劣らぬ冒険家であった彼は、ジェイムズの申し出には、興味を唆られるだけの謎を秘めていたので、取引に応じることに決めた。

1千ポンドの報酬のうち、250ポンドの分け前をもらう条件で、ジェイムズからの依頼を引き受けたアンソニーは、ロンドンへと向かい、旅立ったのである。 


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