第44話「ゴルフ場殺人事件」が収録された エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 4 の裏表紙(部分) |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ゴルフ場殺人事件(The Murder on the Links → 2022年11月14日付ブログで紹介済)」(1923年)に基づいて、英国の TV 会社 ITV 社が「Agatha Christie’s Poirot」の第44話(第6シリーズ)として制作した TV ドラマ版は、引き続き、アガサ・クリスティーの原作とは異なる展開を行う。
英国 TV ドラマ版の場合、ノルマンディー海岸のドーヴィル(Deauville → 港、別荘、カジノやホテル等を擁するリゾートで、実在の町)のホテル「Hotel du Golf」の玄関口で、ジュネヴィエーヴ荘(Villa Genevieve)の主人で、南米で富を築いた大富豪であるポール・ルノー(Paul Renauld)と彼の秘書であるガブリエル・ストーナー(Gabriel Stonor)は、エルキュール・ポワロとアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)を見かける。
ポワロを見かけたポール・ルノーは、その日の夜、ディナー後、ホテルのホールで寛いでいるポワロとヘイスティングス大尉の元を訪れて、「自分には、命の危険が迫っている。(I believe I am in danger of my life.)」と相談する。そして、ポール・ルノーは、ポワロに対して、翌日、ジュネヴィエーヴ荘への来訪を依頼するとともに、そこまでの行き方も伝えた。
その後、ポール・ルノーがジュネヴィエーヴ荘に帰宅する場面、また、ポール・ルノーの指示に基づき、南米のサンティアゴ(Santiago)へ商用で向かうため、シェーブール(Cherbourg)へと出発したジャック・ルノー(Jack Renauld - ポール・ルノーの義子で、エロイーズ・ルノーの実子 → アガサ・クリスティーの原作では、ポール・ルノーの実子)が、午後11時40分頃、列車でドーヴィル駅に戻って来て、駅員に目撃される場面が描かれている。
翌朝、メイドのレオニー・オーラード(Leonie Oulard)によって、ポール・ルノーの妻であるエロイーズ・ルノー(Eloise Renauld)が縛り上げられているのが発見される。夫人によると、午前2時頃、南米人と思われる二人組の賊が侵入して来て、自分は縛られ、そして、夫は彼らに連れ去られた、とのこと。
そんな騒動の最中、ポール・ルノーに依頼された通り、ポワロがジュネヴィエーヴ荘を訪れる。
この時点で、リュシアン・ベー(Lucien Bex - 地元警察の署長)とジロー(Monsieur Giraud - 名刑事の呼び声が高いパリ警察の刑事)が、既にジュネヴィエーヴ荘へと駆け付け、捜査を始めていた。
アガサ・クリスティーの原作の場合、ジロー刑事の登場は、もう少し後で、捜査に同席していた予審判事であるオート氏(Monsieur Hautet)の要請に基づいて、パリ警察から派遣されるのである。ところが、英国 TV ドラマ版の場合、事件発生時から、ジロー刑事は、地元警察と一緒に、既に現場に姿を現している。
なお、英国 TV ドラマ版の場合、予審判事のオート氏は、登場人物を整理するためか、出てこないが、その代わりに、警察医という役割で出てくるものの、登場するのは、検視の場面に限られ、出番は極めて少ない。
アガサ・クリスティーの原作の場合、ルノー夫人が縛り上げられているのを、メイドが発見した後、ジュネヴィエーヴ荘の使用人達が、二人組の賊に連れ去られたポール・ルノーの行方を探した結果、ジュネヴィエーヴ荘に隣接するゴルフ場予定地において、彼の刺殺死体を見つける展開となっている。
一方、英国 TV ドラマ版の場合、ポワロと一緒に、ジュネヴィエーヴ荘を来訪するのではなく、ヘイスティングス大尉は、ホテルが運営するゴルフ場において、他の宿泊者達と一緒にプレイしていた。そして、ヘイスティングス大尉は、自分が打ったボールを探している最中に、ペーパーナイフが背中に刺さったポール・ルノーの刺殺体を発見するのである。
斯くして、ポワロとジロー刑事による推理合戦の火蓋が切って落とされた。
英国 TV ドラマ版では、ポワロとジロー刑事は、ある賭けをする。ポワロがポール・ルノーの殺害犯人を先に見つけた場合、ポワロは、ジロー刑事のトレードマークであるパイプをもらう一方、ジロー刑事がポール・ルノーの殺害犯人を先に見つけた場合、ポワロは、自分のトレードマークである髭を剃るという約束だった。
英国 TV ドラマ版の場合、前夜、ポール・ルノーがポワロの元を訪れる前、ディナー後、ホテルのホールにおいて、ポワロとヘイスティングス大尉が寛いでいると、司会者に紹介された歌手であるベラ・デュヴィーン(Bella Duveen - ジャック・ルノーの元恋人)が登場する。ベラ・デュヴィーンを見たヘイスティングス大尉は、彼女に一目惚れしてしまう。
アガサ・クリスティーの原作の場合、ヘイスティングス大尉が恋心を抱く相手は、双子姉妹のうち、シンデレラ(Cinderella)と自称するダルシー・デュヴィーン(Dulcie Duveen)であるが、英国 TV ドラマ版の場合、その相手は、もう一人のベラ・デュヴィーンに変更されている。
また、アガサ・クリスティーの原作の場合、ベラ・デュヴィーン(事件当夜、ルノー家を訪れたと思しき謎の女性)とダルシー・デュヴィーン(ヘイスティングス大尉が恋心を抱く相手)の双子の姉妹という設定になっていたが、英国 TV ドラマ版の場合、双子の姉妹という設定は全くなくなり、二人の設定が一人に集約され、ベラ・デュヴィーンのみが残り、ジャック・ルノーの元恋人で、かつ、ヘイスティングス大尉が恋心を抱く相手という設定になっている。
ベラ・デュヴィーン / ダルシー・デュヴィーンにかかる点を除くと、その後、英国 TV ドラマ版は、概ね、アガサ・クリスティーの原作と同じように進む。
勿論、推理合戦に関しては、最終的に、ポワロが勝利を収めるが、負けたジロー刑事に対して、粋な計らいをして、仲直りをするのである。
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