英国で出版された「ストランドマガジン」 1923年3月号に掲載された挿絵(その2) - 一昨日の夜(午前2時頃)、 プレスベリー教授の助手であるトレヴァー・ベネットが、 鈍いくぐもった音が気になって、自室の扉を開けると、 四つん這いではないものの、這うようにして、 教授が廊下を歩いている現場を、トレヴァーは目撃した。 |
1903年9月のある日曜日の晩、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズから「都合がよければ、直ぐに来てくれ。都合がつかなくても、直ぐに来てほしい。(Come at once if convenient - if inconvenient come all the same. S.H.)」という電報を受け取り、急いでベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)へと駆け付けた。
ホームズの元に駆け付けて来たワトスンに対して、ホームズは、いきなり、疑問として、謎の言葉を投げかける。
「プレスベリー教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイは、何故、教授に噛み付こうとするのか?(Why does Professor Presbury’s faithful wolf-hound, Roy, endeavour to bite him?)」と。
プレスベリー教授(Professor Presbury)とは、ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist)のことだった。
丁度、そこへ、事件の依頼人で、プレスベリー教授の助手であるトレヴァー・ベネット(Trevor Bennett)が、ホームズの元を訪れ、ホームズとワトスンの二人に対して、驚くべき話を始めるのであった。
「プレスベリー教授は、這っていたんです。」と。
プレスベリー教授は、生理学の分野において、欧州中で名声を獲得しており、醜聞の欠片もない人物だった。夫人に先立たれたプレスベリー教授は、現在、61歳で、娘のエディス(Edith Presbury)と暮らしていた。そして、教授の助手であるトレヴァー・ベネットは、教授の家に同居して、教授をサポートする一方、彼の娘であるエディスと婚約していた。
そのような静かで、学究の生活を送ってきたプレスベリー教授が、2、3ヶ月前に、婚約をしたのである。彼が婚約した相手は、なんと、同じ大学の同僚で、比較解剖学の議長を務めるモーフィー教授(Professor Morphy)の娘アリス(Alice Morphy)で、親と子程の年齢差があった。それに加えて、プレスベリー教授からアリス・モーフィーへの求婚の仕方が、年配の男性による理性的なものではなく、若者の男性による情熱的なものだったため、教授の周囲の人達を非常に驚かせた。
プレスベリー教授とアリス・モーフィーの婚約を契機に、教授の行動におかしなことが起き始めた。
プレスベリー教授は、突然、行き先を誰にも告げないまま、2週間の間、家を空けたのである。そして、彼は、げっそりと疲れた様子で、戻って来たが、どこへ行っていたのかについては、全く言及しなかった。
トレヴァー・ベネットは、プラハ(Praha)に居る仲間の手紙をもらい、その手紙に、「話をすることはできなかったが、プレスベリー教授をお見かけることができて、嬉しかった。(he was glad to have seen Professor Presbury there, although he had not been able to talk to him.)」と書かれていたため、教授の行き先がやっと判ったのである。
プレスベリー教授が旅行から戻って来てから、彼の奇行が更に激しくなる。
・トレヴァーに対して、ロンドンから届く手紙のうち、切手の下に十字の印が付いているものは、開封しないまま、別途、そのまま保管しておくよう、指示をした。それまでは、トレヴァーが、教授の秘書として、教授に届いた全ての手紙を処理していた。
・旅先から持ち帰った木の小箱に、トレヴァーが偶然触れだだけで、恐ろしい勢いで激怒した。
・教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイが、時折、教授に噛み付くようになった。
・真夜中、四つん這いではないものの、這うようにして、教授が廊下を歩いている現場を、トレヴァーは目撃した。
・教授は、61歳という年齢にもかかわらず、トレヴァーが知っている限り、以前よりも若々しく、かつ、壮健になってきた。
英国で出版された「ストランドマガジン」 1923年3月号に掲載された挿絵(その3) - 昨夜、プレスベリー教授の娘であるエディスが、 屋敷の3階にある自室で休んでいた際、 犬の吠え声に目を覚まして、窓の方を見ると、 窓の外に父親である教授の姿を認め、 驚きと恐怖で震え上がる。 |
上記のような不可解な話の数々をトレヴァーがホームズとワトスンに対してしていると、プレスベリー教授の娘で、トレヴァーの婚約者であるエディスがホームズの元を訪れて、更に驚くような話をし始めた。
彼女が、昨夜、屋敷の3階にある自室で眠っていた際、非常にけたたましく吠える犬の声に目を覚まして、窓の方を見ると、窓の外に父親であるプレスベリー教授が居て、窓ガラスに顔を押し付け、そして、片手を上げ、窓を押し上げようとしているように見えた。
驚きと恐怖でほとんど死にそうになった彼女は、窓の外をそれ以上見ることができず、朝が明けるまで、寒気に震えていた。
そして、彼女は、ロンドンへ出る口実をつくると、大急ぎでここまでやって来た、と言うのであった。
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