2022年11月8日火曜日

島田荘司作「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険」(’New 15 Fried Rats The Adventures of John H. Watson’ by Soji Shimada)- その4

日本の新潮社から2015年に出版された
島田荘司作「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトスンの冒険」
(ハードカバー版)における
「エピローグ」と「あとがき」の間の挿絵
(装幀:新潮社装幀室)


大怪我を負い、ロンドンの軍病院に収容されて、1ヶ月間、ベッドから動くことができなかったジョン・H・ワトスンであったが、ハドスン夫人が迎えに来て、シャーロック・ホームズが居ないベイカーストリート221B221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)へと戻って来た。

丁度、そこにスコットランドヤードのピーター・ジョーンズ(Peter Jones)警部が訪れ、ワトスンに対して、「赤毛組合」事件にかかるその後の話を伝えた。それは、次のような驚くべき内容だった。


(1)

 City and Suburban Bank の頭取(director)であるメリーウェザー氏(Mr. Merryweather)によると、地下金庫室内に積み上げられていたフランス金貨が入った木箱15箱のうち、3箱の中の金貨が無くなっているとの報告があった。無くなった金貨の代わりに、石ころがぎっしりと詰め込まれていたらしい。

ホームズ、ワトスンやジョーンズ警部達は、ジョン・クレイ(John Clay)達が盗みを行う寸前で、彼らを逮捕したつもりでいたが、実際には、既に一部が盗み出されていたようである。


(2)

ホームズ、ワトスンやジョーンズ警部達が逮捕したジョン・クレイ、ダンカン・ロス(Duncan Ross)とサディアス・ショルトー(Thaddeus Sholto)の3人は、ダートムーア(Dartmoor)にあるプリンスタウン刑務所(絶対に脱獄ができない刑務所で有名)へと送られたが、入所後2日間で、彼ら3人の姿が敷地内から消えてしまったのである。刑務官や収監者も、脱獄と言うよりも、ただただ消えたと言う他はなかった。


ジョーンズ警部が取り調べた際に、彼ら3人が話していた「新しい十五匹のネズミのフライ(New 15 Fried Rats)」とは、一体、何のことなのか?


薬物中毒になったホームズは、コンウォール州(Cornwall)ランズエンド( Land’s End)にあるモーティーマー・トリジェニス精神病院へと送られてしまっており、残念ながら、今回、彼は役に立たない。

大怪我がまだ完治しないワトスンであったが、モーティーマー・トリジェニス精神病院で治療を受けているホームズを見舞った後、止むを得ず、一人でダートムーアにあるプリンスタウン刑務所へと向かったのである。


一方、ワトスンが思慕を寄せるヴァイオレット・ブラックウェルは、彼の兄であるヘンリーの死後、実家があるダートムーアへと戻っていたが、不思議なことに、彼女も、「赤毛組合」事件に巻き込まれつつあった。しかし、ワトスンは、このことをまだ知らなかった。


日本の推理小説家 / 小説家である島田荘司氏(1948年ー)が2015年に発表した本作品は、全部で500ページ近くの長編で、


・プロローグ

・第一章 インドからの帰還、そして出逢い

・第二章 赤毛組合

・第三章 狂った探偵

・第四章 這う人

・第五章 愛する人のために

・第六章 プリンスタウン

・エピローグ


に分かれている。


島田荘司氏の特徴である「物語の本筋ではないことであっても、書きたいことは書く」という傾向は、本作品でも見受けられ、ワトスンがダートムーアにあるプリンスタウン刑務所に到着するのが、物語全体の半分辺りである。

本作品の副題として、「ジョン・H・ワトソンの冒険(The Adventures of John H. Watson)」と書かれている通り、推理小説と言うよりも、どちらかと言えば、ワトスンによる活劇ものに近い。

物語の終盤、モーティーマー・トリジェニス精神病院において治療を受けていたホームズが復活して、「新しい十五匹のネズミのフライ」の謎を解いて、ジョン・クレイ、ダンカン・ロスとサディアス・ショルトーの3人が、プリンスタウン刑務所から姿を消した方法が解明されるが、正直ベース、解明された内容は、あまり大したことはないのが、非常に残念。ただ、「新しい十五匹のネズミのフライ」の謎を解いたホームズが、この時点で、本当に完治していたのかどうか、怪しいところで、それが少し面白い部分である。

また、モーティーマー・トリジェニス精神病院において、ホームズの治療を担当していた衛生夫長の名前が、「ジェイムズ・モリアーティー」と言うのも、御愛嬌と言える。


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